76 / 251
続編
第9話『vs.G in Ichika's home.』
しおりを挟む
「みんなが来てくれて嬉しいわ。本当にありがとう」
俺達がマンションのエントランスに到着したとき、霧嶋先生は柔らかな笑顔でそう言った。まるで、もう退治したような雰囲気だなぁ。きっと、ゴキブリを見つけてからずっと不安になっており、ゴキブリが平気な人が来ただけで嬉しいのだと思う。
「まさか、姫宮さんまで来てくれるとは思わなかったわ」
「一佳先生の部屋の今の様子も気になりますから。Gは怖いですけど、由弦が一緒なら大丈夫ですし」
「……なるほど。ありがとう、心強いわ。さっそく行きましょう」
俺達はマンションの中に入る。
ここに来るのは2度目だけど、このマンションはとても立派だと思う。ここまで立派だと、ゴキブリの住処になりそうな場所がたくさんあるのかも。
それにしても、ゴキブリの駆除か。あけぼの荘に引っ越してすぐ、美優先輩が浴室でゴキブリを見つけてしまったときのことを思い出す。駆除できたのはいいけど、そのときは全裸の美優先輩にずっと抱きしめられ、その様子を風花に見られてしまって。それをきっかけに、風花に変態呼ばわりされるようになったんだよな。
エレベーターで11階へ行き、俺達は霧嶋先生の自宅である1111号室の玄関の前に立った。
「これから、あの生物のいる空間に入ると思うと寒気がするわ」
「自分で出ていってくれるといいんですけどね。ただ、誰かが駆除しない限りはいなくならないと思った方がいいでしょう。俺がGを駆除しますから、それまでは3人は外にいていいですよ」
「……き、気持ちは有り難いけれど、私は一緒に行くわ。この家の住人だし、教え子を呼び出した責任を少しでも取りたい」
「そ、そうですか」
仕事中ならともかく、休日である今は責任とか考えなくていいと思うけど。でも、教え子が関わると、教師として責任を果たそうとするのは霧嶋先生らしい。
霧嶋先生に鍵を開けてもらい、俺達は1111号室の中に入る。パッと見る限りゴキブリらしき生物の姿は見当たらないな。
あと、部屋やキッチンに繋がる扉が開いており、奥には脱がれたスウェットや、丸めたティッシュが落ちているのが見える。
「Gは……いませんね」
「……そ、そうね。桐生君、これ……殺虫剤。特にGには効果があるらしいわ。家具のことは気にしなくていいから、Gを見つけたら吹きかけなさい」
「分かりました」
霧嶋先生から殺虫剤を受け取る。こういうものがあっても、いざ見つけたときは何もできなかったり、逃げられたりしちゃうことはあるよな。
「姿が見えないと安心するけど、家の中にいるのは分かっているから複雑な気持ちになるよね、風花ちゃん」
「その気持ち、よく分かります」
「私もよく分かるわ、白鳥さん」
「俺がいるので安心してください。ところで、霧嶋先生。さっきGを見つけたのはどこだったんですか?」
「へ、部屋の中……」
「部屋の中ですか。じゃあ、とりあえずは部屋の方……あっ、扉のところにGが出ましたね」
『きゃあああああっ!』
背後で3人が絶叫するので、思わず体がビクついてしまう。ううっ、耳がキーンってなるし頭がちょっと痛い。
振り返ると、3人は目に涙を浮かべ、怯えた様子で身を寄せ合っている。霧嶋先生は美優先輩と風花のことを抱きしめており、美優先輩と風花は俺の服の裾をぎゅっと握っている。本当にゴキブリが苦手なんだな。
3人を驚かせたゴキブリは、まるであの絶叫がなかったかのようにその場に居続け、2本の触覚をゆっくりと動かしていた。
「由弦君、早く退治して!」
「クモほどじゃないけど、Gも怖いよ!」
「桐生君! さっき渡した殺虫剤を遠慮なくぶちかましなさい! 退治できたら何でもしてあげるから早く退治しなさい!」
「分かりました。退治をしますから、先輩と風花は手を離してくれますか?」
「あっ、ごめんね、由弦君」
「頼むわよ、由弦!」
ここまで期待されると、絶対に逃がすわけにはいかない。
ゴキブリが逃げないようにそっと近づくけれど、そのことによる振動に気付いたのか部屋の方へサッと逃げてしまう。
「待て!」
部屋の中に入ると、逃げ足が速いのかゴキブリは窓の近くの壁にいた。そこにめがけて再び近づこうとしたときだった。
「うわっ!」
何かに足を取られてしまい、俺はその場にうつぶせの状態で倒れてしまう。絨毯の上とはいえ派手に転んでしまったので結構痛い。鼻血とかが出ていないだけ幸いだ。
「桐生君、大丈夫?」
「え、ええ……」
どんなものを踏んでしまったのか手にとって確認してみると、それは黒いパンツだった。近くにはこのパンツとセットと思われる黒いブラジャーが落ちていた。
「霧嶋先生、黒いアイツはまだ退治していませんが、黒い下着は上下セットで発見しました。これに足を取られて転びました」
「……ご、ごめんなさい」
「こんなときに下着を見つけるなんて、さすがは変態ね、由弦!」
こんなにも言われて嬉しくない「さすが」も初めてだ。
そんなやり取りをしていることで油断したのか、ゴキブリは俺のすぐ近くまでやってきていた。
「今だ!」
ゴキブリにめがけて殺虫剤を吹きかけた。
そのことに驚いたのかゴキブリは再び逃げようとするが、時既に遅し。一歩二歩と前に進むがその場で痙攣するようになり……やがて、動かなくなった。
「よし、これでとりあえずは大丈夫ですね」
「よくやったわ、桐生君!」
「さすがは由弦君だよ! うちにGが出たときのことを思い出したよ。ちょっと恥ずかしいけれど」
「あたしも覚えていますよ、先輩。それにしてもハプニングはあったけれど、由弦は相変わらず鮮やかに虫退治するわね」
「どうもありがとう。霧嶋先生、ガムテープってありますか?」
「確か玄関の方にあったわ。あと、ずっと下着を握られていると恥ずかしいのだけれど」
「これはすみません」
俺は霧嶋先生の下着をベッドの上に置いた。
いざ、冷静になって部屋の中を見てみると、以前ほどではないけれどまた散らかっているな。ゴミだったり、本だったり、服だったり。あと、下着もか。
霧嶋先生からガムテープを受け取り、それを使ってゴキブリの死体をくっつける。きっちりと封印して、ゴミ箱に捨てようとしたけど、
「これでは入りませんよ、霧嶋先生」
「おかしいわね。ティッシュやいらない紙などを捨てただけなのに」
「……ゴミを捨てればいつかはあふれますよ、一佳先生。あと、本も机の上や床に置いたままじゃないですか。これらの本がかわいそうです」
「あれからも仕事帰りなどに、漫画や小説を買っていて……気付いたら、置き場所が本棚からテーブルや床になってしまっていたわ」
「もう、一佳先生ったら。本棚のスペースは無限じゃないんですから、いつかは入りきらなくなりますよ」
まったく、と美優先輩はため息をついた。そんな先輩のことを風花は苦笑いをしながら、霧嶋先生は気まずそうな顔を表情をしながら見ている。
「読みたい作品がたくさんあるとは思いますが、本棚の状況を定期的に確認しましょう。ゴミについてはあふれそうになったら袋にまとめるようにしましょうね。あと、服や下着も脱ぎ散らかすのではなく、専用のカゴにでも入れて、定期的に洗うように心がけましょう」
「……はい」
「キッチンは……この前よりは大分少ないですけど、洗っていない食器や調理器具がありますね。少ないのはいいですが、なるべくはすぐに洗うようにしましょう」
「……はい」
こうしていると、美優先輩と霧嶋先生のどっちが年上か分からなくなるな。あと、先生と生徒が逆転しているように見えて面白い。
「それでも、2週間前よりはいいですね。では、掃除や洗濯をしましょうか。分担はこの前と同じで、由弦君がキッチン、先生と風花ちゃんはお部屋、私が洗濯という形にしましょう。早く終わったら別の方を手伝うという形で」
「分かりました。3人とも、ごめんなさい。またお願いします」
「いえいえ、気にしないでください! それに、想像していたよりはマシでしたから」
「……そう言われると複雑な気持ちになるわ。悪いのは私だけど。では、白鳥さんの分担通りにやりましょうか」
まさか、ゴールデンウィーク初日に、担任の自宅でゴキブリ退治や掃除をするとは。こんな高校生、俺達以外にはほとんどいないんじゃないだろうか。
俺は美優先輩に割り振られたキッチンに向かう。汚れ物はあるけれど、この前よりは量が少ないのでマシかな。これなら、風花や先生の方を手伝うことができそうだ。
さっそく、俺は食器や調理器具を洗い始める。こうしていると、俺達ってこれからも2週間に一度くらいの頻度で家庭訪問しなきゃいけないのかと思ってしまう。
「とりあえず、ゴミをまとめましょう、先生」
「そうね、姫宮さん」
自宅では生徒と先生の立場が逆転してしまっているな。その証拠に、風花が霧嶋先生よりもしっかりと見える。
そういえば、この前はキッチンを綺麗にした後に倒れそうになった先生のことを助けたんだっけ。今日はそんなことがないといいな。……いや、さっき先生のパンツに足を取られて転んだか。ここに来ると一度は転ばなきゃいけない呪いでもかかっているのかな。
「とりあえず、洗濯が終わるまでこっちを手伝いますね」
「ありがとう、白鳥さん。とりあえず、床に落ちている本をベッドに置いてもらえるかしら」
「分かりました」
おっ、美優先輩が2人のことを手伝うのか。この前よりは汚くないので、今日は早めに終わりそうな気が――。
「こんにちはあああっ!」
「いらっしゃいませえええっ!」
美優先輩と霧嶋先生はそう叫ぶと、2人一緒に窓の側まで逃げてしまう。顔が青ざめているけど、どうしたんだろう?
「どうしたんですか! 美優先輩! 一佳先生!」
「そ、そこの本を動かしたらGがいたの! 風花ちゃん!」
「私も見たわ!」
「えっ……いた! 由弦、お願い!」
「分かった」
俺は殺虫剤を持って部屋の方に向かう。
風花の指さす先にゴキブリがいた。さっきのゴキブリのきょうだいか仲間かな? あと、心なしか今回のゴキブリの方が大きい。
さっきよりも部屋の中が綺麗になっていることもあって、何かにつまずいたり、足を取られたりすることなくゴキブリに近づき、殺虫剤でゴキブリを倒した。ガムテープで死体を回収して、まだ縛っていないゴミ袋の中に捨てる。
「これで大丈夫です」
「何度もありがとう、桐生君」
「一家に一人、由弦を置いておきたいですよね、一佳先生」
「恋人の白鳥さんの前では言いにくいけれど、虫退治という意味では桐生君を置いておきたいわ」
「いえいえ、気にしないでください。私も由弦君のおかげで虫関連で安心できるようになりましたから」
3人にとって、俺は殺虫剤のような存在なんだな。まあ、役立たずと言われるよりはいくらかマシである。
「まあ……1年に1日くらいは何匹も出会う日がありますよ、たぶん。これから温かくなって出会いやすい季節になりますし、Gをホイホイするものを置いておくといいかもしれません。あとは霧タイプの薬を使うと出る頻度が減るそうです」
「そうなのね。この連休中に買って、対策を講じてみる」
そう言って、霧嶋先生は真剣な表情をしながら何度も頷いていた。てっきり、霧嶋先生ならそういった対策をしていると思ったんだけど。今まで全然出なかったのかな。
それからはゴキブリが出たり、何かハプニングが起きたりすることもなく、掃除や洗濯、本などの整理をすることができた。
俺達がマンションのエントランスに到着したとき、霧嶋先生は柔らかな笑顔でそう言った。まるで、もう退治したような雰囲気だなぁ。きっと、ゴキブリを見つけてからずっと不安になっており、ゴキブリが平気な人が来ただけで嬉しいのだと思う。
「まさか、姫宮さんまで来てくれるとは思わなかったわ」
「一佳先生の部屋の今の様子も気になりますから。Gは怖いですけど、由弦が一緒なら大丈夫ですし」
「……なるほど。ありがとう、心強いわ。さっそく行きましょう」
俺達はマンションの中に入る。
ここに来るのは2度目だけど、このマンションはとても立派だと思う。ここまで立派だと、ゴキブリの住処になりそうな場所がたくさんあるのかも。
それにしても、ゴキブリの駆除か。あけぼの荘に引っ越してすぐ、美優先輩が浴室でゴキブリを見つけてしまったときのことを思い出す。駆除できたのはいいけど、そのときは全裸の美優先輩にずっと抱きしめられ、その様子を風花に見られてしまって。それをきっかけに、風花に変態呼ばわりされるようになったんだよな。
エレベーターで11階へ行き、俺達は霧嶋先生の自宅である1111号室の玄関の前に立った。
「これから、あの生物のいる空間に入ると思うと寒気がするわ」
「自分で出ていってくれるといいんですけどね。ただ、誰かが駆除しない限りはいなくならないと思った方がいいでしょう。俺がGを駆除しますから、それまでは3人は外にいていいですよ」
「……き、気持ちは有り難いけれど、私は一緒に行くわ。この家の住人だし、教え子を呼び出した責任を少しでも取りたい」
「そ、そうですか」
仕事中ならともかく、休日である今は責任とか考えなくていいと思うけど。でも、教え子が関わると、教師として責任を果たそうとするのは霧嶋先生らしい。
霧嶋先生に鍵を開けてもらい、俺達は1111号室の中に入る。パッと見る限りゴキブリらしき生物の姿は見当たらないな。
あと、部屋やキッチンに繋がる扉が開いており、奥には脱がれたスウェットや、丸めたティッシュが落ちているのが見える。
「Gは……いませんね」
「……そ、そうね。桐生君、これ……殺虫剤。特にGには効果があるらしいわ。家具のことは気にしなくていいから、Gを見つけたら吹きかけなさい」
「分かりました」
霧嶋先生から殺虫剤を受け取る。こういうものがあっても、いざ見つけたときは何もできなかったり、逃げられたりしちゃうことはあるよな。
「姿が見えないと安心するけど、家の中にいるのは分かっているから複雑な気持ちになるよね、風花ちゃん」
「その気持ち、よく分かります」
「私もよく分かるわ、白鳥さん」
「俺がいるので安心してください。ところで、霧嶋先生。さっきGを見つけたのはどこだったんですか?」
「へ、部屋の中……」
「部屋の中ですか。じゃあ、とりあえずは部屋の方……あっ、扉のところにGが出ましたね」
『きゃあああああっ!』
背後で3人が絶叫するので、思わず体がビクついてしまう。ううっ、耳がキーンってなるし頭がちょっと痛い。
振り返ると、3人は目に涙を浮かべ、怯えた様子で身を寄せ合っている。霧嶋先生は美優先輩と風花のことを抱きしめており、美優先輩と風花は俺の服の裾をぎゅっと握っている。本当にゴキブリが苦手なんだな。
3人を驚かせたゴキブリは、まるであの絶叫がなかったかのようにその場に居続け、2本の触覚をゆっくりと動かしていた。
「由弦君、早く退治して!」
「クモほどじゃないけど、Gも怖いよ!」
「桐生君! さっき渡した殺虫剤を遠慮なくぶちかましなさい! 退治できたら何でもしてあげるから早く退治しなさい!」
「分かりました。退治をしますから、先輩と風花は手を離してくれますか?」
「あっ、ごめんね、由弦君」
「頼むわよ、由弦!」
ここまで期待されると、絶対に逃がすわけにはいかない。
ゴキブリが逃げないようにそっと近づくけれど、そのことによる振動に気付いたのか部屋の方へサッと逃げてしまう。
「待て!」
部屋の中に入ると、逃げ足が速いのかゴキブリは窓の近くの壁にいた。そこにめがけて再び近づこうとしたときだった。
「うわっ!」
何かに足を取られてしまい、俺はその場にうつぶせの状態で倒れてしまう。絨毯の上とはいえ派手に転んでしまったので結構痛い。鼻血とかが出ていないだけ幸いだ。
「桐生君、大丈夫?」
「え、ええ……」
どんなものを踏んでしまったのか手にとって確認してみると、それは黒いパンツだった。近くにはこのパンツとセットと思われる黒いブラジャーが落ちていた。
「霧嶋先生、黒いアイツはまだ退治していませんが、黒い下着は上下セットで発見しました。これに足を取られて転びました」
「……ご、ごめんなさい」
「こんなときに下着を見つけるなんて、さすがは変態ね、由弦!」
こんなにも言われて嬉しくない「さすが」も初めてだ。
そんなやり取りをしていることで油断したのか、ゴキブリは俺のすぐ近くまでやってきていた。
「今だ!」
ゴキブリにめがけて殺虫剤を吹きかけた。
そのことに驚いたのかゴキブリは再び逃げようとするが、時既に遅し。一歩二歩と前に進むがその場で痙攣するようになり……やがて、動かなくなった。
「よし、これでとりあえずは大丈夫ですね」
「よくやったわ、桐生君!」
「さすがは由弦君だよ! うちにGが出たときのことを思い出したよ。ちょっと恥ずかしいけれど」
「あたしも覚えていますよ、先輩。それにしてもハプニングはあったけれど、由弦は相変わらず鮮やかに虫退治するわね」
「どうもありがとう。霧嶋先生、ガムテープってありますか?」
「確か玄関の方にあったわ。あと、ずっと下着を握られていると恥ずかしいのだけれど」
「これはすみません」
俺は霧嶋先生の下着をベッドの上に置いた。
いざ、冷静になって部屋の中を見てみると、以前ほどではないけれどまた散らかっているな。ゴミだったり、本だったり、服だったり。あと、下着もか。
霧嶋先生からガムテープを受け取り、それを使ってゴキブリの死体をくっつける。きっちりと封印して、ゴミ箱に捨てようとしたけど、
「これでは入りませんよ、霧嶋先生」
「おかしいわね。ティッシュやいらない紙などを捨てただけなのに」
「……ゴミを捨てればいつかはあふれますよ、一佳先生。あと、本も机の上や床に置いたままじゃないですか。これらの本がかわいそうです」
「あれからも仕事帰りなどに、漫画や小説を買っていて……気付いたら、置き場所が本棚からテーブルや床になってしまっていたわ」
「もう、一佳先生ったら。本棚のスペースは無限じゃないんですから、いつかは入りきらなくなりますよ」
まったく、と美優先輩はため息をついた。そんな先輩のことを風花は苦笑いをしながら、霧嶋先生は気まずそうな顔を表情をしながら見ている。
「読みたい作品がたくさんあるとは思いますが、本棚の状況を定期的に確認しましょう。ゴミについてはあふれそうになったら袋にまとめるようにしましょうね。あと、服や下着も脱ぎ散らかすのではなく、専用のカゴにでも入れて、定期的に洗うように心がけましょう」
「……はい」
「キッチンは……この前よりは大分少ないですけど、洗っていない食器や調理器具がありますね。少ないのはいいですが、なるべくはすぐに洗うようにしましょう」
「……はい」
こうしていると、美優先輩と霧嶋先生のどっちが年上か分からなくなるな。あと、先生と生徒が逆転しているように見えて面白い。
「それでも、2週間前よりはいいですね。では、掃除や洗濯をしましょうか。分担はこの前と同じで、由弦君がキッチン、先生と風花ちゃんはお部屋、私が洗濯という形にしましょう。早く終わったら別の方を手伝うという形で」
「分かりました。3人とも、ごめんなさい。またお願いします」
「いえいえ、気にしないでください! それに、想像していたよりはマシでしたから」
「……そう言われると複雑な気持ちになるわ。悪いのは私だけど。では、白鳥さんの分担通りにやりましょうか」
まさか、ゴールデンウィーク初日に、担任の自宅でゴキブリ退治や掃除をするとは。こんな高校生、俺達以外にはほとんどいないんじゃないだろうか。
俺は美優先輩に割り振られたキッチンに向かう。汚れ物はあるけれど、この前よりは量が少ないのでマシかな。これなら、風花や先生の方を手伝うことができそうだ。
さっそく、俺は食器や調理器具を洗い始める。こうしていると、俺達ってこれからも2週間に一度くらいの頻度で家庭訪問しなきゃいけないのかと思ってしまう。
「とりあえず、ゴミをまとめましょう、先生」
「そうね、姫宮さん」
自宅では生徒と先生の立場が逆転してしまっているな。その証拠に、風花が霧嶋先生よりもしっかりと見える。
そういえば、この前はキッチンを綺麗にした後に倒れそうになった先生のことを助けたんだっけ。今日はそんなことがないといいな。……いや、さっき先生のパンツに足を取られて転んだか。ここに来ると一度は転ばなきゃいけない呪いでもかかっているのかな。
「とりあえず、洗濯が終わるまでこっちを手伝いますね」
「ありがとう、白鳥さん。とりあえず、床に落ちている本をベッドに置いてもらえるかしら」
「分かりました」
おっ、美優先輩が2人のことを手伝うのか。この前よりは汚くないので、今日は早めに終わりそうな気が――。
「こんにちはあああっ!」
「いらっしゃいませえええっ!」
美優先輩と霧嶋先生はそう叫ぶと、2人一緒に窓の側まで逃げてしまう。顔が青ざめているけど、どうしたんだろう?
「どうしたんですか! 美優先輩! 一佳先生!」
「そ、そこの本を動かしたらGがいたの! 風花ちゃん!」
「私も見たわ!」
「えっ……いた! 由弦、お願い!」
「分かった」
俺は殺虫剤を持って部屋の方に向かう。
風花の指さす先にゴキブリがいた。さっきのゴキブリのきょうだいか仲間かな? あと、心なしか今回のゴキブリの方が大きい。
さっきよりも部屋の中が綺麗になっていることもあって、何かにつまずいたり、足を取られたりすることなくゴキブリに近づき、殺虫剤でゴキブリを倒した。ガムテープで死体を回収して、まだ縛っていないゴミ袋の中に捨てる。
「これで大丈夫です」
「何度もありがとう、桐生君」
「一家に一人、由弦を置いておきたいですよね、一佳先生」
「恋人の白鳥さんの前では言いにくいけれど、虫退治という意味では桐生君を置いておきたいわ」
「いえいえ、気にしないでください。私も由弦君のおかげで虫関連で安心できるようになりましたから」
3人にとって、俺は殺虫剤のような存在なんだな。まあ、役立たずと言われるよりはいくらかマシである。
「まあ……1年に1日くらいは何匹も出会う日がありますよ、たぶん。これから温かくなって出会いやすい季節になりますし、Gをホイホイするものを置いておくといいかもしれません。あとは霧タイプの薬を使うと出る頻度が減るそうです」
「そうなのね。この連休中に買って、対策を講じてみる」
そう言って、霧嶋先生は真剣な表情をしながら何度も頷いていた。てっきり、霧嶋先生ならそういった対策をしていると思ったんだけど。今まで全然出なかったのかな。
それからはゴキブリが出たり、何かハプニングが起きたりすることもなく、掃除や洗濯、本などの整理をすることができた。
0
あなたにおすすめの小説
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる