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第3章 兄さまと学園生活

逆襲

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学園では、シーザーやイェシカ嬢と行動を共にすることが増えた。俺はイェシカ嬢に仏頂面についてのアシストもしている。
その甲斐あってか、イェシカ嬢もだいぶシーザーの仏頂面を読むことに慣れてきたらしい。

対するローズリーゼ王女殿下の方は、季節が春から夏に変わったが最近あまり近寄ってこない。ちょっと前に俺が目を離した隙に俺の鞄に手をかけて踏ん張りながら無理矢理開けようとしていたのを見てしまった。なお、俺のカバンについてはSランク冒険者のユリウス監修兄さまの特製防犯魔法付きなので、俺と兄さま以外は開けることができない。

そしてまたある時は、机の上に置いておいた俺の教科書を無理矢理引き裂こうと踏ん張っているところを見てしまった。なお、教科書についても兄さまの強化魔法付きなのでちょっとやそっとのことじゃ破れないようになっているし、防水防火を始め、魔法無効化機能までついている特別製である。

さらにまたある時は、何故か水練の講義が終わった後男子更衣室に他の令息たちと戻れば。俺の制服を持ちながら粉々になった鋏の刃の残骸で指を血まみれにしていた。なお、俺の制服にも多くの防御魔法が施されているため、高級鋏くらいではびくともしないのだ。100均の鋏でも無理だ。更には大抵の魔法は反射させて防いでくれる優れもの。なお、俺の制服は防水魔法が施されているのでローズリーゼ王女殿下の血は一滴も浴びていない。血だらけになったのはローズリーゼ王女殿下のみであった。

時にはすごい音がしたと思えば、ローズリーゼ王女殿下の髪がちりちりアフロになっていて、顔や制服が煤だらけになっていたこともあった。

ローズリーゼ王女殿下は俺がやったのだと言い張ったが、俺の属性は木と風。炎を起こすことは不可能であり、シーザーは水属性、イェシカ嬢も土属性。ローズリーゼ王女殿下に最も近い位置にいた火属性持ちは、――――ローズリーゼ王女殿下ご本人であった。

本人は王女だと言うことでその場で自分が炎魔法を放ったことをもみ消そうとしたのだが。当然ながら周囲の令息令嬢たちの家は、大体がこの国の2大貴族であるヴェートゥル公爵家とカーマイン侯爵家と同じ派閥、王太子殿下派に属している。

だから、ローズリーゼ王女殿下よりも王太子殿下の方が偉いのは当たり前なので、王女殿下が炎魔法を俺に向けて放ったことをみんな証言してくれた。

さすがに彼女の取り巻きも彼女を擁護できなかった。普段から王族の品位を貶める行動を繰り返していた彼女は、夏季休暇を前にさすがに謹慎処分となった。暫くは王城で再教育を施され、更には魔力を封じる腕輪を付けられたそうだ。因みにその解錠ができるのは国王陛下と王太子殿下だけだそうなので安心である。


***


――――最近は王女殿下を見かけていないから平和だった。兄さまと一緒に思う存分一緒に過ごした夏季休暇も終わり夏が過ぎ去って、空気が秋めいてきた。そろそろ王女殿下の謹慎が明けるのかな、とちょっと不安になってきた今日この頃。そんなある日のことであった。

「危ない!ヴィンさま!」
イェシカ嬢の叫び声が響いたその時、――――背中を、押された。


『きゃああぁぁぁぁぁぁ―――っっ!!!』
悲鳴が聞こえる中、階段を頭から落ちていく最中に段上に見えた。怒りに満ち溢れた、ローズリーゼ王女殿下の顔を。

魔力封じたら力業で圧してきたあぁぁ―――っ!?

しかしながら、俺の属性を覚えているだろうか。そう、風である。いやさっき述べたばかりだからみんな覚えていると思うけども。

なので俺は身体に風を纏い、くるりと宙返り。階段の先の踊り場にふわりと着地した。

『おおおおぉぉぉぉぉっっ!!』
そして歓声が上がったので、俺はいぇーいとばかりに両手を上げて無事をアピールしてみた。

急いでイェシカ嬢とシーザーも来てくれたのだが、ふと上を見上げれば。段上で呆然と立ち尽くすローズリーゼ王女殿下が見えた。

『さすがに今のはないんじゃないか』
『いくら王女殿下でも、ねぇ?』
『ヴィンセントさまが風魔法使いじゃなかったら、大怪我を負っていたぞ』
その場の空気は完全にローズリーゼ王女殿下への非難にする方向に周る。

「ローズリーゼ王女殿下!これは一体どういうことか。私の婚約者と知ってのことですか」
慌てて駆けつけてきた兄さまが威圧を込めてローズリーゼ王女殿下を睨む。
兄さま?棟が別々なのに、どうしてここに?

「そ、そんな、嘘ですわ!シアさまは、わたくしと結ばれるのが正しくてっ!何故そんな男を腕に抱いているのです!こんなのわたくしのシアさまじゃないですわ!」
は、はぁ?何を言ってるんだ?この王女は。

「……王女殿下」
兄さまが明らかに不機嫌に王女殿下に目を向ける。

「シアさま!」
その瞬間、王女殿下は顔を輝かせるが……。

「下の名前で呼ぶことを許したつもりはありません」
「そんなの嘘よ!シアさまはシアさまだわ!」
「不愉快だ」
その後騒ぎを駆けつけた教員によってローズリーゼ王女殿下は一旦退却させられた。
それでも、こんなのシアさまじゃないと騒ぎ立てていたが。

***

今回はけが人が出なかったからよかったものの、念のため俺を医務室にお姫さま抱っこで連れてきてくれた兄さまは怒りに満ちていた。

その最中色々なひとに見られて恥ずかしくて、思わず兄さまの胸に顔をうずめたら、兄さまに更に情熱的に抱擁されてしまって顔が火照りまくって大変だった。

その最中に兄さまが教えてくれたけど、王女殿下の謹慎が明けたので、心配で1年棟に様子を見に来てくれたらしい。兄さまが来てくれてよかった。

――――万年氷河期面だったけども、あの時の兄さまの身体の周りは冷気が悶々と立ち上っており、さすがのシーザーも顔を青くし、イェシカ嬢は『やだ、愛されておりますのね』と顔を赤らめていた。いや、そのー……。間違ってはいないと思うんだけど。イェシカ嬢、さすがはシーザーの嫁(※正確には婚約者)。肝が据わってるっ!2人はこの後の講義の講師の先生に事情を話しに行ってくれた。

――――そして。

「ヴィンが無事でよかった」
そして兄さまに抱きしめられた時には、冷気は成りを潜めており、いつもの兄さまの優しい温もりに包まれていた。

「ん、もちろん。ユリウスに風魔法、習ってるもん」

「だが」
抱擁を少し緩め、俺を見降ろす兄さまの双眸は不安で揺れていた。

「それに、兄さまが来てくれたから大丈夫」
「ヴィン……っ」
そう言うと、兄さまが再びぎゅむっと抱きしめてくれる。まるで漠然とした不安を押し込めるように。

「兄さま、兄さまは兄さまだよ」
「ヴィン?」
兄さまが抱擁を少しだけ解いて、俺の顔をじっと見つめてくる。

「俺は今のままの兄さまが好きだし、今、目の前にいる兄さまを何より愛してる。だから、さっき言われたようなことは気にしちゃだめだよ?」

「ヴィン、嬉しい。……ありがとう」
兄さまは俺の首筋に顔をうずめるように更に情熱的に抱きしめてくれた。
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