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第2章 砂の国・サブルム

神子とお勉強。

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「まずは読み書きの練習ですね、神子さま」
「は、はい」
読み書きの練習と言うことで、俺はトゥーリさんの元を訪れていた。

「そう固くならずとも、大丈夫です。俺も読み書きは後宮に入ってから習ったので恥じることもありません」
「そう、なのですか?」

「俺は少数民族の出です。そこには文字、と言うかそのような存在のものもありましたが、この世界の共通語の文字は知りませんでした。少数民族には、よくあることです。まぁ、リュヤーさまは軍人だと言うだけあって、読み書きは自然と身に付けていらっしゃいましたが」
リュヤーさんて、ほんと何でもできるひとだなぁ。

「この国には、少数民族はどのくらいいるの?」
「細かいところまで数えれば、50はいます。未だ知らぬ民族もいるかもしれませんが、今のところは。それでも、この国は多民族国家ですから、少しずつ交流や教育の門戸は開かれてきています。俺とリュヤーさまが後宮に入ったのも、王家との、この国との繋がりを深めるためです」
「そっか、みんなそれぞれ、事情があるんですね。ゼフラさまは?」
「あの方は、他国の少数民族の出身ですが、何せ顔が広いので。交渉ごとなどで多く活躍されています」
さすがはゼフラさまである。

「じゃぁ、ユルキさまも?」
「あの方は違います。この国の主要民族ですね。あの方の家は代々宰相を務め、今の宰相もユルキさまの親類ですから。両家の繋がりを深めるための婚姻です」
そうだったんだ。
宰相とかそこら辺のもことも、俺はまだまだ知らない。

「俺が使っていたテキストなどがあるので、これで勉強しましょう」
「はい、ありがとうございます」
トゥーリさんが、いくつかテキストをくれて、ノートなどに書き記しながら発音や、仕組みを勉強していく。

「神子さまは、」
「あ、あの。トゥーリさん」

「はい?」
「あの、ユラでいいですよ?神子って呼ばれるのは、あまり」
やはり今でも分不相応に感じてしまう。

「それに、あまり歳も離れてなさそうだし、呼び捨てでも、いいですよ?」
「では、ユラ」
「はい、トゥーリさん」

「俺も、呼び捨てでいい」

「えっと、じゃぁ、トゥーリ?」
「そう。――――――あぁ、でもアルダ王が聞いたら、どうだろう?でもそれはそれで、面白そうだからいいか」
アルダ王が聞いたら、面白くなるってどういう?ちょっとよく分からないけど。
でも、トゥーリと少し仲良くなれたのは、嬉しいかも。

そうして読み書きの勉強していれば、部屋の外から元気な声が響いてくる。

「おかあしゃま!」
警護のためについていてくれている騎士が扉を開ければ、トゥーリの息子のファイが元気に叫んでとたとたと部屋に入ってくる。

「新しいお母さまもいる!」
「なにちてるのー?」
そしてユルキさまの息子のシャロンくん、リュヤーさんの息子のリーシェくんもやってきた。
あ、新しいお母さまって、俺のこと!?えと、その。それはそれでハーレムの一員として認めてくれているってことだろうか?嬉しい反面、ちょっと照れるな。

「ファイ、遊びに来たの?」
「うん!」
トゥーリは相変わらず無表情だけど、その声は柔らかく、屈んでファイくんの頭を優しく撫でていた。
なんだか微笑ましくなってくるなぁ。

じと――――――――――っ

はっ!?

視線を感じて足元を見れば、シャロンくんたちがじっと俺を見上げていた。

えっと、俺もなでなで、していいのかな?
そっと両手を2人の頭に伸ばしてなでなでしてみる。

ぱあああぁぁっ!!!

ふ、2人の笑顔が、眩しいいいぃっ!!!

「あれ、ここに遊びに来てたの?」
ひょっこりと現れたその声の持ち主に再びハッとして見上げれば、そこにはリーシェくんの母親であるリュヤーさんがいてーー

「あっ、ごめんなさいっ!」
「どうして謝るの?何も悪いことしてないでしょ。むしろ子どもたちの相手してくれてるし」
そう言うとリュヤーさんも屈み混んで、俺の髪をわしゃわしゃしてくる。

因みに今はベールや何かは被っていないから、髪を直に。

「わっ!?ちょっ!?」

「はははっ!まずはすぐ謝るとこ、直さないとね。ユラ」
「えっとっ」
それはそのっ。
つい、元の世界での癖で……。繰り返される理不尽な暴力の前に謝ることしかできなくて。でもそれはさらに加害者を悦に浸らせる。かといって黙れば逆上されて暴力を受ける……。

それが気絶するまで続き、そして目覚めた時にすら、解放されないこともある。
また、理不尽な暴力の繰り返し……。

それなのに、いいのだろうか。

「ユラはこのハーレムの一員。つまり王族の一員だから。国民の上にたつものとして、責任がある」
そう、ファイくんを抱っこしながらトゥーリが告げる。

「せ、きにんっ、ご、ごめんなさっ」
まだ、分かっていなくてっ!
「ほら、また」
リュヤーさんの指が俺の唇に伸びてくる。

「あ、えとっ」

「知識ならこれからユルキに学んで身に付けていけばいい。他の教育についても俺たちが指南するし。ユラはひとりじゃないから、大丈夫。もっと自信を持っていいんだよ。神子な時点でそれだけの価値がある」

「っけれど、俺、神子らしいことなんてっ」
「ユラが来てから、討伐要請も減りつつある。神子がいれば国が安定する。この国のために、ユラも役立っているし、軍の中でも神子のユラを歓迎する声は大きいよ。負傷者も減っているし、休暇も与えられるから、彼らも家族との時間を過ごせる」

「それって、俺がいるから?偶然じゃなくて?」
「偶然じゃないよ。それほどまでに神子の存在の影響は大きい。だから、大切にされるんだ。そしてそんな神子だからこそ、誰よりも幸せになる権利がある」
「そ、れはっ」
俺も、幸せになっていいのか?

「だからねぇ~、アルダが嫌になったらいつでも俺の養子においで~!」
「ええぇっ!?」
その案まだあったの!?

「ほら、シャロン、幸せにしてあげるんだよ~」
と、リュヤーさんがシャロンくんに告げる。いやっ、そのっ!?シャロンくんはまだ王太子ではないけれど、有力候補である。だからこの世界の決まりからは外れていないんだけれど、それはそのっ、年齢差がありすぎるんじゃぁ。

「新しいお母さま、幸せにしゅるっ!!」
「はぅあぁっ」
お母さまと呼ばれているところがちょっとアレだけど、そんなピュアな目で見つめられたらっ!!

「いや、ユラはやらんっ!私の夫つまだぞっ!!」
どこで聞き付けたのか、アルダ王までやって来たっ!?

「リュヤーも!養子計画は許可しない!」
「えぇ~?束縛強いと嫌われるよ?」
アルダ王の言葉に、リュヤーさんは相変わらずへらへらしてるなぁ~。

「なっ、嫌われてるなどっ!そんなことないよな、ユラっ!」
「え、と。嫌いでは、ないです」
親切だとは思うし、良くしてくれているし。

「そうかそうか!」
アルダ王がぱあああぁぁっと顔を輝かせる。

「でも、愛してはいないんですよ?いいんですか?」
トゥーリっ!?そんな厳しいっ!

「いや、そんなことはっ!愛してもくれているよな!ユラ!」
「そ、そのっ、あの。よく、分からない、です」

「ぐあぁっ」
アルダ王が崩れ落ちる。

「あの、大丈っ」
「いいのいいの~っ!大人しくなったところだし~」
リュヤーさんがニカッと笑う。

「お仕事はまだまだ、残っていますぞ!」
部屋に雪崩れこんできた官吏っぽいひとたち。そして一番偉い官吏っぽい男性がアルダ王の首根っこを掴み、他の官吏たちも加わってアルダ王が連れ去られていった。

「ゆ~らぁ~っ!!!」
アルダ王の悲しげな声が響き渡り、そして残響となり消えていった。

「あぁ因みに、さっきアルダ王の首根っこ掴んでたのがユルキの伯父で、宰相」
「えっ、ええぇ~~っ!?」
突然すぎて挨拶もできなかったぁ~っ!!


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