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番外編
使者と永遠の花
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本編脇役の過去のお話です。本編とはテイストが異なります。
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一五才で和睦のため蛮族のもとを訪れることになった使者は、その愛らしさから和睦の条件として長のハレムへと入れられた。
顔に烙印を押され、ムリヤリ暴かれることになったが、母からの「なにがあっても生き抜くこと」という言葉と、國への忠義のため泣くこともなく耐えていた。
はじめは乱暴だった長だが、使者を嫌いなわけではない。元敵国の使者に自分がキツく当たることで、仲間の溜飲を下げさせるためだった。
國では蛮族と言われていたが、彼らは思った以上に文化的な生活をしていた。
次第にその生活にも慣れ、長とも前よりは打ち解けてきたが、國を思う気持ちは変わらない。
自分が犠牲になることで、平和を保てることに満足していた使者。ここにたどり着くまでに結婚を誓った相手もいたが、國の平和と天秤にかけてその気持ちも封じていた。
長い、長い月日が流れた。
使者は少年から青年へと変わったが長からの寵愛は変わらなかった。
たびたび白い花が部屋に置かれていた。
使者の右の額に付けられた烙印と同じ、小さな五枚の花弁の花だ。
長からの贈り物だろうか? しかしその花は断崖絶壁にだけ咲く、ムンフツェツグ《永遠の花》という花だという。
長が誰かに命じたか、それとも別の人か。ふと、烙印を押されたときに見た人影を思い出す。まさか、な。
そんなある日、草原で蛮族が襲われた。相手は使者の國の兵士だった。
使者がここにいる限り和睦は続くはずだった。
息巻く蛮族たち。
長は兵を引き連れて草原へと出兵した。
警備が手薄になった隙に現れたのは草原で結婚を誓った男だった。
和睦は無効になり、直に戦争になる。
ここは焼かれるだろう。
その前に逃げようと告げる男。躊躇う使者に男が渡したのは小さな白い五枚の花弁をもつ花、ムンフツェツグ。
この一〇年間ずっと、使者に花を贈っていたのはこの男だったのだ。
男に引かれ、邑を出る。
一〇年間夢見ていた外の世界。しかしそこは使者の思い出の美しい草原とはかけ離れたものになっていた。
死体の山があちらこちらに築かれ、煙がくすぶっている。
男の邑でしばらく静養した使者は、男と共に國へと帰った。和睦を願っていたはずの国王と丞相は、元蛮族の男を将軍にしたことで、蛮族を討伐できると踏んで、方針転換をしていた。
なんのために自分は一〇年も犠牲になったのか。
使者は裏切られた気持ちになった。
戦争は激化した。
蛮族たちの変化に富んだ攻撃に苦戦しつつも、圧倒的な兵の数と物量に勝利は目前だった。
城下にいた使者が噂を聞いた。
使者を助けた男の邑が焼かれたと。
男は使者にすぐ戻ると告げて、旅立った。
戦勝ムードの城下でひとり茶を飲んでいると見覚えのある男を見掛けた。後を付けてみると、そこには蛮族の兵士と長がいた。
使者は城に戻り奇襲を知らせたが、誰も取り合ってくれない。
なぜなら使者が長の愛人だったことが知れ渡っていたからだ。
忠誠を誓った国王や敬愛する丞相に失望した使者。
城下に火の手があがる。見る間に燃え広がる。
せめて城下の民を救おうと必死な使者の前に現れたのは蛮族の長。
使者のために危険を冒してきたと告げる。
城も国王も見捨てて早々に逃げ出した丞相はその様子に使者を罵った。
男に媚びを売り、命乞いしたのだと。
その言葉に怒ったのは使者ではなく、長。持っていた槍で丞相を一突き。
使者の國への忠義は消え失せた。
一緒に帰ろうと手を差し出す長だが、その間を燃える柱が倒れる。
使者の手が引かれ驚くとそこにいたのは結婚を誓った男。
使者を探すため男の邑を焼いたのは長だった。
男の邑の人々の顔を思い出した使者は、はじめて涙を零した。
その涙に長は自分の失態を知る。
その長に矢の雨が降る。
使者は迎えに来た男の手を取り、國を出て旅をはじめた。
草原や男の邑、蛮族の邑。すべては焼き尽くされ見る影もないそこに手を合わせ花を手向け終えると、さらに西へと向かった。
ふたりの旅の終着点は、黒い森と大きな河に囲まれた高台の国だった。
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一五才で和睦のため蛮族のもとを訪れることになった使者は、その愛らしさから和睦の条件として長のハレムへと入れられた。
顔に烙印を押され、ムリヤリ暴かれることになったが、母からの「なにがあっても生き抜くこと」という言葉と、國への忠義のため泣くこともなく耐えていた。
はじめは乱暴だった長だが、使者を嫌いなわけではない。元敵国の使者に自分がキツく当たることで、仲間の溜飲を下げさせるためだった。
國では蛮族と言われていたが、彼らは思った以上に文化的な生活をしていた。
次第にその生活にも慣れ、長とも前よりは打ち解けてきたが、國を思う気持ちは変わらない。
自分が犠牲になることで、平和を保てることに満足していた使者。ここにたどり着くまでに結婚を誓った相手もいたが、國の平和と天秤にかけてその気持ちも封じていた。
長い、長い月日が流れた。
使者は少年から青年へと変わったが長からの寵愛は変わらなかった。
たびたび白い花が部屋に置かれていた。
使者の右の額に付けられた烙印と同じ、小さな五枚の花弁の花だ。
長からの贈り物だろうか? しかしその花は断崖絶壁にだけ咲く、ムンフツェツグ《永遠の花》という花だという。
長が誰かに命じたか、それとも別の人か。ふと、烙印を押されたときに見た人影を思い出す。まさか、な。
そんなある日、草原で蛮族が襲われた。相手は使者の國の兵士だった。
使者がここにいる限り和睦は続くはずだった。
息巻く蛮族たち。
長は兵を引き連れて草原へと出兵した。
警備が手薄になった隙に現れたのは草原で結婚を誓った男だった。
和睦は無効になり、直に戦争になる。
ここは焼かれるだろう。
その前に逃げようと告げる男。躊躇う使者に男が渡したのは小さな白い五枚の花弁をもつ花、ムンフツェツグ。
この一〇年間ずっと、使者に花を贈っていたのはこの男だったのだ。
男に引かれ、邑を出る。
一〇年間夢見ていた外の世界。しかしそこは使者の思い出の美しい草原とはかけ離れたものになっていた。
死体の山があちらこちらに築かれ、煙がくすぶっている。
男の邑でしばらく静養した使者は、男と共に國へと帰った。和睦を願っていたはずの国王と丞相は、元蛮族の男を将軍にしたことで、蛮族を討伐できると踏んで、方針転換をしていた。
なんのために自分は一〇年も犠牲になったのか。
使者は裏切られた気持ちになった。
戦争は激化した。
蛮族たちの変化に富んだ攻撃に苦戦しつつも、圧倒的な兵の数と物量に勝利は目前だった。
城下にいた使者が噂を聞いた。
使者を助けた男の邑が焼かれたと。
男は使者にすぐ戻ると告げて、旅立った。
戦勝ムードの城下でひとり茶を飲んでいると見覚えのある男を見掛けた。後を付けてみると、そこには蛮族の兵士と長がいた。
使者は城に戻り奇襲を知らせたが、誰も取り合ってくれない。
なぜなら使者が長の愛人だったことが知れ渡っていたからだ。
忠誠を誓った国王や敬愛する丞相に失望した使者。
城下に火の手があがる。見る間に燃え広がる。
せめて城下の民を救おうと必死な使者の前に現れたのは蛮族の長。
使者のために危険を冒してきたと告げる。
城も国王も見捨てて早々に逃げ出した丞相はその様子に使者を罵った。
男に媚びを売り、命乞いしたのだと。
その言葉に怒ったのは使者ではなく、長。持っていた槍で丞相を一突き。
使者の國への忠義は消え失せた。
一緒に帰ろうと手を差し出す長だが、その間を燃える柱が倒れる。
使者の手が引かれ驚くとそこにいたのは結婚を誓った男。
使者を探すため男の邑を焼いたのは長だった。
男の邑の人々の顔を思い出した使者は、はじめて涙を零した。
その涙に長は自分の失態を知る。
その長に矢の雨が降る。
使者は迎えに来た男の手を取り、國を出て旅をはじめた。
草原や男の邑、蛮族の邑。すべては焼き尽くされ見る影もないそこに手を合わせ花を手向け終えると、さらに西へと向かった。
ふたりの旅の終着点は、黒い森と大きな河に囲まれた高台の国だった。
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