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番外編
父から子への手紙
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手紙を送れなくてごめんなさい
アービの子を連れてきましたがどうも臆病でワタシの側から離れてくれず、送ることができなかったのです
この三ヶ月、何があったか順にお話しますね
まず範安では十年前と同じ、いえ、それ以上の歓待を受けました
色とりどりの提灯が軒先を飾り、とても華やかです
桂魚をはじめとした川魚と山菜のごちそうが並び、範安伝統の舞を披露してもらいました
男性も女性も裾のすぼまった褲子を履き、足だけが踊るのです
太鼓の音に合わせて拍子を刻む足はとても早く、目で追うこともできません
蒼鷹が真似ようとして転んでしまいましたが楽しそうでした
それから蒼鷹のお祖父様とお祖母様が祀られている霊廟へ行きました
ワタシたちが出会ったあの階段の上にある霊廟です
十年前は中に入ることはなかったので知らなかったのですがとても色鮮やかな壁画ときらびやかな飾り付け
それととてもとても美しいお顔の石像がありました
男とも女とも見える不思議なお顔立ちで、こちらを見てほほ笑んでいるようでした
祖先を祀るにしても国によって違うのですね
前回、高山病になったせいで、山登りのとき蒼鷹はとても心配してくれました
おかげで前よりも楽でしたが時間は倍かかりました
蒼鷹のほうが大丈夫かと心配だったのですが
これは体質なのでしょうか?とても元気で夜もぐっすり眠っていました
ワタシの侍女だったナーズィが滑落した崖についたときはふたりで彼女の幸せを願いました
十年前のナーズィの顔が目に浮かぶようでした
万年氷の山ではそのままの形で残ってると聞きましたが
ほんとうでしょうか?あの慈悲深い微笑みで
山を下り野に出ると狩りをしました
アービの子はこのとき大活躍をしたのですよ
彼女は獲物を見つけるのがとても上手でワタシが射った狐を持ち帰る速さはサルー以上かもしれません
ただの食いしん坊かもしれませんが
蒼鷹にも弓を教えましたが集中出来ないから難しいと言われました
それでもひとりで射るときはなんとか野兎を狩れるようにまで上達しました
白いオアシス都市パルサでは身分を検められると相変わらずの歓迎ぶりで蒼鷹は面食らっていました
賢高とトルナヴィエでの交易が活発になったおかげでパルサも潤っているそうです
特に賢高の絹はパルサでも人気が高く
パルサ後宮では絹帯に色鮮やかな刺繍をしている妃がたから絶賛されました
自国の品物が喜ばれるのは嬉しいことですね
そう言えばやはり賢高と似たような文様も多く驚いたのですが、どうやら逆のようです
昔パルサにいた刺繍職人が賢高に移住したそうなのです
ご存知でしたか?
前回立ち寄らなかった港にも行きました
賢高にも海はありますが、パルサから南に下った港は砂浜になっています
砂浜から木製の桟橋がいくつも作られており、そのひとつが宿になっていて海の上で寝ました
寝起きに海に飛び込むのは心地よかったです
そこからトルナヴィエまでは海路を辿りました
船もはじめてです
蒼鷹もはじめてのようで、船酔いしていました
帰りは絶対陸路だとヘロヘロの身体で宣言していました
甲板で過ごすと少しは楽なようでほとんどをそこで過ごしました
海から登る朝日はとても美しいものですね
5日ほどの海の旅が終わればトルナヴィエの港です
ワタシがいたころは軍港として使われており、殺伐とした雰囲気でしたが
今は兄の政策のおかげでとても活気溢れるにぎやかな街へと変貌していました
一瞬違う国についてしまったのか錯覚するほどです
ワタシたちの格好は珍しいのでしょう
たくさんの人が集まってしまいました
むしろワタシは見慣れていたはずのトルナヴィエの人たちの格好に懐かしさよりもその露出の多さにどきりとしました
ワタシが賢高の生活に慣れたからでしょうね
蒼鷹は不思議そうに見ていたかと思うと、顔を赤らめたのでどうかしたのかと思ったら
トルナヴィエの衣装を着たワタシを想像して目のやり場に困ると言っていました
見たことのあるトルナヴィエの正装はもう少し布の量が多いですからね
言われたワタシまで恥ずかしくなりました
話が脱線してしまいました
とにかく無事トルナヴィエにたどり着いたワタシたちはようやく兄に逢えました
兄は立派な髭を蓄えて、貫禄のある王となっていました
この十年忙しかったようですが、ようやく各国との和平を取り付け、内政に注力しているそうです
活気のある港町の話をしたら喜んでいました
あそこは陸海の交易の要であること
そしてそのきっかけとなった者の名を付けたとのだと
バンダレ・ソルーシュ、天使の港というそうです
なんだか自分の名前が冠されると気恥ずかしいものですね
そう、トルナヴィエに付いてようやくアービの子がワタシから離れられるようになりました
それで今この手紙を書いています
このあと、父さんと母さんのところへ蒼鷹といっしょに挨拶に行く予定です
王宮から北、母さんの故郷に近い港に家を持ったそうです
父さん、母さんと呼んだら驚くでしょうか?
でもワタシにとっては彼らが両親です
きっと喜んでくれると、思います
では、また手紙を書きますね
そうだ、アービの子にはあなたが名前をつけてください
息子紅希へ あなたの父より
アービの子を連れてきましたがどうも臆病でワタシの側から離れてくれず、送ることができなかったのです
この三ヶ月、何があったか順にお話しますね
まず範安では十年前と同じ、いえ、それ以上の歓待を受けました
色とりどりの提灯が軒先を飾り、とても華やかです
桂魚をはじめとした川魚と山菜のごちそうが並び、範安伝統の舞を披露してもらいました
男性も女性も裾のすぼまった褲子を履き、足だけが踊るのです
太鼓の音に合わせて拍子を刻む足はとても早く、目で追うこともできません
蒼鷹が真似ようとして転んでしまいましたが楽しそうでした
それから蒼鷹のお祖父様とお祖母様が祀られている霊廟へ行きました
ワタシたちが出会ったあの階段の上にある霊廟です
十年前は中に入ることはなかったので知らなかったのですがとても色鮮やかな壁画ときらびやかな飾り付け
それととてもとても美しいお顔の石像がありました
男とも女とも見える不思議なお顔立ちで、こちらを見てほほ笑んでいるようでした
祖先を祀るにしても国によって違うのですね
前回、高山病になったせいで、山登りのとき蒼鷹はとても心配してくれました
おかげで前よりも楽でしたが時間は倍かかりました
蒼鷹のほうが大丈夫かと心配だったのですが
これは体質なのでしょうか?とても元気で夜もぐっすり眠っていました
ワタシの侍女だったナーズィが滑落した崖についたときはふたりで彼女の幸せを願いました
十年前のナーズィの顔が目に浮かぶようでした
万年氷の山ではそのままの形で残ってると聞きましたが
ほんとうでしょうか?あの慈悲深い微笑みで
山を下り野に出ると狩りをしました
アービの子はこのとき大活躍をしたのですよ
彼女は獲物を見つけるのがとても上手でワタシが射った狐を持ち帰る速さはサルー以上かもしれません
ただの食いしん坊かもしれませんが
蒼鷹にも弓を教えましたが集中出来ないから難しいと言われました
それでもひとりで射るときはなんとか野兎を狩れるようにまで上達しました
白いオアシス都市パルサでは身分を検められると相変わらずの歓迎ぶりで蒼鷹は面食らっていました
賢高とトルナヴィエでの交易が活発になったおかげでパルサも潤っているそうです
特に賢高の絹はパルサでも人気が高く
パルサ後宮では絹帯に色鮮やかな刺繍をしている妃がたから絶賛されました
自国の品物が喜ばれるのは嬉しいことですね
そう言えばやはり賢高と似たような文様も多く驚いたのですが、どうやら逆のようです
昔パルサにいた刺繍職人が賢高に移住したそうなのです
ご存知でしたか?
前回立ち寄らなかった港にも行きました
賢高にも海はありますが、パルサから南に下った港は砂浜になっています
砂浜から木製の桟橋がいくつも作られており、そのひとつが宿になっていて海の上で寝ました
寝起きに海に飛び込むのは心地よかったです
そこからトルナヴィエまでは海路を辿りました
船もはじめてです
蒼鷹もはじめてのようで、船酔いしていました
帰りは絶対陸路だとヘロヘロの身体で宣言していました
甲板で過ごすと少しは楽なようでほとんどをそこで過ごしました
海から登る朝日はとても美しいものですね
5日ほどの海の旅が終わればトルナヴィエの港です
ワタシがいたころは軍港として使われており、殺伐とした雰囲気でしたが
今は兄の政策のおかげでとても活気溢れるにぎやかな街へと変貌していました
一瞬違う国についてしまったのか錯覚するほどです
ワタシたちの格好は珍しいのでしょう
たくさんの人が集まってしまいました
むしろワタシは見慣れていたはずのトルナヴィエの人たちの格好に懐かしさよりもその露出の多さにどきりとしました
ワタシが賢高の生活に慣れたからでしょうね
蒼鷹は不思議そうに見ていたかと思うと、顔を赤らめたのでどうかしたのかと思ったら
トルナヴィエの衣装を着たワタシを想像して目のやり場に困ると言っていました
見たことのあるトルナヴィエの正装はもう少し布の量が多いですからね
言われたワタシまで恥ずかしくなりました
話が脱線してしまいました
とにかく無事トルナヴィエにたどり着いたワタシたちはようやく兄に逢えました
兄は立派な髭を蓄えて、貫禄のある王となっていました
この十年忙しかったようですが、ようやく各国との和平を取り付け、内政に注力しているそうです
活気のある港町の話をしたら喜んでいました
あそこは陸海の交易の要であること
そしてそのきっかけとなった者の名を付けたとのだと
バンダレ・ソルーシュ、天使の港というそうです
なんだか自分の名前が冠されると気恥ずかしいものですね
そう、トルナヴィエに付いてようやくアービの子がワタシから離れられるようになりました
それで今この手紙を書いています
このあと、父さんと母さんのところへ蒼鷹といっしょに挨拶に行く予定です
王宮から北、母さんの故郷に近い港に家を持ったそうです
父さん、母さんと呼んだら驚くでしょうか?
でもワタシにとっては彼らが両親です
きっと喜んでくれると、思います
では、また手紙を書きますね
そうだ、アービの子にはあなたが名前をつけてください
息子紅希へ あなたの父より
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