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天翔る鷹の想い
百五日目 その一
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大きく蛇行した河の先端に造られた小さな港に着くと、一行は感嘆の声をあげた。
「これは……見事なものだな」
まだ日の明るい時間にも関わらず、灯された提灯は、鷹小屋よりも小さな川沿いの家にまで吊るされ、町を彩っていた。
他国の官吏の訪問への歓迎なのだろう。大河によって削られてできた僅かな平地から、眼前に迫る勢いの山腹まで、その光は続いていた。
出迎えに来ていた町長は、深く頭を下げ拱手した。
町長と墨夏を先頭に一行は細く、曲がりくねった坂道を登り町の中心部の広場へと向かった。現地調査である。仕事である。
しかし蒼鷹は気もそぞろで並ぶ商店を、右に左にとせわしなく首を回していた。
この町のどこかにソルーシュがいる。しかしどれが宿かもわからない。軒には人が多く溢れているにも関わらず、蒼鷹にはソルーシュを見つけることが出来なかった。
姿形を知らないまでも、蒼鷹はソルーシュを見れば必ず分かるという、確信があった。
「そのお姿だとまるで護衛かなにかのようですね」
こっそりと耳打ちする墨夏の揶揄が聞こえて、前を見ると突如、視界が開けた。
「この先が役所で――」
町の中心部は円形の広場になっていた。そこから同心円状に発展をしたのだという。
そんな町長の案内の声も聞かず、蒼鷹が目を細め、真っ青に晴れ渡る空を見上げると小さな黒い点が見えた。それはあっという間に広場まで下りてくると一度上空を旋回し、蒼鷹のもとへと舞い降りた。
「どうした? 手紙か?」
鷹を腕にとまらせると、その首へと手を伸ばした。しかし鷹は首を振り、羽根を広げてチチッと鳴くだけ。筒の中を見ても、中身はなかった。
「主人が恋しくなったのでしょうか?」
「こいつが私のことを主人と思っているとは思えんが……」
蒼鷹と墨夏が首を捻った。広場に面した役場へと足を向けると、鷹はまたチチッと鳴き、今度は蒼鷹の腕から飛び立った。
「なんだったのだ?」
鷹の行き先は、役場とは逆。山腹に切り開れた長い階段。
その階段に、蒼鷹は人影を見つけた。
白い岩壁にひときわ映える、黄色い一筋。
風に煽られ、たなびき、空に舞った。
人影はそれを追うように、空へ手を伸ばしている。
危うく落ちそうになるところをすんでのところで留まり、掴んだものを抱えると腰をおろした。
瞬きもせずに見つめていた蒼鷹の足が、一歩、ひとりでに動いた。
「あの先は?」
「あん先は、廟さぁ一つと、山さぁ入り口が――」
広場にいた老爺に問いかけた蒼鷹がその答えを聞くと、蒼鷹の足はまっすぐに階段へと向かっていた。
「陛下っ!」
墨夏の声が届くころには、蒼鷹の姿は見えなくなっていた。
「これは……見事なものだな」
まだ日の明るい時間にも関わらず、灯された提灯は、鷹小屋よりも小さな川沿いの家にまで吊るされ、町を彩っていた。
他国の官吏の訪問への歓迎なのだろう。大河によって削られてできた僅かな平地から、眼前に迫る勢いの山腹まで、その光は続いていた。
出迎えに来ていた町長は、深く頭を下げ拱手した。
町長と墨夏を先頭に一行は細く、曲がりくねった坂道を登り町の中心部の広場へと向かった。現地調査である。仕事である。
しかし蒼鷹は気もそぞろで並ぶ商店を、右に左にとせわしなく首を回していた。
この町のどこかにソルーシュがいる。しかしどれが宿かもわからない。軒には人が多く溢れているにも関わらず、蒼鷹にはソルーシュを見つけることが出来なかった。
姿形を知らないまでも、蒼鷹はソルーシュを見れば必ず分かるという、確信があった。
「そのお姿だとまるで護衛かなにかのようですね」
こっそりと耳打ちする墨夏の揶揄が聞こえて、前を見ると突如、視界が開けた。
「この先が役所で――」
町の中心部は円形の広場になっていた。そこから同心円状に発展をしたのだという。
そんな町長の案内の声も聞かず、蒼鷹が目を細め、真っ青に晴れ渡る空を見上げると小さな黒い点が見えた。それはあっという間に広場まで下りてくると一度上空を旋回し、蒼鷹のもとへと舞い降りた。
「どうした? 手紙か?」
鷹を腕にとまらせると、その首へと手を伸ばした。しかし鷹は首を振り、羽根を広げてチチッと鳴くだけ。筒の中を見ても、中身はなかった。
「主人が恋しくなったのでしょうか?」
「こいつが私のことを主人と思っているとは思えんが……」
蒼鷹と墨夏が首を捻った。広場に面した役場へと足を向けると、鷹はまたチチッと鳴き、今度は蒼鷹の腕から飛び立った。
「なんだったのだ?」
鷹の行き先は、役場とは逆。山腹に切り開れた長い階段。
その階段に、蒼鷹は人影を見つけた。
白い岩壁にひときわ映える、黄色い一筋。
風に煽られ、たなびき、空に舞った。
人影はそれを追うように、空へ手を伸ばしている。
危うく落ちそうになるところをすんでのところで留まり、掴んだものを抱えると腰をおろした。
瞬きもせずに見つめていた蒼鷹の足が、一歩、ひとりでに動いた。
「あの先は?」
「あん先は、廟さぁ一つと、山さぁ入り口が――」
広場にいた老爺に問いかけた蒼鷹がその答えを聞くと、蒼鷹の足はまっすぐに階段へと向かっていた。
「陛下っ!」
墨夏の声が届くころには、蒼鷹の姿は見えなくなっていた。
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