タカと天使の文通

三谷玲

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天翔る鷹の想い

七十六日目

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やっと山を抜けました。小さなムラで、宿を取り、手紙を書いています。
タカはいいですね。この山もひとっ飛びですから。
早く、そちらに向かいたいのですが、体調がよくありません。
空気が薄いせいか、呼吸がうまくできず、頭が痛いのです。
ワタシもタカになりたいです。
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 蒼鷹は装束部から受け取った、出来上がったばかりの狐の襟巻きを受け取ると、彼に新たな仕事を頼んだ。
 襟巻きはそろそろ春になる今時分には少し暑いが、肌触りは極上だった。それを膝上に乗せ、撫でながら手紙を開くと、蒼鷹はすぐに立ち上がり声を荒げた。

「峰涼! 薬師を呼べ!」
「何事ですか? 鷹が驚いて、うわっ! やめっ!」

 暴れる鷹に慌てる峰涼だったが、蒼鷹の剣幕にただ事ではないと感じ、薬師を呼びつけるよう宦官に申し付けた。

「ソルーシュが病に倒れた! こうしていられない。早く薬師と医師を手配して――」
「それは高山病でしょう。病ではありますが、王子はお若い。しかも狩りをされることを考えると身体は丈夫とお見受けします。しばらく休めばすぐに回復されると思いますよ」

 手紙を見た峰涼が蒼鷹をなだめるように説明するが、蒼鷹の心は晴れない。

「本当に治るのだな?」
「ええ。そんなことよりも前回の手紙になんと書かれたのですか? 早くとありますが、まさか急かしたのではないでしょうね?」

 図星を突かれて返事に困る蒼鷹を助けたのは薬師だった。

「お呼びと聞き参りましたが、王になにか?」
「いや、高山病に効く薬はあるだろうか? なにか煎じて飲めるようなものでも良い」
「高山病? それでしたら紅景天べんけいそうの煎じたのを飲ませるのがよろしかろうと」

 白髭を蓄えた薬師はその背負子から薔薇の香りのする乾燥した根を取り出すと、数包用意しはじめた。いつもはのんべんだらりとしている蒼鷹からの殺気を感じた老爺は、すぐに取り掛かるべき仕事であることを理解していた。

「助かった」

 蒼鷹からのねぎらいの言葉に、薬師は手を合わせると「未来の王妃のためでしたらなんなりと」と辞去した。
 すぐさま薬を送るべく、蒼鷹は返事を簡潔にしたためると、十分に猪肉を楽しんだ鷹に懇願した。

「お前の主のもとへ急げ」

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薬を用意した。
急がずとも良い。
無事でいてくれ。
鷹になられては困る。
私の天使へ。
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 明るい朝日が照らす西の森に黒い影が舞う。その先には神々しいまでに光り輝く白い頂。
 神は、残酷なまでに美しい。蒼鷹は自分の天使を召さぬようにと願いながら、峰涼に支度を任せていた。
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