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天翔る鷹の想い
六十九日目
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今日は悲しいことがありました。
いっしょに来ていた、ナーズィが落ちてしまったのです。細い道で足を滑らせて。
彼女を探そうとしましたが、オーランに止められました。
山で亡くなった人は、連れ帰ることが出来ない決まりなのだそうです。
ワタシのストールを投げ入れました。
---
「なんといういたわしい事故でしょう……」
「そうだな……」
同行している侍女が亡くなったという知らせは、蒼鷹と峰涼の心に暗い影を落とした。
これがソルーシュだったら……。そう思うと足元から凍りつくように冷えた心地がした。
それだけ山越えが厳しいものだということ。ソルーシュがそこにいること。それも自分の後宮に来るために。
ただ、飾りの王妃になるために。
そこまですることだったのだろうか? 彼を危険な目に合わせる必要があったのか?
蒼鷹はなんと返事を送ればいいか迷っていた。今ソルーシュにどんな言葉を掛けたらいいのか。
「あの山で亡くなると木乃伊になるらしいですよ。高山の遺体は、冷えた空気と乾燥で腐敗することがないそうです」
筆を取ることのない蒼鷹に峰涼がそっと話しかけた。だから何だと言うのか。蒼鷹がいぶかしげに峰涼を見上げると彼は遠くを見るような顔つきで答えた。
「彼女は永遠の生命を獲得したのかもしれません。西国には来世を迎えるために肉体を木乃伊にすると聞いたことがあります」
木乃伊には神秘的なものを感じるのは世界共通かもしれない。東国でも僧侶が自ら生きたまま木乃伊になると、仏になれるという謂れがあった。そんなことでソルーシュを慰められるとは思えないが、蒼鷹の心は落ち着きを取り戻した。
「私は来世に期待などは持てないが、彼女には幸せが待っていると良いな」
先日はソルーシュの無事を祈った山に、これまで名も知らなかった女性の幸せを祈った。
---
ナーズィのことは残念に思う。
彼女が無事、彼女の信じる神の御下へ旅立てたことを願うばかりだ。
しかし、それでも私はソルーシュが無事であったことに安堵してしまうことを許してほしい。
こんなに危険な旅路をさせてしまったことに今更ながら後悔している。
この手紙が届くころには無事、難所を抜けているころだろうか。
無事な姿をこの目で確認できないのが、心苦しく思う。
私が鷹だったならば、安心できるのに。
いや、私が鷹だったならば君を嫁に取ることもなかったのだな。
私のせいで君や君の友人に苦難を与えてしまったことを許してもらえるだろうか?
早く、君に逢いたい。
私の天使へ。
---
香を焚き付けた、淡い乳白色の紙を小さく丸めると、鷹はわかったとばかりに首を差し出した。
「随分と長いものを書かれましたね。これが王子の慰みになれば良いのですが」
「いや、中身は私の謝罪ばかりになってしまった」
「陛下……。あなただけが悪いわけではない。これは彼の国にも我が国との交易を結ぶため必要なことです。王子もわかっておられることでしょう。そうでなければあの山を越えて、男のもとに嫁ぐなど、出来はしませんよ」
国交のために、人の命を軽んじていいわけではない。彼女の犠牲を無駄にしないためにも、ソルーシュが輿入れした暁には、彼の国と我が国の永劫の友好を結べるよう、尽力すると、蒼鷹は誰にでもない自分に誓った。
今日は悲しいことがありました。
いっしょに来ていた、ナーズィが落ちてしまったのです。細い道で足を滑らせて。
彼女を探そうとしましたが、オーランに止められました。
山で亡くなった人は、連れ帰ることが出来ない決まりなのだそうです。
ワタシのストールを投げ入れました。
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「なんといういたわしい事故でしょう……」
「そうだな……」
同行している侍女が亡くなったという知らせは、蒼鷹と峰涼の心に暗い影を落とした。
これがソルーシュだったら……。そう思うと足元から凍りつくように冷えた心地がした。
それだけ山越えが厳しいものだということ。ソルーシュがそこにいること。それも自分の後宮に来るために。
ただ、飾りの王妃になるために。
そこまですることだったのだろうか? 彼を危険な目に合わせる必要があったのか?
蒼鷹はなんと返事を送ればいいか迷っていた。今ソルーシュにどんな言葉を掛けたらいいのか。
「あの山で亡くなると木乃伊になるらしいですよ。高山の遺体は、冷えた空気と乾燥で腐敗することがないそうです」
筆を取ることのない蒼鷹に峰涼がそっと話しかけた。だから何だと言うのか。蒼鷹がいぶかしげに峰涼を見上げると彼は遠くを見るような顔つきで答えた。
「彼女は永遠の生命を獲得したのかもしれません。西国には来世を迎えるために肉体を木乃伊にすると聞いたことがあります」
木乃伊には神秘的なものを感じるのは世界共通かもしれない。東国でも僧侶が自ら生きたまま木乃伊になると、仏になれるという謂れがあった。そんなことでソルーシュを慰められるとは思えないが、蒼鷹の心は落ち着きを取り戻した。
「私は来世に期待などは持てないが、彼女には幸せが待っていると良いな」
先日はソルーシュの無事を祈った山に、これまで名も知らなかった女性の幸せを祈った。
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ナーズィのことは残念に思う。
彼女が無事、彼女の信じる神の御下へ旅立てたことを願うばかりだ。
しかし、それでも私はソルーシュが無事であったことに安堵してしまうことを許してほしい。
こんなに危険な旅路をさせてしまったことに今更ながら後悔している。
この手紙が届くころには無事、難所を抜けているころだろうか。
無事な姿をこの目で確認できないのが、心苦しく思う。
私が鷹だったならば、安心できるのに。
いや、私が鷹だったならば君を嫁に取ることもなかったのだな。
私のせいで君や君の友人に苦難を与えてしまったことを許してもらえるだろうか?
早く、君に逢いたい。
私の天使へ。
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香を焚き付けた、淡い乳白色の紙を小さく丸めると、鷹はわかったとばかりに首を差し出した。
「随分と長いものを書かれましたね。これが王子の慰みになれば良いのですが」
「いや、中身は私の謝罪ばかりになってしまった」
「陛下……。あなただけが悪いわけではない。これは彼の国にも我が国との交易を結ぶため必要なことです。王子もわかっておられることでしょう。そうでなければあの山を越えて、男のもとに嫁ぐなど、出来はしませんよ」
国交のために、人の命を軽んじていいわけではない。彼女の犠牲を無駄にしないためにも、ソルーシュが輿入れした暁には、彼の国と我が国の永劫の友好を結べるよう、尽力すると、蒼鷹は誰にでもない自分に誓った。
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