異世界転生したけどこの世界を理解するのは難しそうだ

三谷玲

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俺五歳になる

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「さすが騎士団長のお子さんね。立派なオスになりそうだわ」
「これでペンドラゴン家も安泰ですわねぇ」

 俺の目の前には色とりどりのドレスで着飾った巨乳が並んでいる。
 下から見ると顔が見えないぞ!
 今日は俺の五歳の誕生日。
 その誕生日会なのだが、とっても盛大だ。

「アンディ、ご挨拶しなさい」

 カーラパパに促され、俺は巨乳に頭を下げた。

 アンディ・ペンドラゴン。それが今の俺の名前だ。

 前世は名前負けしていたからな。長谷川竜太郎。どこの国会議員だって感じの厳つい名前だが、当の本人はいわゆる陰キャのひょろメガネだ。
 五歳児らしい挨拶を終えると、子どもたちが集まってきた。

「庭に案内したらどうだ?」

 トーマスママが渋い声で言うけど、俺つい最近までこの人のおっぱい吸ってたんだよな……。
 俺は巨乳を名残惜しみながら、子どもたちを連れて庭に出た。

 この五年で分かったことがある。
 まず、この世界は前とは違う世界であること。
 魔法はないけど、騎士団なんてのがいて、女王様がいる。王様じゃない、女王様。
 どうやらこの世界、政治はメスが、肉体労働はオスと役割分担が決まっているらしい。
 なので王様はメスだ。金髪のこれまたものすごい巨乳の迫力美女だった。カーラパパが宰相だから、一度お忍びで屋敷に来たことがある。
 俺を見て「将来が楽しみね。うちの娘の婿に欲しいくらいだわ」って言われたっけ。
 それはともかく、トーマスママは騎士団長で、カーラパパは宰相、女王様のお眼鏡にもかなった。俺、勝ち組。

 それから分かったことは、俺たちの身体には尻尾が生えている。
 うろこはないけど、蛇とも違う。ちょっとゴツゴツしてて骨っぽいんだけど、柔軟に動く。
 普段はくるりと巻いてるが、伸ばすと床につくくらい。
 髪の色と同じだから、俺の尻尾は赤い。
 俺の知ってる人間とは違うんだが、○○人なんて呼び方はしない。だってみんな尻尾があるから分ける必要がないんだ。どこかに尻尾のない人間もいるかもしれないけれど尻尾があるのが普通だからな。

 で、俺の予想では俺たちの種族はファンタジーで言うところの竜人だと睨んでいる。
 なんせ俺の名前はペンドラゴン・・・・だし。前の名前だって太郎だし。
 翼もないし火もはかないけどどう見てもこの尻尾は竜だと思うんだよな。
 未だに神様的なもののお告げはないので、よくはわからないが、あながち間違いではないと思う。

 それから一番大事なことは、どうやらこの世界ではオスが子どもを産むらしい。
 さすがにどうやって? とは聞けないのでわからないが、この間も執事のセバスチャンが出産休暇に入った。
 お相手は女中のメアリだ。メアリは若くて美人で巨乳なのに、なぜ老年にさしかかろうとするセバスチャンを選んだのかは、我が家最大の謎らしい。しかもこれで五人目。
 普段は厳格で無表情なセバスチャンが、まんざらではない顔でお腹を撫でていた。なんか見てはいけないものを見てしまった気がした。

 つまり、俺はいずれ子どもを産まなきゃいけないことになる。
 正直、無理。

 今だって俺の周りには可愛い女の子がたくさんで、これぞ異世界チーレム! って感じにみんな俺をちやほやしてくれるんだ。
 けど、やっぱり俺は女の子を抱きたい!
 前世で叶わなかった巨乳に顔を埋めて、腰を振りたいって思うのは、仕方ないことだと思うんだ。
 女王様から婿に……なんて言われたけど、冗談じゃない。
 ていうか今日の誕生日会にもその女王様の娘、つまりは王女様もいた。

「アンディ様! わたしがつくったクッキーですの!」
「アンディさま~。うちの職人につくらせたスカーフです~」
「アンディ様っ! 領地で取れたルビーの指輪をっ!」
「あらみなさん、アンディが困っていましてよ? さ、アンディこちらでお話しましょう?」

 みんな同じ年頃なはずだよね? 身長はそんな変わらないから多分そのはず。
 なのにぐいぐい来るし、その……おっぱいが当たってるんだけど! なんなの? この年でもおっぱいあるの? 早くない?
 最後に俺のことを呼ぶ捨てにしているのが王女のミレーネ。くるくるした金髪で女王様に似ていて、尊大な態度、まだ十歳なのに迫力ある美人だ。腕にめっちゃおっぱい押し付けてきてる。
 むにゅっとしていてドキドキはするんだけど、目が怖いんだよっ! もうギラギラしてるの。
 そこは女王様とは似てないんだよな。

 カーラパパもそうだけどこの世界の女の人ってみんな巨乳。当たり前のようにぶるんぶるん揺らしてるんだよ。
 母乳も出ないのになんであんなに大きいの?
 いや、おっぱいは母乳のためだけじゃないのは分かるけど。

 あと尻尾。尻尾絡めてこないで。
 生まれたときからあるにはあるけど、なんか尻がむずむずするからやめてほしい。

 とにかく五歳から十歳くらいの女の子に取り囲まれて、身体におっぱい当てられて、尻尾絡めてこられる俺の身にもなってくれ。
 もともと陰キャなんだよ、慣れてないんだよ。
 異世界チーレムやっほーい! なんて思ってたけど、いざその立場になってみると、恐怖しかない。
 なんせこの子たち、いずれ俺を妊娠させるんだよ?
 正直みんなの目が怖すぎて見れない。

 って誰? 俺の子どもちんこに触ろうとしてるのは!
 絶対ミレーネだろ! 近いんだよ、距離がっ!

「悪いが、ちょっと……」

 無理無理無理無理。
 頭の中はすっごい焦ってるけれど、できる限り冷静に、ゆっくり彼女たちの腕から引き抜いて、一歩後ろに下がる。
 トイレに行くふりをして、俺は庭から離れのほうへ向かった。

 離れに住むのは我が家の使用人たちだ。
 出産休暇中のセバスチャンのところにでも行こうかと思ったら、入り口にぽつんと子どもが座っていた。

「レイ? どうした?」
「坊ちゃまこそ、今日はお誕生日会なのに。なんで泣きそうな顔をしてるんですか? ブサイクに見えますよ?」

 座っていたのはセバスチャンの子でレイ。僕の遊び相手のひとりだ。
 五歳上だから今十歳のレイは俺にとってはお兄ちゃんみたいなものだ。
 メアリに似てすっごい美形。真っ白い肌に淡い水色の髪。この辺りホント異世界って感じ。もちろん尻尾も水色で触ると冷たそう。
 ただ、性格はどちらかというと父親………じゃなかった、ママのセバスチャンに似ている。
 顔は無表情だし、言うことはキツイ。でも、実はスゴイ優しいってことは分かる。

 今だって呆れた顔しながら、ポンポンって自分の隣を叩いて座れって言ってくれる。
 レイのとなりに座ると、俺は膝にあごを乗せて地面を見つめた。

「だってみんなスゴイ怖いんだよっ」
「あぁ坊ちゃまオスとしての魅力がありますからね」
「はぁ……せっかくチーレムだと喜んだけど、思ってたのと違うっ」
「チーレム? あぁ坊ちゃま語ですね」

 レイにはいろいろ話した。多分半分も信じてもらえていない。
 それでも誰かに吐き出さないと辛い時期が、俺にもあったのだ。拙い言葉で説明するのを、レイは「へぇ……」「はぁ……」って感じで聞いてくれた。
 驚くでもなく、蔑むでもなく。本当に聞くだけ。どっちかっていうと馬鹿なやつを見る目だったが、聞いてくれるだけで俺の精神は保てた気がする。

「そう。可愛い女の子に惚れられて、ウハウハのモテモテの予定だったんだ……。それなのに!」
「さっきまでモテモテだったんでしょう?」
「あれはセクハラだ! ちんこ触ってきたりして、どこのエロ親父だっ!」
「メスは求愛行動激しいですから仕方ありませんよ」

 そうなのだ。
 この世界の女、いやメスはとっても積極的。
 カーラパパもモテモテだったトーマスママを射止めるためにあの手この手で迫った上に、逃げられないよう外堀を埋めていったらしい。
 詳しくは知らないし、聞きたくない。
 まぁトーマスママも幸せそうなのでいいんだけど、俺としては女の子には癒やしを求めているのであって、あんな肉食女子は願い下げなのだ。

 俺は結婚するなら、おしとやかで、優しくて、俺を癒やしてくれる可愛らしい子がタイプなのだ。結婚するなら。

「ってなにしてるの? レイ」
「いえ、坊ちゃまの髪が乱れてましたので、編み直しております」

 ああ。慌てて逃げてきたときに誰かに引っ張られたから。俺の赤い髪はトーマスママみたいにサイドだけ伸ばしている。
 いつもはトーマスママが編んでくれるけど、指が太いからか器用なことは苦手なんだよな。
 ちょっとしたことでほつれてくる。
 レイはそれを手ぐしで梳いて、器用に編み込んでくれた。
 レイの手はひんやりしていて気持ちがいい。
 朝から支度や挨拶回り、女の子たちからのセクハラでスゴイ疲れていたみたいだ。俺はレイの膝でそのまま眠ってしまった。
 尻尾を絡めながら。
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