異世界転生したけどこの世界を理解するのは難しそうだ

三谷玲

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俺誕生する

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 異世界転生したらチーレムを作る!
 そう思っていた時期が俺にもありましたよ、ええ。

 生まれてすぐに、自分には前世の記憶があること、この世界はこれまでの世界と違うことを、理解していた。それでもまだなんとなく頭がぼんやりしていたが、視覚がはっきりしたことで、頭もはっきりしたようだ。
 俺は視界に映るふたりを見て、異世界転生したことを確信した。

 両親はどう見ても日本人じゃなかった。

 彫りが深くて眉毛が凛々しい、日に焼けた肌に良く似合うサイドだけ長く伸ばした赤髪の人は、俺を見てにっこり微笑んだ。その隣には透き通るほどに白い肌に、長いプラチナブロンド。瞳は碧くまつげまでプラチナブロンドの巨乳美女。
 ふたりとも金持ちそう。フリルたっぷりのシャツに刺繍を施されたジャケット、豊満な胸をアピールしまくったドレスを着ている。
 背後に見えるのは、ベルサイユ宮殿みたいな装飾の壁が見える。いや、ベルサイユ宮殿なんて行ったことないけど。

 とにかく、これで俺、勝ち組決定。

 歓喜の雄叫びをあげようとしたら、生まれたてだからな。「あぶぅっ!」という声しか出なかった。

「お腹が空いたのかしら」

 美人が俺の顔に指を近づけるので、思わずその指を吸う。確かに、腹は減ってる気がする。
 ちゅぱちゅぱ吸っていたら、これはおっぱいじゃないからねと苦笑した。

 まじか。今からこの巨乳のおっぱいが吸えるのか、と赤子らしくないことを想像していたら、色黒が俺を抱えあげた。

 もしかしてミルク派ですか? いえいえ、いいんですよ。母乳出にくい人もいるらしいですもんね、えぇ。ちょっと、ちょっとだけ、前世では記憶にないから体験してみたかった……と思っただけですから。
 少し残念に思いつつ目を閉じて口を開くと、ちょうどいい位置に哺乳瓶の先っぽらしきものが触れたので、そういえばよく見えてないときも、これ咥えてたな。と思い出す。
 小さい俺の口にちょうどいいサイズ。
 最初は出が悪く、少し強めに吸うとじんわり口の中にあたたかくて甘いものが広がる。
 そうそう、これ。今の俺には最高のごちそう。
 もっと出ないかなと強く吸うと、びゅっと舌に飛び出してきた。

 ああもっと欲しい。

 唇ではむはむしながら、先っぽに残ったミルクを舐め、ちゅうと吸うと、またびゅっびゅっと溢れてくる。
 美味い。
 いっそ哺乳瓶ごとくれないかな。
 小さい手を伸ばして哺乳瓶を探るけど、触れる感触はすっごい滑らかな人の肌だけ。

 ……おかしい。

 堪能するため閉じていた目をそっと開く。
 目の前が真っ暗で、あれまた視界がぼやけたのかと思ったけど、違った。
 これ、色黒赤髪の胸だ。
 俺の顔が、色黒赤髪の分厚い胸板に押し付けられているから、視界が黒いのか。
 あれ、じゃぁ哺乳瓶は?
 今俺が吸ってるこれは……?

「今日は特にお腹が空いてるのか、たくさん飲むな」

 俺が悩みながらもずっとちゅうちゅう溢れてくるミルクを飲み続けていたら、頭上から渋く、優しい声が聞こえてきた。
 おぉ……。洋画の吹替みたいな、良い声だな。

「いつもより美味しいのかしら? 私も味見していい?」
「昨夜もそういって、飲んだだろ? 今はガマンしろ」
「今は……ってことはあとでならいいの? きっと昨日たくさん私が飲んだから、今朝のは新鮮なのかもね」

 巨乳美女が俺の隣で、にこにこしながら俺と同じように吸おうとするのを、色黒赤髪がやんわり押し留めた。

 ……まじか。

 つまり、俺は今、母乳を飲んでるのか。
 いや、美味いからいいけど、いいけど……。
 上目で確認すると、やっぱり色黒で渋みのある顔が慈愛に満ちた表情で俺を見ていた。

「それにしても俺達の子は天使のように可愛いな」
「うん。ママに似て赤い髪も、ようやく見えた金の瞳も、こんがり焼けたパンのような肌も、あなたそっくり」
「そうか? このすっと伸びた鼻筋や、少し垂れた目はお前に似てるぞ」

 へぇ……。俺そんな容姿なんだ。
 ……って違う。そこじゃない。

「ふぎゃぁぁっぁぁぁぁぁぁっ」

 驚きのあまりあげた声が、部屋中に響いた。
 おろろする巨乳美女に、色黒赤髪が「お前がママのおっぱい奪おうとしたのがいけなかったんじゃないのか? 悪いパパでちゅねー」と、俺の背中をとんとんしてくれた。
 たっぷり飲んだ後だからゲフと吐くと、いい子だと頭を撫でてくれた。

「んま、ま……」

 思わずママと口が動く。まだそれらしい音にしかならないが、ママは目を丸くして驚いた。

「この子は天使なだけじゃなく、天才かもしれないな! ママと言ったぞ!」
「ええぇ? 天使ちゃん、パパって言ってごらん? ほら、パパだよ~」

 こっち巨乳美女がパパで、こっち色黒赤髪がママ……。
 混乱する頭と、満腹の身体は、考えることを拒絶するように俺を眠りへといざなった。

「寝顔は本当にパパそっくりだな」

 深い眠りにつく直前聞こえた声は、幸せそうだった。

 パパ巨乳美女そっくりってことは美人だよな……。それならまだ異世界チーレムは可能かもしれない。
 将来の俺に期待しよう。

 このときの俺はまだ、この世界を何も理解していなかったのだった。
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