飛べない妹有翼人と目指すペガサスマスターへの道 ~努力家イネスの夢を叶えるため、転生ニート兄貴は本気出す~

スィグトーネ

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2.平穏を壊す音

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 僕が有翼人の夫婦に引き取られて、だいぶ月日が経っていた。
 この時になると、両親からはリュドヴィックという名前を貰い、すっかり家族の一員となっている。


 正直に言って、これはとても有り難いことだと思う。
 僕の容姿はといえば、黒い髪に平らな顔。筋肉もあまりなく、どこからどう見てもアジア人……正確に言えば日本人そのモノの姿だ。

 父親のエドモンも、母親のカリーヌも、そして7歳の妹イネスも、3歳の弟も、みんな西洋人の顔立ちだし、父と母の背中には、天使のような立派な翼が生えている。

 明らかに僕だけ異種族なのに、家族のように扱ってくれるのは嬉しいし、有り難いことだと思う。
「じゃあ、母さん……教会に行ってくるね」
「牧師先生の言うことをよく聞くんだよ!」
「はーい!」

 僕が家を出ると、父のエドモンも家を出た。
 彼は冒険者を20年も務める、ベテラン中のベテランだ。【荒鷹】という異名も持つ人物で、今までも様々な活躍をしているそうだ。

「しっかり、勉強してこいよ!」
「はい、行ってきます!」
 僕は父親の後ろ姿を見送ると、教会に急ぐことにしたが、なんとなく後ろを振り返ると……母カリーヌが立っていた。

 この表情は、凄く僕のことを心配しているのがわかる。
 僕が近所の歳の近い子供たちと、馴染めていないことを気にかけてくれているのだろう。

 子供たちは、見慣れないアジア人を不気味がっているのだろうけど、話をしたところで中身が40歳のオッサンなのだから、話が合うはずもない。
 今日も適当に距離を取りつつ、やり過ごそうと思いながら進んでいくと、長閑な村の朝を切り裂くような音が響いてきた。


【カーンカーンカンカンカンカーンカンカン!】
 とても耳障りな音が村中に響いている。警鐘を叩く音だ。
 今までは農作業をしていた有翼人たちは、次々と空を見上げると、口々に叫び声を上げた。
「あれは……なんだ?」
「あ、あれって……浮遊大陸に住むって言う……」
「人さらい軍じゃねーか!?」
「す、すぐに女子供を守れ!」


 村人たちと同じように空を睨むと、そこにはペガサスに跨った複数の天馬騎士たちが攻撃態勢をとっていた。これはまずい!
「こいつらは……空飛ぶ大地の……!」

 その赤と黒の天馬旗を睨むと、すぐに物陰へと身を隠した。あいつらは浮遊大陸の帝国マーズヴァンの連中だ。
 赤と黒の旗と言っても、ドイツやベルギーのような僕の世界にある様々な国旗とは、かけ離れたデザインである。

 マーズヴァン連中のことは、行商人から聞いたことがある。
 天馬隊を駆使して、周辺地域の女子供を襲って拐っているらしく、自分の嫁にするのならまだいい方で、最悪の場合は海の向こうの国に売り飛ばしているという。特に有翼人の女子供は高く売れるらしい。


 僕は木陰に身を潜めたが、敵天馬騎士の数人が執拗に僕を狙ってこようとしている。
 恐らく、僕のことを子供の有翼人と勘違いしているのだろう。有翼人でも子供はまだ翼が生えていなかったり、あったとしても服に隠れてしまうくらい小さい。だから有翼人の子供は有翼人にしかわからないし、外敵から見れば当てずっぽうでさらってみるしかないというワケだ。

 藪の中に身を隠すと、敵天馬騎士は舌打ちをしながら高度をあげていく。


 草むらのなかでホッとしていると、女の人の悲鳴が聞こえてきた。
 視線を上げると、有翼人の女性が敵天馬騎士に捕まって連れ去られようとしている。
 この目で人さらいは初めて見た。思わず血の気が引いていく。

 そんななか、遠くから矢を放つ音が響いてきて、敵の天馬騎士を1撃で射抜いていた。
「ぐぎゃああああ!」

 誰かと思いきや、父こと冒険者エドモンだった。
 彼は、拐われそうになっていた少女を両腕で受け止めると、そのまま逃げるように指示を出し、その直後に放たれた矢をバックステップで避け、翼を広げたまま弓矢で敵天馬騎士の腕を射抜いてみせた。
 本当にかっこいいものだが、多勢に無勢だ……心配にもなる。
「く、くそがぁ!」

 敵天馬騎士は馬上槍を落とし、負傷した腕を庇いながら上空へと退避した。
 しかし、まだまだ新手がいる。

 エドモンは敵の攻撃を避けながら、森の中へと身を隠した。
 父が無事で良かったと、胸を撫で下ろしていると、その直後に爆音が響いた。

 何かと思って藪から顔を出すと、敵天馬騎士が村の建物に炎魔法を撃ち込んでいたのだ。
 攻撃を受けた建物には火がつき、中から知り合いが逃げてくる。それが近所の男性だったからか、敵天馬騎士は炎魔法を男性に放って吹き飛ばしていた。


「なんて……卑劣なことを……!」
 心では許せないと思っていても、どうすることもできない自分自身が歯痒かった。
 もしも、もしも僕が、真っ当な社会人を生き抜いて、女神様も納得の人生を歩んでいたら……チート能力の1つでもくれたかもしれない。

 僕がもう少ししっかりしていれば……そう強く自分を責めたとき、泣きっ面に蜂と言える、最悪の叫び声が聞こえてきてしまった。

「……あ、あれは、イネス!?」

 何と、目の前で妹が連れ去られようとしている。
 どうにかして助けてやりたいが、僕には空を自由に飛ぶ翼も、遠距離を射貫く大弓もない。これじゃあ、指をくわえてみているしかないじゃないか!


 絶望というモノを深く感じていたとき、太陽に影が映っていた。
 あれも……天馬騎士か!?

 その天馬騎士は、長い金色の髪をなびかせながら、イネスをさらおうとしていた敵天馬騎士に急降下攻撃を仕掛けた!


【少女イネス】
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