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俺、犬と結婚します
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肝心な時に寝てしまった後悔でちょっと泣きそうになったけど、テーブルの上を見たら豪華な料理でいっぱいになっていて、思わず目を見張った。
果実の食前酒と、仕切られた小さな重箱式みたいなのに入った色とりどりの前菜と、美味しそうに焼かれた川魚、綺麗に舟盛りにされた二人分の刺身、小さなコンロに乗せられた鉄板の上にはステーキ。
最近外食も出来てなかったし、ちょっと泣けるほど嬉しいぜ……。
こんな贅沢してしまって良いんだろうか。
「ほら、食べよう、湊」
渚の言葉に頷き、座卓に向かって正座しなおす。
下向いたら浴衣が少し乱れてて、仲居さんにだらしない所を見られたかと思うとちょっと自己嫌悪した。
振り向くと窓の外がすっかり夕闇に沈んでいる。
どうやら俺は三時間近くも眠り倒してたらしかった。
「ご飯どうぞ」
おひつから茶碗に白米をついでもらい、「ありがとう」と受け取る。
まるで渚がお嫁さんのようだ……。
黙々と食いながら、向かい合っている渚の顔を見た。
まだ綺麗な人間の顔してる。
男らしい高い頬と、彫りの深い瞼に、大きな口……。
二人きりなのに、何で?
俺に隠したいことがあったりするのか……?
渚は俺の視線に気づくと、ニコッと微笑みを返してきた。
「凄く美味しいね」
「そっ、そうだな……!」
ドキーッと心臓が打ち、俺は慌てて箸の動きを速めた。
「そ、そういや土産は買えたの?」
だんまりになっちまってたなーと思い、慌ててこっちから話題を振る。
「うん。多いから、旅館から宅配便で送ってもらうようにして来た」
成る程、親戚と家族が多いと土産買うだけで一苦労なんだな……そりゃ時間かかるわ。
「お義母さんの分もちゃんと送っておいたからね。好物だったよね、梅クラゲ」
「あ、ありがとう……」
そ、そんなことまで覚えてるとか、なんて出来た嫁なんだ。いや夫だけど。
それに比べて俺はイチャイチャすることしか考えず、しかも風呂入って寝てただけ……。
うっ、ほんと情けない。
俺、やっぱりこの人と釣り合ってねぇかも……。
しゅんとなったけど、夕食は本当に美味しかった。
限界までお代わりしてしまって、渚に勧められて結局お酒も飲んじまって、良い気分になり、最後は座布団並べた上にふにゃーっと伸びてしまった。
「湊、仲居さんが布団敷きに来てくれるからちょっとそこどいて……」
「うん……? ウン……。なぁ、抱っこして……」
「湊……」
立ったまま困ったみたいな声出されて、仕方なく自分で起きる。
何だか急に、寂しくて仕方なくなった。
俺、甘え過ぎ……?
でも、今日は少しぐらい甘えちゃダメなのか?
噛まれんの痛いかも知れねぇし、本当はちょっと怖いんだ……。
部屋の隅っこで膝抱えて丸まってると、仲居さんが料理を片付けて、座卓を寄せて布団を敷いてくれた。
ぴったりくっつけて、2組。
やがて、宿の人が出て行って、また二人きりになって。
「湊? どうしたの」
壁際でうずくまったまま膝頭に額をのせてる俺の肩に渚の手が触れる。
「なぎさ……」
顔を上げて、びっくりされた。
「何で泣いてるの、湊」
あっ、てなった。
浴衣の膝が濡れてる。俺、いつのまにか泣いてる……。
「なんでもない……」
首を振ったけど、渚が膝を落として俺の肩を強く掴んだ。
「何でもなくないって顔してる」
そんな風に言われたら、何だかもう嗚咽が止まらなくなって。
「……。なぎさが冷たい……。俺、一緒に風呂、入りたかったのに……。あと、抱っこして欲しい……」
子供かよ、って感じだけど、酔った勢いで頭の中そのまんまを口に出してしまった。
「ごめん、ごめんね、悪かった」
肩に触れた手が、俺の背中に回って強く抱き締められる。
「……俺、湊に触ったら歯止めが効かなくなっちゃうから、人が来るうちはと思って我慢してたんだ……疲れた顔してたから、ちゃんと休ませてあげたかったし、痩せちゃってるからご飯もちゃんと食べて欲しかったし」
グスグスすすり上げながらウン、ウンと頷く。
「なのに湊が、昼間から甘い匂い出して凄く色っぽいし、浴衣着て寝てるのもちょっと直視出来ないくらい、いやらし過ぎて……この美人が今日から俺だけのものになってくれるかと思うと……その、我慢が限界超えて、態度が冷たいくらいになってたかも……ごめん」
歯の浮くようなこと言われて顔が熱くなったけど、すぐに素直になれない。
「渚のバカ……俺、……待ってたのに……」
プイと横を向いたまま渚の胸を押して下がらせる。
「ごめん、許し……」
言いかけた彼の目の前で、俺は浴衣の合わせ目を膝頭でさばくようにしてゆっくりと太腿を開いた。
「……」
息を飲む渚の前で、何も穿いていない下を露わにして、視線を流すように彼を見つめる。
「許さない……」
そこを見せ付けて、昇り立つ甘い匂いを嗅がせるようにいっぱいに両脚を開く。
もう結婚するなら、こんな誘い方したって……イイよな……?
「……っく……」
渚が目の前で苦しげに息を切らせながら俯いた。
金色の髪の下の垂れた犬耳がピクピクしながら大きくなっていく。
浴衣の袖や裾から見えている肌が濃い体毛に覆われ始め、鼻の頭の色が黒く濡れたようになりながら形が変わり、彼は目の前で獣面人身の姿になった。
柔らかな毛皮に包まれた喉が苦しいみたいにグルグル唸り、牙の生えた口が舌を出してハアハアと息をつく。
「湊……っ、」
切迫感の溢れる呼び方をされて、毛と肉球の感触のする手のひらが俺の両膝を強く掴み、ズッと引き摺られた。
果実の食前酒と、仕切られた小さな重箱式みたいなのに入った色とりどりの前菜と、美味しそうに焼かれた川魚、綺麗に舟盛りにされた二人分の刺身、小さなコンロに乗せられた鉄板の上にはステーキ。
最近外食も出来てなかったし、ちょっと泣けるほど嬉しいぜ……。
こんな贅沢してしまって良いんだろうか。
「ほら、食べよう、湊」
渚の言葉に頷き、座卓に向かって正座しなおす。
下向いたら浴衣が少し乱れてて、仲居さんにだらしない所を見られたかと思うとちょっと自己嫌悪した。
振り向くと窓の外がすっかり夕闇に沈んでいる。
どうやら俺は三時間近くも眠り倒してたらしかった。
「ご飯どうぞ」
おひつから茶碗に白米をついでもらい、「ありがとう」と受け取る。
まるで渚がお嫁さんのようだ……。
黙々と食いながら、向かい合っている渚の顔を見た。
まだ綺麗な人間の顔してる。
男らしい高い頬と、彫りの深い瞼に、大きな口……。
二人きりなのに、何で?
俺に隠したいことがあったりするのか……?
渚は俺の視線に気づくと、ニコッと微笑みを返してきた。
「凄く美味しいね」
「そっ、そうだな……!」
ドキーッと心臓が打ち、俺は慌てて箸の動きを速めた。
「そ、そういや土産は買えたの?」
だんまりになっちまってたなーと思い、慌ててこっちから話題を振る。
「うん。多いから、旅館から宅配便で送ってもらうようにして来た」
成る程、親戚と家族が多いと土産買うだけで一苦労なんだな……そりゃ時間かかるわ。
「お義母さんの分もちゃんと送っておいたからね。好物だったよね、梅クラゲ」
「あ、ありがとう……」
そ、そんなことまで覚えてるとか、なんて出来た嫁なんだ。いや夫だけど。
それに比べて俺はイチャイチャすることしか考えず、しかも風呂入って寝てただけ……。
うっ、ほんと情けない。
俺、やっぱりこの人と釣り合ってねぇかも……。
しゅんとなったけど、夕食は本当に美味しかった。
限界までお代わりしてしまって、渚に勧められて結局お酒も飲んじまって、良い気分になり、最後は座布団並べた上にふにゃーっと伸びてしまった。
「湊、仲居さんが布団敷きに来てくれるからちょっとそこどいて……」
「うん……? ウン……。なぁ、抱っこして……」
「湊……」
立ったまま困ったみたいな声出されて、仕方なく自分で起きる。
何だか急に、寂しくて仕方なくなった。
俺、甘え過ぎ……?
でも、今日は少しぐらい甘えちゃダメなのか?
噛まれんの痛いかも知れねぇし、本当はちょっと怖いんだ……。
部屋の隅っこで膝抱えて丸まってると、仲居さんが料理を片付けて、座卓を寄せて布団を敷いてくれた。
ぴったりくっつけて、2組。
やがて、宿の人が出て行って、また二人きりになって。
「湊? どうしたの」
壁際でうずくまったまま膝頭に額をのせてる俺の肩に渚の手が触れる。
「なぎさ……」
顔を上げて、びっくりされた。
「何で泣いてるの、湊」
あっ、てなった。
浴衣の膝が濡れてる。俺、いつのまにか泣いてる……。
「なんでもない……」
首を振ったけど、渚が膝を落として俺の肩を強く掴んだ。
「何でもなくないって顔してる」
そんな風に言われたら、何だかもう嗚咽が止まらなくなって。
「……。なぎさが冷たい……。俺、一緒に風呂、入りたかったのに……。あと、抱っこして欲しい……」
子供かよ、って感じだけど、酔った勢いで頭の中そのまんまを口に出してしまった。
「ごめん、ごめんね、悪かった」
肩に触れた手が、俺の背中に回って強く抱き締められる。
「……俺、湊に触ったら歯止めが効かなくなっちゃうから、人が来るうちはと思って我慢してたんだ……疲れた顔してたから、ちゃんと休ませてあげたかったし、痩せちゃってるからご飯もちゃんと食べて欲しかったし」
グスグスすすり上げながらウン、ウンと頷く。
「なのに湊が、昼間から甘い匂い出して凄く色っぽいし、浴衣着て寝てるのもちょっと直視出来ないくらい、いやらし過ぎて……この美人が今日から俺だけのものになってくれるかと思うと……その、我慢が限界超えて、態度が冷たいくらいになってたかも……ごめん」
歯の浮くようなこと言われて顔が熱くなったけど、すぐに素直になれない。
「渚のバカ……俺、……待ってたのに……」
プイと横を向いたまま渚の胸を押して下がらせる。
「ごめん、許し……」
言いかけた彼の目の前で、俺は浴衣の合わせ目を膝頭でさばくようにしてゆっくりと太腿を開いた。
「……」
息を飲む渚の前で、何も穿いていない下を露わにして、視線を流すように彼を見つめる。
「許さない……」
そこを見せ付けて、昇り立つ甘い匂いを嗅がせるようにいっぱいに両脚を開く。
もう結婚するなら、こんな誘い方したって……イイよな……?
「……っく……」
渚が目の前で苦しげに息を切らせながら俯いた。
金色の髪の下の垂れた犬耳がピクピクしながら大きくなっていく。
浴衣の袖や裾から見えている肌が濃い体毛に覆われ始め、鼻の頭の色が黒く濡れたようになりながら形が変わり、彼は目の前で獣面人身の姿になった。
柔らかな毛皮に包まれた喉が苦しいみたいにグルグル唸り、牙の生えた口が舌を出してハアハアと息をつく。
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