真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第八章 芽生え

6 優等生の実力

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 幼馴染の作った料理をダイニングテーブルに並べていくと、あっという間に店のような豪勢な食卓が出来上がる。李浩然リーハオランの作った料理は盛り付けまで美しく、呉宇軒ウーユーシュェンは溢れんばかりの笑顔を彼に向けた。

「さっすが浩然ハオラン! 見た目は完璧だな!」

 彼の言葉に、祖父がうんうんと頷く。

「こりゃあ、店顔負けだな。あの老いぼれにも見せてやりたいわい」

 彼の言う『老いぼれ』とは、呉宇軒ウーユーシュェンの母方の祖父のことだ。二人は若い頃に上海で出会い、喧嘩をしつつも長い間一緒につるんでいたのだという。
 呉宇軒ウーユーシュェンの祖父は彼のことを『死に損ない』と言っていて、顔を合わせる度に口喧嘩をしているのだ。とはいえ、憎まれ口を叩き合いながらも一緒に飲みに行ったりしていて、喧嘩をするわりに二人の仲は良さそうだった。

「そういや、お前のとこのジジイはまだくたばってないのか?」

 彼の言葉がただの憎まれ口だと分かっている呉宇軒ウーユーシュェンは、相変わらずだなと苦笑して返した。

「元気にしてるよ。俺が居なくて寂しがってると思うから、今度会いに行ってあげてね」

 祖父はふんと鼻を鳴らして「考えておく」と素っ気なく言ったが、呉宇軒ウーユーシュェンは素直じゃないなと微笑んだ。それもそのはず、彼は孫に会いに行くと必ず呉宇軒ウーユーシュェンの祖父の顔を見るために店へ尋ねて来て、土産まで忘れずに持って来るのだ。それに口では互いに嫌いと言いながらも、二人で話している時はお互いどこか楽しそうな顔をしていた。
 呉宇軒ウーユーシュェンは小さい頃に一度だけ、彼らの出会いについて尋ねたことがある。ただ、その時は子どもにはまだ早いという理由で、彼らがどういう経緯で出会ったのか教えてもらうことはできなかった。二人とも血の気が多いので、きっとろくな出会いではなかっただろうと踏んでいるが、真相は未だ解明されていない。

「私ちょっとお父さんたち呼んでくるね!」

 料理を全て運び終えたので、李若汐リールオシーは食事の準備ができたことを知らせるために両親を呼びに出て行った。彼女が帰って来るまでの間に、李浩然リーハオランが取り皿や箸を並べて食卓を整えていく。呉宇軒ウーユーシュェンは祖父母と向かい合って席に着き、今日は完全にお客様気分で幼馴染を見守っていた。
 しばらくすると、娘に急かされるようにして叔母夫婦がやって来る。二人は豪勢な食卓を見るなり揃って驚きの表情を浮かべた。

小然シャオラン、凄いじゃないか! 阿軒アーシュェンは手伝っていないのか?」

「ないよ! ぜーんぶ浩然ハオラン一人でやったんだ」

 二人が大喜びで甥を褒め称えるので、彼に料理を仕込んだ呉宇軒ウーユーシュェンも誇らしい気持ちになる。李浩然リーハオランは間違いなく最も優秀な弟子だ。
 待ちきれない様子の祖父に急かされて、全員で大きなダイニングテーブルを囲んだ。三人家族には広いテーブルも、これだけ人数が揃っているとさすがに少し狭く感じられた。
 こんな風に家族で集まって食べるのは久しぶりで、呉宇軒ウーユーシュェンは上機嫌で幼馴染が自分のために作ってくれたスペアリブの甘酢揚げに口をつける。甘辛い味付けに程よい酸味が効いていて、米が進む美味しさだ。
 レシピ自体は教えたものの、詳しい作り方までは教えていなかったのに、李浩然リーハオランは見事に店の味を再現している。もしかして彼は料理の天才なのでは?と驚いて隣を見ると、李浩然リーハオランは祖父母が食べるのを固唾を飲んで見守っていた。
 難しい顔をして孫の手料理をじっくりと味わっていた祖父は、たちまち顔を綻ばせた。

「……うん、美味いな! 大したもんだ」

 祖父が食べていたのはモツの辛炒めだ。彼があまりにも美味い美味いというので、呉宇軒ウーユーシュェンも一口食べてみたが、口に入れてすぐに違和感に気が付いた。
 この料理は李浩然リーハオランの好きなもので、本来ならもっと辛味の効いた味付けだ。ところが彼の作ったものは辛さが抑えられていて、モツの旨みが引き立つように調整された濃いめの味付けになっている。
 そのことに気付くと、呉宇軒ウーユーシュェンは幼馴染にだけ聞こえるように声を潜めて尋ねた。

「これ、もしかしてじいちゃんに合わせて作った?」

 李浩然リーハオランの祖父は孫に会いに来た時に、必ず悪友である呉宇軒ウーユーシュェンの祖父の店で一緒に食事をしていたが、孫が頼んだ辛い料理をつまみ食いしては辛すぎると文句を言っていたのだ。呉宇軒ウーユーシュェンは辛党な幼馴染の好物から作り方を教えていたので、必然的に彼が作れるものは辛い料理に偏っている。
 彼が小さく頷いたのを見て、呉宇軒ウーユーシュェンの胸は感動に打ち震えた。
 料理の味付けというのはバランスが大事で、何かを減らすと必ずその分を埋めるために全体の味付けを調整する必要がある。李浩然リーハオランはまだ料理を始めて間もないというのに、その絶妙な調整を見事やってのけたのだ。

「すごい……お前って本当、天才だな!」

 今すぐ彼をぎゅっと抱きしめたい気持ちになりながら、呉宇軒ウーユーシュェンは感極まって言葉を詰まらせ、幼馴染の成長ぶりに目を輝かせる。すると李浩然リーハオランは恥ずかしそうに瞳を伏せ、囁くように小さな声を返した。

「そんなことはない。たまたま上手くいっただけだ」

「そんなこと言うなよ。この俺を唸らせるなんて大したもんだ。もっと誇っていいよ!」

 謙遜する彼を肘で小突き、呉宇軒ウーユーシュェンは他の料理にも箸をつける。辛くないものは教えた通りに作られたようで、食べると馴染みのある味が口いっぱいに広がった。この量を全て完璧に作るなんて、最近まで料理初心者だったとは思えない。
 李浩然リーハオランが作った手料理は家族にも好評で、年頃の李若汐リールオシーは今日だけ特別!と言い訳しながらご飯のお代わりまでしていた。



 夕食の後片付けは、珍しく李若汐リールオシーが率先してやってくれたので、呉宇軒ウーユーシュェンは幼馴染とリビングのソファでゆっくりと寛いでいた。李浩然リーハオランの叔父は父に絡まれたくないと言って逃げるように退散して、叔母の方はベッドを整えに行ってしまったので、リビングには祖父母と孫たちだけだ。
 祖父母の持ってきた土産の焼き菓子とお茶を出し、友人たちと中秋節のイベントに行った話に花を咲かせる。呉宇軒ウーユーシュェンは夕飯前に中断した古北水鎮こほくすいちんで幼馴染と行った剣劇ショーを、今度は動画を見せながら祖母にも話して聞かせることにした。

「あら、華侠かきょう仙神伝せんじんでんじゃないの! 二人ともすごく似合ってるわね」

 彼女もドラマの視聴者の一人だったようで、衣装を見るなりすぐに気付き、嬉しそうに顔を綻ばせる。すると、それを聞いた祖父はさっぱり分からないと言うように首を傾げ、彼女に尋ねた。

「なんじゃ? その華侠かきょうなんちゃらってのは……」

華侠かきょう仙神伝せんじんでんよ。前に面白いドラマがあるって話したじゃない!」

 彼女があらすじを話してもピンとこなかったらしく、祖父は生返事を返す。その態度をよく思わなかった祖母は、青筋を立てて夫の手を捻り上げた。

「あなたって人は!」

 見ているだけで痛そうで、呉宇軒ウーユーシュェンは思わず目を覆う。ところが祖父はどこか嬉しそうな声で「老人虐待!」と叫び、全く抵抗する素振りもない。恐らくこれは、彼らなりのスキンシップなのだろう。
 祖父はしばらく妻からのお仕置きをニヤニヤしながら楽しんでいたが、ふと真面目な顔になり、よいしょっと言ってソファから腰を上げた。

「さて、ワシは可愛い小然シャオランと大事な話をしてこようかのう」

 大事な話とはもちろん、幼馴染二人の将来の話だ。祖父は孫と二人で話をしたいらしく、緊張の面持ちでいた李浩然リーハオランを連れて別の部屋へ行ってしまった。
 後に残された呉宇軒ウーユーシュェンは話の内容が気になって仕方がなかったが、呼ばれていないのについて行くわけにもいかない。どうにか盗み聞きできないかと思ったものの、結局ソワソワしながらその場に留まった。
 皿を洗い終えた李若汐リールオシーが、ちょっと勉強しに行ってくると言って部屋に戻ってしまったので、リビングは呉宇軒ウーユーシュェンと幼馴染の祖母の二人だけになる。彼はしばらく学校生活や友人とに他愛のない話をしていたが、自分たちの他に誰もいない状況に、ずっと心の中に抱えていた疑問が口をついて溢れ出た。

「ばあちゃんってさ、浩然ハオランの母ちゃんのことどう思ってる?」

 彼女もハルビンに住む呉宇軒ウーユーシュェンの祖父母と同様に『南部の女に息子と孫を取られた』親側の立場だ。そのことに気付くとどうしても気になってしまい、つい尋ねてしまった。
 彼女は呉宇軒ウーユーシュェンの質問に一瞬だけ驚いた顔をしたが、彼の事情を察してか、すぐに優しい笑みを浮かべた。
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