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拗れ 2
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エドワードは孤児院での仕事を終えた後、エミリーの買い物に付き合っていた。
「助かったわ、ありがとう」
エミリーの店は、エドワードの自宅と反対の方向にあった。
エドワードは持たされていた荷物を降ろして息をつく。エミリーの手芸用品は布やら綿やら糸やらと思っていたよりも多く、軽く買い物につきあってしまったことを後悔していた。
「どういたしまして」
肩を鳴らしたエドワードに、エミリーが店のひとつだけしかない椅子を勧めた。
「お茶淹れるね、休憩していくでしょ?」
「うん」
待ってて、と店の奥へエミリーが入る。
エドワードは椅子に腰を下ろし、背もたれによりかかる。エミリーの店は広くもないのに、縫いかけの服や、リボンやレースなどが散乱していた。大雑把なエミリーらしい。
けれど、エミリーはその性格に似合わず、手先がとても器用で、孤児院の子供たちの服もたくさん作っていた。
エドワードは近くにあったトルソーを見上げる。そこには、ノースリーブのワンピースが飾られていた。無地の白とは、なんとも地味だ。
「ああそれ、まだ作りかけなの」
カップを両手にひとつずつ持ったエミリーが、肩でドアを押し開けながら戻ってきた。
エドワードにひとつを渡して、エミリーも一緒にトルソーを見つめる。
「ふちに、パールを縫いつけようと思って」
「へえ…自分で縫えるっていいな。僕はボタン付けくらいしかできないし、すぐ糸が絡むんだよ」
「あんたの服も縫ってあげるってば」
エミリーはにっこりと微笑んだ。
「穴が空いてるシャツあったでしょ、つくろったげる」
「今はちょっとお金がないよ」
「だから、料金はいいってば。同僚?のよしみだよ」
エミリーはそう言って、服の山から適当に白いシャツを引っ張った。
「ねえ、良かったらこれ着てみない?」
「え?」
「ほら、今度のお祭りの日にさ。子供たちにもオシャレさせるし、エドワードもしようよ」
「でも、一応スーツはあるし」
「お爺さんのお古でしょ?何年前の型よ」
エミリーが、今度は引き出しから男物のネクタイを取り出す。
「これも、けっこう頑張って作ったんだけど、気に入らない?」
気に入らないわけじゃない。
けれど、エドワードは自分が着飾るよりも、孤児院の子達にケーキをプレゼントしたかったし、オデットに贈り物もしたかった。
「エミリー、せっかくだけど、僕は」
断ろうとしたエドワードの腕をエミリーがつかむ。
「お願い、エドワード。実は私、お祭りの日にこのワンピースを着ようと思ってるの。私ばっかりめかしこむなんて恥ずかしいじゃない。シスターは黒い礼装だろうしさ。お金は本当にいらないから」
「…わかったよ」
エドワードが頷くと、エミリーは良かったと声をあげた。
「助かったわ、ありがとう」
エミリーの店は、エドワードの自宅と反対の方向にあった。
エドワードは持たされていた荷物を降ろして息をつく。エミリーの手芸用品は布やら綿やら糸やらと思っていたよりも多く、軽く買い物につきあってしまったことを後悔していた。
「どういたしまして」
肩を鳴らしたエドワードに、エミリーが店のひとつだけしかない椅子を勧めた。
「お茶淹れるね、休憩していくでしょ?」
「うん」
待ってて、と店の奥へエミリーが入る。
エドワードは椅子に腰を下ろし、背もたれによりかかる。エミリーの店は広くもないのに、縫いかけの服や、リボンやレースなどが散乱していた。大雑把なエミリーらしい。
けれど、エミリーはその性格に似合わず、手先がとても器用で、孤児院の子供たちの服もたくさん作っていた。
エドワードは近くにあったトルソーを見上げる。そこには、ノースリーブのワンピースが飾られていた。無地の白とは、なんとも地味だ。
「ああそれ、まだ作りかけなの」
カップを両手にひとつずつ持ったエミリーが、肩でドアを押し開けながら戻ってきた。
エドワードにひとつを渡して、エミリーも一緒にトルソーを見つめる。
「ふちに、パールを縫いつけようと思って」
「へえ…自分で縫えるっていいな。僕はボタン付けくらいしかできないし、すぐ糸が絡むんだよ」
「あんたの服も縫ってあげるってば」
エミリーはにっこりと微笑んだ。
「穴が空いてるシャツあったでしょ、つくろったげる」
「今はちょっとお金がないよ」
「だから、料金はいいってば。同僚?のよしみだよ」
エミリーはそう言って、服の山から適当に白いシャツを引っ張った。
「ねえ、良かったらこれ着てみない?」
「え?」
「ほら、今度のお祭りの日にさ。子供たちにもオシャレさせるし、エドワードもしようよ」
「でも、一応スーツはあるし」
「お爺さんのお古でしょ?何年前の型よ」
エミリーが、今度は引き出しから男物のネクタイを取り出す。
「これも、けっこう頑張って作ったんだけど、気に入らない?」
気に入らないわけじゃない。
けれど、エドワードは自分が着飾るよりも、孤児院の子達にケーキをプレゼントしたかったし、オデットに贈り物もしたかった。
「エミリー、せっかくだけど、僕は」
断ろうとしたエドワードの腕をエミリーがつかむ。
「お願い、エドワード。実は私、お祭りの日にこのワンピースを着ようと思ってるの。私ばっかりめかしこむなんて恥ずかしいじゃない。シスターは黒い礼装だろうしさ。お金は本当にいらないから」
「…わかったよ」
エドワードが頷くと、エミリーは良かったと声をあげた。
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