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七章 帰参

十五.月奇羅

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 空も澄み渡り、風も冷たい十一月。
翔隆が留守の時に、人が訪ねてきた。
「御免! 睦月は居るか?」
「はい…どちら様ですか?」
葵が出る。
「睦月は何処に?」
そう尋ねるのは白茶の長い巻き毛の男。
それだけで狭霧だと分かるので、桂とえんじゅの双子が城の翔隆に報せに走った。
「そちらの奥にいらっしゃいますが…」
それを聞くと男は上がっていく。
屋敷の中には、忌那蒼司と弓香の次女のもみじ(三歳)、生まれたばかりの次男のかなめ(一歳)。
明智光征と葵の長男の桜巳おうみ(五歳)、次男の龍巳たつみ(四歳)、長女のあかね(三歳)、次女のむぐら(二歳)。
椎名しいな 雪孝ゆきたかの忘れ形見の長女の細雪ささゆき(三歳)、次女の孝世たかよ(二歳)がいる。
襖の奥に睦月がくないを構えていた。
「何をしに来た月奇羅つくしら!」
「睦月、いつまでもこんな所に居ないで帰るぞ」
「何がだ!」
「…いい加減にしろ、焔羅とて来ているのだから、お前も…つっ!」
そう言い手を伸ばすと右手の平を切られた。
パタタ、と血が板に落ちる。
「去ね!次は殺す!」
「………」
会話も出来ない。
まるで敵意剥き出しの猫のようだ。
月奇羅は血の滴る右手を押さえながら外に出た。
「睦月…」
月奇羅は外から睦月を見る。
幼い頃は遊んでやった事とてあるが、忘れたのだろうか?
門外でためらっている所に、翔隆が桂とえんじゅと共に屋敷に来た。
月奇羅はチラリと翔隆を見るが、何もしてはこない。
〈………確かに狭霧だな…〉
翔隆は首を傾げる。
狭霧だが…相手の顔は悲しげで、手は血まみれ…。
「手を」
「ん…?」
月奇羅が訝しがる。
すると翔隆が手を差し伸べて言う。
「手を出してくれ」
「…?」
何故そんな事を言うのか理解が出来ずにいると、翔隆が月奇羅に近寄って右手を持って癒やす。
「………」
「血で治ってるかどうかが分からんな。一体何で切ったんだ?」
そう自然に言うので、つい月奇羅も自然と答える。
「くないだ。睦月に切られた」
「睦月に…とにかく中に」
そう言い手を掴んだまま中に入って翔隆は井戸の水で月奇羅の右手を洗う。
「いた…」
「まだか。…私は翔隆だが…貴公の名は?」
そう聞きながら翔隆が聞く。
月奇羅は何もせずに見つめながら答える。
月奇羅つくしらだ。睦月とは父は違うが同腹の兄になる。故に迎えに来たが…」
「なる程。だから切られたのか。睦月は気性が激しいからな…」
言いながら癒やした。
癒えたのを確認してから、月奇羅が問う。
「何故治した?」
「…いや、だって我が家の前で怪我をして立っていたら気になるだろう」
「敵だと分かっているのにか」
「…敵でも癒やす人に育てられたからだ。それで、貴公は睦月の兄なのか」
「母だけ同じなだけだが…」
答えると中から睦月の怒鳴り声が聞こえる。
「まだ居座るのか!翔隆!そんな男は放り出せ!!」
「放り出せって…多分私よりも強いよ」
中に言うと、ガッと手裏剣が飛んできて塀に刺さった。
「睦月!」
「翔隆!こっちに来い!!」
「分かったからそう大声を…」
言う間に睦月が咳込んだので、翔隆が中に入って睦月の背を撫でる。
「あー、その広間で茶でも…」
「追い出せとっゲホゲホ!」
その二人を見ながら、月奇羅はとりあえず縁側に座って様子を窺う。
睦月が吐血したので翔隆が癒やしながら世話をする。
「ほら、落ち着いて。あの男が睦月をさらいに来た訳では無いのだし…何処にも行かせないよ」
「う…ぐ……」
睦月は高熱で意識を失う。
すると翔隆が癒やしながら睦月に掻巻を掛けて、春が来て血を拭いていく。
(拓須は?)
小声で聞くと、弓香が答えた。
(さっき、お出掛けになられました)
(そうか…あの人に茶を。敵意は無いから案ずるな)
(はい)
答えて弓香は茶を注いで月奇羅つくしらに出す。
「どうぞ…」
「お前の名は…」
「狭霧には戻りません」
それだけ答えて弓香は下がる。
警戒しているのだ。
〈…これが普通だな……〉
うんと頷いてから月奇羅つくしらは上がって睦月の側に行き、共に癒やした。
「…拓須には及ばないが…」
「助かる。…あ、呼吸が落ち着いた」
そう言い翔隆は手を離して、そっと広間に行く。
すると月奇羅も付いてきた。
「お前のその態度は変わらないのか?」
「?」
「お前が冷たくあしらえば睦月とて戻ってこよう」
「おかしな事を言う人だな…なんで大事な師匠に冷たくしなきゃならないんだ。それに、私が帰れと言っても睦月が離してくれないよ」
苦笑して言うと、月奇羅つくしらは溜め息を吐いた。
(…睦月を頼むぞ)
そうぼそっと言い、出された茶を舌で味見してから飲んで月奇羅つくしらは立ち上がる。
「馳走になった。では」
そう言い月奇羅つくしらは歩いて縁側から外に出ていった。
「あ……着物が血まみれだったが…まあ大丈夫か…。春、私にも茶をくれるか?」
「はーい!」
答えて春が喜んで茶を出した。
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