80 / 261
三章 廻転
十八.相剋の修行
しおりを挟む
凍てつくような十二月。
翔隆は修行場に向かった。
朝靄が立ち込める丑の刻前。
もしかして修行に交ぜてもらえないか、などと思って翔隆は嵩美の後から修行場に行く。
そーっと覗いてみると、後ろから拓須に首をガッと腕で羽交い締めにされた。
「ぐっ」
「誰が来ていいと言った」
前方には水の柱の中に閉じ込められて藻掻いている嵩美が見える。
「水…」
「あんな物をやりたい訳ではあるまい」
「そ、そうじゃなく!」
グイッと拓須の腕を首から外して顔を近付けて言う。
「あれでは嵩美は抜け出せない! 嵩美の《力》は炎だ、水に克てないだろう?!」
「…そっちの心配か」
拓須は翔隆を払い退けて、嵩美の方に歩いていく。
「お前もやっただろうが」
「し、しかし…」
「これがお前ならば、次は炎にするが…まだ抜け出せないとは。真に霏烏羅の子か疑わしいな」
フッと嗤って水の中の嵩美を見る。
「………っ!」
嵩美は必死に水を消そうとするも、己の得意な炎が掻き消されてどうにも出来ない。
救けたいが、修行なので手も出せない。
〈どうしたら…〉
何もしてやれない…何か手出ししては、修行そのものが駄目になる。
〈手本ならーーーどうだ?〉
隣りで修行しては駄目とは言われていない。
翔隆は川の水を纏うように渦にして、土に還した。
火で制する事は出来なくても、土に還す事ならーーーと。
チラリと嵩美を見ると、頑張って息を確保するくらいには出来たようだ。
ほっとしたのも束の間。
いきなり周りが突風付きの炎の渦に囲まれた。
「うっーーー!」
「余裕があるようだなぁ? 少しくらいならば遊んでやるぞ」
そう言う拓須の声が聞こえる。…どうやら少々怒らせてしまったようだ。
〈余計な事だったかーーー?〉
そう思うも、これすら望んだ事だと気付く。
拓須は本気で攻撃をしてきてはいない…。
ただ修行を邪魔されて苛立っただけだ。
でなければ、この程度で済む筈もない。
翔隆は冷や汗をかきながらも笑う。
〈火と風ーーー〉
どうしたら打ち克てるか。
自分が得意なのは、雷と水…それに火、か?
未だまだ分からない。
火に克つのは水、風に克つのは火…。
「くっ…!」
やってはみるものの、相剋の筈の〝火〟と〝風〟で攻撃をされた場合にどうすればいいかが分からない。
混ざり合った物は、どう打ち消せばいいのかーーー?
〈水を生まれさせるのは風…〉
火さえ消せれば、雷で風は消せる…筈。
〈風…?!〉
瞬間的な《風の刃》ならば出来ても、長期的な風を吹かせる事にはまだ挑戦すらしていない。
惑っていると、拓須がククッと笑う。
「相剋だの相生だのと考えているからだ」
そう言われても、五行を教えたのは拓須だ。
風で切れないものかーーー?
そう考えて風を出してはみるものの、炎の勢いが増しただけだった。
〈とにかく消すーーー!〉
己の周辺に雷を落としてみるが、バチバチと音がするのみ。
「うっーーー!」
熱気で苦しくなり、翔隆は膝を着く。
そんな翔隆を見下ろしながら、拓須は眉を顰めた。
教えてもいないのに、翔隆は水や雷を使い、風まで素質を見せている。
「誰に、教わった…?」
拓須が睨みながら翔隆に聞く。
すると翔隆は肩で息をしながら、拓須を見上げる。
「何が…拓須が、教えたんじゃないか…炎は水に弱い、火が風を制するって…でも風があったら雷が通じない…」
「そんな事は聞いとらん。では真に一人でやったのか」
「…だから、そう言っただろう…? 術の師匠は、拓須しかいないんだから…ーーー」
言いながら翔隆は気を失った。
倒れる寸前に拓須は炎と風を消す。
…翔隆が火だるまになる方が良いが、それは睦月が許さないからだ。
嵩美は先に倒れていた。
〈一人で、これ程出来る物か…?〉
翔隆に天性の力は、さほどなかった筈…。
何かの力が作用したとしか思えないが、それが何なのか分からない。
モヤモヤとしながらも、拓須は二人に水を浴びせる。
「さっさと起きろ!」
唸りながら起きる二人を、纏めて薙ぎ払うように《風》で川に飛ばす。
するとハッと気付いた翔隆は空中で身を翻して地に降り立つ。
対して嵩美は川に落ちて、朦朧としながらも必死に泳いで岸に上がる。
片や不知火(の嫡子)、片や狭霧一門。
その〝差〟にも苛ついて、拓須は《風の刃》を次々に飛ばす。
「さっさと返してこい!」
狭霧の一門でありながら…という怒りも込めて術を放つ。
今日の修行は、更に厳しくなりそうだ。
翔隆は修行場に向かった。
朝靄が立ち込める丑の刻前。
もしかして修行に交ぜてもらえないか、などと思って翔隆は嵩美の後から修行場に行く。
そーっと覗いてみると、後ろから拓須に首をガッと腕で羽交い締めにされた。
「ぐっ」
「誰が来ていいと言った」
前方には水の柱の中に閉じ込められて藻掻いている嵩美が見える。
「水…」
「あんな物をやりたい訳ではあるまい」
「そ、そうじゃなく!」
グイッと拓須の腕を首から外して顔を近付けて言う。
「あれでは嵩美は抜け出せない! 嵩美の《力》は炎だ、水に克てないだろう?!」
「…そっちの心配か」
拓須は翔隆を払い退けて、嵩美の方に歩いていく。
「お前もやっただろうが」
「し、しかし…」
「これがお前ならば、次は炎にするが…まだ抜け出せないとは。真に霏烏羅の子か疑わしいな」
フッと嗤って水の中の嵩美を見る。
「………っ!」
嵩美は必死に水を消そうとするも、己の得意な炎が掻き消されてどうにも出来ない。
救けたいが、修行なので手も出せない。
〈どうしたら…〉
何もしてやれない…何か手出ししては、修行そのものが駄目になる。
〈手本ならーーーどうだ?〉
隣りで修行しては駄目とは言われていない。
翔隆は川の水を纏うように渦にして、土に還した。
火で制する事は出来なくても、土に還す事ならーーーと。
チラリと嵩美を見ると、頑張って息を確保するくらいには出来たようだ。
ほっとしたのも束の間。
いきなり周りが突風付きの炎の渦に囲まれた。
「うっーーー!」
「余裕があるようだなぁ? 少しくらいならば遊んでやるぞ」
そう言う拓須の声が聞こえる。…どうやら少々怒らせてしまったようだ。
〈余計な事だったかーーー?〉
そう思うも、これすら望んだ事だと気付く。
拓須は本気で攻撃をしてきてはいない…。
ただ修行を邪魔されて苛立っただけだ。
でなければ、この程度で済む筈もない。
翔隆は冷や汗をかきながらも笑う。
〈火と風ーーー〉
どうしたら打ち克てるか。
自分が得意なのは、雷と水…それに火、か?
未だまだ分からない。
火に克つのは水、風に克つのは火…。
「くっ…!」
やってはみるものの、相剋の筈の〝火〟と〝風〟で攻撃をされた場合にどうすればいいかが分からない。
混ざり合った物は、どう打ち消せばいいのかーーー?
〈水を生まれさせるのは風…〉
火さえ消せれば、雷で風は消せる…筈。
〈風…?!〉
瞬間的な《風の刃》ならば出来ても、長期的な風を吹かせる事にはまだ挑戦すらしていない。
惑っていると、拓須がククッと笑う。
「相剋だの相生だのと考えているからだ」
そう言われても、五行を教えたのは拓須だ。
風で切れないものかーーー?
そう考えて風を出してはみるものの、炎の勢いが増しただけだった。
〈とにかく消すーーー!〉
己の周辺に雷を落としてみるが、バチバチと音がするのみ。
「うっーーー!」
熱気で苦しくなり、翔隆は膝を着く。
そんな翔隆を見下ろしながら、拓須は眉を顰めた。
教えてもいないのに、翔隆は水や雷を使い、風まで素質を見せている。
「誰に、教わった…?」
拓須が睨みながら翔隆に聞く。
すると翔隆は肩で息をしながら、拓須を見上げる。
「何が…拓須が、教えたんじゃないか…炎は水に弱い、火が風を制するって…でも風があったら雷が通じない…」
「そんな事は聞いとらん。では真に一人でやったのか」
「…だから、そう言っただろう…? 術の師匠は、拓須しかいないんだから…ーーー」
言いながら翔隆は気を失った。
倒れる寸前に拓須は炎と風を消す。
…翔隆が火だるまになる方が良いが、それは睦月が許さないからだ。
嵩美は先に倒れていた。
〈一人で、これ程出来る物か…?〉
翔隆に天性の力は、さほどなかった筈…。
何かの力が作用したとしか思えないが、それが何なのか分からない。
モヤモヤとしながらも、拓須は二人に水を浴びせる。
「さっさと起きろ!」
唸りながら起きる二人を、纏めて薙ぎ払うように《風》で川に飛ばす。
するとハッと気付いた翔隆は空中で身を翻して地に降り立つ。
対して嵩美は川に落ちて、朦朧としながらも必死に泳いで岸に上がる。
片や不知火(の嫡子)、片や狭霧一門。
その〝差〟にも苛ついて、拓須は《風の刃》を次々に飛ばす。
「さっさと返してこい!」
狭霧の一門でありながら…という怒りも込めて術を放つ。
今日の修行は、更に厳しくなりそうだ。
10
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる