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三章 廻転

十八.相剋の修行

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 凍てつくような十二月。

翔隆は修行場に向かった。
もやが立ち込める丑の刻前。

 もしかして修行に交ぜてもらえないか、などと思って翔隆は嵩美の後から修行場に行く。
そーっと覗いてみると、後ろから拓須に首をガッと腕で羽交い締めにされた。
「ぐっ」
「誰が来ていいと言った」
前方には水の柱の中に閉じ込められて藻掻いている嵩美が見える。
「水…」
「あんな物をやりたい訳ではあるまい」
「そ、そうじゃなく!」
グイッと拓須の腕を首から外して顔を近付けて言う。
「あれでは嵩美は抜け出せない! 嵩美の《力》は炎だ、水にてないだろう?!」
「…そっちの心配か」
拓須は翔隆を払い退けて、嵩美の方に歩いていく。
「お前もやっただろうが」
「し、しかし…」
「これがお前ならば、次は炎にするが…まだ抜け出せないとは。まことに霏烏羅の子か疑わしいな」
フッとわらって水の中の嵩美を見る。
「………っ!」
嵩美は必死に水を消そうとするも、己の得意な炎が掻き消されてどうにも出来ない。
救けたいが、修行なので手も出せない。
〈どうしたら…〉
何もしてやれない…何か手出ししては、修行そのものが駄目になる。
〈手本ならーーーどうだ?〉
隣りで修行しては駄目とは言われていない。
翔隆は川の水をまとうように渦にして、土に還した。
火で制する事は出来なくても、土に還す事ならーーーと。
チラリと嵩美を見ると、頑張って息を確保するくらいには出来たようだ。
ほっとしたのも束の間。
いきなり周りが突風付きの炎の渦に囲まれた。
「うっーーー!」
「余裕があるようだなぁ? 少しくらいならば遊んでやるぞ」
そう言う拓須の声が聞こえる。…どうやら少々怒らせてしまったようだ。
〈余計な事だったかーーー?〉
そう思うも、これすら望んだ事だと気付く。
拓須は本気で攻撃をしてきてはいない…。
ただ修行を邪魔されて苛立っただけだ。
でなければ、この程度で済む筈もない。
翔隆は冷や汗をかきながらも笑う。
〈火と風ーーー〉
どうしたら打ち克てるか。
自分が得意なのは、雷と水…それに火、か?
未だまだ分からない。
火に克つのは水、風に克つのは火…。
「くっ…!」
やってはみるものの、相剋の筈の〝火〟と〝風〟で攻撃をされた場合にどうすればいいかが分からない。
混ざり合った物は、どう打ち消せばいいのかーーー?
〈水を生まれさせるのは風…〉
火さえ消せれば、雷で風は消せる…筈。
〈風…?!〉
瞬間的な《風の刃》ならば出来ても、長期的な風を吹かせる事にはまだ挑戦すらしていない。
惑っていると、拓須がククッと笑う。
相剋そうこくだの相生そうせいだのと考えているからだ」
そう言われても、五行を教えたのは拓須だ。
風で切れないものかーーー?
そう考えて風を出してはみるものの、炎の勢いが増しただけだった。
〈とにかく消すーーー!〉
己の周辺に雷を落としてみるが、バチバチと音がするのみ。
「うっーーー!」
熱気で苦しくなり、翔隆は膝を着く。
そんな翔隆を見下ろしながら、拓須は眉を顰めた。
教えてもいないのに、翔隆は水や雷を使い、風まで素質を見せている。
「誰に、教わった…?」
拓須が睨みながら翔隆に聞く。
すると翔隆は肩で息をしながら、拓須を見上げる。
「何が…拓須が、教えたんじゃないか…炎は水に弱い、火が風を制するって…でも風があったら雷が通じない…」
「そんな事は聞いとらん。ではまことに一人でやったのか」
「…だから、そう言っただろう…? 術の師匠は、拓須しかいないんだから…ーーー」
言いながら翔隆は気を失った。
倒れる寸前に拓須は炎と風を消す。
…翔隆が火だるまになる方が良いが、それは睦月が許さないからだ。
嵩美は先に倒れていた。
〈一人で、これ程出来る物か…?〉
翔隆に天性の力は、さほどなかった筈…。
何かの力が作用したとしか思えないが、それが何なのか分からない。
モヤモヤとしながらも、拓須は二人に水を浴びせる。
「さっさと起きろ!」
唸りながら起きる二人を、纏めて薙ぎ払うように《風》で川に飛ばす。
するとハッと気付いた翔隆は空中で身を翻して地に降り立つ。
対して嵩美は川に落ちて、朦朧としながらも必死に泳いで岸に上がる。
片や不知火(の嫡子)、片や狭霧一門。
その〝差〟にも苛ついて、拓須は《風の刃》を次々に飛ばす。
「さっさと返してこい!」
狭霧の一門でありながら…という怒りも込めて術を放つ。
今日の修行は、更に厳しくなりそうだ。
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