リビドーの鍵

柄木

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オマケ

素顔のままで①

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 疲労が溜まっているのは分かっていた。
 新学期を迎えてやることも増えたし、新任教師の指導も任されてしまった。しかも担当するクラスは三年生だ。当然、進路や受験の話もある。
 四月いっぱいはひたすら馬車馬のように働いたと思う。
 だからだろうか。
 ゴールデンウィークの休みがいろんな意味で待ち遠しかった。

 終業し、三枝賢人さえぐさけんとは自宅のマンションとは違う路線の電車に載る。
 向かったのは、繁華街から少し離れたあまり目立たないホテルだった。
 見ただけではホテルと言うよりもこぢんまりしたマンションといったところか。オートロック式の入り口がさらにホテルの雰囲気を感じさせない。
 それもそのはずで、このホテルはSM倶楽部“名無しノーネーム”の会員のみが使える隠れ家的なホテルなのだ。
 部屋の数は少ないが、部屋に移動する動線は他の利用客と出会わないように設計されているし、各部屋も趣向を凝らしたマニアックな内装が殆どだ。
 普通のホテルのように居心地の良いベッドルームと、マニアックなプレイルームは続き間になっていて、利用者の気分でどちらを使用しても構わない。
 大抵はプレイルームで楽しんだあと、ベットルームで休む使い方が殆んどだった。
 
 予約してあった部屋の前で、指定されていた8桁の数字を打つ。賢人が解錠された部屋に入った途端、ドアの側で待ち構えていた男に背後から抱き竦められてしまった。
 
「早かったね、賢人?」
 
 甘い毒を含んだような色気のある声。その声が自分のうなじの生え際から肌を通して響いている。
 ネクタイの結び目に倫理観を紐付けているような賢人は、この声を聞いただけでネクタイを解いてしまいたくて仕方がない。
 
「……急いだから、な……」
「俺に会いてくて?」
 
 ちゅっと笑い含みの声がうなじから聞こえて体が熱くなるのが分かった。
 生真面目がスーツを着て歩いているような賢人だったが、甘い声で鼓膜を撫でられるとそれだけでスーツの中の肌が過敏になる。

「俺は会いたかったけど、違うのかな?」

 甘く甘く、どこまでも甘く誘う声。
 声の主の姿は、後ろを振り向かなくても分かる。
 目尻が垂れぎみの瞳はいたずらを思い付いた子供よりもきらきらしているはずだし、華やかな顔の中、艶めいた唇はきっと笑い含みになっているだろう。
 大きく息を吸い込み、吐き出す呼気に思いを混ぜて賢人は問いに応じた。
 
「……もちろん、そうに決まっている」
 
 ぶっきらぼうな物言いだが本心だ。
 会いたかった。
 仕事が休みになるこの日をずっと待ちわびていた。
 今夜と明日はずっと一緒にゆっくりできる。
 教師としては優秀で、人間としては少し不器用な賢人を素直にしてくれる時間がなによりも大切だ。
 それを与えてくれる仲二見昊なかふたみ そらは賢人を素直にしてくれる稀有の存在だった。

「だろうね? 知っていたよ。賢人は――御主人様を忘れない、お利口な俺の肉便器だものね?」

 一言で賢人を素直にさせ、理性を蕩けさせる存在はただ一人、昊だけだ。



 舌の先に感じるのは。ラテックス製で作られた薄皮の感触だった。
 ショッキングピンクの薄皮は、昊の股間で毒々しい色彩を放っているコンドームだった。
 コンドーム越しに感じる昊の熱が賢人にはじれったい。こんなもので隔てられたくはなかった。もっとじかに、もっと感触も味も臭いも感じたいのに許してくれないのだ。
 コンドーム越しの剛直に期待した下腹部が疼く。

「......っ、ん、っ......ふ、ぐぅ......ッ」

 口腔どころか喉まで開いてショッキングピンクの肉の竿を加え混む。喉を圧迫する息苦しさは喜びだった。
 喉も呼吸も支配され、使われる喜びに疼いていた下半身が熱くなる。

「チンポ咥えているだけでトロ顔かよ。よっぽどチンポに飢えていたんだなぁ?」 

 昊が腰を揺すると整えていた髪が乱れていく。汗が滲んだ額に張り付く自分の髪にさえ感じてしまう淫らな肉体を、昊に知らしめることが賢人の快楽に繋がっていた。
 もっと見せたい。
 もっと見て欲しい。
 もっと知られたい。
 もっと知って欲しい。

 そんな気持ちは、きっと蕩けた顔と必死に蠢かす舌の動きでバレているだろう。

 
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