スイセイ桜歌

五月萌

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第4章 ゆいなの歩く世界

29 城での遊戯

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美亜の家の裏でしばしの休憩を取っていた。

「そういえば勇鷺君とやらはどこいったんだ?」
「ああ、ログハウスの奥の部屋にいるけど、後で身柄をリコヨーテに引き渡さないとな」
「裸のままだと寒いだろう」
「ああ、見せなかったけど、見張り役もいるから」
「熊の半月だった! かっこよかった!」

桜歌ははしゃぐ。

「ピーさんか」
「それにレディにあられもない姿を見せられないだろう」
「桜歌、その事分かる、残酷ってことでしょ!」
「桜歌が口を出していい問題じゃないから。もういいな、ウォレスト」

太陽はピアノを出した。


(指に魂が乗り移ったかのような繊細な動きをしている)
ゆいなは目を閉じて瞑想を始める。シチリアーノは木が萌えるイメージだった。
カチャ! カチャ!
ゆいなはビオが車椅子のチカにシートベルトをつける音で目を見開いた。
6本のシートベルトでチカは守られている。

「もぐもぐ、濁流できたから、もぐもぐ、もう、もぐもぐ、弾かんでええよ」

正幸は袋に沢山入った出店の売り物の中からたこ焼きをチョイスして大口を開けて食べている。

「あーあー、こんな時に何食べてるの。あたしの分とっときなさいよ」

美亜は正幸にやっかむ。

「後で本場のたこ焼きでも作ったるわい。ごっついのおみまいしたるわ」
「唇の端にマヨつけてしゃべんなよ、ほら、ティッシュ」

太陽は演奏し終えると、ショルダーバッグからポケットティッシュを正幸に差し出した。

「おおきに」
「俺先に行ってくる。チカさんに場所、移動してもらうから」

太陽は緑色の濁流の中に一目散に飛び込む。

「チカさんとビオさん、どうぞ」
「はい」

根っこから濁流が木にできているので、チカを持ち上げる必要はなかった。

「ぶっちゅーしたらごめんねー」

翔斗はふざけて笑う。

「大丈夫です」

ビオは気を取り直して、突っ込んでいった。そして消えた。

「これいつ消えるのかしら?」
「急ぎましょう、女子から先どうぞ」
「柳川さん、先いいですよ!」
「はーい」

(身軽にして砂利の位置と落ちる角度を考えて)
ゆいなは転ばないようにシュミレーションしながらそこへ入った。





海風がそよぎ、音を、波紋をたてた。耳鳴りがした。
ゆいなは閉じている目を開ける。
リコヨーテと日本の間の海は夕焼けと相まって綺麗だった。そして少し寒いにも関わらずチカとビオのいる方向へ走った。
サウカ、ネニュファール、美亜、美優、桜歌、ガウカがなだれ込むように降ってきた。

「パース」

いきなり上の方からローリの声が響いた。
女性のいるところの3センチ位上に薄い箱が蓋が閉まった状態でできた。
ローリは優雅に一回転しながら箱から降りる。翔斗、太陽も今度は喧嘩せずに降りることができた。そしてレンシ、ネムサヤ、コロ、正幸もうまく着地した。

「ローリ様、20分程で始まるから少し早歩きでお願いします」
「うん、分かっているよ」
「何が始まるの?」
「城に行けば分かります」
「チカさんに見せたいものがあるんだ」

レンシは真面目そうに言う。

「さあ、皆、2列になって進もう。チカさん、大丈夫かい?」

ローリは明るく指示を出した。

「ええ、大丈夫よ」
「どいつもこいつも、ロー君に敬語も使わず、いい身分じゃのう!」
「そのようなことは気にしないでいいよ」
「それならもう、口きかんのじゃからな」
「ほう、それならもう婚姻関係は破綻したのと同然だね? ネニュファールを新たに后にしてしまおうかな」
「うう、ロー君、すまんのじゃ、わしが悪かったのじゃ」
「ガーさん、素直になれ!」
「わたくしは使いのままでそばにいさせてもらえればそれで」
「どうやら喋ってる場合じゃないらしい」

太陽はレンシが腕時計を気にしているのが目に余ったようだ。
(時間が大事なのか?)
ゆいなもケータイの時計を見た。
16時12分だ。
満月がうっすらと光って見えてきた。
白いもやの吐息の音が後ろから聞こえる。

「けったいな場所やな」

ぼんやりと見えた城に正幸がぼやいた。

「どこが不思議なんだい?」
「あの月に魔法曲がかかっているのちゃう? 幻だったりしてな?」
「はっはっは、恐れいったよ、半分正解だよ。あれは遠くに見える魔法曲がかかったテイアなんだ、でも月でできているから反対側は光るんだよ」
「テイアの太陽は疑似太陽やったっけ? いつも月から月影を落とすのを最小限にしてるんやろ。月を対面にして」

正幸の質問には答えず、ローリは風を吹かせてフェレットに変わった。

「ローリ様は何も答えることはないということなのでしょうか?」

ゆいなは驚きながら聞く。
ネニュファールはローリを拾い上げる。

「ローリ様のかわりに言うと、答えはイエスですわ。あら、眠ってしまいましたわ」

ネニュファールの手に包まれたまま、ローリは目を閉じていて呼びかけに応じなかった。
(可愛い)
ゆいなはもふもふの毛を触ってみたかった。

「疲れたのじゃろう、そのまま倒れられるよりかはだいぶマシじゃ」
「疑似太陽だったんだ、私、太陽に話間違えたね、ごめん、太陽」
「別に気にしてないよ」
「よしこのままお城に入ろう」
「「「おー!」」」

その後やっとの思いで着いた、城に入るための船場。
ネニュファールはゆいなにローリを託すとミミズクになって翔んでいった。
ゆいなは鼻を突くと、舐めてくるローリの可愛さにメロメロだった。そして冷えていた指先はローリで暖を取った。
しばしの間、待ってると小舟が4艘、やってきて停船した。
皆乗り込むと、すぐに出航する。
あっという間に城の中へ入っていった。

階段のある船着き場に到着した。

「あの、ローリ様、わたくしが持ちますわ、お貸しくださいな」
「いえ、大丈夫です、このままで」
「わたくしが持ちますわ」
「大丈夫ですって!」
「国王は守られなくてばなりませんの! ウォレスト」

ネニュファールは返しの付いた小剣を出す。楽器の弓の部分を形態変化させたものだ。
ゆいなは気持ちよさそうに眠るローリをずっと抱きしめていたかった。

「分かりました」
「やっとお分かりになられたのですわね」

ネニュファールは矛を収める。

「今だ!」

その瞬間、ゆいなはローリを抱えたまま城の中を駆けていった。

「ずるいですわよ!」

ネニュファールの声を背中にゆいなは廊下を走って曲がり、階段を上がり、廻縁まで来た。

(隠れていよう、もふもふだ)
ゆいなは身体と足とローリを密着させ、体育座りをしていた。

ドン!

「え? 私、撃たれた?」

ゆいなは小声で呟いた。しかし、身体に痛みはない。
目前に大きな花火が打ち上げられていたのがわかった。
シャアアア!
ローリは思い切り威嚇する声を上げる。
蛇が獲物を食べるときのようだった。
ゆいなはびっくりしてローリを払い落とした。

「酷いではないかい? ネニュファールはどこだい? 僕はまだ眠たいのに大きな音を出さないでもらいたいのだけれど」

フェレットが人間に変わって、口を開いた。

「あかん、始まってしもうた、柳川さーん」

正幸の声が聞こえた。

「僕と一緒にいるよ!」
ドン!

花火が再び上がって花開いた。声は届かなかったのか返事はない。

「わあ、お兄ちゃん、綺麗だね」
「ん!?」

太陽にゆいなとローリの存在が気が付かれた。

「ここ」
ドン!

花火が声を掴んで空の彼方までおいやっていく。

「チカ、愛している」
「私もレンシさんをずっと愛してる」

ドン!
2人が愛の言葉を告げるのが聞こえてきた。
(分かっていたけど、好きだったんだな)
ゆいなはさめざめと泣いていた。高い城から飛び降りようと高欄こうらんを掴んだ時だった。

「ろー?」

ゆいなは発した声は消えたけど背中から伝わる身体のぬくもりはたしかにここにあった。
ローリは強く、ギュッとゆいなを抱きしめた。

「自分の力で生きていれば必ず良縁に恵まれるよ。頑張れ、柳川ゆいなさん」

ローリの言葉でゆいなは心の霧の晴れていくような気がした。

ドン!

花火の光が2人を映し出した。

「何してるんじゃ?」
「飛び降りようとしてたから。僕が生きていてほしいと思った人だから、それに」
ドン!

「だ」

ドン!

相変わらずの勢いで火の花が咲き誇っている。

「陛下、何をなさっておりますの?」

ネニュファールも顔が暗闇から花火で照らされてはっきりと見えた。

「……皆、花火を特等席で観ようか」

ローリは優雅にゆいなの手を引くと、両肩に手をおいた。
全員で夜空で咲く花火を見ていた。
ゆいなはあたりを見渡す。
チカも音を立てず目から涙を流していた。
(今まで会いたかったんだろうな、私と同じかそれ以上)
ゆいなはレンシのことを好きでいたのがバカバカしく思えた。
(それほど愛していたんだ)
ゆいなはローリの手をとって振り向く。

「今日は飲むぞ!」

 ゆいなはそう宣言した。

「いいね、クライスタルに帰らねばならない人を送り届けたら、食卓でワインでも飲もうか」

ローリは晴れ晴れとした笑顔を作る。
正幸はネムサヤとドーリーに護衛されて帰っていった。
美亜は公園の世界樹から日本に帰るようで、小舟をネニュファールの協力のもと漕いでもらい、例の公園からシチリアーノを吹き、帰宅していった。
桜歌、太陽、翔斗、ビオ、チカ、レンシは日本の家に帰るらしいが、まだ時間はあるためその会に参加することとなった。

「16時50分だから19時までに帰ればいいから、えっと約2時間かな?」
「桜歌、偉いぞ」
「ローリ様」
「陛下ですわ」
「陛下、ありがとうございます、死のうなんてしてごめんなさい。生きててほしいなんて言われたの初めてで、嬉しかったです。このお城で働かせてください。馬車馬のように働きますから」

ゆいなはローリの目を見て言葉を選ぶ。
「君の事はひとまずネニュファールに任せるよ」
「おや? 陛下、ネニュファールと同じ時間を過ごさなくて良いのですか?」

ネムサヤは揉み手しながら言った。

「僕らは何でも分かりあえてる、最近は近づきすぎていると思うから、少し離れて見直す。新たな発見に期待してるよ」
「頭が真っ白ですわ、もう寝たほうがいいのでしょうか?」
「まだ花火のフィナーレには早いですよ」

ドン! ドン! ドドン!

小さな紫陽花のような形の花火が上がった後、ハート型をしたオレンジ色の花火が上がった。
感動的な終幕だった。

「寒いから中に入ろう、風邪ひいちゃうよ」

美優の声が合図になったように美亜と正幸と翔斗は我先にと城の中へ入った。
レンシはチカのことをひょいとお姫様抱っこする。
太陽がチカの車椅子を階下へ運んで、再びチカが乗る。

「板前と使用人に言っておいてくれるかい。今宵は宴だ。最高級のワインを新しくおろしてくれたまえ、30分待つと」
ローリは廊下に控えていたネムサヤに指図する。

「はい」
「あと、コロはまだ発展途上だからトレーニングも欠かさずに頼むよ」
「はい」

ネムサヤはすたすたと早歩きでこの場から去った。

「トレーニングとは?」

ゆいなの方に皆が注目した。

「訓練です。格闘技や、毒耐性、麻痺耐性、火傷耐性、あらゆる武術を学ばせています、強制的に。私のことは城ではファンボとお呼びください」

レンシはローリよりも早く答えた。

「ふうん」
「そういうことで、失礼します」

レンシは下がっていった。

「少し狭苦しくないかい? 僕達は寝室から地下に行こうか」
「チカ?」
「地下室のことですわ」
「すまないね」
「ロー君に謝らせるでないのじゃ」
「私の方こそびっくりしちゃってごめんなさい」
「お母さん、いいですから、進みますよ」
「はいはい、頼むわね」

そういうチカをビオは慎重になって押す。ローリの寝室まで曲がり角を何回か曲がってたどり着いた。

「パース」

ローリは部屋に入るなり、箱を出現させた。

「おお!」

チカは物珍しそうにローリを見やった。
ローリは巻物を掴んで出した。

「ウォレスト」
ローリは巻物を布団の横の床に開いて、バイオリンを現す。
一寸の狂いもなく、バイオリンを弾き始める。


あまりの迫力に皆が押し黙った。
「美しい曲ね、初めて聴くわ、なんて曲?」

演奏終了後、チカは感動の声を上げる。

「キイちゃん……、僕の父上が作った曲さ」
「れ、いや、ファンボを呼んでくるよ」
「そっか、チカさん、階段降りれなかったか!」
「わたくしがお呼びしますわ。こちらのことはお気になさらず、雑談でもしていてくださいませ。すぐ戻りますわ」

ネニュファールは軽い足取りで行ってしまった。

「もぐもぐ、雑談って言うても、もぐもぐ、何も話すことないやろ」
「それはあたしのベビーカステラじゃない!」
「うっさいねん、耳がおかしなるわ」
「あんたがさせてんでしょう!」
「正幸君、その袋貸してくれるかい? 出店の物は皆で後で食べようか」
「わいは構わへんで」

正幸は素直になってローリに袋を手渡した。

「あんた、いつの間にか、焼きそばもないじゃない」
「あー、つまみでビールが欲しなったわ」
「あんた、まだ中学生でしょうが」
「貫禄あるから買えると思うわ」
「陛下、りんご飴食べてみてください。多分びっくりすると思います」

美優はローリに袋の中の赤いものを指さした。

「ご飯のあとでいただくとしよう」
「俺の金で買ったものだぞ」
「それはありがたいことだ、僕のペドルで売買しよう」
「何か弾けば金貨は俺の武楽器のピアノに入るのか?」
「うん、僕が箱からいくらか出すよ。とりあえず1000枚くらいでいいかい? パース」
「そうだな、暇だし、なんか弾いてみるか、ウォレスト」

太陽はピアノを出して鍵盤にそっと触れた。
ローリは瞬時に小さな箱を裏返す。

「桜歌の好きな曲だ!」
「モーツァルトのピアノソナタK.545ね」
美亜ははっきりと呟く。
太陽の手は音と音を繋いでは、力強く、そして丁寧に響いた。
(なにか、聴いたことのある曲だ)
ゆいなは頭をフル回転させる。答えは出なかったが懐かしい子供時代の気持ちを取り戻すことができた。

「ドーミソ、シードレド♪」

桜歌は歌う。
ローリの箱から金貨が少しずつこぼれて、地面に付く前に蛇行して円を描きながら、太陽のピアノの裏へと入っていく。

「戻りましたわ! あら、何をなさっているのです?」

ネニュファールは曲がちょうど終わった頃、レンシを連れてきた。

「チカ、持ち上げるからね」
「ええ、いいわ」

チカは踏ん切りをつけるとヨロヨロと立ち上がった。
そこをレンシがすくいあげるように抱っこして、階段を降りる。

「車椅子はこのままここにおいたままでいいな?」
「そうだね」

美優は太陽にそう言った。

「後、20分あるからトランプでもするといいのじゃ、ロー君、出してくれんか?」
「いいよ、パース」

ローリは箱からトランプを出した。絵柄は猫だった。

「大富豪しよう。ローリ、やり方は分かるか?」
「もちろん、日本の百人一首も強いよ?」
「桜歌わからないからつまらない」
「じゃあとりあえず見て、覚えて。ヤギリや革命などはなしな」
「ローリ様、どうでしょう? ちなみにわたくしも分かりませんわ」
「構わないよ」
「待ちなさいよ、何人でやるのよ?」
「俺と美優と美亜と柳川さんとローリとガーさんと翔斗と正幸とビオとレンシ」
「そんなにいっぺんにできるわけないでしょ! あたしと翔斗は見てるから」
「私はトランプなどで遊んだことはないので、いいです。お父さんも、お母さんを見てて」
「ほなら、あっこでわいが大富豪しない人と遊んどくわ。UNОだしや」
「ローリ様に強奪するような言い方、改めていただけますこと?」

ネニュファールの声に桜歌が怖がっているのがわかった。
「いいよ、僕達がここに来るように呼んだのであるわけだから、多少の勝手には答えるよ、パース。……はい」

ローリは優しさあふれる声色で桜歌にUNОを手渡した。

「柳川さんは大富豪やるんですか?」と美亜。
「やりたいです」
「まあいいわ、時間もなくなっちゃうし、始めましょうよ。あたしはイカサマがないように見といてあげる」

美亜の掛け声でローリ、ガウカ、美優、太陽、ゆいなは円になって座った。

「イカサマも何も何も賭け事してないだろ」
「わたくしが配りますわ」

ネニュファールはトランプを配った。
ダイヤの3を持っている太陽が親となり、左隣の美優がトランプを出して、それからは皆、手札をどんどん中央に置いていく。
太陽がスペードの2を出すと、パスが続いた後、ローリがジョーカーを出した。

「なかなかやるな、勝負はここからだ」

ローリの5の3枚出しに、太陽は9の3枚出しで返す。

「はっはっは、太陽君こそやるねえ」

ローリは楽しそうに笑う。
美優は1の3枚出しを決める。
皆パスで流れた。
3から始まり、皆出して、再び一巡する。
美優は2を出す。
ガウカはジョーカーを出した。

「残念じゃったな」
「今のは早計だったな、ガーさん」
「なんじゃ。おりゃ」

ガウカの4の2枚出しにローリは2枚の6を出す。
8、10、12、と続く。

「パスじゃ」

11を2枚出す美優。

「パスじゃ、くそう1はあったのじゃが、ジョーカー出さなければ。2枚出しできぬのじゃ」

美優は最後の7を出して上がった。

「美優、大富豪だな」
「まあね。普通のルールなら得意中の得意だし」

その後、ガウカはああでもないこうでもないと言いながら手札を減らすも、ローリが先に、ゆいなも上がられて、太陽と一騎打ちになった。

「12からの5で上がりだ」
「ぬあああ、大貧民じゃ」
「僕は富豪、柳川さんは平民、太陽君が貧民、ガーさんは大貧民だね」
「もう1回やるのじゃ!」
「僕はいいや、抜きでやってくれたまえ」
「私もいいです。頭使いすぎて頭痛が」

ゆいなはおでこをおさえる。

「まったくもう、それではつまらんのじゃ」
「まったくもうは私の口癖だって」
「ふふふ」

チカはおかしそうに笑っている。

「チカさん、笑わないでください、真剣に言ってます。……別に笑われても気にしませんが」

美優はビオにじっと見られているのが分かって態度を改めた。

「そろそろ、晩餐が出来上がりますわ。もう戻りましょうか。ローリ様、UNОとトランプ、お願いしますわ」

ネニュファールは腕時計を見て、言葉を紡ぐ。
ローリは桜歌からUNОを返してもらい、トランプもガウカから受け取った。

「チカ、大丈夫?」
「ええ、平気」
レンシはチカを抱き上げて、抱っこした。階上へまではすぐだった。

ゆいなや太陽は階段を上がる。

「ちょっと、車椅子とっていただけます?」
「あ、はい」

車椅子は部屋の隅に置かれていた。

「よいしょ」

ゆいなは車椅子を押すのだが進まない。ロックがかかっているのだ。仕方なく、持ち上げる。意外と重い。

「柳川さん、俺が運びますよ」

太陽はゆいなが腕をプルプルしてるのを見かねて声をかけた。

「大丈夫」
「いや、顔面に持ってほしいって書いてますよ。なので持ちます」
「あ、ありがと」
「いえ」

太陽は軽々と車椅子を持ち上げて運ぶ。
レンシの力添えでチカは車椅子に腰掛けた。

「ロックはここのバーを下ろすんです。私以外の人には動かないようになってますが」

車椅子のタイヤについたバーを横に倒すと、車椅子のタイヤは一瞬、金色に光る。

「おばちゃん、桜歌も乗りたい」
「チカさんだろ!」
「いいわよ、私の膝の上に乗ってみる?」
「わーい」
「わーい、次、俺な!」
「翔斗、あんたは座るところに剣山が必要ね」
「冗談だって」

翔斗は首振るなか、桜歌は太陽に手伝ってもらい、チカの膝の上に乗った。シートベルトも忘れない。

「バビューン!」
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