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第4章 ゆいなの歩く世界
30 ひとりひとり
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ガウカも楽しそうに車椅子を押している。
「危ないから、ゆっくり押してね」
「なんじゃと?」
「ガーさんは触るの禁止だよ」
ローリは、ガウカの腕をとると、太陽に目配せをした。
太陽はすぐに車椅子のハンドルをとった。
「なんじゃ、つまらないのう」
「では食卓の間まで案内してくれたまえ」
ローリに言われた、ガウカはやむを得ず先を歩く。
「ここじゃよ」
5分くらいかけて、食卓の間にたどり着いた。広い長方形のテーブルに透明のテーブルクロスの下に幾何学模様の柄の撥水性の布がかけられている。椅子も同じような布がかけられている。部屋は広く学校の教室と同じくらいかそれ以上だ。
「座りたまえ」
「「「はい!」」」
椅子は17脚くらいある。
桜歌はチカから降りる。
「食事を並べたまえ」
「それではどうぞ」
カラカラと板前らしき人がカートを押してきた。
寿司から始まり、タコのカルパッチョサラダ、かぼちゃのサラダ、大根サラダ、鯛の姿焼き、鮭のムニエル、そばや天ぷらの舟盛り、なめこと豆腐の味噌汁、色とりどりのパンはチョコや杏ジャムなど、フランスパン、更に日本の米のご飯もある。いちご、ぶどう、メロンなど果実も様々ある。
さらに赤ワインとシャンパン、ハイボールまである。
「あっし、これしか用意できませんでした、すみません」
「大丈夫、残してももったいないからね」
ローリはにっこり微笑む。
「ありがとうございます」
「下がりたまえ」
カナとアリアとイセリとリンドとダイチがたって見張りをしている。
ローリとガウカは出入り口から一番遠い席の左右に座った。
「さあ、適当に座りたまえ」
太陽達は座りたいところに座った。
チカはレンシの隣だ。
ローリの隣になんのけなしにネニュファールが座った。
「おいメイド、お前は出入り口の付近じゃ」
「いや、もう座ってしまったのなら仕方ないね、いいよ。ここで」
「ロー君!」
「ありがとうございます」
「今日は僕のメイドだから手伝わなくていいよ」
「ありがとうございます」
「なんじゃ、おこがましい、身の程を知れ、この貧乳!」
「ガーさんには言われたくない言葉No.1だね」
「ロー君、酷いのじゃ。今度、桜歌と入れ替わっとくぞい」
「僕は匂いでどちらか判別できるよ」
「わしが臭いってことか?」
「そうではないけど」
「おーい、もう食べていいのか? 言い合いしてるとどんどん冷めてしまうよ」
「うん。ごめん。どうぞ」
ローリは手で示すと、顔の前で手を合わせる。
「「「いただきます」」」
鯛の姿焼きは板前の手によって食べやすく割かれていった。
ゆいなはそばをめんつゆにつけて食べる。
「美味しい!」
ゆいなは食べ物を口へ運ぶ手が止まらなかった。
それはローリとガウカ以外は皆同じだった。
ローリはおしとやかに少しづつ食べている。どちらかと言うと温かいお茶の方を好んで飲み込んでいるようだ。
ガウカはそんなローリに熱い視線を送っている。
ネニュファールはそのことを知ってか知らずかガツガツ食べている。ローリと視線が合うと笑った目で美味しいということを伝える。
チカもレンシが皿によそった食べ物をぱくつく。
太陽も久々の一流の板前の料理に思わず舌鼓をうった。
ものの15分ですべての料理が綺麗さっぱりなくなった。
次いで、出店で買った料理もテーブルの上に置かれた。
ローリがりんご飴をペロペロ舐めている。
美優は目の前の唐揚げを見ながら、お腹をおさえている。
大人たちは優雅にお酒を楽しむ。
「お母さんの好きな焼きまんじゅう、食べますか?」
ビオは焼きまんじゅうの入ったパックを持った。
「お腹いっぱいになっちゃった。レンシと食べてね」
「はい、ファンボさん呼んできてもらえますか?」
「はい、ちょうどファンボなら街の復興の休憩中です」
カナはそう言うとその場を後にした。
「もし皆さん、お腹いっぱいでしたら、ファンボさんにあげますがよろしいですか?」
「おお! ええで」
「桜歌は?」
「大丈夫」
「もう満腹じゃ」
ガウカの声に皆、首を縦に振った。
「おと、ファンボさん、これどうぞ、皆で食べてください」
ファンボはやってきてそうそう出店の食べ物を手荷物にして渡された。
ビオは用を済ませたかのようにお茶を一口。
「え、僕、呼ばれて、え?」
「もう行って大丈夫です」
「クライスタルに帰るときは僕も帰りますから。陛下のしばらく休んでいいとの許可いただきましたので皆に渡すついでに伝えてきます」
「分かりました」
「後20分したら行こうぜ」
「ファンボさん、20分後、城の中庭へ来てください」
「はい」
「日本に帰る組は帰ろうぜ」
「私、クライスタルまでビオさんとチカさんとファンボさんを送り届ける」
「ほう、城の兵士の気概かい?」
「はい! 必要とあらば、私はリコヨーテ民の矛となり盾になります」
「では、わたくしとカナで小舟を漕いで行きます」
「わいもクライスタルまで行くで」
太陽、美優、美亜、桜歌、翔斗はネニュファールとカナについていった。
シャクシャク。
ローリは微動だにせずりんご飴をかじっている。
「ろ、いや陛下は来てくださいますか?」
「……僕は、今すごく眠くて、すごーく無能だから行かないよ」
ローリは耳がフェレット化している。しばらく風が吹くと同時にローリは完全にフェレットの半月風になった。バタリと倒れ込んだ。
「後は任せるのじゃ。イセリ、緊急任務じゃ、正幸とチカとファンボとビオと柳川ゆいなをクライスタルまで無傷で送り届けるのじゃ」
「はい、女王」
「ロー君、おいでおいで」
ガウカに撫でられたり、揉まれたり、されるがままのローリであった。
そして、ゆいなとイセリとビオとチカは中庭まで出発した。
◇
20分後
レンシは青いアロハシャツでムチムチのボディを守った服装だった。
イセリはあたたかそうな茶色のロングコートを着ている。
青髪のレンシと金髪のイセリは、はたから見れば外国人に見える。
「流石に寒くないか心配だよ、大丈夫?」
チカがレンシを見て言った。
「大丈夫、日本と違って極寒じゃないですから、クライスタルは」
「それもそうね」
「わいもいるで」
正幸を含めた6人は青い膜の中に入っていった。
「行きましょう、ウォレスト」
ビオは振り返り、赤い髪をなびかせながらそういった。
「「「ウォレスト」」」
ハープ、チェロ、トロンボーン、バスクラリネットがゆいなの近くに出てきた。
「ジムノペディですよ」
「はい、せーの」
レンシは合図を出した。
♪
異色のカルテットの音はゆいなの耳に心地よく入っていった。
時折、チェロの音が外れるが、それでも弾ききった。
大樹に青い濁流ができた。
カチ! カチ! カチ!
ビオはチカの車椅子のシートベルトを装着する。
「僕が様子見で行きます」
レンシは言うやいなや、濁流の中へ飛んだ。
「私はチカさんの後に降りるので、お先どうぞ」
「はあ、そうですか」
ビオは解せないと言った顔立ちでチカとともに濁流に突っ込んでいった。
ゆいなもあとに続く。
◇
その場所はジャングルと分かりきっていた。
ゆいなはビオの出している箱の上に乗っている。おそらく、ジャングルに行ったときに上に箱をだしていたのだろう。透明な箱から降りる。2メートルほど下に降りた。
「もうちょっと信用してくださいよー」
「へ? 何がですか?」
「箱は私が出そうと思っていたのですが」
イセリが金髪をひとまとめにして降りてきた。
次に、正幸。
「わいでも同じことすると思うんやけど」
「いいですよ、クライスタルまで早く行かないと……、足止め食らったら大変ですよ」
「そういう事言わないでくださいよー」
「行きましょう」
獣道をチカの車椅子だとぐらついて危なかったので、ビオの箱に車椅子を入れて、レンシがチカを抱っこすることになった。
「あ」
「なんですか」
「向こうの木のそばに赤い2つの目が見えた気がしたんですが」
ニョロニョロ。
小さな、トカゲの月影だった。緑色の背中に金色の筋が光るようにあり、両目は赤かった。
「ウォレスト」
正幸はチェロの斧を出して、トカゲの月影を横に一刀両断した。
ガァ!
トカゲは尻尾を動かせて、生気あふれる身体で逃げようとしている。
「おりゃ」
正幸はもう一撃、トカゲの月影に食らわせた。
その時だった。
ガァ! ガァ! ガァ!
大勢のトカゲの鳴き声がしたと同時に姿を見せたのは大きな2メートルほどの大トカゲの月影と、子トカゲの月影だった。見ているのは正幸。
大トカゲの月影は尻尾を振り回す。その尻尾に張り付いた子トカゲの月影が正幸に翔んでいき、まとわりつこうとする。
「パース!」
正幸はヤシの木のような絵柄の箱を出した。
ビタン! ビタン!
「ウォレ」
ビーーーー!!
イセリがバスクラをくるくると回りながら吹く。緑色の光が大きなウツボカズラの食虫植物を8個作った。
正幸は噛みつこうとしてくる子トカゲの月影をイセリに投げた。
バスクラにはたき落とされ、ウツボカズラに入った。
ガァ!
大トカゲの月影が業を煮やし、体当たりしてきた。
運の悪いことにレンシとチカが狙われた。
「パース」
レンシが言った瞬間に現れた箱は5センチ四方にしかならなかった。
(そう言えば、ローリが金貨を入れてレンシの箱から願い石を作っていた)
ゆいなの助けもままならず、2人は思い切りぶつかった。
ドン!
チカは木にぶつかり、レンシは投げ出されて2メートルくらいから切り株の集合地帯に落っこちた。
「ぐああ」
「うう」
「レンシさん! 無事ですか?」
「……おかしいです、左半身が動きません」
レンシは片足立ちのようにフラフラしている。
だらりと垂れ下がった左腕。
「一度逃げて体制を整えよう」
ゆいなの発言はどうやら無駄のようだ。
「避けて、危ない、レンシさん」
もう一度、大トカゲの月影がレンシに子トカゲの月影を飛ばしてくる。
チカが手を大きく広げて、レンシを守った。
そのかいあって、小トカゲの月影がチカの腕や足に噛み付いている。
チカは前に倒れていった。
「わいを忘れるな」
応酬のように正幸はチェロの斧をぐるぐる体ごと回して、そして、放った。
チェロの斧はオオトカゲの顔面に突き刺さる。
ガーーーァ
「なんの演奏をするんや? Jポップスだと、スイートメモリーズなんてどや?」
「吹けるよー」
「ビオは、あかんのやな」
ビオはレンシとチカのもとに走り寄っている。
「お父さん、お母さん!」
「僕は大丈夫、チカは?」
レンシはチカに食らいつくトカゲをもぎ取ってイセリの方へ投げる。
血が恐ろしいほどに海のように出ていた。
「そうだ願い石」
レンシはポケットから小さな願い石を取り出した。
「脳梗塞なのだから傷を治しても」
「大丈夫だよ。……僕の体を生贄に使って、チカさんの身体を、魂を、私と一心同体にしてください」
レンシはそっとキスをした。
光が瞬いた。
その刹那、曲が聞こえる。
♪
松田聖子のスイートメモリーズだ。
音達は辺りが光ってもとどまることを知らないようだ。
光るのが止み、見るとチカがいなくなっていた。
その代わり、レンシが倒れている。
「お父さん。お母さんはどうなったの?」
「ビオ、私もう、頭が痛くないのよ」
レンシのようでチカのような声をした人が喋りだした。
「お母さん?」
「私の中にお父さんがいて、そして、いつでも成り代わることが可能のようね」
「これで、良かったのですね!」
「後は残りのトカゲの月影をなんとかしないと、ウォレスト」
レンシのマスクをしている人はトロンボーンのマウスピースに口元をあてがう。
「離れてなさい」
ベーーーー!
氷の刃は数多く生成されて子トカゲの月影に刺さっていく。
演奏している正幸、イセリはトカゲの月影の血や肉片を金貨、銀貨、銅貨、貴金属、装飾品、宝石などに変えていた。
そのうちに、月影は骨だけを残し、いなくなっていた。
「帰りましょうか」
「うん、そうだね」
「はい」
「行きましょう」
「守れきれんくてすまなかったな」
「そんな事言わないでくださいな、もっと早くこうしておけばよかったんです」
「それはレンシさんの意見? チカさん?」
「これはね……」
◇
ゆいなは4人をクライスタルまで送り届けると城に帰る事になった。
「今日は新たな発見がありました」
「なんのー?」
「2人が助かってよかったということ、色々な家族の形があることです」
城の中庭で2人はしばし話していた。
こうして夜は更けていった。
「危ないから、ゆっくり押してね」
「なんじゃと?」
「ガーさんは触るの禁止だよ」
ローリは、ガウカの腕をとると、太陽に目配せをした。
太陽はすぐに車椅子のハンドルをとった。
「なんじゃ、つまらないのう」
「では食卓の間まで案内してくれたまえ」
ローリに言われた、ガウカはやむを得ず先を歩く。
「ここじゃよ」
5分くらいかけて、食卓の間にたどり着いた。広い長方形のテーブルに透明のテーブルクロスの下に幾何学模様の柄の撥水性の布がかけられている。椅子も同じような布がかけられている。部屋は広く学校の教室と同じくらいかそれ以上だ。
「座りたまえ」
「「「はい!」」」
椅子は17脚くらいある。
桜歌はチカから降りる。
「食事を並べたまえ」
「それではどうぞ」
カラカラと板前らしき人がカートを押してきた。
寿司から始まり、タコのカルパッチョサラダ、かぼちゃのサラダ、大根サラダ、鯛の姿焼き、鮭のムニエル、そばや天ぷらの舟盛り、なめこと豆腐の味噌汁、色とりどりのパンはチョコや杏ジャムなど、フランスパン、更に日本の米のご飯もある。いちご、ぶどう、メロンなど果実も様々ある。
さらに赤ワインとシャンパン、ハイボールまである。
「あっし、これしか用意できませんでした、すみません」
「大丈夫、残してももったいないからね」
ローリはにっこり微笑む。
「ありがとうございます」
「下がりたまえ」
カナとアリアとイセリとリンドとダイチがたって見張りをしている。
ローリとガウカは出入り口から一番遠い席の左右に座った。
「さあ、適当に座りたまえ」
太陽達は座りたいところに座った。
チカはレンシの隣だ。
ローリの隣になんのけなしにネニュファールが座った。
「おいメイド、お前は出入り口の付近じゃ」
「いや、もう座ってしまったのなら仕方ないね、いいよ。ここで」
「ロー君!」
「ありがとうございます」
「今日は僕のメイドだから手伝わなくていいよ」
「ありがとうございます」
「なんじゃ、おこがましい、身の程を知れ、この貧乳!」
「ガーさんには言われたくない言葉No.1だね」
「ロー君、酷いのじゃ。今度、桜歌と入れ替わっとくぞい」
「僕は匂いでどちらか判別できるよ」
「わしが臭いってことか?」
「そうではないけど」
「おーい、もう食べていいのか? 言い合いしてるとどんどん冷めてしまうよ」
「うん。ごめん。どうぞ」
ローリは手で示すと、顔の前で手を合わせる。
「「「いただきます」」」
鯛の姿焼きは板前の手によって食べやすく割かれていった。
ゆいなはそばをめんつゆにつけて食べる。
「美味しい!」
ゆいなは食べ物を口へ運ぶ手が止まらなかった。
それはローリとガウカ以外は皆同じだった。
ローリはおしとやかに少しづつ食べている。どちらかと言うと温かいお茶の方を好んで飲み込んでいるようだ。
ガウカはそんなローリに熱い視線を送っている。
ネニュファールはそのことを知ってか知らずかガツガツ食べている。ローリと視線が合うと笑った目で美味しいということを伝える。
チカもレンシが皿によそった食べ物をぱくつく。
太陽も久々の一流の板前の料理に思わず舌鼓をうった。
ものの15分ですべての料理が綺麗さっぱりなくなった。
次いで、出店で買った料理もテーブルの上に置かれた。
ローリがりんご飴をペロペロ舐めている。
美優は目の前の唐揚げを見ながら、お腹をおさえている。
大人たちは優雅にお酒を楽しむ。
「お母さんの好きな焼きまんじゅう、食べますか?」
ビオは焼きまんじゅうの入ったパックを持った。
「お腹いっぱいになっちゃった。レンシと食べてね」
「はい、ファンボさん呼んできてもらえますか?」
「はい、ちょうどファンボなら街の復興の休憩中です」
カナはそう言うとその場を後にした。
「もし皆さん、お腹いっぱいでしたら、ファンボさんにあげますがよろしいですか?」
「おお! ええで」
「桜歌は?」
「大丈夫」
「もう満腹じゃ」
ガウカの声に皆、首を縦に振った。
「おと、ファンボさん、これどうぞ、皆で食べてください」
ファンボはやってきてそうそう出店の食べ物を手荷物にして渡された。
ビオは用を済ませたかのようにお茶を一口。
「え、僕、呼ばれて、え?」
「もう行って大丈夫です」
「クライスタルに帰るときは僕も帰りますから。陛下のしばらく休んでいいとの許可いただきましたので皆に渡すついでに伝えてきます」
「分かりました」
「後20分したら行こうぜ」
「ファンボさん、20分後、城の中庭へ来てください」
「はい」
「日本に帰る組は帰ろうぜ」
「私、クライスタルまでビオさんとチカさんとファンボさんを送り届ける」
「ほう、城の兵士の気概かい?」
「はい! 必要とあらば、私はリコヨーテ民の矛となり盾になります」
「では、わたくしとカナで小舟を漕いで行きます」
「わいもクライスタルまで行くで」
太陽、美優、美亜、桜歌、翔斗はネニュファールとカナについていった。
シャクシャク。
ローリは微動だにせずりんご飴をかじっている。
「ろ、いや陛下は来てくださいますか?」
「……僕は、今すごく眠くて、すごーく無能だから行かないよ」
ローリは耳がフェレット化している。しばらく風が吹くと同時にローリは完全にフェレットの半月風になった。バタリと倒れ込んだ。
「後は任せるのじゃ。イセリ、緊急任務じゃ、正幸とチカとファンボとビオと柳川ゆいなをクライスタルまで無傷で送り届けるのじゃ」
「はい、女王」
「ロー君、おいでおいで」
ガウカに撫でられたり、揉まれたり、されるがままのローリであった。
そして、ゆいなとイセリとビオとチカは中庭まで出発した。
◇
20分後
レンシは青いアロハシャツでムチムチのボディを守った服装だった。
イセリはあたたかそうな茶色のロングコートを着ている。
青髪のレンシと金髪のイセリは、はたから見れば外国人に見える。
「流石に寒くないか心配だよ、大丈夫?」
チカがレンシを見て言った。
「大丈夫、日本と違って極寒じゃないですから、クライスタルは」
「それもそうね」
「わいもいるで」
正幸を含めた6人は青い膜の中に入っていった。
「行きましょう、ウォレスト」
ビオは振り返り、赤い髪をなびかせながらそういった。
「「「ウォレスト」」」
ハープ、チェロ、トロンボーン、バスクラリネットがゆいなの近くに出てきた。
「ジムノペディですよ」
「はい、せーの」
レンシは合図を出した。
♪
異色のカルテットの音はゆいなの耳に心地よく入っていった。
時折、チェロの音が外れるが、それでも弾ききった。
大樹に青い濁流ができた。
カチ! カチ! カチ!
ビオはチカの車椅子のシートベルトを装着する。
「僕が様子見で行きます」
レンシは言うやいなや、濁流の中へ飛んだ。
「私はチカさんの後に降りるので、お先どうぞ」
「はあ、そうですか」
ビオは解せないと言った顔立ちでチカとともに濁流に突っ込んでいった。
ゆいなもあとに続く。
◇
その場所はジャングルと分かりきっていた。
ゆいなはビオの出している箱の上に乗っている。おそらく、ジャングルに行ったときに上に箱をだしていたのだろう。透明な箱から降りる。2メートルほど下に降りた。
「もうちょっと信用してくださいよー」
「へ? 何がですか?」
「箱は私が出そうと思っていたのですが」
イセリが金髪をひとまとめにして降りてきた。
次に、正幸。
「わいでも同じことすると思うんやけど」
「いいですよ、クライスタルまで早く行かないと……、足止め食らったら大変ですよ」
「そういう事言わないでくださいよー」
「行きましょう」
獣道をチカの車椅子だとぐらついて危なかったので、ビオの箱に車椅子を入れて、レンシがチカを抱っこすることになった。
「あ」
「なんですか」
「向こうの木のそばに赤い2つの目が見えた気がしたんですが」
ニョロニョロ。
小さな、トカゲの月影だった。緑色の背中に金色の筋が光るようにあり、両目は赤かった。
「ウォレスト」
正幸はチェロの斧を出して、トカゲの月影を横に一刀両断した。
ガァ!
トカゲは尻尾を動かせて、生気あふれる身体で逃げようとしている。
「おりゃ」
正幸はもう一撃、トカゲの月影に食らわせた。
その時だった。
ガァ! ガァ! ガァ!
大勢のトカゲの鳴き声がしたと同時に姿を見せたのは大きな2メートルほどの大トカゲの月影と、子トカゲの月影だった。見ているのは正幸。
大トカゲの月影は尻尾を振り回す。その尻尾に張り付いた子トカゲの月影が正幸に翔んでいき、まとわりつこうとする。
「パース!」
正幸はヤシの木のような絵柄の箱を出した。
ビタン! ビタン!
「ウォレ」
ビーーーー!!
イセリがバスクラをくるくると回りながら吹く。緑色の光が大きなウツボカズラの食虫植物を8個作った。
正幸は噛みつこうとしてくる子トカゲの月影をイセリに投げた。
バスクラにはたき落とされ、ウツボカズラに入った。
ガァ!
大トカゲの月影が業を煮やし、体当たりしてきた。
運の悪いことにレンシとチカが狙われた。
「パース」
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(そう言えば、ローリが金貨を入れてレンシの箱から願い石を作っていた)
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ドン!
チカは木にぶつかり、レンシは投げ出されて2メートルくらいから切り株の集合地帯に落っこちた。
「ぐああ」
「うう」
「レンシさん! 無事ですか?」
「……おかしいです、左半身が動きません」
レンシは片足立ちのようにフラフラしている。
だらりと垂れ下がった左腕。
「一度逃げて体制を整えよう」
ゆいなの発言はどうやら無駄のようだ。
「避けて、危ない、レンシさん」
もう一度、大トカゲの月影がレンシに子トカゲの月影を飛ばしてくる。
チカが手を大きく広げて、レンシを守った。
そのかいあって、小トカゲの月影がチカの腕や足に噛み付いている。
チカは前に倒れていった。
「わいを忘れるな」
応酬のように正幸はチェロの斧をぐるぐる体ごと回して、そして、放った。
チェロの斧はオオトカゲの顔面に突き刺さる。
ガーーーァ
「なんの演奏をするんや? Jポップスだと、スイートメモリーズなんてどや?」
「吹けるよー」
「ビオは、あかんのやな」
ビオはレンシとチカのもとに走り寄っている。
「お父さん、お母さん!」
「僕は大丈夫、チカは?」
レンシはチカに食らいつくトカゲをもぎ取ってイセリの方へ投げる。
血が恐ろしいほどに海のように出ていた。
「そうだ願い石」
レンシはポケットから小さな願い石を取り出した。
「脳梗塞なのだから傷を治しても」
「大丈夫だよ。……僕の体を生贄に使って、チカさんの身体を、魂を、私と一心同体にしてください」
レンシはそっとキスをした。
光が瞬いた。
その刹那、曲が聞こえる。
♪
松田聖子のスイートメモリーズだ。
音達は辺りが光ってもとどまることを知らないようだ。
光るのが止み、見るとチカがいなくなっていた。
その代わり、レンシが倒れている。
「お父さん。お母さんはどうなったの?」
「ビオ、私もう、頭が痛くないのよ」
レンシのようでチカのような声をした人が喋りだした。
「お母さん?」
「私の中にお父さんがいて、そして、いつでも成り代わることが可能のようね」
「これで、良かったのですね!」
「後は残りのトカゲの月影をなんとかしないと、ウォレスト」
レンシのマスクをしている人はトロンボーンのマウスピースに口元をあてがう。
「離れてなさい」
ベーーーー!
氷の刃は数多く生成されて子トカゲの月影に刺さっていく。
演奏している正幸、イセリはトカゲの月影の血や肉片を金貨、銀貨、銅貨、貴金属、装飾品、宝石などに変えていた。
そのうちに、月影は骨だけを残し、いなくなっていた。
「帰りましょうか」
「うん、そうだね」
「はい」
「行きましょう」
「守れきれんくてすまなかったな」
「そんな事言わないでくださいな、もっと早くこうしておけばよかったんです」
「それはレンシさんの意見? チカさん?」
「これはね……」
◇
ゆいなは4人をクライスタルまで送り届けると城に帰る事になった。
「今日は新たな発見がありました」
「なんのー?」
「2人が助かってよかったということ、色々な家族の形があることです」
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新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
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