80 / 100
第4章 ゆいなの歩く世界
20 チェロを弾く人達
しおりを挟む
「ビオが言う事聞くかが問題だけどな」
「本人は言いませんが、すごく着たそうにしていましたので大丈夫です」
ネニュファールは目を細めると皆の後方に立つ。
「もう決定事項なんだけど彼女も来るの?」
「ネニュファールも日本で行われるお祭りに来るかい?」
「もちろんですわー!」
ネニュファールは声高らかに言った。
「ビオさんにはサプライズでいいね?」
「喜ぶと思うよ」
「そうだ、柳川さんのチェロの腕を鍛えるように、ダイチ君に頼んどいたんだ、今呼ぶね」
ローリはケータイを内ポケットから出し、通話し始める。
『もしもし、僕だけどダイチ君今、何してる?』
『陛下、僕は今、リコヨーテの破壊された家の修繕に来てます』
『僕の名前出していいから、3時間くらい、相手してくれるかい?』
『僕が? なんの相手すれば?』
『チェロを弾きたいんだけど基本的なことから分かってない子がいてね、君なら教えるのうまそうだしドーリーと比べて』
『わかりました、2時間教えて、後の1時間は交通時間にさせてください』
『うん、それで構わないよ。それでは失礼』
ローリは電話を切った。
「あ、ところで太陽君、バイト先に半月が出て店が破壊されてしまったの、暫く休むように言われてるんだけど」
「ありがとうございます、もう連絡は来ましたよ」
「そう」
「はい」
太陽は頭を垂れる。
「やだ、怒ってないよ」
「そうですか」
太陽はきまり悪そうにあたりを見渡す。キラキラした装飾や真っ白な壁紙や生花が生けられていた。
皆が廊下を歩いていると、少女のような格好のガウカが太陽に半身ぶつかり、ローリに抱きついた。
「ウッ!」
「わあ」
「ロー君、やっと捕まえた」
「どうしたんだい?」
「どうしてもこうしてもないのじゃ、ロー君、世界樹の膜にコロが入って消えたのじゃ」
「ええ! それで?」
「どこに行ったのか、分からないのじゃ」
ガウカは相当焦っているように顔面蒼白だ。
「いや、いるな、ガーさん」
「なんじゃ? どこかに隠れているおるんか?」
「小舟を出してやりたまえ」
ローリはネニュファールを見た。
「かしこまりました」
ネニュファールはローリを真剣に見つめると振り返って行った。
「なんだよ、外に出ただけか、ああ、びっくりした」
太陽とゆいなはローリの方を見た。顔を伏せているローリは無表情だ。
(怒っているのか?)
しばし、その場で皆固まったかのように動かない。
ガウカ何かを察したようで、その場からいなくなった。
ネニュファールと同じくらいの身長のコロが首をかきながらやってきた。
「コロじゃないか、お散歩は楽しかったかい?」
ローリはニコッと笑って話しかける。
「良い息抜きになりましたよ。陛下も、シチリアーノ奏して見たらいかがですか」
「良い息抜きか、その間は休んでいられて何しに行ったんだい?」
「女の子ナンパしに行きました。陛下もどうですか? ちょっと粉かけてみませんか?」
「誰が! 粉かけるだ! この野郎!」
ローリが明るい口調から、冷たい口調に変わり叫んだ。
ローリのギラギラした目は一心にコロを見ている。
「毒兵器作るのに、モルモットができた。コロ、君はもう炭鉱に行かなくていい、代わりに行くところができたから。ネニュファール、例の場所に連れていきたまえ」
「いや、その、すみません、もうしませんから」
コロは口をおさえてどもって答える。
「行きますわ」
ネニュファールは狼狽しながらも責務を果たそうと頑張っているのが伝わってくる。
「私達も行きます」
「ほう、君達には関係のない話だよ、僕を冷やかさないでくれたまえ」
「ギャアアア」
コロはネニュファールに催涙スプレーをかけられて足を足の甲で押しつぶされている。そして、ネニュファールは抱えて連れて行こうとした。
「君、ネニュファールに密着しすぎてる! よっ!」
ローリはコロのみぞおちを蹴り上げると、コロはのされた。
「やっぱり、僕が運ぶよ。リコヨーテのどこに出たのかも知りたいからね。君は地下室に彼らを案内してやってくれ。パース」
ローリは箱の中から大きめの巻物をネニュファールに渡した。
「ありがとうございますわ、さあ、行きましょうか」
「コロはどこに連れてかれるの?」
「世の中には知らないほうが幸せなこともあります。知ってはならないと言う方が過言ではありません」
「ローリを怒らせないように気をつけよう」
太陽はため息がちに言った。
ゆいなも同じように息を大きく吸い込んだ。
「こちらですわ」
どこかに向かうネニュファールの後に続くゆいな達。ローリとは逆方向だ。
皆が口を開くことなく、薔薇のトンネルがある中庭につくと、ドーリーの姿もあった。
「ドーリー」
「ダイチが到着する前にチェロを教えろと陛下に言われてきただけだが、どいつだ?」
「私です。柳川ゆいなです」
「ゆいな、まずは手入れからだ」
ドーリーにいきなり名前を呼ばれて、ゆいなはドキッとする。
「ローリがいないと口調荒いな」
「陛下だ」
「ああ、そういえばそうだった」
太陽は額に手を当てる。
「いや、まずは地下室を作ろう。ウォレスト」
太陽は巻物を広げるとキーボードピアノを出した。
♪
キイちゃんはまるで謳われるように弾かれた。
「綺麗ね」
ゆいなは思った通りのことを言った。
美優は口を閉ざしたまま、太陽を見守っている。
そのうちに段々と巻物が階段へと変わり、ぼやけた巻物は上の巻く部分を残して、階段となった。
「私が先に行きます」
ネニュファールは1番に降りていく。皆は後から降りる。
中はやはり白い空間だ。
(チェロを弾くには椅子が必要だ)
ゆいなはそう思っているとアロハシャツに黒いズボンを着ている、ドーリーはフロートチェアの萎んだ物をズボンのポケットから取り出した。
「チェリストなら、持っていないといかんのだ」
ドーリーは言い終えると空気入れの代わりに口で空気を含ませる。それだけに空気を入れる部分もでかいので簡単に空気が入っていく。
「椅子なら俺が貸すよ、ウォレスト」
太陽はピアノの椅子をゆいなに差し出した。
黒くて四角く、高さも調節できる椅子だ。
「あ、ありがとう。ウォレット・ストリングス」
ゆいなはお礼を言うとチェロを出した。
「ウォレスト」
ドーリーも武楽器を出した。
「じゃあ始めは構えから」
「はい」
「左側で足を固定するように」
ドーリーは見本を見せるのでゆいなは真似る。
「チューニングも大事だ」
ドーリーはポケットからチューナーを取り出して音を正していく。ゆいなのチェロも例外なく音を変えてもらった。
「俺がまず弾くから」
♪
無伴奏チェロ組曲第1番、だった。
(うまい、音は外れることを知らない)
ゆいなはじっと聴いていた。
「ここまでできれば上出来だ」
ドーリーはどうだと言わんばかりの顔をする。
「1回挑戦してみろ」
ドーリーが言うのでゆいなは仕方なく弦に弓を当てる。
ギョロロ
「力込め過ぎだし、垂直に弓を当てられてないぞ」
それから特訓が始まった。
◇
30分後
♪
「それで僕、教えに来たんですけど。初心者なのに、もうきらきら星弾けるなんてすごいですね。僕の教えることないじゃないですか? ボーイングと指板に貼ったマスキングテープの位置を正確に捉える事ができれば完璧です」
ダイチは目を見開いてそう言った。
ゆいなは軽く頭を下げると、弓を動かした。弓の位置が下過ぎたり、上すぎたりする。しかし、この後の2時間で、飛躍的に技術を上げた。
「もう時間ですね、それでは僕は持ち場に戻らせていただきますね」
ダイチは茶色の腕時計をみやった。
「もう時間なんですね」
ゆいなは汗をかくほど真剣に取り組んでいた。
「陛下に戻ると伝えてきます」
「あ、ありがとうございました!」
ゆいなは少し自信がついた。チェロの弦を触れていた手に豆ができている。
ダイチは手をふると引き返して行った。
「そろそろ帰ろうよ」
美優は珍しくぼやいた。どうやらシルバーストラで遊ぶのに飽きたようだ。
「おう、じゃあお暇しましょう、柳川さん」
「帰るのね」
「後はお家で練習しな」
そばで見ていたドーリーは階段を上がり始める。
「ドーリーさんもありがとうございます」
「へへ」
ドーリーは空気の抜けるかのように笑ってどこかに行ってしまった。
「じゃあね、シルバーストラ」
美優はお別れを告げると階段を上がっていった。皆、それに続いた。
「本人は言いませんが、すごく着たそうにしていましたので大丈夫です」
ネニュファールは目を細めると皆の後方に立つ。
「もう決定事項なんだけど彼女も来るの?」
「ネニュファールも日本で行われるお祭りに来るかい?」
「もちろんですわー!」
ネニュファールは声高らかに言った。
「ビオさんにはサプライズでいいね?」
「喜ぶと思うよ」
「そうだ、柳川さんのチェロの腕を鍛えるように、ダイチ君に頼んどいたんだ、今呼ぶね」
ローリはケータイを内ポケットから出し、通話し始める。
『もしもし、僕だけどダイチ君今、何してる?』
『陛下、僕は今、リコヨーテの破壊された家の修繕に来てます』
『僕の名前出していいから、3時間くらい、相手してくれるかい?』
『僕が? なんの相手すれば?』
『チェロを弾きたいんだけど基本的なことから分かってない子がいてね、君なら教えるのうまそうだしドーリーと比べて』
『わかりました、2時間教えて、後の1時間は交通時間にさせてください』
『うん、それで構わないよ。それでは失礼』
ローリは電話を切った。
「あ、ところで太陽君、バイト先に半月が出て店が破壊されてしまったの、暫く休むように言われてるんだけど」
「ありがとうございます、もう連絡は来ましたよ」
「そう」
「はい」
太陽は頭を垂れる。
「やだ、怒ってないよ」
「そうですか」
太陽はきまり悪そうにあたりを見渡す。キラキラした装飾や真っ白な壁紙や生花が生けられていた。
皆が廊下を歩いていると、少女のような格好のガウカが太陽に半身ぶつかり、ローリに抱きついた。
「ウッ!」
「わあ」
「ロー君、やっと捕まえた」
「どうしたんだい?」
「どうしてもこうしてもないのじゃ、ロー君、世界樹の膜にコロが入って消えたのじゃ」
「ええ! それで?」
「どこに行ったのか、分からないのじゃ」
ガウカは相当焦っているように顔面蒼白だ。
「いや、いるな、ガーさん」
「なんじゃ? どこかに隠れているおるんか?」
「小舟を出してやりたまえ」
ローリはネニュファールを見た。
「かしこまりました」
ネニュファールはローリを真剣に見つめると振り返って行った。
「なんだよ、外に出ただけか、ああ、びっくりした」
太陽とゆいなはローリの方を見た。顔を伏せているローリは無表情だ。
(怒っているのか?)
しばし、その場で皆固まったかのように動かない。
ガウカ何かを察したようで、その場からいなくなった。
ネニュファールと同じくらいの身長のコロが首をかきながらやってきた。
「コロじゃないか、お散歩は楽しかったかい?」
ローリはニコッと笑って話しかける。
「良い息抜きになりましたよ。陛下も、シチリアーノ奏して見たらいかがですか」
「良い息抜きか、その間は休んでいられて何しに行ったんだい?」
「女の子ナンパしに行きました。陛下もどうですか? ちょっと粉かけてみませんか?」
「誰が! 粉かけるだ! この野郎!」
ローリが明るい口調から、冷たい口調に変わり叫んだ。
ローリのギラギラした目は一心にコロを見ている。
「毒兵器作るのに、モルモットができた。コロ、君はもう炭鉱に行かなくていい、代わりに行くところができたから。ネニュファール、例の場所に連れていきたまえ」
「いや、その、すみません、もうしませんから」
コロは口をおさえてどもって答える。
「行きますわ」
ネニュファールは狼狽しながらも責務を果たそうと頑張っているのが伝わってくる。
「私達も行きます」
「ほう、君達には関係のない話だよ、僕を冷やかさないでくれたまえ」
「ギャアアア」
コロはネニュファールに催涙スプレーをかけられて足を足の甲で押しつぶされている。そして、ネニュファールは抱えて連れて行こうとした。
「君、ネニュファールに密着しすぎてる! よっ!」
ローリはコロのみぞおちを蹴り上げると、コロはのされた。
「やっぱり、僕が運ぶよ。リコヨーテのどこに出たのかも知りたいからね。君は地下室に彼らを案内してやってくれ。パース」
ローリは箱の中から大きめの巻物をネニュファールに渡した。
「ありがとうございますわ、さあ、行きましょうか」
「コロはどこに連れてかれるの?」
「世の中には知らないほうが幸せなこともあります。知ってはならないと言う方が過言ではありません」
「ローリを怒らせないように気をつけよう」
太陽はため息がちに言った。
ゆいなも同じように息を大きく吸い込んだ。
「こちらですわ」
どこかに向かうネニュファールの後に続くゆいな達。ローリとは逆方向だ。
皆が口を開くことなく、薔薇のトンネルがある中庭につくと、ドーリーの姿もあった。
「ドーリー」
「ダイチが到着する前にチェロを教えろと陛下に言われてきただけだが、どいつだ?」
「私です。柳川ゆいなです」
「ゆいな、まずは手入れからだ」
ドーリーにいきなり名前を呼ばれて、ゆいなはドキッとする。
「ローリがいないと口調荒いな」
「陛下だ」
「ああ、そういえばそうだった」
太陽は額に手を当てる。
「いや、まずは地下室を作ろう。ウォレスト」
太陽は巻物を広げるとキーボードピアノを出した。
♪
キイちゃんはまるで謳われるように弾かれた。
「綺麗ね」
ゆいなは思った通りのことを言った。
美優は口を閉ざしたまま、太陽を見守っている。
そのうちに段々と巻物が階段へと変わり、ぼやけた巻物は上の巻く部分を残して、階段となった。
「私が先に行きます」
ネニュファールは1番に降りていく。皆は後から降りる。
中はやはり白い空間だ。
(チェロを弾くには椅子が必要だ)
ゆいなはそう思っているとアロハシャツに黒いズボンを着ている、ドーリーはフロートチェアの萎んだ物をズボンのポケットから取り出した。
「チェリストなら、持っていないといかんのだ」
ドーリーは言い終えると空気入れの代わりに口で空気を含ませる。それだけに空気を入れる部分もでかいので簡単に空気が入っていく。
「椅子なら俺が貸すよ、ウォレスト」
太陽はピアノの椅子をゆいなに差し出した。
黒くて四角く、高さも調節できる椅子だ。
「あ、ありがとう。ウォレット・ストリングス」
ゆいなはお礼を言うとチェロを出した。
「ウォレスト」
ドーリーも武楽器を出した。
「じゃあ始めは構えから」
「はい」
「左側で足を固定するように」
ドーリーは見本を見せるのでゆいなは真似る。
「チューニングも大事だ」
ドーリーはポケットからチューナーを取り出して音を正していく。ゆいなのチェロも例外なく音を変えてもらった。
「俺がまず弾くから」
♪
無伴奏チェロ組曲第1番、だった。
(うまい、音は外れることを知らない)
ゆいなはじっと聴いていた。
「ここまでできれば上出来だ」
ドーリーはどうだと言わんばかりの顔をする。
「1回挑戦してみろ」
ドーリーが言うのでゆいなは仕方なく弦に弓を当てる。
ギョロロ
「力込め過ぎだし、垂直に弓を当てられてないぞ」
それから特訓が始まった。
◇
30分後
♪
「それで僕、教えに来たんですけど。初心者なのに、もうきらきら星弾けるなんてすごいですね。僕の教えることないじゃないですか? ボーイングと指板に貼ったマスキングテープの位置を正確に捉える事ができれば完璧です」
ダイチは目を見開いてそう言った。
ゆいなは軽く頭を下げると、弓を動かした。弓の位置が下過ぎたり、上すぎたりする。しかし、この後の2時間で、飛躍的に技術を上げた。
「もう時間ですね、それでは僕は持ち場に戻らせていただきますね」
ダイチは茶色の腕時計をみやった。
「もう時間なんですね」
ゆいなは汗をかくほど真剣に取り組んでいた。
「陛下に戻ると伝えてきます」
「あ、ありがとうございました!」
ゆいなは少し自信がついた。チェロの弦を触れていた手に豆ができている。
ダイチは手をふると引き返して行った。
「そろそろ帰ろうよ」
美優は珍しくぼやいた。どうやらシルバーストラで遊ぶのに飽きたようだ。
「おう、じゃあお暇しましょう、柳川さん」
「帰るのね」
「後はお家で練習しな」
そばで見ていたドーリーは階段を上がり始める。
「ドーリーさんもありがとうございます」
「へへ」
ドーリーは空気の抜けるかのように笑ってどこかに行ってしまった。
「じゃあね、シルバーストラ」
美優はお別れを告げると階段を上がっていった。皆、それに続いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる