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3章 1年2学期

98話 休みの課題

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「アレシャス、もう一度言ってくれ」


オレは、昨日に引き続き自分の耳を疑った。
今、アレシャスは今後の予定を話してきたんだが、それがとんでもない事だったんだ。


「よく聞いててよねジャケン」


アレシャスは、黒板には書かず口頭で伝えて来る。
これはそれだけ重要で、紙などにも残せないらしいんだが、あのアレシャスがそれほどに警戒しているから、オレたちはハラハラだ。


「いいかい、まずダンジョンのボスを2年生の2学期に発表するのは、ジャケンたちと昨日伝えたよね。次が3年生の2学期で、ケリーたちが同じ部屋同士の接続が可能なのを発表する。これは通路も出来る事をついでに伝えてもらうんだ」


4年では、エマルが畑のモンスターの品種改良を公開。そこまでは良いんだ、オレたちもそれ位は予想が出来た。
しかし、最後のは絶対に不可能だと思ったから聞き返した。


「5年生では、みんなの主力PTに頑張ってもらう。ボスは変更された鬼神で、派手に戦ってもらう予定だよ」
「鬼神を倒すなんて、そんなの無理ですわ!」


オレの心の声をケリーが言ってくれた。
他の者たちも、オレだって頷いてしまう程の事だ。


「ケリーそんなに難しい事じゃないよ。実力の高いPTがいれば勝てなくはない」


アレシャスが頭をコテンって倒して不思議そうに言っている。
その仕草は、可愛いと言わざるをえないのだが、内容はそれどころではないぞ。


「正気かアレシャス、鬼神がどれほどの強さか知っているのか?」
「もちろんだよジャケン、鬼神はオーガのレジェンドクラスで6つ星のモンスターだ。強さは1000万でワイバーンを遥かに越えてるね」


簡単に説明してくるが、オレはかなり頭が痛い。
ワイバーンを倒せるのは、国のトップとされる十騎士様たちだけだ。
姫綺のエメローネ様ならば鬼神も倒せるだろうが、他の者たちでは束になって戦う必要が出て来る。


「正気じゃないぞアレシャス、エメローネ様ならいざ知らず、普通の学生が勝てるわけがない」
「そうなの?僕は倒したけど」
「「「「「えっ!?」」」」」


信じられないことを言って来たが、そう言えばコイツのレベルを思い出してしまった。
アレシャスは、オレたちの装備をドラゴンの鱗で作って来て、自分が出来るんだからと言う奴だったんだ。


「オレたちダンジョン科は、こんな無謀な事を普通科にさせようとしていたんだな」


オレは、今までの自分のして来た事に気づき反省したよ。
騎士たちが弱いのは努力が足りないと、訓練を頑張る様に言うだけだった。しかしアレシャスは、その者たちも強くしながらダンジョンを良くしている。


「これがほんとの責任と言う奴なんだな」


ケリーと話し込んでいるアレシャスを見て、敵わないと正直に思った。
エメローネ様ですら、4000万のドラゴンには敵わない。
アレシャスはそれを軽く凌駕していて、こいつを敵に回さないで良かったと、今はほんとにそう思ってしまった。


「ねぇねぇアレシャス、ほんとにそんなダンジョンが作れるの?」
「た、確かにそうですね。鬼神なんて設置が出来ても弱体化してしまいます」
「そうだよねライラ。弱くなったら勿体ないよ」


確かにと言う空気が流れたが、それはマリアルとライラだけの事だ。
そんな事がアレシャスに分からないわけがなく、しっかりと立証済みなんだよ。


「中ボスを使う様になって、難易度は100を越える様になりましたけど、それまではリザードマンのハードクラスであるウイングリザードマンが最大ですよ」
「ライラの言う通りだよ、女帝様が初めて使えて話題になったばかりだよ。王位を勝ち取るくらいなのに、出来るわけないよ」


ふたりは分かっていない、難易度がそれを説明している。
中ボスで100の壁を越える事が出来たと言う事は、ボスは恐らく200を越えられるんだろう。


「それが出来るのがボス部屋なんだよふたりとも」
「「ほんとに?」」
「うん、身体の大きくないモンスターはそれでほとんどが出現する」
「そ、そうなんだ」
「ちなみにさ、難易度ってどれくらい?」


マリアルの何でも聞けるあの性格は、本来マイナスに働くことが多いはずだが、正直アレシャスに対しては助かっている。
怖くて聞けない事は、全部あいつが勝手に聞いてくれるんだ。


「まぁそこはみんなの頑張りが必要だし、個体差はあるよ。でも、200は超えるね」
「そ、そうなんだ~」
「うん、それに伴ってみんなにもやってほしいことがあります」


アレシャスがオレの方を見て笑顔だ。
オレはすごくいやな予感を感じて、背中の汗が止まらない。何を言うつもりなんだと怖いぞ。


「ジャケンは、信頼の置ける家臣がケーニットしかいないよね?今後のダンジョン強化のために、後2人は作ってください」
「うっ・・・分かったよ」
「頑張ってね。そして全員の課題として、1PTで1つ星のハイエンダクラスを倒せるPTを1つは育成するようにね」
「「「「「え?・・・ええぇーーー!!」」」」」


オレ以外が大声で驚き、全員でイスから立ち上がってアレシャスの所に走った。
そんなこと出来るはず無い、それは家臣を増やせと、無茶振りをされ動けないオレも同じだ。


「ハイエンダを1PTで倒せるって、そんなに難しい?」


アレシャスが、また頭をコテンって倒して不思議そうだ。
その仕草も、今回は可愛いとか言ってる余裕はないぞ。
内容はまず不可能と言える事だからで、どうすればそんな事が出来るんだと、全員からツッコミが入った。


「ハイエンダは最低でも10万の強さですわよアレシャス、不可能ですわ!」
「ケリー様の言うとおりだぞアレシャス!1PTで対抗するとなると30レベルは必要だ。それにスキルや武技も初級ではダメだし、並大抵の努力では覚えられん」


イサベラとケリーが説得の様に説明してくれて、全員で頷いてしまった。
ハイエンダは強い。今回の公表会でも5組のPTでぎりぎりの勝利だった。
だがしかし、アレシャスは呆れた様な顔をしている、そして言ってきたよ。


「スキルや武技に関しては問題ないよ。実技の先生たちには相談済みだし、レベルもその内上がるから問題はない。みんな忘れてるようだけど、僕のダンジョンに入ってるサイラスたちは、既にその課題は済ませてる」
「「「「「あ!?」」」」」


そう言えば、そんな言葉をオレたち全員が発した。
アレシャスの目標は鬼神で、最初からそれを目指していた。


「信じられないが、確かにそうだった」
「そうでしょケーニット、だから出来ないわけじゃないよ」


説得されたオレたちに背を向け、アレシャスは黒板になにやら絵を書き始めた。
それは騎士たちの戦闘パターンだったよ。


「みんなの騎士や魔法士の攻撃を見ると、直線的でモンスターの核を狙った攻撃ばかりだ。フェイントは入れないし、時間を掛けて敵を弱らせるとかもしない、弱点の魔法を使うくらいがせいぜいだよね」


モンスターが核攻撃を嫌がり、他の部分にダメージが溜まるのが絵で分かった。
アレシャスは、そこに弱点である火の魔法を放っている絵を描き、だから倒せていると口にした。


「当然だな、戦いとはそんなものだろう?」
「そうだよ、それの何処がダメなの?核を壊せば一撃で倒せる事だってあるんだよ、その方が早くて楽じゃん、マリアルよく分かんない」
「よく考えてよみんな。核を一撃で壊せるのは、力の差があるときだけで、キングクラスより上のモンスターでは一度も起きてない」


そうだったのかと、アレシャスの話しに反論出来なくなっていた。
敵が守るのが分かってるからこそ、そこを狙うと見せかけて攻撃すれる方法が必要らしい。


「守る箇所にダメージを蓄積させれば、戦闘は楽になる」
「う~ん、そうなのかなぁ~」


マリアルが考え込み過ぎたのか、頭から湯気が出始めた。
オレも戦いを思い返しているが、確かに核を狙っている騎士たちの攻撃を受け、体中傷だらけになったモンスターが思いい浮かんだ。
あれをどこかに集中させると言う事だろう。


「確かに、それが出来れば倒せるかもしれない。しかしなアレシャス、そんな戦いが出来る騎士は、この国で指の数ほどしかいない。お前はそれだけの事を言ってるんだぞ」
「ジャケン、それは今の時点だからだよ。今はそれだけしかいないだけで今後は増えてくるのは見えてる、なにせそういった教育をすることになってるんだからね」


そう言えばそうだったと、アレシャスの深い考えを理解した。
オレがライバルと認めた奴は、ほんとにすごくて追いつけるか心配になって来た。


「それにね、僕は一人でやれとは言ってない。PTで協力してみんなで力を合わせて戦うんだ、出来ない事じゃないよ」


アレシャスはそう言って来たが、1人で倒せる前提な気もした。
そして自分の専属たちの事を話して来て、確かに彼らの戦いは見事だった。


「サイラスたちのレベルは、18から21で30にはほど遠い。それでもハイエンダと対等に戦い勝利してる、それはスキルと武技のおかげだと解説者は言ってたけど、それだけじゃなくて、PTで役割分担をちゃんとしている事こそが重要なんだ」


30レベルでのステータスは平均で3500だ。つまり20満たないレベルの者たちでそれを補い、10万の強さのモンスターを倒す必要が出て来る。
それを可能にするには数で対抗するか、スキルと武技で底上げをし魔法で倒すしかない。学園側は数で対抗しているが、アレシャスは違うんだな。


「アレシャスは、また学園に反抗しようとしていますの?」
「ケリーそれは違うよ、僕は先を考えて行動してるだけなんだよ。ボス部屋を使うようになると難易度が格段に上がって、数ではどうしようもなくなるんだ」


オレは当然とは思わず、不思議に思って唸ってしまった。
ダンジョンをうまく作れるのは、オレたちのような優秀な人材だけだ。


「そ、そんなに変わりますの?」
「うん変わるね。ボス部屋は出来上がっただけで難易度が100を超えるんだ、つまり今のみんなと同じ難易度になる」


だから今のうちに家臣を増やせと言ってくる。しかしそんなに優秀な奴はいない。
出来れば男子で固めたかったが、唯一の男だったアレシャスは、エマルに取られてしまった。


「僕たちがダンジョンに入れられるPTはせいぜい5組、その数でまずはキングの上のハイエンダは倒せないとでしょ?それにみんなはレジェンドの上があるのを知ってるかな?」


アレシャスの答えを聞き、オレたちはちょっとブルッと体が震えた。
その上があるなどと聞いたことがない。


「その上はあるんだよみんな、エンシェントって言うんだ。まぁそれを作るのはまず不可能だけど、僕はそれに挑戦してる。卒業までにそれが作れるかはみんな次第だね」


そんな物が作れるのかと、俺は心臓が早くなり興奮した。
この中ではケリーだけがオレと同じ気持ちで、他のメンバーは嘘か不可能だと思っている。


「ち、ちなみにどれくらい強いの?」
「マリアルはそこに注目するね。エンシェントクラスの一番弱いのは、麒麟というユニコーンだけど、そいつの強さは30億だね」
「ふぇっ!?」


とんでもない数値に、マリアルですら変な声を出していた。
ニコニコしているアレシャスだが、あれが怖くなり聞けなくなるとオレも困るが、ケリーがなんとかするだろうと、家臣の勧誘を検討する事にしたんだ。
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