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その男、初恋泥棒につき
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約束の時間通り、待ち合わせ場所の時計広場に到着したアメリアは、エマはどこかしら? と辺りをきょろきょろと見回す。
「アメリア、こっちよ!」
すると、先に到着していたエマが、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらよく通る声で名前を呼んだ。
今日は執事を連れてきていないらしい。
(きっとエマの執事がいたら、淑女らしくないって叱っていたに違いないわ)
無邪気な親友の姿を視界に入れたアメリアは、アマンダとくすりと笑いあった。
いつも変わらないエマの底抜けの明るさ。
アメリアがどれだけ彼女に救われているか、当の本人はきっと考えたこともないだろう。
駆け寄りたい気持ちを抑え、お淑やかなレディを演じるようにエマの元まで歩みを進めると、アメリアはほっと息を吐いた。
「昨日からずっと楽しみにしてたのよ、早く行きましょう」
「ふふ、そうね。エマがそこまで言うんだもの、私も楽しみだわ」
仲のいい二人は楽しそうに笑い合いながら、女性客で賑わうカフェに入っていった。
入口近くのショーケースには、まるで芸術作品のように綺麗に飾り付けられた色とりどりのケーキがずらっと列を成している。
真っ赤な苺が乗った生クリームたっぷりのケーキが一番人気で、その隣にどっしり構えるチョコレートケーキも美味しそう。フルーツたっぷりのタルトは、ツヤツヤにお化粧されていて一際目を引く。
見ているだけでワクワクする。
席に案内されてメニューを眺めるけれど、アメリアもエマも優柔不断でなかなか決めることができない。
「あぁ、もう全部食べた~い」
「太るわよ」
「わかってるわよ。エイミーったら、いつからそんな意地悪言うようになったのかしら」
やれやれと首を傾げて、お姉さんぶっているエマは放っておいて、アメリアはメニューをぺらぺらと捲り、さっさとどれにするか決めてしまう。
「よし、決めたわ」
「えー、早いよ! もうちょっと悩ませて」
「はいはい、ごゆっくりどうぞ」
まるで姉妹のようなやりとりに、アマンダがにこにこと嬉しそうに微笑む。
(お嬢様が楽しそうで何よりです)
一時期はこの先どうなることかと不安になるぐらい人を寄せ付けず、深く傷ついたことのあるアメリアを最も近くで見てきたからこそ、彼女が楽しそうに過ごしていることがアマンダにとっては涙を浮かべるほど嬉しかった。
長年面倒を見てきた彼女は、誰よりもアメリアの幸せを願っていた。
そんなアマンダにアメリアは声をかける。
「アマンダも決まったの?」
「私は……、」
「いつも遠慮しないでって言ってるじゃない。ほら、早く選んで」
「では、これを……」
「うん、それを選ぶと思っていたわ」
おずおずとメニューを指させば、アメリアはお見通しといったご様子で満足気に頷いた。
お嬢様……! とアマンダが感激に震えている間に、頭を抱えて悩んでいたエマもどれにするか決めたらしい。
ウェイトレスを呼んで注文すれば、途端に手持ち無沙汰になってしまう。
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