トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
12 / 81
言い聞かせてる時点で恋だった

しおりを挟む

 「そうやってずっとひとりで頑張ってきたの?」
 「……え」


 ぽつりと零された言葉にハッとする。
 なんでもないみたいに平気な顔をすることに慣れてしまった自分が動揺する。


 「俺じゃ駄目かな」
 「…………」
 「陽が抱えてきたもの、はんぶんこしてよ」


 突き放したのに、翠は引き下がらない。
 手を握りしめられると、その温もりに頑なだった心が溶かされそう。


 「迷惑かけたくない」
 「迷惑じゃないよ、俺がそうしたいだけ」
 「でも、」
 「うん」
 「……どうせ離れていくなら、最初からひとりがいい」


 僕らに永遠はないから。
 ずっと一緒にはいられない。

 またひとりになると分かっていてその手を取れるほど、僕は強くはなかった。


 「俺は離れないよ」
 「……口では何だって言える」
 「陽が許してくれるなら、ずっとそばにいる」


 甘い言葉が心に響く。
 嘘だ、ありえない。そう分かっているのにこのひとを求めてしまう自分がいた。


 「……駄目です」


 なんとか捻り出した四文字に自分勝手に胸が痛む。頑なな態度を取り続ける僕なんて、早々に見限ってしまえばいいのに。

 それができないのは、翠が優しいから。だからこそ、彼に甘えるわけにはいかなかった。

 すると、翠が何かを思いついたように「あ」と漏らす。


 「ねぇ、陽は家事できる?」
 「ある程度は……」
 「じゃあさ、俺の家のことやってくれない? もちろん、ちゃんと給料は出すから」


 名案だと言わんばかりに翠が笑顔になった。対する僕は、全く想定していなかった提案に口がぽかんと開く。


 「いやいや、そんなのもっと無理ですよ」
 「どうして? このバイトを続けたいのは金銭的な理由でしょ。今より稼げるようにするよ。それに俺は陽の傍にいたい。ほら、お互いに利害が一致するじゃん」


 ぺらぺらと捲し立てられて、頭が混乱する。
 トップアイドル様のくせに、自分が何を言っているのか本当に分かっているのだろうか。


 「……いやです」
 「陽、おねがい」


 握りしめられた手を引っ張られて、抱きしめられる。翠の香りに包まれると、心が揺らぐ。


 「まずは一ヶ月のお試しでいいから」
 「…………諦める気は?」
 「ないよ」
 「はぁ……一ヶ月だけですよ」


 一向に引き下がる気配すらなくて、その熱意に負けた僕が折れるしかなかった。

 渋々了承すれば、「やった」と小さく呟いた翠が抱きしめる腕にぎゅうっと力を込める。圧迫感に「う」と声を漏らせば、それを聞いた翠が謝りながら体を離した。

 それを名残惜しく思うなんて、どうかしてる。

 触れられる度、自分の中で新しい感情が芽生えかけているのを感じていた。だけど、それに蓋をして僕は気づかないふりをする。

 ――翠に惹かれてる。
 そんなこと、ありえない。

 ベータがアルファ様に恋をするなんて、身の程を弁えるべきだろう。
 
 たとえ僕の心が彼を求めていたって、運命にはなれないのだから。これはトップアイドルに優しくされて、ミーハーの心が騒いでるだけ。

 僕は何も始まってない。始められるわけがない。

 言い訳を並べて、必死に言い聞かせている時点で認めてしまっているようなものなのに。翠に出会わなければよかった、そんな心にもないことを思うばかり。


しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...