12 / 51
言い聞かせてる時点で恋だった
4
しおりを挟む「そうやってずっとひとりで頑張ってきたの?」
「……え」
ぽつりと零された言葉にハッとする。
なんでもないみたいに平気な顔をすることに慣れてしまった自分が動揺する。
「俺じゃ駄目かな」
「…………」
「陽が抱えてきたもの、はんぶんこしてよ」
突き放したのに、翠は引き下がらない。
手を握りしめられると、その温もりに頑なだった心が溶かされそう。
「迷惑かけたくない」
「迷惑じゃないよ、俺がそうしたいだけ」
「でも、」
「うん」
「……どうせ離れていくなら、最初からひとりがいい」
僕らに永遠はないから。
ずっと一緒にはいられない。
またひとりになると分かっていてその手を取れるほど、僕は強くはなかった。
「俺は離れないよ」
「……口では何だって言える」
「陽が許してくれるなら、ずっとそばにいる」
甘い言葉が心に響く。
嘘だ、ありえない。そう分かっているのにこのひとを求めてしまう自分がいた。
「……駄目です」
なんとか捻り出した四文字に自分勝手に胸が痛む。頑なな態度を取り続ける僕なんて、早々に見限ってしまえばいいのに。
それができないのは、翠が優しいから。だからこそ、彼に甘えるわけにはいかなかった。
すると、翠が何かを思いついたように「あ」と漏らす。
「ねぇ、陽は家事できる?」
「ある程度は……」
「じゃあさ、俺の家のことやってくれない? もちろん、ちゃんと給料は出すから」
名案だと言わんばかりに翠が笑顔になった。対する僕は、全く想定していなかった提案に口がぽかんと開く。
「いやいや、そんなのもっと無理ですよ」
「どうして? このバイトを続けたいのは金銭的な理由でしょ。今より稼げるようにするよ。それに俺は陽の傍にいたい。ほら、お互いに利害が一致するじゃん」
ぺらぺらと捲し立てられて、頭が混乱する。
トップアイドル様のくせに、自分が何を言っているのか本当に分かっているのだろうか。
「……いやです」
「陽、おねがい」
握りしめられた手を引っ張られて、抱きしめられる。翠の香りに包まれると、心が揺らぐ。
「まずは一ヶ月のお試しでいいから」
「…………諦める気は?」
「ないよ」
「はぁ……一ヶ月だけですよ」
一向に引き下がる気配すらなくて、その熱意に負けた僕が折れるしかなかった。
渋々了承すれば、「やった」と小さく呟いた翠が抱きしめる腕にぎゅうっと力を込める。圧迫感に「う」と声を漏らせば、それを聞いた翠が謝りながら体を離した。
それを名残惜しく思うなんて、どうかしてる。
触れられる度、自分の中で新しい感情が芽生えかけているのを感じていた。だけど、それに蓋をして僕は気づかないふりをする。
――翠に惹かれてる。
そんなこと、ありえない。
ベータがアルファ様に恋をするなんて、身の程を弁えるべきだろう。
たとえ僕の心が彼を求めていたって、運命にはなれないのだから。これはトップアイドルに優しくされて、ミーハーの心が騒いでるだけ。
僕は何も始まってない。始められるわけがない。
言い訳を並べて、必死に言い聞かせている時点で認めてしまっているようなものなのに。翠に出会わなければよかった、そんな心にもないことを思うばかり。
33
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です2
はねビト
BL
地味顔の万年脇役俳優、羽月眞也は2年前に共演して以来、今や人気のイケメン俳優となった東城湊斗になぜか懐かれ、好かれていた。
誤解がありつつも、晴れて両想いになったふたりだが、なかなか順風満帆とはいかなくて……。
イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる