11 / 32
言い聞かせてる時点で恋だった
3
しおりを挟む「……あのさ、お願いがあるんだけど」
「はい」
「このバイトを辞めてほしい」
「……え?」
言うか言わないか悩んで、視線を落として躊躇いがちに言われた言葉を思わず聞き返す。下手に出ようとするその態度はやっぱりアルファらしくない。
「嫌なんだ、また陽がこんな目に遭うのは」
「今日のはたまたまですよ」
「俺が来なかったら、自分がどうなってたか分かって言ってる?」
「…………」
「相手がアルファだったら、陽を傷つけることなんて簡単にできちゃうんだよ」
大袈裟だなぁとへらりと笑ってみせる。
僕みたいな影の薄いベータなんて、アルファのトップに君臨する翠が心配する必要はない。
翠も笑って引いてくれると思ったのに、却って怒らせてしまったらしい。翠の瞳が赤く燃えている。
「お願い、陽に傷ついてほしくないんだ」
「…………」
「ここは君に出逢えたかけがえのない場所だけど、俺の一番は陽だから」
「…………」
「言うこと聞いてよ、ね?」
ぎゅうっと手を握られると、そのぬくもりが沁みて絆されそうになる。
必死に訴えてくるけれど、翠に言われた通りにするわけにはいかない。なぜなら……。
「うち、僕が稼がないと金銭的に厳しいんです……」
「…………」
両親を幼い頃に亡くして、ずっと祖父母に育てられてきた。決して裕福な家庭ではないのに、そんな苦労を見せずに大学まで通えているのは紛れもなく彼らのおかげ。
僕は少しでもお金を稼がないと。
こんなバイト、いつ辞めてもいいとは思っていたけれど、次も決まっていないのに辞めるなんて無謀すぎる。
いつものらりくらり、適当に生きてきたけど、真正面から現実に向き合えば、そう簡単には生きていけないのが事実。リアルは全然甘くない。
翠も金銭的な問題には口出しできないのだろう。真剣な顔で黙り込んだままだ。
これ以上、踏み込ませない。
絆されない。距離を縮めない。
そうしないと、崩れてしまう。
「……深山さんに助けてもらわなくても、僕は大丈夫です。自分でなんとかします」
彼が嫌だと言った呼び方で突き放す。
悲しみの色を宿した瞳が僕を映しているのを見つめていた。自分勝手に我儘に、ちくんと傷ついた心を誤魔化して。
22
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる