トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
8 / 81
夜の帳が下りたあと

しおりを挟む

 「いいよ、いつかは言おうと思ってたし」
 「……深山さん」
 「それやだ、翠って呼んで」
 「でも、」
 「陽には翠って呼ばれたい」


 直々に許可されたといっても、アルファ様を呼び捨てするなんてあまりにも恐れ多い。本人がよくても周りは許さないだろう。

 遠慮する僕を見てむっと唇を尖らせた深山さんは、反抗期の子どものように頑なだ。綺麗な顔いっぱいに「不愉快です」と書いてある。


 「俺がアイドルだから?」
 「そういうわけじゃ……」
 「苗字で呼ぶなんて他人行儀だよ」
 「だって、」


 だって僕らは同じ世界の人間じゃない。
 そう後に続くはずの言葉は口に出せなかった。
 
 アイドルと一般人、アルファとベータ。
 はっきりと目に見えてわかる格差。

 どうしたって僕らの糸が絡まることはないのだから。この距離は縮まらない。

 そんな考えを敏感に感じ取ったのか、彼は苛立ちを隠そうともせず、僕の腕を掴んだ。


 「同じ人間だよ」
 「…………」
 「アイドルだからって、壁を作らないで」
 「…………ごめんなさい」


 差別していたのはどっちだ?
 性別や仕事を言い訳にして、自分は弱者だからと諦めていた。平凡を盾にしていたことが恥ずかしい。

 翠の気持ちを考えれば怒るのも無理はない。素直に謝れば、翠が掴んでいた腕を離した。


 「陽と仲良くなりたいんだ」
 「……僕でよければ」


 真っ直ぐに見つめられれば照れてしまう。
 思わず視線を逸らして返事をすると、翠にぎゅうっと抱き締められる。

 その瞬間、甘くて爽やかなサイダーの香りが鼻腔をくすぐる。

 すっぽり収まる腕の中は居心地がよくて、相変わらずいい匂いだとうっとりしそうになるけれど、すぐに我に返る。


 「あ、え……?」
 「ふふ、かわいい」


 言葉にならない声を漏らしながら、疑問が浮かぶ。友だちの距離感ってこんなだっけ?

 だけど嬉しそうに笑う翠にそんな無粋なことを言えるはずがなくて、僕は大人しくされるがままになっていた。

 胸の奥の方できゅんと何かが鳴ったのは、多分気のせいだ。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...