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夜の帳が下りたあと
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しおりを挟む「いいよ、いつかは言おうと思ってたし」
「……深山さん」
「それやだ、翠って呼んで」
「でも、」
「陽には翠って呼ばれたい」
直々に許可されたといっても、アルファ様を呼び捨てするなんてあまりにも恐れ多い。本人がよくても周りは許さないだろう。
遠慮する僕を見てむっと唇を尖らせた深山さんは、反抗期の子どものように頑なだ。綺麗な顔いっぱいに「不愉快です」と書いてある。
「俺がアイドルだから?」
「そういうわけじゃ……」
「苗字で呼ぶなんて他人行儀だよ」
「だって、」
だって僕らは同じ世界の人間じゃない。
そう後に続くはずの言葉は口に出せなかった。
アイドルと一般人、アルファとベータ。
はっきりと目に見えてわかる格差。
どうしたって僕らの糸が絡まることはないのだから。この距離は縮まらない。
そんな考えを敏感に感じ取ったのか、彼は苛立ちを隠そうともせず、僕の腕を掴んだ。
「同じ人間だよ」
「…………」
「アイドルだからって、壁を作らないで」
「…………ごめんなさい」
差別していたのはどっちだ?
性別や仕事を言い訳にして、自分は弱者だからと諦めていた。平凡を盾にしていたことが恥ずかしい。
翠の気持ちを考えれば怒るのも無理はない。素直に謝れば、翠が掴んでいた腕を離した。
「陽と仲良くなりたいんだ」
「……僕でよければ」
真っ直ぐに見つめられれば照れてしまう。
思わず視線を逸らして返事をすると、翠にぎゅうっと抱き締められる。
その瞬間、甘くて爽やかなサイダーの香りが鼻腔をくすぐる。
すっぽり収まる腕の中は居心地がよくて、相変わらずいい匂いだとうっとりしそうになるけれど、すぐに我に返る。
「あ、え……?」
「ふふ、かわいい」
言葉にならない声を漏らしながら、疑問が浮かぶ。友だちの距離感ってこんなだっけ?
だけど嬉しそうに笑う翠にそんな無粋なことを言えるはずがなくて、僕は大人しくされるがままになっていた。
胸の奥の方できゅんと何かが鳴ったのは、多分気のせいだ。
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