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外伝 男爵令嬢はやり直したくはない
追放令嬢は微笑む
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結局、クララベル男爵は反逆罪に問われてその地位を失い、母は貴族でない娘を男爵令嬢と偽ったということで詐欺の罪で身分剥奪のうえ、かなり離れた僻地の農村での労役となった。
レンブラントは、公爵家での行動から危険な思想を持つ犯罪者とされ、牢獄に繋がれることになる。これから先、生涯そこから出ることは赦されない。
そして私は。
「良かったのですか、挨拶せずに」
ローランドが、馬車の荷台に荷物を積み込みながら言った。
「ええ、いいのよ」
私は馬車を見上げて、微笑む。
ここは、王都でも多くの乗り合い馬車がはしっている通りだ。沢山の人たちに混じって、私は今日、海沿いの町へむかい、そこから先は、船で新大陸へ旅立つ。
今日は子爵(いまはもう男爵ね)と、トリスタンの結婚式がある。だからこそ今日、わたしはここを発つつもりなのだ。
「ねえローランド様、不思議なのですが、わたしは全く怖くありません。むしろ、とても、わくわくしています!」
王妃になってしまってはできなかったこと、みてこなかった世界。ようやく私は、自由をえたのだ。
ふう、とローランドはため息をついた。
「貴方がおもう程、世界は美しいものではないと思いますが」
ふと、ローランドの目の中にほの暗いなにかを感じて、私は首をかしげた。
「一緒にきます?」
そう尋ねると、ローランドはちょっとの間目を瞪って私をみたあと、いいえ、と堅苦しいその制服の胸元へ手を当てた。そこには変わらず近衛騎士のあの、飾りナイフがはいっているのだろう。
一度目は私を、二度めはアイリスを、王家に忠実に護り続けるローランド。
そういえば、私は彼の家族も、経歴も何もしらないのだわ、と少しの間彼を見上げていた。結婚していると言う話しは聞かないし、かといって若くもない。私たちよりは年上だけれど、親という歳でもない。
「ローランド、わたし貴方に手紙を書いてもいいかしら?」
へ?とも、はぁ?ともいえない音がローランドの口から出た。
「いいでしょう?反逆者の娘で、情状酌量されたとはいえ殺人未遂の犯人よ?監視して損はないわよね?」
手紙なんていくらでも偽れるけれど、今のところ嘘を書く予定もない。
ローランドがハア、と気のない返事をしかかったとき、丁度乗り合い馬車の乗車時刻が知らされた。
「騎士団宛にかくわ。じゃあね」
私は自分の手荷物をもち、他のひとたちとひしめき合いながら馬車へ乗り込んだ。
「……ああ、元気で」
ガタンガタンと音をたてて、馬車は発車し、ローランドの姿はやがて見えなくなる。
少し走れば、王都の中心をぬける。男爵邸は右手、奥には壕にかこまれた城門もみえる。
もう、きっとここにもどることはない。
けど、大丈夫。
私がいなくても、この街の美しさが喪われないなら。
私がいなくても、この国が平和でありつづけるなら。
私はどこでだって、頑張れる。わたしはやれるって、証明してみせるわ。
私は、晴れ晴れとした朝に、慣れ親しんだ王都に別れをつげたのだった。
外伝 男爵令嬢はやり直したくはない。 完結
レンブラントは、公爵家での行動から危険な思想を持つ犯罪者とされ、牢獄に繋がれることになる。これから先、生涯そこから出ることは赦されない。
そして私は。
「良かったのですか、挨拶せずに」
ローランドが、馬車の荷台に荷物を積み込みながら言った。
「ええ、いいのよ」
私は馬車を見上げて、微笑む。
ここは、王都でも多くの乗り合い馬車がはしっている通りだ。沢山の人たちに混じって、私は今日、海沿いの町へむかい、そこから先は、船で新大陸へ旅立つ。
今日は子爵(いまはもう男爵ね)と、トリスタンの結婚式がある。だからこそ今日、わたしはここを発つつもりなのだ。
「ねえローランド様、不思議なのですが、わたしは全く怖くありません。むしろ、とても、わくわくしています!」
王妃になってしまってはできなかったこと、みてこなかった世界。ようやく私は、自由をえたのだ。
ふう、とローランドはため息をついた。
「貴方がおもう程、世界は美しいものではないと思いますが」
ふと、ローランドの目の中にほの暗いなにかを感じて、私は首をかしげた。
「一緒にきます?」
そう尋ねると、ローランドはちょっとの間目を瞪って私をみたあと、いいえ、と堅苦しいその制服の胸元へ手を当てた。そこには変わらず近衛騎士のあの、飾りナイフがはいっているのだろう。
一度目は私を、二度めはアイリスを、王家に忠実に護り続けるローランド。
そういえば、私は彼の家族も、経歴も何もしらないのだわ、と少しの間彼を見上げていた。結婚していると言う話しは聞かないし、かといって若くもない。私たちよりは年上だけれど、親という歳でもない。
「ローランド、わたし貴方に手紙を書いてもいいかしら?」
へ?とも、はぁ?ともいえない音がローランドの口から出た。
「いいでしょう?反逆者の娘で、情状酌量されたとはいえ殺人未遂の犯人よ?監視して損はないわよね?」
手紙なんていくらでも偽れるけれど、今のところ嘘を書く予定もない。
ローランドがハア、と気のない返事をしかかったとき、丁度乗り合い馬車の乗車時刻が知らされた。
「騎士団宛にかくわ。じゃあね」
私は自分の手荷物をもち、他のひとたちとひしめき合いながら馬車へ乗り込んだ。
「……ああ、元気で」
ガタンガタンと音をたてて、馬車は発車し、ローランドの姿はやがて見えなくなる。
少し走れば、王都の中心をぬける。男爵邸は右手、奥には壕にかこまれた城門もみえる。
もう、きっとここにもどることはない。
けど、大丈夫。
私がいなくても、この街の美しさが喪われないなら。
私がいなくても、この国が平和でありつづけるなら。
私はどこでだって、頑張れる。わたしはやれるって、証明してみせるわ。
私は、晴れ晴れとした朝に、慣れ親しんだ王都に別れをつげたのだった。
外伝 男爵令嬢はやり直したくはない。 完結
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大抵の話に登場する男爵令嬢って障害を疑うほどバカか、病気だと思うほど脳内花畑なパターンが多いけど、この話の子は普通に良い子で、退場シーンも爽やかに去っていて、ストレスが残らずに読了できました。
あんまり断罪厳し過ぎないのも、主人公の令嬢としての名誉とか考えると、まあ仕方ない部分もあるのかなあと。
感想、ありがとうございます。少し前に書いた作品で、色々拙い部分もそのまま載せているのでお恥ずかしいかぎりなのですが、読んでいただけて嬉しいです。とても励みになります!
とても楽しくて、一気読みしてるところです。
サイコで最低なレンブラントには、ぜひともアイリスが味わった飢えと暴力のフルコースを…(泣)
9歳の、女の子の腕を脱臼させるとか、人の心があるならあり得ない。
いま、クロードが、伯母様の領地にあらわれたとこ、なんですが、クロードよりむしろルーファスがかわいくて好きなキャラです。
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