やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや

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レイノルズの悪魔、真相を究明する

悪魔、侯爵令嬢と対決する

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まだお父様とお母様が生きていたころにも、何度かこの屋敷で夜会は催されていた。きらびやかな衣装を身に纏ったお客様が、舞台をみては拍手をしているのを覚えている。

演じられるのは、王国の歴史的な英雄譚の人形劇や、外国の映画。それらは不思議なことに、私にもわかる言葉で話し、うたっていた。私は父の腕のなかで、その不思議な舞台をみていたのだ。うつくしくて、不思議な、わたしの最初の記憶だ。




クロード少年と二曲を躍り終えたわたしは、大広間を出た。
「どこへ行くつもりだい、アイリス」
ルーファスが、ローランドとともに追いかけてきてたずねた。
「ローランド、ルーファスと一緒にいてあげて」
わたしが言うと、ルーファスは眉根をよせて私を見た。
「クロード様がいったでしょ、これっきりにしてもらうのよ」
私は二人にわらいかけた。少しでも余裕があるようにみえているといいけど。


大広間を出て少し歩き、柱の陰のカーテンを潜ったところにある細い階段を登ると、小さな部屋がある。
私とエルは、連れだってそこへ入っていった。

「古い屋敷につきものの、隠し部屋ね。それにしては豪華だけど」
と、エルは箱形のベンチに腰掛け、小部屋につけられた小窓のガラスから大広間の様子を見下ろしている。シャンパンを優雅な手つきで口もとへ運んでいる。

「レンブラントは、来ません」

意を決して私がいうと、
「分かってるわよ、クロード殿下と公爵継嗣様がレミ・クララベルを紹介してほしいと言い出したものだから、私になんか見向きもしなかったわ」
イライラとエルはグラスを噛んだ。

「そう。エルはいつからレンブラントと知り合いだったのかしら」
私がそう言うと、
「何のこと?貴方の家の家令のことなら、今日はじめて会ったのよ?」
チラリと私のほうをみたあと、赤い口もとをひきあげてエルはそっぽをむき、また小窓のしたの招待客を見下ろした。

「ところで、いつまであなたはここにいるつもり?」

蒸し暑いほどの気温なのに、底冷えするような声で、エルが言う。私はよろけながら小窓に近づき、胸元を押さえながら小窓を開けてもいいかとたずねた。
鷹揚にグラスをかかげ、エルはそれにうなづく。私は小窓を限界までおおきくひらいた。

「おっしゃることがわからないのですが」
私が声をふるわせると、エルはけらけらと笑った。

「馬鹿な娘ね、あの老いぼれと一緒に北領へ行って、二度と戻るなと言ったのよ。王宮におまえのような女のいる場所などないわよ」
それからグラスをかたむけてシャンパンを飲み干し、そのグラスをベンチの角にぶつけて割った。

「エル…エリザベス・ローザリア侯爵令嬢さま。私を、どうするおつもりなの?」
私はエルからできるだけ距離をおくために立ち上がって、部屋のすみに立った。
エルはベンチの上にすわったまま、割ったグラスを私のほうへむけて持つ。

「別にどうもしやしないわ。ああ、この間の男性達が、もう一度あなたにご挨拶したいそうよ。前は邪魔がはいったけど、今度こそ全員のお相手をしてほしいと言ってたわよ」

私は両手を組んで、口元へもっていった。
吐息のように、言葉をはきだす。
「あの、男性達は、エルとどんな関係なの?」
「嫌だわ、関係なんてないわよ。ただ、レイノルズの悪魔が私を脅すから、怖いとお父様にお願いしたの。そうしたらお父様が紹介してくれたのよ」
エルの赤い口紅が、艶やかな笑みをかたちづくっているのを、わたしは睨み付けた。

「そんな!真逆じゃないの。なぜそうまでして、私を貶めようとするの?」
ぎゅうぎゅうと自分の両手をにぎりしめて、わたしはたずねた。

「理由なんてたいしたことじゃないわ。ただ、ひとついえるのは、あなたが殺されたレイノルズの娘だってことよ」

ぐらり、と地面が揺れたような気がした。わたしは壁にすがって、ようやく立っていた。
「な、にを、言って…」
「お話はおしまい。さあ、もういいでしょ?二度と私の前に現れないで。そうでないなら、今すぐ死んで」
ぞっとするような声とともに、エルがたちあがった。割れたグラスをこちらに向けたまま、こちらへ一歩ふみだす。

私が避けようとしゃがみこんだとき、
「エリザベス・ローザリア!レイノルズ公爵令嬢への脅迫と暴行未遂で逮捕する!」
ばたばたと足音がして、ローランドと近衛兵が飛び込んでくる。
「どういうことですのこれは!?」
エルがグラスを叩き落とされ、縄をかけられながら、叫ぶ。

「…ここは、隠し部屋ではないのよ、エル。映画や人形劇を吹き替えるための音響部屋なの」
そういって、私はよろよろとベンチまで戻り、小窓をのぞいた。大広間では招待客がこちらを見上げてざわめいている。私はそっと小窓を閉めた。

小窓をあけることで大広間に役者の声を響かせるこの装置は、舞台のためにつくられたものだ。幼い私が不思議におもった仕掛けであり、あの9歳の夏にみつけたこの屋敷の仕掛けのひとつだ。

「後悔させてやるわ、おまえの両親のように、泥にまみれて死ぬがいい!」
縄に引きずられるようにして、わめきたてながらエルは部屋をでていった。
私はよろよろと、壁づたいに階段をおりていき、カーテンを潜って廊下へでた。
ふかく、息をすって呼吸を整えようとする。




その目の前に、トリスが立っていた。
「お嬢さん!またなんて真似したのさ!」
泣きながら、とびついてくる。
「なんであんたはいつもいつも危ない真似ばっかりするのさ!」
廊下に響き渡るほどの声で、どなりながらわたしの腕をバシバシ叩いている。

「あの、痛いわトリス」
「死ぬときはもっと痛いんだよ!」
なみだか鼻水かわからないものを私のドレスになすりつけながら、トリスがぎゃあぎゃあ泣いている。そういえば、こんな素のトリスはもう随分みていない気がする。

「トリス、お客様にみられますから、ね?あなた、ちゃんとした侍女になることにしたのじゃなかったの?」
わたしがなんとかとりなそうとすると、トリスは私のドレスから顔をあげて、
「お嬢さんが言ったんじゃん、出来る侍女しか王宮につれてけないって。けど、当のお嬢さんがこんな、危ないことばっかしてるんじゃ、王宮どころじゃないじゃないか!」
いや、そんなつもりで言ったのではなかったのだけれど。
「ごめんね、トリス」

「トリスタン」
大広間からでてきた人かげが、トリスに声をかけた…クロード少年だ。
「申し訳ないことをした。大事な君の友人に、危険なことをさせたのは僕なんだ。アイリスを責めないでくれ」
へえ、というような声をだして、私のスカートで鼻をかんだトリスがクロード少年をふりかえった。

「なんで王子さまが??」



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