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レイノルズの悪魔、真相を究明する
皇太子の策謀
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夜会の少し前、王城にトリスと行ったあの日、トリスに先に馬車を呼びに行かせて、わたしとクロード少年はクロード少年の書斎にふたりきりでいた。
「君がここにこっそり来てっていうから、ちょっとドキドキしながらついてきたんだけど」
クロード少年は私の座っている寝椅子にちょっと隙間をあけてすわった。
「正直、口づけ位は許してもらえないかなとおもっては、いたんだけど」
ふう、とため息をついて背中をまるめた。
「たぶん、そういうのじゃなさそうだね」
残念、とこちらを見ている。
「申し訳ありません、あの、なんというか…」
私が頬のあたりを掻いていると、待つよ、とクロードは言った。
「あまり得意じゃないけど、それと、あの他の男とはあまり仲良くしてほしくないけど、でも、待つ…だめだな、ごめん、カッコ悪くて」
ごにょごにょいいながら、また俯いてしまう。
クロード少年がなぜ謝っているのかはよくわからないけれど、私との仲を進展させたいと思ってくれているのはわかった。
そして、私の気持ちを汲んでくれようとしていることも……正直、これが上手くいったなら、お礼に口づけくらいしてあげてもいいのだけど。
でも、まだまだ子供だとおもうのよね。
悪い女になった気分だわ。
こほん、とひとつ咳をしてから、
「クロード殿下、わたくし、殿下にお知恵を借りたくてご足労いただいたのですの」
と、姿勢をただした。
「率直に申します、殿下にしかお願いできないのです……わたくしを、助けてくださいませ」
クロード少年は、少しの間まばたきをして私をみていたけれど、次の瞬間
「さっきも言っただろう?私でできることなら、何でもしてあげるよ!」
きらきらの笑顔で、こちらをみた。
一国の皇太子が言う言葉としては、これ以上ない言葉だとおもう。
お願い、というのは、ローザリア侯爵家について教えてほしい、というものだった。
貴族の、しかも王弟の話ということで、誰も聞いていない場所が必要だった。
「どんなことを聞いても、口外しないと誓えるかい?」
クロード少年が、先程とはがらりと表情を変えた。
ローザリア侯爵は、今の王であるクロード少年の父親とは、腹違いの弟で、前の王妃の息子だと『いわれている』人物だと、クロードは言った。
なぜそんな曖昧ないいかたか、というと、前王妃は非常に病弱で、ほとんどを地方の離宮で暮らしていて、しかも何故か前王妃が亡くなったあとにローザリア侯爵は、王子として王宮にやって来たからだ。
勿論後ろ楯になっている貴族たちは彼こそが王妃の息子であり、正統な皇太子だと主張した。
しかし、長く離宮にいた王妃の子供が、本当に王の子かわからない、もし王の子だったとしても、王としての教育もされていないものを王にはできない、と反対する貴族たちがいた。
そのうちのひとりが、レイノルズ公爵…おじいさまだ。激しい論戦のすえ、結局側室の子だったクロード少年の父が王位についた。
「それで、ローザリア侯爵家はレイノルズを良く思っていないわけなのね」
私が頷くと、ああ、とクロード少年は脚をくみかえて、声をひくめた。
「それだけじゃない、南領の貴族を纏めて、反乱を企てているという噂もある」
私はそれをきいて、息を飲んだ。
南領…オックスのいた田舎では、農作物をつくるのを禁じられて、農地で火薬を製造していた。
「リディアおばさまのところでは、何も変わったことはなかったのですが…」
私が両手をあわせて握りしめると、
「まだ噂にすぎないよ、だが、ローザリア家の勢いを殺いでおく必要はあるだろうね」
クロード少年はそういってたちあがった。
「申し訳ないけど、君のこの間の一件は、そういう意味では、好機ではあると思ってる。ローザリア侯爵家には跡を継げるものは一人しかいない…エリザベス・ローザリアだ」
そう言ってから、私の方を見たクロード少年は、あの日のクロード様の顔をしていた。厳しく冷たい、一国を背負った皇太子の顔だ。
「アイリス。君に危険があるかもしれない…それでも協力してくれるかい?」
私は頷き、持ってきていたレイノルズ公爵邸の大広間の見取り図をひろげた。
「君がここにこっそり来てっていうから、ちょっとドキドキしながらついてきたんだけど」
クロード少年は私の座っている寝椅子にちょっと隙間をあけてすわった。
「正直、口づけ位は許してもらえないかなとおもっては、いたんだけど」
ふう、とため息をついて背中をまるめた。
「たぶん、そういうのじゃなさそうだね」
残念、とこちらを見ている。
「申し訳ありません、あの、なんというか…」
私が頬のあたりを掻いていると、待つよ、とクロードは言った。
「あまり得意じゃないけど、それと、あの他の男とはあまり仲良くしてほしくないけど、でも、待つ…だめだな、ごめん、カッコ悪くて」
ごにょごにょいいながら、また俯いてしまう。
クロード少年がなぜ謝っているのかはよくわからないけれど、私との仲を進展させたいと思ってくれているのはわかった。
そして、私の気持ちを汲んでくれようとしていることも……正直、これが上手くいったなら、お礼に口づけくらいしてあげてもいいのだけど。
でも、まだまだ子供だとおもうのよね。
悪い女になった気分だわ。
こほん、とひとつ咳をしてから、
「クロード殿下、わたくし、殿下にお知恵を借りたくてご足労いただいたのですの」
と、姿勢をただした。
「率直に申します、殿下にしかお願いできないのです……わたくしを、助けてくださいませ」
クロード少年は、少しの間まばたきをして私をみていたけれど、次の瞬間
「さっきも言っただろう?私でできることなら、何でもしてあげるよ!」
きらきらの笑顔で、こちらをみた。
一国の皇太子が言う言葉としては、これ以上ない言葉だとおもう。
お願い、というのは、ローザリア侯爵家について教えてほしい、というものだった。
貴族の、しかも王弟の話ということで、誰も聞いていない場所が必要だった。
「どんなことを聞いても、口外しないと誓えるかい?」
クロード少年が、先程とはがらりと表情を変えた。
ローザリア侯爵は、今の王であるクロード少年の父親とは、腹違いの弟で、前の王妃の息子だと『いわれている』人物だと、クロードは言った。
なぜそんな曖昧ないいかたか、というと、前王妃は非常に病弱で、ほとんどを地方の離宮で暮らしていて、しかも何故か前王妃が亡くなったあとにローザリア侯爵は、王子として王宮にやって来たからだ。
勿論後ろ楯になっている貴族たちは彼こそが王妃の息子であり、正統な皇太子だと主張した。
しかし、長く離宮にいた王妃の子供が、本当に王の子かわからない、もし王の子だったとしても、王としての教育もされていないものを王にはできない、と反対する貴族たちがいた。
そのうちのひとりが、レイノルズ公爵…おじいさまだ。激しい論戦のすえ、結局側室の子だったクロード少年の父が王位についた。
「それで、ローザリア侯爵家はレイノルズを良く思っていないわけなのね」
私が頷くと、ああ、とクロード少年は脚をくみかえて、声をひくめた。
「それだけじゃない、南領の貴族を纏めて、反乱を企てているという噂もある」
私はそれをきいて、息を飲んだ。
南領…オックスのいた田舎では、農作物をつくるのを禁じられて、農地で火薬を製造していた。
「リディアおばさまのところでは、何も変わったことはなかったのですが…」
私が両手をあわせて握りしめると、
「まだ噂にすぎないよ、だが、ローザリア家の勢いを殺いでおく必要はあるだろうね」
クロード少年はそういってたちあがった。
「申し訳ないけど、君のこの間の一件は、そういう意味では、好機ではあると思ってる。ローザリア侯爵家には跡を継げるものは一人しかいない…エリザベス・ローザリアだ」
そう言ってから、私の方を見たクロード少年は、あの日のクロード様の顔をしていた。厳しく冷たい、一国を背負った皇太子の顔だ。
「アイリス。君に危険があるかもしれない…それでも協力してくれるかい?」
私は頷き、持ってきていたレイノルズ公爵邸の大広間の見取り図をひろげた。
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