16 / 60
レイノルズの悪魔 南領へ行く
王子様と従僕見習い
しおりを挟む
リディアおばさまの屋敷での生活も、もう2週目に入ろうとしている朝のことだ。私がテラスでおばさまに新聞をよんで差し上げていたら、トリスがバタバタと足音をたててやって来た。
「トリスタン」
咳払いのあと、バートに手で制されてトリスはあわてて深々と頭をさげた。
「どうかしたの?」
この頃はトリスも人前ではちゃんと私の反応を待てるようになってきた。
「お手紙が…あのう…クロード皇太子様からです」
言葉をえらべたのはえらいと思うけど、二人だけだったら『はやくあけなさいよ!』くらい言ってるな、と分かる表情だ。
受け取って、何気ないかおで食事をしていると、トリスはひじで私の脇をつついてきた。
「トリスタン」
またバートに見咎められている。わたしはそのまま食後のお茶を飲み、おばさまと少し話をしてから部屋へ戻った。
「なに、なんてかいてあった?」
私が手紙を読み終わるかどうかの頃に、使用人用の出入口の戸を音をたてて入ってきたトリスは、やっぱりというか、目を輝かせて言った。
「会いたいーとか、書いてあった?」
「まさか!ただ、人を探してるってだけよ。10才くらいの、天使のように清らかで優しい少女で、この間のお茶会に出ていた子って」
なんだそれ、とトリスは鼻で笑い、あんたの婚約者なんでしょ、わたしならホウキで尻を叩いてやるけどね、と言う。
「え、男のひとのおしりを叩くの?」
つい聞き返すと、
「え、見たことない?そういや、あんたも親いないんだもんね…」
と、妙に同情された。いやいや、普通の貴族の夫婦は、ホウキでご主人を叩いたりはしないんじゃないかしら?いや、私もよく知らないんだけど。
「まあ、とにかくあんたは婚約者の王子様に馬鹿にされてんだから、怒っていいはずだってこと!」
と背中を叩かれた。トリスの言うことは私の住む世界とあまりに差がありすぎて、よくわからない。
最近では流星号が疲れない程度にだけど、屋敷の近隣を散策できるようになった。
厩で鞍をつけてもらい、私とルーファスは屋敷から少し離れたところにある湖水まで出掛けることにした。屋敷からさほど離れてはいないけれど、少し高地になるのか涼しいし、流星号とルーファスの馬を待たせておく低木もたくさんあるから最近よく来ているところだ。
「市井のものが皆そのように荒っぽいわけではありませんよ」
ルーファスは困惑しきりといった様子で私に冷たいお茶を差し出した。
「あら、わかっていてよ。でも、ご夫婦となるとやっぱり、そんなにも遠慮がなくなるものかしらと思って」
お礼を言ってお茶をうけとり、ひと口飲んでから首をかしげた。
「そうですね、何でも話せる友人であり、同じ目標に向かう信頼できる相手であることが、必要でしょうから」
そんな風に言われて、ため息が出た。
クロードさまと私の間に、そんな絆はなかった。私はひたすら、どこに出しても恥ずかしくない立派な夫に庇護されて安心したいと願っていて、的外れだった?私はあのとき、本当はどうすべきだったんだろう。
「レディ・レイノルズ!!」
音がするほどの勢いで、手をとられ、ルーファスの顔が目の前に来た。
「どうか気を落とさないでください!僕が言ったのはたんにそうだといい、というだけで、そうでなくてはならないわけではないですから!」
私が昔の思い出を辿っていたのが、落ち込んでみえたのかもしれない。必死の形相で慰められて、ちょっと困って笑いかけてみた。
「大丈夫です、私にはトリスもあなたもいますものね」
そう、見せかけの味方しかいなかったあの頃の私とはちがう、別の生き方もできそうだ。と頷くと、ルーファスは突然赤くなって、はげしく頷いた。
「そう!そうです!ぼくが」
「おまえがなんだって?」
唐突に頭の上から、聞き覚えのあるこえが降ってきた。
「……クロード皇太子!?」
ルーファスのことばに振り向くと、木陰に腕を組んで立っている、クロード少年。
私はあまりにも驚いたので、飛び退いてへたりこんだ。ルーファスも瞬間的に固まったみたいに、地面に伏せて土下座の姿勢になっている。
「やあ、『レミ』」
つかつかと近寄ってきたクロード少年は、私の腕をつかんでルーファスから引き離した。
「それともアイリスと呼ぶかい?」
これには本当に驚いた。だって手紙では、天使を探すよう要請してきていたのに、ほんの2日ほどでいったいどうしてこんな…
「君のおじいさまに同じ手紙を出したんだよ…僕に恥をかかせたうえ、こんなところで堂々と、下僕と逢い引きとはな」
「トリスタン」
咳払いのあと、バートに手で制されてトリスはあわてて深々と頭をさげた。
「どうかしたの?」
この頃はトリスも人前ではちゃんと私の反応を待てるようになってきた。
「お手紙が…あのう…クロード皇太子様からです」
言葉をえらべたのはえらいと思うけど、二人だけだったら『はやくあけなさいよ!』くらい言ってるな、と分かる表情だ。
受け取って、何気ないかおで食事をしていると、トリスはひじで私の脇をつついてきた。
「トリスタン」
またバートに見咎められている。わたしはそのまま食後のお茶を飲み、おばさまと少し話をしてから部屋へ戻った。
「なに、なんてかいてあった?」
私が手紙を読み終わるかどうかの頃に、使用人用の出入口の戸を音をたてて入ってきたトリスは、やっぱりというか、目を輝かせて言った。
「会いたいーとか、書いてあった?」
「まさか!ただ、人を探してるってだけよ。10才くらいの、天使のように清らかで優しい少女で、この間のお茶会に出ていた子って」
なんだそれ、とトリスは鼻で笑い、あんたの婚約者なんでしょ、わたしならホウキで尻を叩いてやるけどね、と言う。
「え、男のひとのおしりを叩くの?」
つい聞き返すと、
「え、見たことない?そういや、あんたも親いないんだもんね…」
と、妙に同情された。いやいや、普通の貴族の夫婦は、ホウキでご主人を叩いたりはしないんじゃないかしら?いや、私もよく知らないんだけど。
「まあ、とにかくあんたは婚約者の王子様に馬鹿にされてんだから、怒っていいはずだってこと!」
と背中を叩かれた。トリスの言うことは私の住む世界とあまりに差がありすぎて、よくわからない。
最近では流星号が疲れない程度にだけど、屋敷の近隣を散策できるようになった。
厩で鞍をつけてもらい、私とルーファスは屋敷から少し離れたところにある湖水まで出掛けることにした。屋敷からさほど離れてはいないけれど、少し高地になるのか涼しいし、流星号とルーファスの馬を待たせておく低木もたくさんあるから最近よく来ているところだ。
「市井のものが皆そのように荒っぽいわけではありませんよ」
ルーファスは困惑しきりといった様子で私に冷たいお茶を差し出した。
「あら、わかっていてよ。でも、ご夫婦となるとやっぱり、そんなにも遠慮がなくなるものかしらと思って」
お礼を言ってお茶をうけとり、ひと口飲んでから首をかしげた。
「そうですね、何でも話せる友人であり、同じ目標に向かう信頼できる相手であることが、必要でしょうから」
そんな風に言われて、ため息が出た。
クロードさまと私の間に、そんな絆はなかった。私はひたすら、どこに出しても恥ずかしくない立派な夫に庇護されて安心したいと願っていて、的外れだった?私はあのとき、本当はどうすべきだったんだろう。
「レディ・レイノルズ!!」
音がするほどの勢いで、手をとられ、ルーファスの顔が目の前に来た。
「どうか気を落とさないでください!僕が言ったのはたんにそうだといい、というだけで、そうでなくてはならないわけではないですから!」
私が昔の思い出を辿っていたのが、落ち込んでみえたのかもしれない。必死の形相で慰められて、ちょっと困って笑いかけてみた。
「大丈夫です、私にはトリスもあなたもいますものね」
そう、見せかけの味方しかいなかったあの頃の私とはちがう、別の生き方もできそうだ。と頷くと、ルーファスは突然赤くなって、はげしく頷いた。
「そう!そうです!ぼくが」
「おまえがなんだって?」
唐突に頭の上から、聞き覚えのあるこえが降ってきた。
「……クロード皇太子!?」
ルーファスのことばに振り向くと、木陰に腕を組んで立っている、クロード少年。
私はあまりにも驚いたので、飛び退いてへたりこんだ。ルーファスも瞬間的に固まったみたいに、地面に伏せて土下座の姿勢になっている。
「やあ、『レミ』」
つかつかと近寄ってきたクロード少年は、私の腕をつかんでルーファスから引き離した。
「それともアイリスと呼ぶかい?」
これには本当に驚いた。だって手紙では、天使を探すよう要請してきていたのに、ほんの2日ほどでいったいどうしてこんな…
「君のおじいさまに同じ手紙を出したんだよ…僕に恥をかかせたうえ、こんなところで堂々と、下僕と逢い引きとはな」
3
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる