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レイノルズの悪魔 よみがえる
突然の窮地
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「お許しくださいお嬢様!これは離れて暮らす家族の写真が入った大切なものですが、公爵さまのご身分に合うような高価なものではございません!」
ロレーヌは首もとに下がっているなにかを握りしめて、突然ひれ伏し、泣きはじめた。すごいわ、この子嘘泣きで涙がだせるんだ。
「ロレーヌ、どうした」
若い侍従のひとりが、優しくロレーヌの肩を抱いて慰める。
「おい、レンブラントさんを呼んでこい。お嬢様がまた侍女をいじめてるぞ」
誰かが言うと、見ていた侍女がひどい、と口を出した。
「わたし、ぜんぶみてましたわ。お嬢様がロレーヌさんを突き飛ばしたんです。ロレーヌさんのロケットが欲しいからって」
ぜんぶみてたなら、ロレーヌが嘘泣きなのもわかってるはずじゃないの?とは言い出せない。
「お嬢様、ここは使用人たちが休む所です。お嬢様のような高貴なかたの来るところではありません」
レンブラントが忙しげに階段をおりてきて
私の腕を捻りあげた。口調は丁寧だけど、9歳の、しかも自分が仕えている家の令嬢にすることではない。
「レンブラント、やめて、痛いわ」
「ロレーヌもそう言ったはずです。さあ、ここから出ていってください」
腕を捻りあげられたまま、使用人棟から連れ出され、石作りの廊下へ放り出された。
使用人棟の扉が閉まる直前、ロレーヌのところへ使用人たちが集まって、慰めたり介抱しようとしているのが見えた。
何とか部屋へ戻ったけれど、足首は腫れてしまっていて、足をうまく動かせなくなってしまった。腕を捻られたからか、肩もじくじくと痛み、どういうわけか寒気がしてきた。
ベッドにもぐりこみ、目をとじる。朝だけど、私を呼びにくるものはいないし、おじいさまも仕事のはず。眠ろう、眠って、起きたらまた頑張ればいい。
……それから、わたしは何度か眠ったり、うっすら目が覚めたりしたけれど、どれくらい眠っていたのかよくわからない。
そのうち、あたりはまた暗くなり、夜が来たらしかった。
「……お嬢様、お館さまがお帰りです、お出迎えを」
ドアの向こうから、ロレーヌの声がした。
『今参ります』そう言おうとするのに、声がでず、咳き込んだ。喉が乾いているけれど、水を汲みに起き上がることもできない。何度かこういうことはあったし、こういうときは大抵…
「お出ましにならないのですね、よろしゅうございます!お館さまがにはそのように伝えておきます」
うん、ほら、ね。ロレーヌやレンブラントの都合のいい理由をおじいさまに知らせて、おしまい。その報告をうけても、おじいさまは気にもとめないのがこの屋敷では通常だ。
次に目が覚めたら、痛みも少しはましになっていると、いいけど。
喉が乾いた。あたまが痛いわ。起き上がろうとしたら、肩にひどい痛みがはしった。
「関節がはずれたそうだ」
おじいさまの声がして、私は慌てて辺りを見回す。
「……お前の侍女とレンブラントがいうには、トリスタンの仲間にやられたとのことだが、当のトリスタンの姿が見えない」
先んじて逃げたようだと厳しい口調でおじいさまは言う。
「いいえ、ちがうんです!トリスは」
「…残念だが、今回は庇えないな、アイリス。レンブラントだけでなく、他の侍従や侍女が皆、見ていたそうじゃないか」
見ていたならどうして誰も私を助けなかったのか、とおもうけれど、おじいさまの様子を見るにとりつく洲もない。
「水を」
おじいさまに命じられてしずしずと水を持って寄ってきたのは、当のロレーヌだ。
「貴女が先に飲んで」
ロレーヌはびくっと怯えたようにこちらを見てから、おじいさまを見た。
「アイリス、お前の侍女ではないか。この娘が知らせてくれなければ、お前の異変もわからなかったんだぞ」
おじいさまに諭され、仕方なく水を受け取り、水を飲んだ。幸運にも、水には何も入れられていないようだ。震える手を抑えて、コップを返すとロレーヌはおじいさまにはわからないようににやりと笑って、
「もう、トリスタンは戻って参りません、ご安心くださいませね、お嬢様」
と言った。
「戻ってきます、必ず」
私が約束したのだもの、と心のなかで呟いた。
「たとえ戻って参りましても、このロレーヌがお嬢様に会わせませんよ」
ロレーヌは垂れ下がる金の髪を後ろへはらいながら、言い切った。
「そうなのね。ねえロレーヌ、なにか甘いものを貰ってきてくれない?」
ロレーヌはそれをきいて不満げに一瞬眉を吊り上げたけれど、けしておじいさまに感づかれないように
「…わかりました、只今お持ちしますわ」
そう言って踵を返し、出入口から出ていった。おじいさまがこの部屋を出ていったことさえわかれば、もう戻っては来ないだろう。
「おじいさま、わたし、トリスタンがどこにいるかしっています」
「……あれは、お前を仲間に襲わせたあと逃げたんだ。お前は信じたくないかもしれないが」
痛む肩を押さえて、体をおじいさまのほうにむけた。
「私、必ず証拠を掴みます、だからレンブラントを一先ず業務から離していただけませんか?」
「何をいうのだ、お前はそんな怪我をしているんだぞ」
どうにも聞き入れては貰えなさそうだ。四面楚歌……こんなことになるなんて想像もしてなかったから、どうしたらいいか…
ふと、あることを思い出した。
「そうですね、大人しく治さなくてはおばさまのところで馬に乗れませんものね」
私が頷きながら、ベッドに横になるとおじいさまは渋い表情ながら頷き、眠りなさいと言った。
「ええ、おやすみなさい、おじいさま」
私は無邪気を装って、笑顔を作った。
ロレーヌは首もとに下がっているなにかを握りしめて、突然ひれ伏し、泣きはじめた。すごいわ、この子嘘泣きで涙がだせるんだ。
「ロレーヌ、どうした」
若い侍従のひとりが、優しくロレーヌの肩を抱いて慰める。
「おい、レンブラントさんを呼んでこい。お嬢様がまた侍女をいじめてるぞ」
誰かが言うと、見ていた侍女がひどい、と口を出した。
「わたし、ぜんぶみてましたわ。お嬢様がロレーヌさんを突き飛ばしたんです。ロレーヌさんのロケットが欲しいからって」
ぜんぶみてたなら、ロレーヌが嘘泣きなのもわかってるはずじゃないの?とは言い出せない。
「お嬢様、ここは使用人たちが休む所です。お嬢様のような高貴なかたの来るところではありません」
レンブラントが忙しげに階段をおりてきて
私の腕を捻りあげた。口調は丁寧だけど、9歳の、しかも自分が仕えている家の令嬢にすることではない。
「レンブラント、やめて、痛いわ」
「ロレーヌもそう言ったはずです。さあ、ここから出ていってください」
腕を捻りあげられたまま、使用人棟から連れ出され、石作りの廊下へ放り出された。
使用人棟の扉が閉まる直前、ロレーヌのところへ使用人たちが集まって、慰めたり介抱しようとしているのが見えた。
何とか部屋へ戻ったけれど、足首は腫れてしまっていて、足をうまく動かせなくなってしまった。腕を捻られたからか、肩もじくじくと痛み、どういうわけか寒気がしてきた。
ベッドにもぐりこみ、目をとじる。朝だけど、私を呼びにくるものはいないし、おじいさまも仕事のはず。眠ろう、眠って、起きたらまた頑張ればいい。
……それから、わたしは何度か眠ったり、うっすら目が覚めたりしたけれど、どれくらい眠っていたのかよくわからない。
そのうち、あたりはまた暗くなり、夜が来たらしかった。
「……お嬢様、お館さまがお帰りです、お出迎えを」
ドアの向こうから、ロレーヌの声がした。
『今参ります』そう言おうとするのに、声がでず、咳き込んだ。喉が乾いているけれど、水を汲みに起き上がることもできない。何度かこういうことはあったし、こういうときは大抵…
「お出ましにならないのですね、よろしゅうございます!お館さまがにはそのように伝えておきます」
うん、ほら、ね。ロレーヌやレンブラントの都合のいい理由をおじいさまに知らせて、おしまい。その報告をうけても、おじいさまは気にもとめないのがこの屋敷では通常だ。
次に目が覚めたら、痛みも少しはましになっていると、いいけど。
喉が乾いた。あたまが痛いわ。起き上がろうとしたら、肩にひどい痛みがはしった。
「関節がはずれたそうだ」
おじいさまの声がして、私は慌てて辺りを見回す。
「……お前の侍女とレンブラントがいうには、トリスタンの仲間にやられたとのことだが、当のトリスタンの姿が見えない」
先んじて逃げたようだと厳しい口調でおじいさまは言う。
「いいえ、ちがうんです!トリスは」
「…残念だが、今回は庇えないな、アイリス。レンブラントだけでなく、他の侍従や侍女が皆、見ていたそうじゃないか」
見ていたならどうして誰も私を助けなかったのか、とおもうけれど、おじいさまの様子を見るにとりつく洲もない。
「水を」
おじいさまに命じられてしずしずと水を持って寄ってきたのは、当のロレーヌだ。
「貴女が先に飲んで」
ロレーヌはびくっと怯えたようにこちらを見てから、おじいさまを見た。
「アイリス、お前の侍女ではないか。この娘が知らせてくれなければ、お前の異変もわからなかったんだぞ」
おじいさまに諭され、仕方なく水を受け取り、水を飲んだ。幸運にも、水には何も入れられていないようだ。震える手を抑えて、コップを返すとロレーヌはおじいさまにはわからないようににやりと笑って、
「もう、トリスタンは戻って参りません、ご安心くださいませね、お嬢様」
と言った。
「戻ってきます、必ず」
私が約束したのだもの、と心のなかで呟いた。
「たとえ戻って参りましても、このロレーヌがお嬢様に会わせませんよ」
ロレーヌは垂れ下がる金の髪を後ろへはらいながら、言い切った。
「そうなのね。ねえロレーヌ、なにか甘いものを貰ってきてくれない?」
ロレーヌはそれをきいて不満げに一瞬眉を吊り上げたけれど、けしておじいさまに感づかれないように
「…わかりました、只今お持ちしますわ」
そう言って踵を返し、出入口から出ていった。おじいさまがこの部屋を出ていったことさえわかれば、もう戻っては来ないだろう。
「おじいさま、わたし、トリスタンがどこにいるかしっています」
「……あれは、お前を仲間に襲わせたあと逃げたんだ。お前は信じたくないかもしれないが」
痛む肩を押さえて、体をおじいさまのほうにむけた。
「私、必ず証拠を掴みます、だからレンブラントを一先ず業務から離していただけませんか?」
「何をいうのだ、お前はそんな怪我をしているんだぞ」
どうにも聞き入れては貰えなさそうだ。四面楚歌……こんなことになるなんて想像もしてなかったから、どうしたらいいか…
ふと、あることを思い出した。
「そうですね、大人しく治さなくてはおばさまのところで馬に乗れませんものね」
私が頷きながら、ベッドに横になるとおじいさまは渋い表情ながら頷き、眠りなさいと言った。
「ええ、おやすみなさい、おじいさま」
私は無邪気を装って、笑顔を作った。
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