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四章 アイ参上!
41話 風斗さん……?
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「ちょっ……ってもうだいぶ遠くにいっちゃった。意外と足速いなあの人」
胸に何か引っかかったような、そんなモヤモヤしたものが残る。
一体彼女は何者だったんだろうと考えているとジップロックに入れていたスマホから着信音が鳴る。
「峰山さんから……あ! 席取るの忘れてた!」
僕は海の家まで走って戻りつつスマホの通話をオンにする。
「生人さん? 今どこですか? どこにもあなたの姿が見当たらないのですが?」
「ご、ごめん! 今戻る!」
こうして僕はもう既に席を取り食べ物などを買い終わっていた二人の元まで戻るのだった。
「なるほど……つまり生人さんは綺麗なお姉さんに見惚れて現を抜かして、あまつさえそのままついて行ってしまったと?」
僕の代わりに席取りをしてくれた二人に感謝を述べ、三人で食事を始め僕は何があったかを説明すると彼女からこのような言葉が返ってきた。
「言葉に棘ない? 僕はただ……」
「いや今回は生人くんが悪いよ。言い訳しない方がいい」
岩永さんが焼きそばを啜りながら僕に対して冷たい視線を向けてくる。必死に状況を説明しようとしても嘘をついて誤魔化している風にしか思われないだろうし、僕は素直に謝りその場を収めようとする。
「今度からはわたくしから離れないでくださいね。少なくともこのイベント中は」
峰山さんがここで購入したドリンクを、ストローで一気に飲み干すように力強く吸う。
「分かった……ごめんなさい」
それから何だかんだで峰山さんは許してくれて、気まずい空気はすぐに晴れ、食べたり遊んだりしているうちに今回のイベントの目玉である新曲発表ライブの時間になる。
「みっんなー! イベント楽しんでくれたー!? 最高で最強のアイドル! アイちゃんの再登場だよ!」
またしても派手なスモークを焚き、その煙の中から凄まじい速度でかっ飛んでくる。
「それじゃあみんなお待ちかねの、新曲お披露目ライブスタート!」
そう言って彼女はトークで盛り上げつつ、持ち歌を歌い場を盛り上げる。盛り上がりが最高潮になったところで新曲を出してくるつもりなのだろう。
実際熱気の上がり方は異様で、僕達もそれに飲み込まれてテンションを上げていた。
隣の鉢巻や団扇などを持ってきているフル装備の男性も狂気的な程に盛り上がっている。
「うぉぉぉぉぉ!! アイ!! 今日も輝いてるよ!!」
応援する隣の男性の声。別におかしなことは何一つ言っていない。普通のよくいるファンの反応だ。
だがそれが妙に気になってしまい、僕はふと隣の男性の顔をチラッと見てしまう。
「あれ? 風斗さん……?」
僕が疑問符をつけてしまうのも仕方がない。そこにはいつもの様子からは想像できない風斗さんがいたのだから。
オタク衣装に姿を包み、冷静でクールな面など欠片もなく叫んでいたのだから。僕も最初はよく似た別人なのかと思ってしまった。
「い、生……人……?」
そしてもしかしたら違う人かも。という考えは彼が返した僕の名前を呼ぶ声で崩される。
そこにいる熱狂的なアイのファンは、間違いなくあのクールな僕の先輩である風斗さんだ。
「ふぅ……どうしたんだ生人こんなところで?」
「いや……えっと……え?」
僕はまともに言葉を返せない。それくらい困惑が酷かった。この前キュリアが謎の装置で変身した時より驚いているかもしれない。
「どうしたんですか生人さん? 横なんか見て? 今ステージでアイさんが歌っ……え、風斗さん? 何でここに?」
ステージを見ていない僕に気づき話しかけた彼女が同様の反応をする。脳内の彼と、今目の前にいる彼との乖離が大きすぎて脳の処理が追いつかなくなる。
「ん? どしたん二人とも? ってかそのイケメンオタク君誰? 知り合いだったの?」
風斗さんを知らない岩永さんだけは認識の乖離が起きてなく混乱しない。
「俺は二人の知り合いではない初対面だ」
「いや流石にそれは無理あるでしょ」
僕は今さら他人のふりをして逃れようとする彼に現実を突きつける。先程僕の名前を言ってしまった時点でもう初対面だと言い張るのは無理だ。
「別にいいだろ俺がアイドル趣味があったとしても」
「それはそうだけど……」
峰山さんが岩永さんに彼のことを説明している間に、僕は彼と当たり障りのない会話をする。
アイの歌声と周りの熱狂に声が飲み込まれつつも、お互い近い距離で話すことで解決する。
「ちょっと意外だなって思っただけよ。別に僕達はとやかく言わないし、今日はこのイベント楽しみましょう!」
「あいつ、俺の妹に似てるんだよ」
何かとやかく言うのも面倒臭くなり、適当に話を切り上げてこのライブを楽しもうとしたところ、今度は彼の方から話を切り出してきた。
「歳も声も性格も、最高のアイドル目指してるってところも。だから何だかあいつと重ねてしまって応援したくなるんだよ」
これはどう反応するべきなのだろうか? 共感するべきか。それとも流してあげるべきなのか。
無視はやめといた方がいいよなと心の中で思い何か言おうとしたが、その声はアイの一際大きい声によって押し潰される。
「さて!! 次に歌う曲はー!?」
大声で歌いながら、更にかなり激しめのダンスをしていたというのに疲労を見せない口振り。その異次元のスタミナは僕も見習いたいほど。
「暗い話をしてしまってすまない。お前の言う通り今はライブを楽しもう」
彼女の声で空気がリセットされ、僕達はまた純粋にこのライブを楽しむことにする。
そう思ったのだが、突如として発生した地震により楽しもうという気は阻害されてしまう。
「ちっ、地震か? せっかくのライブの時に……」
そこそこ激しい地震にアイも歌うの中断して、周りの人達も大きな揺れに戸惑う。中には津波を心配して怯える人の声もしたが、多分津波は来ないだろう。
だってこれはダンジョンが現れたことによって起きた地震なのだから。
ステージ中央の地面からゆっくりと門のようなものが這い出てくる。
胸に何か引っかかったような、そんなモヤモヤしたものが残る。
一体彼女は何者だったんだろうと考えているとジップロックに入れていたスマホから着信音が鳴る。
「峰山さんから……あ! 席取るの忘れてた!」
僕は海の家まで走って戻りつつスマホの通話をオンにする。
「生人さん? 今どこですか? どこにもあなたの姿が見当たらないのですが?」
「ご、ごめん! 今戻る!」
こうして僕はもう既に席を取り食べ物などを買い終わっていた二人の元まで戻るのだった。
「なるほど……つまり生人さんは綺麗なお姉さんに見惚れて現を抜かして、あまつさえそのままついて行ってしまったと?」
僕の代わりに席取りをしてくれた二人に感謝を述べ、三人で食事を始め僕は何があったかを説明すると彼女からこのような言葉が返ってきた。
「言葉に棘ない? 僕はただ……」
「いや今回は生人くんが悪いよ。言い訳しない方がいい」
岩永さんが焼きそばを啜りながら僕に対して冷たい視線を向けてくる。必死に状況を説明しようとしても嘘をついて誤魔化している風にしか思われないだろうし、僕は素直に謝りその場を収めようとする。
「今度からはわたくしから離れないでくださいね。少なくともこのイベント中は」
峰山さんがここで購入したドリンクを、ストローで一気に飲み干すように力強く吸う。
「分かった……ごめんなさい」
それから何だかんだで峰山さんは許してくれて、気まずい空気はすぐに晴れ、食べたり遊んだりしているうちに今回のイベントの目玉である新曲発表ライブの時間になる。
「みっんなー! イベント楽しんでくれたー!? 最高で最強のアイドル! アイちゃんの再登場だよ!」
またしても派手なスモークを焚き、その煙の中から凄まじい速度でかっ飛んでくる。
「それじゃあみんなお待ちかねの、新曲お披露目ライブスタート!」
そう言って彼女はトークで盛り上げつつ、持ち歌を歌い場を盛り上げる。盛り上がりが最高潮になったところで新曲を出してくるつもりなのだろう。
実際熱気の上がり方は異様で、僕達もそれに飲み込まれてテンションを上げていた。
隣の鉢巻や団扇などを持ってきているフル装備の男性も狂気的な程に盛り上がっている。
「うぉぉぉぉぉ!! アイ!! 今日も輝いてるよ!!」
応援する隣の男性の声。別におかしなことは何一つ言っていない。普通のよくいるファンの反応だ。
だがそれが妙に気になってしまい、僕はふと隣の男性の顔をチラッと見てしまう。
「あれ? 風斗さん……?」
僕が疑問符をつけてしまうのも仕方がない。そこにはいつもの様子からは想像できない風斗さんがいたのだから。
オタク衣装に姿を包み、冷静でクールな面など欠片もなく叫んでいたのだから。僕も最初はよく似た別人なのかと思ってしまった。
「い、生……人……?」
そしてもしかしたら違う人かも。という考えは彼が返した僕の名前を呼ぶ声で崩される。
そこにいる熱狂的なアイのファンは、間違いなくあのクールな僕の先輩である風斗さんだ。
「ふぅ……どうしたんだ生人こんなところで?」
「いや……えっと……え?」
僕はまともに言葉を返せない。それくらい困惑が酷かった。この前キュリアが謎の装置で変身した時より驚いているかもしれない。
「どうしたんですか生人さん? 横なんか見て? 今ステージでアイさんが歌っ……え、風斗さん? 何でここに?」
ステージを見ていない僕に気づき話しかけた彼女が同様の反応をする。脳内の彼と、今目の前にいる彼との乖離が大きすぎて脳の処理が追いつかなくなる。
「ん? どしたん二人とも? ってかそのイケメンオタク君誰? 知り合いだったの?」
風斗さんを知らない岩永さんだけは認識の乖離が起きてなく混乱しない。
「俺は二人の知り合いではない初対面だ」
「いや流石にそれは無理あるでしょ」
僕は今さら他人のふりをして逃れようとする彼に現実を突きつける。先程僕の名前を言ってしまった時点でもう初対面だと言い張るのは無理だ。
「別にいいだろ俺がアイドル趣味があったとしても」
「それはそうだけど……」
峰山さんが岩永さんに彼のことを説明している間に、僕は彼と当たり障りのない会話をする。
アイの歌声と周りの熱狂に声が飲み込まれつつも、お互い近い距離で話すことで解決する。
「ちょっと意外だなって思っただけよ。別に僕達はとやかく言わないし、今日はこのイベント楽しみましょう!」
「あいつ、俺の妹に似てるんだよ」
何かとやかく言うのも面倒臭くなり、適当に話を切り上げてこのライブを楽しもうとしたところ、今度は彼の方から話を切り出してきた。
「歳も声も性格も、最高のアイドル目指してるってところも。だから何だかあいつと重ねてしまって応援したくなるんだよ」
これはどう反応するべきなのだろうか? 共感するべきか。それとも流してあげるべきなのか。
無視はやめといた方がいいよなと心の中で思い何か言おうとしたが、その声はアイの一際大きい声によって押し潰される。
「さて!! 次に歌う曲はー!?」
大声で歌いながら、更にかなり激しめのダンスをしていたというのに疲労を見せない口振り。その異次元のスタミナは僕も見習いたいほど。
「暗い話をしてしまってすまない。お前の言う通り今はライブを楽しもう」
彼女の声で空気がリセットされ、僕達はまた純粋にこのライブを楽しむことにする。
そう思ったのだが、突如として発生した地震により楽しもうという気は阻害されてしまう。
「ちっ、地震か? せっかくのライブの時に……」
そこそこ激しい地震にアイも歌うの中断して、周りの人達も大きな揺れに戸惑う。中には津波を心配して怯える人の声もしたが、多分津波は来ないだろう。
だってこれはダンジョンが現れたことによって起きた地震なのだから。
ステージ中央の地面からゆっくりと門のようなものが這い出てくる。
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