カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル

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二章 失った者達と生人の秘密

20話 言葉の裏には針千本

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「へぇ……田所さんってこういう車乗るんですね」
「いやこれ自分のじゃないけど」
「え?」
「知り合いのちょっとパクってきた。だって自分と生人ちゃんの会話が悪の組織の人に盗聴されちゃうかもしれないし」

 その冗談めかせた言い方に、彼は僕をからかっているのだろうと感じた。

「僕がヒーロー好きだからってからかってます?」

 僕はムスッとした少し怒りを顔に見せる。実際には怒ってはいないが、あくまで冗談の範疇として。

「ははは。悪かったよ。ただこれが自分の車じゃないのはホントね。レンタルだから」
「まぁ嘘ではないですね」

 彼に言葉で手玉に取られて遊ばれたような気がしたが、僕はこれも彼なりのコミュニケーションだと思うことにした。
 雑談は程々にして、僕が助手席に乗ると彼はアクセルを踏み、この車はラーメン屋まで向かうのだった。

「そういえば生人ちゃんって、どうしてDOに入ろうと思ったの?」

 車を走らせている最中、田所さんがこちらに話しかけてくる。

「あれ? 言いませんでしたっけ? ヒーローになるためだって」
「あぁ、ごめんごめん。そうじゃなくて、ここに入るきっかけとかだったり経緯だったりを聞きたくてね。やっぱりお父さん経由だったりするの?」

 僕はDOに入る前の、中学生の頃を思い返す。
 当時は今よりも更にヒーローになりたいという願望が強くなっており、ダンジョン配信がしたい。みんなの役に立ちたいとわがままを言って父さんを困らせたものだった。

「父さんは僕がDOに入るのは反対でしたね。何が起こるか分からないし、危険だし」
「でも結局は賛成してくれたんでしょ? よく説得できたね」
「半ば強引にですけどね。高校生になってからっていうのと、弱いサタンが多いダンジョンで体を慣らしてからっていう条件で許してもらえました」

 何ヶ月も駄々をこねて粘って、父さんはようやく条件付きで僕の入隊を許してくれた。絶対に死なないという条件をつけて。
 僕はあの時は本当に無茶を言ってしまったなぁと今にもなって反省する。

「それにしても、よくランストの適性があったね。あれって結構低確率でしょ」
「僕も父さんも正直適性があるとは思ってませんでしたけど、美咲さんの勧めでやってみたら適性があったんですよ」
「美咲さんが? そういえば生人ちゃんってあの人とは知り合いだったの?」

 美咲さんの名前を出すと、彼はそれに反応を示した。彼女に対して個人的な興味や関心などがあるのだろうか?

「今の父さんの昔からの知り合いで、小さい頃はよく遊んでもらってました」
「へぇー……あの人にそんな一面が……ん? "今の"父さん?」
「あっ……」

 僕は当時の事を思い返してたせいかつい口を滑らせてしまい、父さんに"今の"という含みのある形容詞をつけてしまった。

「あぁごめんごめんそういうことね。自分、災厄の日以前からDOにいるから何となく事情は察しがついたわ。余計なこと言っちゃってごめんね」
「いえいえ大丈夫です。そんなに気にすることでもないので」

 僕は災厄の日に両親がサタンに殺されて、今の父さんに引き取られた。きっと田所さんは当時から指揮官を務めていた父さんから、世間話として息子ができたとか聞いていたのだろう。
 若干空気が気まずくなってしまったが、それとほぼ同時にラーメン屋に着いてくれたおかげで空気が切り替わってくれる。
 僕達は車から降りてあまり混んでいないラーメン屋に入る。

「あまり混んでないみたいですね」

 僕は店内を軽く見渡した。入り口には券売機が置いてあり、机やテーブルは木で作られていた。
 
「知る人ぞ知るって場所なんだよここは。でも味は保証するよ? 食べ盛りの男の子ならきっと気にいるから」

 彼は自信たっぷりに宣言し、財布を取り出し万札を券売機の中に入れた。

「ほい。好きなもの選んでいいよ」

 彼は券売機の前から退き、先に僕に好きなように選ばせてくれた。僕はお言葉に甘えてメニューの中から好きなものを選ぶ。
 選んだのはここのイチオシらしいうずらの卵とチャーシュー。それに海苔が乗っているラーメン。それと唐揚げと餃子とライスのボタンを押し券を取る。

「結構頼むね……いや、別に全然良いんだけどさ。食べ切れるその量?」
「はいもちろん! 食べるのは大好きですから!」

 僕は体は小さいが、クラスの男子の中ではよく食べる方になる。きっと日頃から動いているのでそのせいだろう。

「若いっていいねぇ。自分はこれくらいにしとこ」

 彼は僕と同じラーメンに、うずらの卵のトッピングをつけた僕よりも少ない量にしていた。
 僕達は店員さんにテーブル席に案内され、店員さんは氷の入った水をくれる。

「麺の硬さ、味の濃さ、油の量はどうしますか?」

 店員さんは券を受け取り、僕達にラーメンの味の調整などについて聞いてくる。

「んー、自分は硬め普通少なめで」
「僕は普通濃いめ多めでお願いします」
「かしこまりました」

 僕達からの返答を受け取り店員さんは厨房へと下がって行く。

「味濃いめ油多めって、大丈夫? ここ結構味とか濃い系だよ?」

 田所さんがマジかよ……と、僕の方を若干引いた目で見てくる。彼くらいの年齢、つまり三十代半ばくらいになると味が濃かったり油が多いのは苦手になってたりするのだろう。
 だが高校一年。青春真っ只中の育ち盛りな僕にとってはこれくらいが丁度良かった。
 
 五分もしないうちに料理が運ばれてくる。二つのラーメンに、焼け目がくっきりついた餃子。醤油で味付けしたと思われる茶色の唐揚げ。そして純白の米が敷き詰められたライスが運ばれてきた。

「いただきます」
「いただきます!」

 僕達は手を合わせ目の前の料理を食べ始める。
 ラーメンは味が濃いが、それが太い麺とマッチしていて美味しく、餃子はパリッとしていて僕の好みの感じだった。唐揚げは外がカリッとしている反面中は柔らかく、これも中々美味しい。
 ラーメンに乗っているうずらやほうれん草。それに海苔も別々に互いを邪魔せずに味を主張していて良かった。

「良い食べっぷりだな。昨日大怪我したって聞いたから心配したけど、杞憂だったみたいだな」

 田所さんがラーメンを啜りながら、唐揚げを小さな口一杯に頬張る僕に話しかけてくる。
 昨日の怪我の件だった。そういえば彼だけはその場にいなかった。事情を詳しく知らないから気になっていたのだろう。
 僕は口の中の物を飲み込んでから口を開く。

「怪我っていうか、多分風斗さんの見間違えだと思いますよ。いや僕自身も記憶がないですけど。それでも今こうやって元気なんですしそれが何よりの証拠ですよ」

 普通に考えて重傷を負った怪我人が翌日にこんな量を食べれるなんて考えられない。風斗さんの見たと言われる、エックスが僕の胸を貫いたということは今の僕のこの食べっぷりが否定していた。

「そうだな。きっとあいつも疲れていたんだよ。悪気はなかったと思うし許してやってくれ」
「別にいいですよ。間違いは誰にでもありますし、そんなことに怒っていたらヒーローになれませんから」

 ヒーローどうこうというより、僕は正直そこまで気にしていなかった。
 それから僕は全ての料理を平らげて、田所さんにお礼を言ってこのお店を二人で出るのだった。

「ご馳走様です」
「どういたしまして。お礼と言ったらちょっと悪いかもしれないけど、一つ頼み事してもいい?」

 車に乗り込む際に、田所さんが若干申し訳なさそうにしながら頼み事をしていいかと聞いてきた。

「頼み事ですか? 僕にできる範囲なら何でもしますけど」
「何でも……じゃあ今から自分と一緒にあるダンジョンに行かないか?」
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