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三章 魔人
52話 閑話休題
しおりを挟むエムスとの激闘から半月ほど経ち、クリスタル集めにやっと進展が出てき始めている。
「気配から考えてきっとこの中にクリスタルがあるはずよ!」
ミーアが指差すのは森の中にある大きな湖だ。澄んでいて綺麗で小さな魚も何匹か泳いでいる。
先程からちょうどこの中からクリスタルの気配がするのだ。
「どうする? 水の中に潜って取ってこようか?」
「頼むわ。その……流石に脱ぐのは恥ずかしいしね」
女子のミーアやアキに任せるわけにもいかないので、ここは俺が率先して取りに行くことにする。上着とズボンを脱いでパンツだけとなり、息を吸って湖の中へ飛び込む。
中は透き通っていてよく見える。それに不純物も少なく目を開けていてもあまり痛くはない。
あった! あれだ! あの色……見たことない属性のクリスタルだな。
湖の底にあったのは青白い、どちらかといえば白の方が強い色をしたクリスタルだ。最初は水のクリスタルかと思ったがそうではない。
とにかく手に入れて使用すれば何か分かるので俺はそのクリスタルに手を伸ばす。
それに触れた瞬間全身が軽く痺れ電流を流される感覚に襲われる。幸い大したことはないが、驚きのあまりそれをまた底へと落としてしまう。
俺はそれを拾い上げ今度は落とさず水面へ顔を出す。
「あったよー!」
それを持ち上げ岸の方にいる二人に見えるようにする。ミーアは水に浸からないよう低空飛行しながらこちらまできてそのクリスタルを観察する。
「これは……恐らく雷のクリスタルね」
「雷? 電流でも流せられるのか?」
「でんりゅう?」
ミーアが呆気に取られしばらくこの場には水面が揺れて俺の顔に当たる音だけが響く。
「あっいや……要するに手から雷を出せるようになるのかなーって」
「あぁそういうことね。多分できるんじゃないかしら?」
このように地球にいた時の記憶があるせいで俺とミーア達の間には常識の差がある。
あっちでは機械や電気が一般的だったが、こちらではそのような類のものは一切ない代わりに魔法がある。
何か重大な問題があるわけではないが、この世界に一人ぼっちにされているような気がして寂しさが心に垂れてくる。
そんな想いを愚痴って二人を心配させるわけにもいかず、ここは適当に誤魔化して岸に上がりタオルで水気を取る。
「ここの水ちょうど良い冷たさですね……」
雷のクリスタルを取り込み力が増幅するのを実感している中、アキが手を伸ばし湖にちょんちょんと手を触れさせている。
「確かにここで一回汗を流してスッキリしておきたいわね……」
ミーアは頭を悩ませながら横目でチラチラと俺の様子を窺ってくる。
「じゃあ俺は近くで食料でも探してくるから二人は水浴びしてて」
男の俺が居ては入ろうにも入れないと思いこの場から一時的に立ち去ろうとする。
「分かってると思うけど……覗かないでよ?」
去り際にミーアが自分の胸に腕を当てて隠し目つきを鋭くさせる。
「流石にしないよ。なんなら俺の目と手足を縛っても……」
「冗談よ。リュージはそんなことする人じゃないって信用してるから」
「信用してくれてありがと。じゃ浴び終わったら呼んでね」
俺は手を振り彼女達が見えなく尚且つ声が届く範囲でぶらつく。
ここはあまり人が来ないのか自然がとても綺麗で、先程の湖もそうだがここにも可愛らしい小動物がいる。
数分程歩いた後俺はお目当ての木の実を見つける。
「あった! これ美味しいんだよな」
手に取ったのは赤色の親指の爪くらいの大きさの木の実で、甘酸っぱく食料に適している。
見た感じ虫や鳥が食べた跡もなく、数もそこそこあったので数日はこの木の実を食べられそうな量を採集することができる。
「他にも何か……キノコとかないかな?」
今度は上ではなく下の方に注意を向けて辺りを散策する。
そうはしたもののお目当てのものは中々見つからず、見つかったとしても毒キノコばかりだ。
「これもだめ……あっちのも毒キノコだ。この辺は毒キノコしかないのか?」
軽く溜息を吐きながらもまだミーア達から声はかかってこない。あまり遠くに行きすぎると声が届かなくなる可能性もあるので俺はこの木の実だけで諦めて来た道を引き返し始める。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
湖の近くまで戻って来たところでミーアとアキの悲鳴がここまで聞こえてくる。
「なっ……!? ミーア!? アキ!?」
二人が叫ぶほどの緊急事態。考えるよりも先に体が動き出す。
「うへぇ。気持ち悪……ちょっと私の風魔法で湖の方まで飛ばすからアキ下がっててくれる?」
「はい。うぅ……感触がまだ手に残って……」
てっきり魔物でも現れたのかと思ったが杞憂だったようで、二人は指くらいの大きさの芋虫のような形状の軟体動物を見下ろしていた。
恐らくどちらかが水の中でそいつに触れてしまい、気持ち悪さのあまり悲鳴を上げながら岸に上がったのだろう。
そしてたった今問題なのはそいつではなく二人が一糸纏わぬ姿でいることだ。
「え……リュージ様?」
アキがこちらに気づき声を引き攣らせる。
「えっと……とにかく大丈夫みたいだね」
この声でミーアも俺の存在に気づいてしまいその場で硬直し段々と顔を赤くさせる。
二人とも無防備な姿を曝け出し、何も言わず動かなくなる。
「じ、じゃあ俺引き続き食料探しに……」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
流石に誤魔化せずミーアの先程よりも更に甲高い悲鳴が辺りに響くのだった。
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