52 / 53
二章 正義vs正義
51話 暗い未来へ
しおりを挟む
51羽
「これで全部だよ。それからは二人が知っている通り平和活動や戦争反対活動を始めた。そこでもいっぱい辛い思いをして、たくさんの人の死を見てきた。助けたい、戦争を止めたいって思ってたのにできてこなかった。
だから俺はミーアの願いに感化されたんだ」
今度こそ、この世界でこそ戦争を止めてあの悲劇をもう繰り返させない。それが俺の願いだ。ミーアとほとんど変わらない。
そのためなら命だって賭けるし、贖罪の代わりになるなら寧ろ死にたいくらいだ。だが俺にはまだ彼女の願いを叶えさせてあげるという役目が残っている。
だから自殺なんてことはできない。少なくともそれまでは。
「ごめんねこんなつまらない話しちゃって。でも話してスッキリしたよ。こんな話を聞いてくれてありがとう」
空気が完全に冷え切り重たくなったそれが肩にのしかかる。それだとしてもこれ以上隠し事を続けるのには耐えられなかったのでこれでよかったはずだ。
「リュージの事情は分かったわ。でも……これからもよろしくね」
「うん。平和のために……ね」
それからミーアもアキもいつも通りに、優しく接してくれる。それが俺にとっては逆に心苦しい。
だがこれを伝えたからといって俺のやるべきことが変わるわけではない。
誰であろうとこの手を差し伸ばし救い続け、この世界に平和をもたらす。俺のやるべきことは、しなければならない償いは変わらない。
それから数日間は事件の後処理に追われ、騎士団の事情聴取を受けたりした。
しかしエムスが犯人だと分かりきっていて、十中八九奴はもうこの国にはおらず違うところへ行ったらしいのでそこまで拘束はされなかった。
「それで結局ディスティはどうするつもりなの?」
事件のドタバタが終わり、俺達三人はこの国を出てまたクリスタルを探すことにする。
だが気がかりだったのは彼女の今後についてだ。事件以降彼女については色々気にかけていたが、反魔族教を皆殺しにしようとしたり、更に魔族への憎悪を膨らませたりそういった危険思想は見られなかった。
「ワタクシはこの十日間答えを見つけられませんでした。これからどう生きればいいのか。
だからワタクシは一人で旅をしようと思います。もっと広く世界を見て、現実を知って。
そしてこれからどうするか、エムスをどうするかはそれから決めようと思います」
少なくともこの未来に賭けている覚悟の目をしているなら自殺するなんてことはないだろう。
「ですのでまたいつか」
ディスティはこちらに一礼して荷物を抱え旅路を辿りだす。雪に隠されつつ遠ざかっていく後ろ姿には悲哀や哀愁が感じられる。
「これでよかったのかしら?」
この事件で俺達には数多の選択をする場面があった。これが最善とは到底思えないが、それでもやれるだけのことはやったはずだ。
「分からないよそんなこと。でもよかったって思えるようにこれから頑張らないと」
「そうね……」
俺達も気持ちを切り替えてこの国を出てまた旅を続ける。クリスタルを集める旅を。
この三人のうち誰かが十個集めれば平和のための願いを叶えてもらえる。
あと四個だ。たったそれだけで世界が変わる。
そのはずなのに、ガラスアやエムス。そしてその悪意に振り回されたディスティという少女。
進むべき希望への道に、平和への旅路に深い霧が立ち込めてきている。
☆☆☆
【バニス視点】
「おい! ここに本当に最強の力があるんだろうな!?」
ジメジメとした嫌な空気感の中俺はここまで案内してきたフードを深々と被った男を怒鳴りつける。
シアがパーティーを離脱してから一ヶ月半ほど経ち、そんな時にこの男に話を持ちかけられたのだ。
"最強の力を得れる魔導書がある場所まで行く。本はやるから護衛を頼みたい"と破格の報酬と共に。
「あんた話聞いてる? ウチのリーダーが質問してるんだけど?」
「黙れ。あと数分で着く」
なんだよこいつ。相変わらず態度悪いな。ま、あの額の金と何より最強の力を……リュージをボコれる力が得れるならいいか。
それに用が済んだらこいつから荷物を根こそぎ奪い取ればいいだけだしな。リュージもシアもいないからやりたい放題だ。
「ここだ」
案内された洞窟の奥地には祭壇のようなものと共に壺が置かれているだけだ。
「は? おい話が違うぞ! 魔導書はどこだよ!?」
「あの話は嘘だ。まぁ力を得れること自体は本当だがな」
フードの男はその壺を持ち上げ地面に叩きつける。高価そうなそれは粉々に砕け散り跡形もなくなる。
なっ!? ちっ……高価そうだから盗んで売っぱらうつもりだったのに。
だがそんな悪態ついた考えなどできなくなる。壺からドス黒い煙が漏れ出てきてそれが意思を持ったかのように動き口を経由して俺の体内に入り込んでくる。
「あがっ!? 何だこれ!?」
必死に掻き出そうとするものの煙なので掴めずどうしようもできない。
「おいバニス! 大丈夫か!?」
デポもその煙をどうにかしようと尽力するが、それも虚しく煙が完全に俺の体内に入りきってしまう。
「さぁ……魔人の復活だ」
フードの男の一言と同時に俺の意識は何者かによって闇の中へ引きずり込まれるのだった。
「これで全部だよ。それからは二人が知っている通り平和活動や戦争反対活動を始めた。そこでもいっぱい辛い思いをして、たくさんの人の死を見てきた。助けたい、戦争を止めたいって思ってたのにできてこなかった。
だから俺はミーアの願いに感化されたんだ」
今度こそ、この世界でこそ戦争を止めてあの悲劇をもう繰り返させない。それが俺の願いだ。ミーアとほとんど変わらない。
そのためなら命だって賭けるし、贖罪の代わりになるなら寧ろ死にたいくらいだ。だが俺にはまだ彼女の願いを叶えさせてあげるという役目が残っている。
だから自殺なんてことはできない。少なくともそれまでは。
「ごめんねこんなつまらない話しちゃって。でも話してスッキリしたよ。こんな話を聞いてくれてありがとう」
空気が完全に冷え切り重たくなったそれが肩にのしかかる。それだとしてもこれ以上隠し事を続けるのには耐えられなかったのでこれでよかったはずだ。
「リュージの事情は分かったわ。でも……これからもよろしくね」
「うん。平和のために……ね」
それからミーアもアキもいつも通りに、優しく接してくれる。それが俺にとっては逆に心苦しい。
だがこれを伝えたからといって俺のやるべきことが変わるわけではない。
誰であろうとこの手を差し伸ばし救い続け、この世界に平和をもたらす。俺のやるべきことは、しなければならない償いは変わらない。
それから数日間は事件の後処理に追われ、騎士団の事情聴取を受けたりした。
しかしエムスが犯人だと分かりきっていて、十中八九奴はもうこの国にはおらず違うところへ行ったらしいのでそこまで拘束はされなかった。
「それで結局ディスティはどうするつもりなの?」
事件のドタバタが終わり、俺達三人はこの国を出てまたクリスタルを探すことにする。
だが気がかりだったのは彼女の今後についてだ。事件以降彼女については色々気にかけていたが、反魔族教を皆殺しにしようとしたり、更に魔族への憎悪を膨らませたりそういった危険思想は見られなかった。
「ワタクシはこの十日間答えを見つけられませんでした。これからどう生きればいいのか。
だからワタクシは一人で旅をしようと思います。もっと広く世界を見て、現実を知って。
そしてこれからどうするか、エムスをどうするかはそれから決めようと思います」
少なくともこの未来に賭けている覚悟の目をしているなら自殺するなんてことはないだろう。
「ですのでまたいつか」
ディスティはこちらに一礼して荷物を抱え旅路を辿りだす。雪に隠されつつ遠ざかっていく後ろ姿には悲哀や哀愁が感じられる。
「これでよかったのかしら?」
この事件で俺達には数多の選択をする場面があった。これが最善とは到底思えないが、それでもやれるだけのことはやったはずだ。
「分からないよそんなこと。でもよかったって思えるようにこれから頑張らないと」
「そうね……」
俺達も気持ちを切り替えてこの国を出てまた旅を続ける。クリスタルを集める旅を。
この三人のうち誰かが十個集めれば平和のための願いを叶えてもらえる。
あと四個だ。たったそれだけで世界が変わる。
そのはずなのに、ガラスアやエムス。そしてその悪意に振り回されたディスティという少女。
進むべき希望への道に、平和への旅路に深い霧が立ち込めてきている。
☆☆☆
【バニス視点】
「おい! ここに本当に最強の力があるんだろうな!?」
ジメジメとした嫌な空気感の中俺はここまで案内してきたフードを深々と被った男を怒鳴りつける。
シアがパーティーを離脱してから一ヶ月半ほど経ち、そんな時にこの男に話を持ちかけられたのだ。
"最強の力を得れる魔導書がある場所まで行く。本はやるから護衛を頼みたい"と破格の報酬と共に。
「あんた話聞いてる? ウチのリーダーが質問してるんだけど?」
「黙れ。あと数分で着く」
なんだよこいつ。相変わらず態度悪いな。ま、あの額の金と何より最強の力を……リュージをボコれる力が得れるならいいか。
それに用が済んだらこいつから荷物を根こそぎ奪い取ればいいだけだしな。リュージもシアもいないからやりたい放題だ。
「ここだ」
案内された洞窟の奥地には祭壇のようなものと共に壺が置かれているだけだ。
「は? おい話が違うぞ! 魔導書はどこだよ!?」
「あの話は嘘だ。まぁ力を得れること自体は本当だがな」
フードの男はその壺を持ち上げ地面に叩きつける。高価そうなそれは粉々に砕け散り跡形もなくなる。
なっ!? ちっ……高価そうだから盗んで売っぱらうつもりだったのに。
だがそんな悪態ついた考えなどできなくなる。壺からドス黒い煙が漏れ出てきてそれが意思を持ったかのように動き口を経由して俺の体内に入り込んでくる。
「あがっ!? 何だこれ!?」
必死に掻き出そうとするものの煙なので掴めずどうしようもできない。
「おいバニス! 大丈夫か!?」
デポもその煙をどうにかしようと尽力するが、それも虚しく煙が完全に俺の体内に入りきってしまう。
「さぁ……魔人の復活だ」
フードの男の一言と同時に俺の意識は何者かによって闇の中へ引きずり込まれるのだった。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる