転生した先で蔑まれ追放された俺の異世界冒険ライフ 〜魔法も使えない無能と言われた俺には、クリスタルを全属性扱える才能があったみたいです!?〜

ニゲル

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二章 正義vs正義

51話 暗い未来へ

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51羽

「これで全部だよ。それからは二人が知っている通り平和活動や戦争反対活動を始めた。そこでもいっぱい辛い思いをして、たくさんの人の死を見てきた。助けたい、戦争を止めたいって思ってたのにできてこなかった。
 だから俺はミーアの願いに感化されたんだ」

 今度こそ、この世界でこそ戦争を止めてあの悲劇をもう繰り返させない。それが俺の願いだ。ミーアとほとんど変わらない。
 そのためなら命だって賭けるし、贖罪の代わりになるなら寧ろ死にたいくらいだ。だが俺にはまだ彼女の願いを叶えさせてあげるという役目が残っている。
 だから自殺なんてことはできない。少なくともそれまでは。

「ごめんねこんなつまらない話しちゃって。でも話してスッキリしたよ。こんな話を聞いてくれてありがとう」

 空気が完全に冷え切り重たくなったそれが肩にのしかかる。それだとしてもこれ以上隠し事を続けるのには耐えられなかったのでこれでよかったはずだ。
 
「リュージの事情は分かったわ。でも……これからもよろしくね」
「うん。平和のために……ね」

 それからミーアもアキもいつも通りに、優しく接してくれる。それが俺にとっては逆に心苦しい。
 だがこれを伝えたからといって俺のやるべきことが変わるわけではない。
 誰であろうとこの手を差し伸ばし救い続け、この世界に平和をもたらす。俺のやるべきことは、しなければならない償いは変わらない。

 それから数日間は事件の後処理に追われ、騎士団の事情聴取を受けたりした。
 しかしエムスが犯人だと分かりきっていて、十中八九奴はもうこの国にはおらず違うところへ行ったらしいのでそこまで拘束はされなかった。

「それで結局ディスティはどうするつもりなの?」

 事件のドタバタが終わり、俺達三人はこの国を出てまたクリスタルを探すことにする。
 だが気がかりだったのは彼女の今後についてだ。事件以降彼女については色々気にかけていたが、反魔族教を皆殺しにしようとしたり、更に魔族への憎悪を膨らませたりそういった危険思想は見られなかった。

「ワタクシはこの十日間答えを見つけられませんでした。これからどう生きればいいのか。
 だからワタクシは一人で旅をしようと思います。もっと広く世界を見て、現実を知って。
 そしてこれからどうするか、エムスをどうするかはそれから決めようと思います」

 少なくともこの未来に賭けている覚悟の目をしているなら自殺するなんてことはないだろう。

「ですのでまたいつか」

 ディスティはこちらに一礼して荷物を抱え旅路を辿りだす。雪に隠されつつ遠ざかっていく後ろ姿には悲哀や哀愁が感じられる。

「これでよかったのかしら?」

 この事件で俺達には数多の選択をする場面があった。これが最善とは到底思えないが、それでもやれるだけのことはやったはずだ。

「分からないよそんなこと。でもよかったって思えるようにこれから頑張らないと」
「そうね……」

 俺達も気持ちを切り替えてこの国を出てまた旅を続ける。クリスタルを集める旅を。
 この三人のうち誰かが十個集めれば平和のための願いを叶えてもらえる。
 あと四個だ。たったそれだけで世界が変わる。

 そのはずなのに、ガラスアやエムス。そしてその悪意に振り回されたディスティという少女。
 進むべき希望への道に、平和への旅路に深い霧が立ち込めてきている。


☆☆☆


【バニス視点】

「おい! ここに本当に最強の力があるんだろうな!?」

 ジメジメとした嫌な空気感の中俺はここまで案内してきたフードを深々と被った男を怒鳴りつける。
 シアがパーティーを離脱してから一ヶ月半ほど経ち、そんな時にこの男に話を持ちかけられたのだ。
 "最強の力を得れる魔導書がある場所まで行く。本はやるから護衛を頼みたい"と破格の報酬と共に。

「あんた話聞いてる? ウチのリーダーが質問してるんだけど?」
「黙れ。あと数分で着く」

 なんだよこいつ。相変わらず態度悪いな。ま、あの額の金と何より最強の力を……リュージをボコれる力が得れるならいいか。
 それに用が済んだらこいつから荷物を根こそぎ奪い取ればいいだけだしな。リュージもシアもいないからやりたい放題だ。

「ここだ」

 案内された洞窟の奥地には祭壇のようなものと共に壺が置かれているだけだ。

「は? おい話が違うぞ! 魔導書はどこだよ!?」
「あの話は嘘だ。まぁ力を得れること自体は本当だがな」

 フードの男はその壺を持ち上げ地面に叩きつける。高価そうなそれは粉々に砕け散り跡形もなくなる。

 なっ!? ちっ……高価そうだから盗んで売っぱらうつもりだったのに。

 だがそんな悪態ついた考えなどできなくなる。壺からドス黒い煙が漏れ出てきてそれが意思を持ったかのように動き口を経由して俺の体内に入り込んでくる。

「あがっ!? 何だこれ!?」

 必死に掻き出そうとするものの煙なので掴めずどうしようもできない。

「おいバニス! 大丈夫か!?」

 デポもその煙をどうにかしようと尽力するが、それも虚しく煙が完全に俺の体内に入りきってしまう。

「さぁ……魔人の復活だ」

 フードの男の一言と同時に俺の意識は何者かによって闇の中へ引きずり込まれるのだった。
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