傲慢な人

村さめ

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「それで? お前、そんなにお仕置きされたかったの?」

「なっ……ちが、ぅっ……」

「さっき何回イった?」

「ぇ、あっ……えっと、……えっと……」

「残念だが、きつい罰を与えなければならないようだな」

「ひっ……!?」

(これ以上、何を……?)

 安曇は手早く僕を拘束台から解放した。倒れ込む体を逞しい腕に支えられる。僕はベッドに横たえられ、赤い紐でペニスの根本をきつく縛られた。もう射精しなくて済むことに、少し安堵する。

 そして彼は、壁際に陳列された鞭を手に取った。

「なっ……そ、そんな……やだっ……!」

 長く伸びた黒い蛇のような、恐ろしげな一本鞭。あれで打たれたら多分、痛いでは済まない。

「こちらへ尻を突き出せ。あの動画を拡散されたいのか?」

「あ……、あ……」

 嫌だ。嫌だ。逃げたい。怖い。けど動画を拡散されたくない……。結局、僕はゆっくりとした動きで安曇に尻を差し出す。

「見た限り3回はイっていた。答えられなかった罰を含め、4回だ」

 安曇が鞭を振り下ろす。それは鋭くしなり僕の尻を打つ。

「っあ゛…………っっ!!!!」

 痛烈な衝撃に、体がきつく硬直する。中が強く締まり、ローターの振動をぎゅっと抑え込んでしまう。

「ぇっ? あっ? ぁああ゛あ゛っ、イ、イぐ、イ、ぐ~~~……ぅっ」

 僕は初めて、前を触らずに果てた。痛いと気持ちいいの境界線が飽和して、目の前が真っ白に染まっていく。

「あっ? あっ、あっ、もう、や、らっ、あんっ」

 イってるのに終わらない。ずっと情けなく腰を振るのも抑えられない。僕のあまりに浅ましい姿に、安曇は顔を顰めた。

「本当にお仕置きが好きなんだな」

「っ……あっ、あっ……、ちが、ちがっ……」

「全く……。キリがないからお仕置きは4回のままにしておいてやる。あと3回だ」

「っ、……!?」

 いまだにじくじくと痛む尻。

 これを、あと……3回?

(絶対無理。無理だ、嫌だ、無理、やめて……っ)

 あまりの恐怖に、なりふり構わず体を投げ出して土下座した。

「お、お願い、しますっ! な、何でもしますっ、から……、無理、ですっ! もうっ、それだけはっ、お願い……っ、許して……っ!」

「……ちっ」

 安曇は鞭を手放し、自分のスラックスの前をくつろげてペニスを取り出す。

「舐めろ」

「っ、あ……っ、は、ぁ、はふっ……」

 僕は必死の思いで、それにむしゃぶりついた。雄臭くて、大きくて、固い……。こんな状況なのに、きゅんと胸が締めつけられる。必死で竿を舐めていたら、頭を掴まれて強引に喉奥まで突っ込まれた。髪を掴まれて乱暴に揺さぶられる。

「おごっ、ぐうぅ……っ!? ごほっ、……あぉっ……!!」

 痛くて苦しいのに堪え、顎が外れそうになってきたところでやっと終わった。かと思えばまた体をひっくり返されて、ローターが入ったままの後穴にいきなり突っ込まれた。

「お゛っ、ほお゛~~……っ!!」

 ガツガツといいところを突かれ、ローターの振動も中で暴れ回って敏感な腸壁を刺激してくる。

「ふっ……、くっ……」
 
 見上げた安曇は、壮絶な色気を放っていて、頭がくらくらする。色っぽく汗を流し、余裕なさそうに顔を歪め、性急に腰を動かす姿にときめきが止まらない。

(安曇、感じて、くれてる……?)

「ぐっ……、出すぞ……っ!!」

 腹の中で一度大きく震え、じわっと温かいものが広がっていく。

(中に……出された……?)

「あっ、あずみっ、ああ゛っイグッ!! イッぢゃっ……、!!」

 そのすぐ後に、僕も射精なしで絶頂した。

 安曇はペニスをずるりと引き出し、声もなく痙攣する僕を満足げに見ていた。そしておもむろにスマホを取り出し、カシャカシャと撮影をはじめる。

「……な、……で?」

「え?」

「なん、で……っ、こっ、な、こと……する、の?」

「……っ、……それは……」

 答えを聞く前に、意識が途絶えた。

✳︎✳︎✳︎

 それからは、週に一回ほどの頻度で安曇から呼び出されるようになった。毎回高いご飯を奢ってもらってから、ホテルへ。事後に大金を渡されるまでがいつもの流れ。

 安曇の要求は、次第にエスカレートしていく気がした。いつしか罰と称して普段から鍵付きの貞操帯を付けられるようになり、自慰の禁止も言い渡された。これは地味にかなりきつかった。

 行為の内容もいつも何だか特殊で、縛られたり吊るされたり目隠し放置されたり、媚薬だという謎の液体を乳首や性器に塗られたり、背中に蝋燭の蝋を掛けられたり。他にも口に出すのもはばかられるようなことをたくさん。全裸で犬耳のカチューシャを付け、尻の穴には尻尾付きの栓をされ、その状態で外に連れ出されそうになった時は、流石に全力で拒否した。何とか許してもらえたけど、代わりに乳首にピアスを開けることを強要された。胸のピアスに貞操帯。これではもう、人前で服を脱ぐことすら出来ない。

 安曇はこういうのが趣味なのだろうか。そんなまさかね。僕が憎くてしていることだとしたら、何だか逆に申し訳ないような気持ちにもなる。いっそ普通に暴力で痛めつけてくれればいいのにとさえ思う。

 酷いことをされているのに、いつも訳がわからないほど気持ち良くなってしまうのも辛かった。自分がとても、はしたない存在になっていくように思えるから。

 安曇の行動は僕にとっては生殺しだ。彼にはその自覚がないのかもしれないけれど。あるいは分かっていてやっているのだろうか。だとしたら本当に酷い男だ。

 彼は時折、ほんの少しだけ、ひと匙分にも満たないほどの優しさを僕に与える。それは甘い毒のように染み込んできて、僕を蝕む。

 僕は自分の心身に、少しずつ限界が近づいているのを感じていた。
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