野良竜を拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙

中村まり

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第四章 白魔導師の日々

痣にまつわる考察

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風船鳥事件も収束して、フロルたちは王宮へと戻ってきていた。

結局、女神様は奇跡を起こすことも、何一つできずに、宮廷の中では、本当に、彼女が女神なのかという議論が起こっているとも聞く。

しかし、ギル様は、依然として、神殿近衛騎士団の団長であり、リアの警護が主な仕事であることには変わらない。

魔導師塔の中にあるデスクの前で、フロルは、両肘をデスクにつきながら、ため息をつく。今日は、ライルもグエイドも、仕事で王宮の外に出かけているので、フロルも、それほど忙しくはない。

周りの魔導師の半分も、ライルと一緒に同行していたから、執務室は人がぽつぽつといる程度だった。

若干、手持ち無沙汰になりながら、ふと窓の外を見れば、ふーちゃんが、窓ガラスの向こう側で、相変わらず、一生懸命に求愛のダンスを踊っている。目をくわっと見開きながら、鳥の視線は、自分だけに向けられていた。

そんな姿があまりにも一生懸命すぎていじらしく、フロルは、窓を少し開けて、ふーちゃんを呼んだ。

「ふーちゃん、こっちにおいで」

すると、ふーちゃんは、目を大きく見開いて「!」マークを飛び散らしながら、一目散にフロルの所に駆け寄った。

「求愛してくれて、ありがとうね。でもね、ふーちゃん、私にはもう心に決めた人がいるんだ・・・」

甘い感情に揺られながらも、フロルはギルのことを思い浮かべる。相変わらず、公には、ギルに近寄ることが出来ないのだが、そこは当然、二人には、秘密の逢瀬の時間がある。

夜更けに、フロルの窓をこんこんと、ギルが叩くと、その窓からフロルは身を乗り出す。ギルはフロルを抱き上げながら窓から引きずりだして、その後、しっかりと抱きしめてくれる。そして、その後は、いつものように、二人でエスペランサに乗って、好きな所に行くのだ。

騎士団は、ギルがエスペランサを使用すること認めている。近衛の仕事が終った後に、馬を運動させることも許可した。

それはギル以外に、あの馬を乗りこなせる人材はおらず、他の騎士に対しては、エスペランサは歯を見せ、立ち上がって威嚇するので、他の者が馬を運動させることも、訓練させることもままならないからだ。

それでも、エスペランサは勇猛な馬であり、戦闘時には大きな戦力にもなる。騎士団としては、ギルも、エスペランサも手放す気はなく、ギルをいつまでも、女神様の警護に当たらせる気もないようだ。

そんな物思いに、沈みながらも、フロルはふーちゃんの顎の下をそっと撫でてやると、ふーちゃんも幸せそうに目を細める。

「ねえ、ふーちゃん、私に好きな人がいるって、わかってんのかなあ」

呆れたように言うも、ふーちゃんはどこ吹く風のように、ニコニコと笑っている。

それにしても・・・フロルは、周囲に誰もいないことを確認して、腕にぐるぐると巻いてあったリボンをそっとほどく。そこには、以前から浮かんでいた痣が少し大きくなってきたのだ。

それは痛くも痒くもないが、痣の一部に濃淡が出来てきて、なんだか、どこかで見た魔法陣のような形に似ているなと思う。

今のリボンだと、その痣が隠し切れなくなってきた。もう少し大きな腕輪にかえないとダメかもしれない。

魔導師たちは、己の魔力を増強するために、魔石の施されたアクセサリーを身に着けていることが多い。

それは宝石だけにとどまらず、魔力をもつ蚕が出す糸を縫い込んだ布であったり、貝殻であったり、と、いろんな形のものを身に着けるから、フロルが大きめの腕輪をつけていたとしても、何か言われることは全くない。

自分の白魔法で治療を施してみても、その痣には何も聞かなかった。

ギル様のことといい、痣のことと言い、どうしたらいいんだろうな・・・

早く医者に見せるなり、ライルに相談するなりすればいいのだが、気持ちが沈んだフロルは、痣にまで気持ちが回らないのであった。

「ふーちゃん、おいで」

フロルは、ふーちゃんとしっかりと抱きしめる。もふもふした感触がとっても素敵だ。

「ああ・・・・ふーちゃん、柔らかい、温かいー」

気落ちした時には、もふもふが効く。

そんな風に抱きしめられ、ふーちゃんは天にも昇るような幸せそうに膨らんだ。

空に飛ぶ風船鳥たちも、ふーちゃんと意識を共有しているから、同じように幸せな気持ちで一杯になって、ぽっと膨らんだまま、空にふわふわと浮いていた。

「ねえ、とうちゃん、どうして風船鳥がお空で膨らんでるの?」

たまたま、農作業にいそしんでいた農家の子供が空を指さして、父に問う。

「そうさな。風船鳥にもなんかいいことがあったんだろうな」

「ふーん、そうなんだ」

「ああやって、幸せそうにしていてくれるといいんだがの。あのほうが穏やかでいい。この前みたいに、集団で襲ってこられちゃ、かなわないからな」

空に幸せそうに浮く鳥を、農夫と子供はいつまでもじっと眺めていた。
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