33 / 44
突然の婚約破棄からそれは始まった
あの問題を解決しなければ…
しおりを挟む
アーロンと両想いになった日の朝。
「ふ、ふふふ」
昨日の出来事を思い出して、一人でにまにましていると、扉をたたく音が聞こえた。
「おはいりなさい」
そう声をかけると、姿を現したのは上級の召使い。
「エレーヌ様に王妃様からお茶のお誘いをお持ちしました」
銀の盆にのった一枚の手紙。封を開けると、まさしくその通り。
昨晩はよく眠れましたか?とカードに言葉が添えてあり、王妃様の心遣いが、少しうれしかった。
こういう場合は、すぐに返事をしなくてはならない。
私は召使に少し待つように伝え、引き出しを開けると、かわいらしいレターセットを引き出しの中に見つけた。
すぐに返事を書き、召使に王妃様に渡すように伝える。
こういう時、王子の婚約者として色々学んでおいてよかったなと思う。
そして、すぐにお茶の時間がやってきた。
「突然、ご招待してしまいましたが、問題はありませんでしたか?」
にっこりと笑う王妃様(アーロンの母)に連れていかれるがままに移動すると、そこはかわいらしい庭園の中にしつらえられたテーブル席だった。
ハイビスカスのような花に囲まれて、楽し気な雰囲気がテーブルにあふれている。
王妃様から座るように言われて席につくと、すぐにティータイムが始まる。
「アーロンから貴女のことを色々と伺いましてよ」
そういたずらっぽく笑う王妃様は、とてもかわいらしい人だった。
「そうですね。私も思ってもみない展開になってしまいましたわ。人生って本当に予測がつかないものですわね」
私がそう言うと、王妃様は言葉をつづける。
「実はね、アーロンが、その……いささか落ち着きのない子で、わたくしも少し心配でしたの。けれども、今朝、あの子が嬉しそうにわたくしの所にやってきましてね、貴女という大切な人ができたと告白してきたことは、いささか驚きましたけど」
アーロン、早いな! もうご両親に報告なのか。
私が彼の手回しの速さに、心の中で驚いていると、王妃様はさらに言葉をつづける。
「わたくしとしても、貴女が無実の罪で投獄されたと聞いて、心を痛めておりますのよ。けれども、ご存じの通り、あの子は、これから兄と共にこの国を支えていくべき定めをもって生まれてきておりますのは、貴女もご存じでしょう?」
王妃が言いたいことがなんとなく察することができた。私は率直に話をすることに決めた。
「それで、罪人は彼にふさわしくないと、そうおっしゃりたいのでしょうか?」
王妃様は少し驚いたようで、目をほんの少しばかり見開き、ためらいがちに言葉を続ける。
「わたくしの言いたいこととは、少し違いますけれど、まあ、そんなことですわね」
ちょうどその時、侍女がお茶のお替りを注ぎに来た。私たち二人は、上品なティーカップにお茶がなみなみと注がれるのを見ていた。
「このお菓子はとっても美味しくてよ。ほら、召し上がりなさいな」
彼女に促されて、フォークをとり、ケーキを口に運ぶ。腕のいい職人がいるのだろう。素晴らしいお菓子の味に、私はちょっとだけ、微笑みを浮かべる。
「本当に、これは美味しゅうございます。王妃様」
「そうでしょう? わたくしがこちらに輿入れする時に連れてきた料理人なの」
そして、彼女もお菓子を口に運び、満足そうに微笑む。
「貴女も甘いものはお好き?」
「ええ、もちろんです。お菓子は心の栄養ですもの」
そんな風に何気ない会話をしつつ、私たちは侍女が仕事を終えて立ち去るのを待っていた。従者の前ではプライベートな会話はしないものである。
そして、しばらくしてから、王妃様がナプキンで口の端を押さえてから、再び、口を開いた。
「それでね、エレーヌ嬢、私がお話したいのは、わたくしもアーロンはあなたと公式の関係を持ちたいと切に願っているのです。あの子がそのようなことを言い出したのは初めてのことですもの。けれども、あの子の立場もご存じでしょう? あの子は商人だと貴女に偽ってきましたが、この国の第三王子だということは聞いてますわね」
「ええ、もちろんです」
「そう、それなら話が早いわ。私としても、あの子が貴女をそれほど望むのなら、その望みをかなえてやってもかまわないと思っておりますの。けれども、そのいくら隣国の公爵令嬢だとしても、そのね、罪がある女性はやはり、国民の理解が得られないのではと陛下もご心配なされていらっしゃって……」
「身の潔白を証明しさえすれば、アーロンとの関係を認めるということでしょうか?」
「まあ、察しが早くて助かるわ。ねえ、エレーヌ嬢、いえ、エレーヌと呼ばせていただいても構わないかしら?」
私がうなずくと、王妃様は椅子を少しこちらにずらして小声で言う。
「貴女が無実であることを証明できれば、すべて問題が解決する、ということなの。もちろん、陛下が貴女を認めると言えばそれで済むことなのかもしれないわ。けれども、第二王子にとっては、それが恰好の非難の材料になると言えば、わかるかしら?」
「ええ、もちろんですわ。王妃様」
アーロンとこのまま共にいることを望むのなら、あの問題を解決しなければだめよと、王妃様は言う。
その後は、ごく普通に、女同士のお喋りをしながらお茶会はつつがなく終わった。
「では、エレーヌ、結果を楽しみにしていますよ」
王妃はそう言うと、侍女にかしずかれながら去っていった。
無実の罪を晴らす、か……。
王妃様の背中を眺めながら、私はどうしたものかと考えていた。
アーロンの名誉のためにも、えん罪をどうにかして晴らさなければならなさそうだ。
そして、この数日後、あの第二王子のせいで、私とアーロンはのっぴきならない事態へと陥るのである。
◇
気が付いたら、一か月、過ぎてましたー! 5月末までに連載は完了する予定です! クライマックス(壮麗なざまあ)は、多分、次々回くらいの予定(^^)v
「ふ、ふふふ」
昨日の出来事を思い出して、一人でにまにましていると、扉をたたく音が聞こえた。
「おはいりなさい」
そう声をかけると、姿を現したのは上級の召使い。
「エレーヌ様に王妃様からお茶のお誘いをお持ちしました」
銀の盆にのった一枚の手紙。封を開けると、まさしくその通り。
昨晩はよく眠れましたか?とカードに言葉が添えてあり、王妃様の心遣いが、少しうれしかった。
こういう場合は、すぐに返事をしなくてはならない。
私は召使に少し待つように伝え、引き出しを開けると、かわいらしいレターセットを引き出しの中に見つけた。
すぐに返事を書き、召使に王妃様に渡すように伝える。
こういう時、王子の婚約者として色々学んでおいてよかったなと思う。
そして、すぐにお茶の時間がやってきた。
「突然、ご招待してしまいましたが、問題はありませんでしたか?」
にっこりと笑う王妃様(アーロンの母)に連れていかれるがままに移動すると、そこはかわいらしい庭園の中にしつらえられたテーブル席だった。
ハイビスカスのような花に囲まれて、楽し気な雰囲気がテーブルにあふれている。
王妃様から座るように言われて席につくと、すぐにティータイムが始まる。
「アーロンから貴女のことを色々と伺いましてよ」
そういたずらっぽく笑う王妃様は、とてもかわいらしい人だった。
「そうですね。私も思ってもみない展開になってしまいましたわ。人生って本当に予測がつかないものですわね」
私がそう言うと、王妃様は言葉をつづける。
「実はね、アーロンが、その……いささか落ち着きのない子で、わたくしも少し心配でしたの。けれども、今朝、あの子が嬉しそうにわたくしの所にやってきましてね、貴女という大切な人ができたと告白してきたことは、いささか驚きましたけど」
アーロン、早いな! もうご両親に報告なのか。
私が彼の手回しの速さに、心の中で驚いていると、王妃様はさらに言葉をつづける。
「わたくしとしても、貴女が無実の罪で投獄されたと聞いて、心を痛めておりますのよ。けれども、ご存じの通り、あの子は、これから兄と共にこの国を支えていくべき定めをもって生まれてきておりますのは、貴女もご存じでしょう?」
王妃が言いたいことがなんとなく察することができた。私は率直に話をすることに決めた。
「それで、罪人は彼にふさわしくないと、そうおっしゃりたいのでしょうか?」
王妃様は少し驚いたようで、目をほんの少しばかり見開き、ためらいがちに言葉を続ける。
「わたくしの言いたいこととは、少し違いますけれど、まあ、そんなことですわね」
ちょうどその時、侍女がお茶のお替りを注ぎに来た。私たち二人は、上品なティーカップにお茶がなみなみと注がれるのを見ていた。
「このお菓子はとっても美味しくてよ。ほら、召し上がりなさいな」
彼女に促されて、フォークをとり、ケーキを口に運ぶ。腕のいい職人がいるのだろう。素晴らしいお菓子の味に、私はちょっとだけ、微笑みを浮かべる。
「本当に、これは美味しゅうございます。王妃様」
「そうでしょう? わたくしがこちらに輿入れする時に連れてきた料理人なの」
そして、彼女もお菓子を口に運び、満足そうに微笑む。
「貴女も甘いものはお好き?」
「ええ、もちろんです。お菓子は心の栄養ですもの」
そんな風に何気ない会話をしつつ、私たちは侍女が仕事を終えて立ち去るのを待っていた。従者の前ではプライベートな会話はしないものである。
そして、しばらくしてから、王妃様がナプキンで口の端を押さえてから、再び、口を開いた。
「それでね、エレーヌ嬢、私がお話したいのは、わたくしもアーロンはあなたと公式の関係を持ちたいと切に願っているのです。あの子がそのようなことを言い出したのは初めてのことですもの。けれども、あの子の立場もご存じでしょう? あの子は商人だと貴女に偽ってきましたが、この国の第三王子だということは聞いてますわね」
「ええ、もちろんです」
「そう、それなら話が早いわ。私としても、あの子が貴女をそれほど望むのなら、その望みをかなえてやってもかまわないと思っておりますの。けれども、そのいくら隣国の公爵令嬢だとしても、そのね、罪がある女性はやはり、国民の理解が得られないのではと陛下もご心配なされていらっしゃって……」
「身の潔白を証明しさえすれば、アーロンとの関係を認めるということでしょうか?」
「まあ、察しが早くて助かるわ。ねえ、エレーヌ嬢、いえ、エレーヌと呼ばせていただいても構わないかしら?」
私がうなずくと、王妃様は椅子を少しこちらにずらして小声で言う。
「貴女が無実であることを証明できれば、すべて問題が解決する、ということなの。もちろん、陛下が貴女を認めると言えばそれで済むことなのかもしれないわ。けれども、第二王子にとっては、それが恰好の非難の材料になると言えば、わかるかしら?」
「ええ、もちろんですわ。王妃様」
アーロンとこのまま共にいることを望むのなら、あの問題を解決しなければだめよと、王妃様は言う。
その後は、ごく普通に、女同士のお喋りをしながらお茶会はつつがなく終わった。
「では、エレーヌ、結果を楽しみにしていますよ」
王妃はそう言うと、侍女にかしずかれながら去っていった。
無実の罪を晴らす、か……。
王妃様の背中を眺めながら、私はどうしたものかと考えていた。
アーロンの名誉のためにも、えん罪をどうにかして晴らさなければならなさそうだ。
そして、この数日後、あの第二王子のせいで、私とアーロンはのっぴきならない事態へと陥るのである。
◇
気が付いたら、一か月、過ぎてましたー! 5月末までに連載は完了する予定です! クライマックス(壮麗なざまあ)は、多分、次々回くらいの予定(^^)v
25
お気に入りに追加
2,016
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる