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突然の婚約破棄からそれは始まった
アーロンの宮殿にて~5
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夕食を途中で辞退して、大きな回廊をアーロンと二人で歩く。
「急な話で済まなかった。エレーヌも疲れていただろう」
「疲れているのは確かだけど、どのみち、夕食は食べるものだから別に構わないわ」
そんな話をしながら歩いていると、アーロンが申し訳なさそうにぽつりと言葉をこぼす。
「ベルーシが無礼で申し訳なかった」
「いいのよ。ああいうのは、どこの国にもいるんだって思ったから」
そして、回廊の角に出た。ここを曲がった先には、アーロンの宮殿があり、私の部屋はその奥だ。
「それで、その…… さっきの話の続きなんだが」
アーロンが立ち止まり、私の手を取る。
「さっきの話ってなんだったっけ?」
私が無邪気に彼を見上げると、思いつめたように彼は顔を真っ赤にして、私をじっと見つめた。
「エレーヌ。今言わなくちゃダメだと思う。俺は…、俺は君が好きだ」
えっ?
突然のアーロンの大直球を前にして、私は驚いて息をのむ。
「地下牢で初めて君を見た時、熱のある俺を看病してくれた時、ことあるごとに、俺はエレーヌを意識していた。気が付いた時には、俺は君が好きすぎて、どうにかなってしまうんじゃないかと悩んだくらいだ」
「アーロン……」
「それで俺は決めた。地下牢から脱獄出来たら、君に俺の思いを打ち明けようと。俺の本当の姿を知ってもらって、そして、改めて、俺のことを好きになってもらいたいと思った」
そういうアーロンの表情は誠実さにあふれていて、そして、愛おしさに満ち溢れていた。正装であるアーロンの姿は見るからに立派で上品だ。
ああ、彼は王子様なんだな、とぼんやりと思っていると、頬に熱く湿ったものを感じる。
気づけば、アーロンが私の頬に口づけを落としていたのだ。
「好きだ。エレーヌ」
アーロンは私の両手をとり、じっと熱心な様子で私を見つめる。気づけば、口が勝手に開いて、自分の気持ちを素直に口にしてしまっていた。
「……私もアーロンのことが好き」
それは心の底から嘘偽りのない言葉である。
地下牢に一人放り込まれてから、なんだかんだ言っても、やはり心細かったのだ。その傍らにアーロンがいてくれて、どれほど心強かっただろう。そして、彼が見事に地下牢から脱出して一緒に連れてきてくれた。
「本当か?」
さっとアーロンの頬に血の気がさす。彼の表情ははつらつとして、生き生きとしている。私が素直にうなずくと、アーロンがいきなり私を抱き上げた。
「エレーヌ、俺もだ。俺も君が大好きだ」
アーロンは笑いながら、私を抱き上げたまま、ぐるぐると回る。
「ちょっと、アーロン、目が回るわ!」
私もくすくすと笑いながら、幸せに浸る。私たちは両想いなのだ。
「ああ、すまん。喜びすぎた」
私を地面に下してから、アーロンが素直に詫びる。けれども、その言葉の端々には幸せな様子が滲んでいた。そして、アーロンが私に向かって大きく手を広げる。
「エレーヌ、おいで」
私が素直にその胸に飛び込むと、アーロンは目を輝かせながらそっと包み込むように私を抱きしめた。彼の胸に顔をうずめると、思った以上に彼の胸はしっかりとしていて、そして温かい。
「俺は君を手放したりするもんか。これからはずっと一緒だ」
それが結婚を意味するものなのか、ただ単なる愛情表現なのかはわからなかったけれども、私は難しいことは考えず、ただただ、目の前にある幸せを享受していた。
疲れていたこともあるし、今はこの幸せにただ浸っていたかったのだ。将来のことはまた明日考えればいい。
暖かな彼の胸の中で、自分の腕を彼の背中に回してぎゅっと抱き着く。
「幸せかい、エレーヌ?」
私は無言でこくこくと頷くと、彼もまた嬉しそうな笑みをそっと浮かべる。
そんな風に、静かな夜の庭園で私たちは幸せなひと時を過ごしたのである。
その翌日、王宮にとある招待状が届き、私たちは再び、せっかく逃げ出した国に戻る羽目になるとは全く予想していなかったのである。
「急な話で済まなかった。エレーヌも疲れていただろう」
「疲れているのは確かだけど、どのみち、夕食は食べるものだから別に構わないわ」
そんな話をしながら歩いていると、アーロンが申し訳なさそうにぽつりと言葉をこぼす。
「ベルーシが無礼で申し訳なかった」
「いいのよ。ああいうのは、どこの国にもいるんだって思ったから」
そして、回廊の角に出た。ここを曲がった先には、アーロンの宮殿があり、私の部屋はその奥だ。
「それで、その…… さっきの話の続きなんだが」
アーロンが立ち止まり、私の手を取る。
「さっきの話ってなんだったっけ?」
私が無邪気に彼を見上げると、思いつめたように彼は顔を真っ赤にして、私をじっと見つめた。
「エレーヌ。今言わなくちゃダメだと思う。俺は…、俺は君が好きだ」
えっ?
突然のアーロンの大直球を前にして、私は驚いて息をのむ。
「地下牢で初めて君を見た時、熱のある俺を看病してくれた時、ことあるごとに、俺はエレーヌを意識していた。気が付いた時には、俺は君が好きすぎて、どうにかなってしまうんじゃないかと悩んだくらいだ」
「アーロン……」
「それで俺は決めた。地下牢から脱獄出来たら、君に俺の思いを打ち明けようと。俺の本当の姿を知ってもらって、そして、改めて、俺のことを好きになってもらいたいと思った」
そういうアーロンの表情は誠実さにあふれていて、そして、愛おしさに満ち溢れていた。正装であるアーロンの姿は見るからに立派で上品だ。
ああ、彼は王子様なんだな、とぼんやりと思っていると、頬に熱く湿ったものを感じる。
気づけば、アーロンが私の頬に口づけを落としていたのだ。
「好きだ。エレーヌ」
アーロンは私の両手をとり、じっと熱心な様子で私を見つめる。気づけば、口が勝手に開いて、自分の気持ちを素直に口にしてしまっていた。
「……私もアーロンのことが好き」
それは心の底から嘘偽りのない言葉である。
地下牢に一人放り込まれてから、なんだかんだ言っても、やはり心細かったのだ。その傍らにアーロンがいてくれて、どれほど心強かっただろう。そして、彼が見事に地下牢から脱出して一緒に連れてきてくれた。
「本当か?」
さっとアーロンの頬に血の気がさす。彼の表情ははつらつとして、生き生きとしている。私が素直にうなずくと、アーロンがいきなり私を抱き上げた。
「エレーヌ、俺もだ。俺も君が大好きだ」
アーロンは笑いながら、私を抱き上げたまま、ぐるぐると回る。
「ちょっと、アーロン、目が回るわ!」
私もくすくすと笑いながら、幸せに浸る。私たちは両想いなのだ。
「ああ、すまん。喜びすぎた」
私を地面に下してから、アーロンが素直に詫びる。けれども、その言葉の端々には幸せな様子が滲んでいた。そして、アーロンが私に向かって大きく手を広げる。
「エレーヌ、おいで」
私が素直にその胸に飛び込むと、アーロンは目を輝かせながらそっと包み込むように私を抱きしめた。彼の胸に顔をうずめると、思った以上に彼の胸はしっかりとしていて、そして温かい。
「俺は君を手放したりするもんか。これからはずっと一緒だ」
それが結婚を意味するものなのか、ただ単なる愛情表現なのかはわからなかったけれども、私は難しいことは考えず、ただただ、目の前にある幸せを享受していた。
疲れていたこともあるし、今はこの幸せにただ浸っていたかったのだ。将来のことはまた明日考えればいい。
暖かな彼の胸の中で、自分の腕を彼の背中に回してぎゅっと抱き着く。
「幸せかい、エレーヌ?」
私は無言でこくこくと頷くと、彼もまた嬉しそうな笑みをそっと浮かべる。
そんな風に、静かな夜の庭園で私たちは幸せなひと時を過ごしたのである。
その翌日、王宮にとある招待状が届き、私たちは再び、せっかく逃げ出した国に戻る羽目になるとは全く予想していなかったのである。
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