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突然の婚約破棄からそれは始まった
アーロンの宮殿にて~2
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「アーノルド殿下、ご令嬢のお衣装や身の回りのものを、お申し付けどうりお持ちいたしました」
扉が開いた秋には、修道女のようなベールをかぶった侍女が三人。そして、従僕が大きな荷物を抱えて立っていた。
「ああ、ありがとう。彼女も長い旅路のあとだ。ゆっくり世話をしてやってくれ」
先ほどの情熱に満ちた彼の表情はすっと消え去り、ごく事務的に侍女たちに話をする。
アーロン。すごい、切り替えが早い。さすが王族である。
私が少しあっけにとられていると、侍女の後ろに立っていた従僕が私に一礼したのち、アーロンに向かって声をかけた。
「殿下、一晩中、馬で駆けられたと伺いました。お疲れでしょう。すべてご用意しております」
「ああ、ありがとう」
アーロンは、そう言うと私に視線を戻す。
「エレーヌ、この者たちは君の侍女だ。身の回りの世話をしてくれるから、なんでも申し付けるといい」
従者たちの視線を感じながら、私もとりあえず、アーロンに対して、貴族として一番丁寧な礼をとる。
一歩、足を後ろに引き、背筋はまっすく伸ばしたまま、そのまま軽く頭を下げながら、膝を曲げる。ちなみに、相手が高位であればあるほど、膝を曲げる角度が深くなる。
その際、肘と手首の角度は柔らかくして、バレリーナのように優雅にふんわりとした感じを出すことも重要だ。優雅さ、貴族令嬢に一番求められるのはそれである。
それを見た侍女たちの目が、こいつ礼儀作法を知ってんのか、という感じに、ちょっと驚いたように見開かれた。
え、なんで知ってるのかって? これでも一応、王太子の婚約者でしたのよ、わたくし。隣国の礼儀作法もすでに学習済みですわ。ほほほ。
「様々なお心遣い、誠にありがとうございます」
貴族令嬢らしく、しおらしい態度で頭を下げる。
ほら、一応、彼の従者の前ではきちんとした態度をとるのが礼儀というものよ。一応、礼儀作法はこの国のプロトコールに従っているので、これが正解なはず。
それなのに!
普段の私の姿を知っているアーロンは、何が面白いのか、くくく、とひたすら笑いをこらえている。
「猫かぶり。すげえ……」
侍女さんたちは、ちょっと離れた所で控えているから、彼女たちには聞こえていないだろうけど、アーロンの微かなつぶやきは、私の耳にはばっちり届いている。
彼の肩が小刻みに震えて、笑わないように必死で我慢している様子が近くだと見え見えだ。
アーロン、いい加減にしないと、あとでデコピンをかましますわよ。
丁寧な礼をとりながら私はアーロンを見上げ、殺気立った視線を向けると、彼は何かを察したのだろう。彼はすっと笑いをこらえながら(本当はまだ笑っているのだが)、わざとらしく、一つ、咳払いをした。
「えー、こほん。では、マクナレン公爵令嬢、あとで使いをよこすので、それまで、ゆっくり休まれるがいい」
芝居がかかったセリフのようで、なんだかアーロンに負けたような感じがして悔しい。何故だ。解せぬ。
あとで、絶対にアーロンにデコピンをかませてやると強く固く決意しながら、彼の後ろ姿を見送った。
そして、アーロンが立ち去った後、侍女さんたちにお風呂に入れてもらったり、着替えをさせてもらったりと、かいがいしくお世話をしてもらって、長旅の疲れを癒したのであった。
……ちなみに、お風呂はずいぶんと長い間入っていなかったので、かなりすごいことになっていた。私より地下牢生活が長かったアーロンはもっとすごい状態になっていたことだろう。
正直、お風呂に入った時には、思わず脱皮したのかと思った。一応、公爵令嬢としての体裁があるので、極秘事項として、侍女さんたちにも固く口留めをお願いした。
お風呂に入って、すっきりしていると、侍女さんが冷たい飲み物を出してくれた。しっかり冷やしたパイナップルのジュースみたいな味に、すっきりしたミントの香りも添えられていた。
とっても美味しくいただきながら、さっき、アーロンが話そうとしていたことが気になって仕方がない。
何が言いたかったんだろう……。なんとなく、それが気になって、ふと飲み物を飲む手が止まる。
「お口に合いませんでしたか?」
そう聞かれて、私はあわててかぶりを振る。
「いえ、とても美味しくいただいておりますわ」
アーロンが何か言いたげにしている顔がちらついて、なんだか落ち着かない気持ちになっていた。
扉が開いた秋には、修道女のようなベールをかぶった侍女が三人。そして、従僕が大きな荷物を抱えて立っていた。
「ああ、ありがとう。彼女も長い旅路のあとだ。ゆっくり世話をしてやってくれ」
先ほどの情熱に満ちた彼の表情はすっと消え去り、ごく事務的に侍女たちに話をする。
アーロン。すごい、切り替えが早い。さすが王族である。
私が少しあっけにとられていると、侍女の後ろに立っていた従僕が私に一礼したのち、アーロンに向かって声をかけた。
「殿下、一晩中、馬で駆けられたと伺いました。お疲れでしょう。すべてご用意しております」
「ああ、ありがとう」
アーロンは、そう言うと私に視線を戻す。
「エレーヌ、この者たちは君の侍女だ。身の回りの世話をしてくれるから、なんでも申し付けるといい」
従者たちの視線を感じながら、私もとりあえず、アーロンに対して、貴族として一番丁寧な礼をとる。
一歩、足を後ろに引き、背筋はまっすく伸ばしたまま、そのまま軽く頭を下げながら、膝を曲げる。ちなみに、相手が高位であればあるほど、膝を曲げる角度が深くなる。
その際、肘と手首の角度は柔らかくして、バレリーナのように優雅にふんわりとした感じを出すことも重要だ。優雅さ、貴族令嬢に一番求められるのはそれである。
それを見た侍女たちの目が、こいつ礼儀作法を知ってんのか、という感じに、ちょっと驚いたように見開かれた。
え、なんで知ってるのかって? これでも一応、王太子の婚約者でしたのよ、わたくし。隣国の礼儀作法もすでに学習済みですわ。ほほほ。
「様々なお心遣い、誠にありがとうございます」
貴族令嬢らしく、しおらしい態度で頭を下げる。
ほら、一応、彼の従者の前ではきちんとした態度をとるのが礼儀というものよ。一応、礼儀作法はこの国のプロトコールに従っているので、これが正解なはず。
それなのに!
普段の私の姿を知っているアーロンは、何が面白いのか、くくく、とひたすら笑いをこらえている。
「猫かぶり。すげえ……」
侍女さんたちは、ちょっと離れた所で控えているから、彼女たちには聞こえていないだろうけど、アーロンの微かなつぶやきは、私の耳にはばっちり届いている。
彼の肩が小刻みに震えて、笑わないように必死で我慢している様子が近くだと見え見えだ。
アーロン、いい加減にしないと、あとでデコピンをかましますわよ。
丁寧な礼をとりながら私はアーロンを見上げ、殺気立った視線を向けると、彼は何かを察したのだろう。彼はすっと笑いをこらえながら(本当はまだ笑っているのだが)、わざとらしく、一つ、咳払いをした。
「えー、こほん。では、マクナレン公爵令嬢、あとで使いをよこすので、それまで、ゆっくり休まれるがいい」
芝居がかかったセリフのようで、なんだかアーロンに負けたような感じがして悔しい。何故だ。解せぬ。
あとで、絶対にアーロンにデコピンをかませてやると強く固く決意しながら、彼の後ろ姿を見送った。
そして、アーロンが立ち去った後、侍女さんたちにお風呂に入れてもらったり、着替えをさせてもらったりと、かいがいしくお世話をしてもらって、長旅の疲れを癒したのであった。
……ちなみに、お風呂はずいぶんと長い間入っていなかったので、かなりすごいことになっていた。私より地下牢生活が長かったアーロンはもっとすごい状態になっていたことだろう。
正直、お風呂に入った時には、思わず脱皮したのかと思った。一応、公爵令嬢としての体裁があるので、極秘事項として、侍女さんたちにも固く口留めをお願いした。
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「お口に合いませんでしたか?」
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