転生悪役令嬢、投獄されて運命の人と出会いました~この「おとしまえ」きっちりつけさせていただきます!

中村まり

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突然の婚約破棄からそれは始まった

アーロンの宮殿にて

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隣国の王宮についてからというもの、あれよあれよという間に怒涛の展開となった。
海に近いということから想像できるように、アーロンの宮殿はまさにリゾートホテルのようだった。

馬を預け、王宮の豪華なつくりに見とれる間もなく、すぐに彼の宮殿に連れていかれた。アーロンはかなり久しぶりの帰宮であり、下々の部下が彼を待っていたが、彼はとりあえず、そういうのは後回しにして、私を連れ帰ることを一番の目標にしていたようだった。

アーロンの宮殿の中を歩いていると、石造りの回廊は明るく開放的だったし、光が差しこむ中庭には、南の植物が生き生きと枝葉を伸ばしている。回廊の天井はアーチ型をしており、見るからに南国感あふれる素敵な建物だった。

「ほら、あそこがエレーヌの部屋だ」

そう言って、アーロンが連れてきてくれたのは、日当たりのよい広めのお部屋だ。いや、部屋というより、むしろホテルのスィートルーム以上のクオリティーだ。

どの部屋からもきれいな庭が見渡せるし、居心地のよさそうな藤でできた長椅子に、天蓋つきのベッド。ずっと地下牢にいたから、日の光と木々の緑が嬉しい。

レースのカーテンからそよそよと風が吹き込んできたこの部屋は、すごく心地がよさそうだった。

地下牢とはもちろん雲泥の差である。文句のつけようがないほど、素敵なお部屋だったので、私のテンションはぐんぐんと上がる。にこにこしながらあたりを眺めていると、アーロンがとても嬉しそうな顔をした。

「気に入ったか?」

「ええ、とても。アーロン、ありがとう」

アーロンがいなかったら、脱獄したとしても、すぐに捉えられていたはずだ。隣国の王族に保護されているからこその安心感がそこにあった。

脱獄してから、二人とも、ほんの少し休憩をとったものの、ずっと馬で駆けてきたのだ。アーロンだって疲れているはずだが、今の彼は生き生きとした表情をしており、なぜかとても嬉しそうだった。

自分の家に帰れたのがそんなにうれしいのかな、と思っていると、アーロンの顔に、いたずらっぽい表情が浮かぶ。

彼は突然、すっと片膝を落とすと、私の前にひざまずいた。

「アーロン、一体、どうしちゃ……」

私が言葉を言いおわらないうちに、突然、手の甲に温かくやわらかなものが触れる。

それがアーロンの唇であることに気が付いて、私は思いっきり狼狽した。
だって、アーロンは、明るい日の光の下では、暗がりより何倍もイケメン度が増していたのだ。

長い地下牢暮らしで、無精ひげが生えて少し痩せてしまってはいるが、精悍な顔立ちは相変わらずだし、短い黒い髪に、紫色のアメジストのような瞳。

そして今、細身で長身なアーロンが、床の上に片膝を立てて私を見上げている。
海外でよく男性がプロポーズする時のシチュエーションに似ている。

頬にさっと血が上る。

……決して頭に血が上った訳ではないからね?

そして、今、アーロンは私の手を握りしめたまま、熱い目で私を見つめていた。

「ア、アーロン、あの……」

今にも告白してきそうな彼の様子に、私は恥ずかしくなって、何と言ったらいいのかわからず、しどろもどろになる。

「エレーヌ、俺はあまり口がうまくない。けれども、その、俺はお前をあそこで初めてみた時から……」

一瞬、アーロンが口ごもる。いつもへらへらしている彼だが、こういう時はやはり王族なのだと思う。口元をキュッと閉めて思いつめた顔をするアーロンは、ひいき目に見ても、すごく様になっているのだ。短く言えば、すごくかっこいい。

「エレーヌ、俺のことをどう思ってる?」

「ど、どうって……?」

胸の震えを感じながら、私はしっかりとアーロンを見つめ返した。彼の手は燃えるように熱く、私と同じように、その手は少し小刻みに震えている。

「その……異性としてどう思うかってことだ」

やだ。アーロンから告白されたらどうしよう。今まで、地下牢の中でどう生き抜くかばかり考えていたから、愛だの恋だの、考えている余裕がなかったし……。

けれども、無意識のうちに私もアーロンの手をそっと握り返していた。私たちは微塵の動きもせず、お互いを見つめあう。心臓がどきどきして、今にも破裂しそうになりながら、思っていることを素直に言おうと決めた。

きっと、私にとってのアーロンは、きっと友達以上のものだ。いや、友達なんかよりも、もっともっと強い絆。きっと誰よりも大切な人なのだ。

「アーロン、私は、あなたのことを……」

アーロンも私の次の言葉を待ちわびて息をのみ、私の言葉を一言も逃すまいと熱心に見つめている。

その時だ。誰かが訪ねて来たようで、扉の向こう側で人の足音が聞こえ、こんこんとドアをノックする音が部屋に響いた。

アーロンはすっと立ち上がり、すっと手を放しながら残念そうな顔をする。

「まったく、なんでこんな時に」

彼は小さくつぶやいてから、短く、「入れ」と言葉を発した。

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