上 下
58 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第7話 掛け持ち

しおりを挟む
 私は懲りずに水路でスライムに挑んだが、攻撃は通らず逃げる羽目になった。
 くそったれである。
 これ、私授業での魔物退治のことを考えてパーティーのお約束を皆としておいてよかったかもと思うと同時に私が実践で全く役に立たないことが証明されてしまったのだ。
 私でも倒せる方法を探すか、違約金をなんとか払うしかない。払うにしてもそれはレーナではなく、エレーナとして。

 今回の対抗戦というのは、学年で優秀な生徒のチームを2チーム作り模擬戦闘を行うというものだ。
 ジーク、フォルト、シオン、アンナ、ミリー、そして全くこちらの世界にきてからかかわったことはないけれど、攻略対象者の一人でもあるエドガーを入れて今回一チームらしい。
 連携が要されることもあり、魔法のバランスだけではなく、生徒同士の仲も考えられチームは組まれる。
 生徒同士の仲を考慮されたため、優秀なほうじゃないクラスのアンナとミリーにも声はかかったのかもしれない。でも、二人のテスト結果十分優秀だったけどね。
 そして、仲良くつるんでいたけれど私だけは仲のよさでカバーできなかったため外されたんだけれど……。

 エドガーは風魔法の使い手だ。風魔法はチーム戦でも、単騎の場合でもかなり優れている。
 身体強化と風魔法の2重展開さえできれば移動速度はかなり早くなるし。風の刃は切り避けるし。
 距離さえ近ければ、相手の話し合うのを妨害することもできる。
 そりゃ、私選ばれないわけだわ! と納得である。
 どうせやるからには、相手チームには勝ってもらいたい。だからエドガーも頑張れ! 私と全然絡んだことないけれど。


 私は必死にバイトしていた。
 だって何回か挑んだけれどスライム倒せないんだもん。となると違約金だ。わざとハメたくらいなのだから金の調達ルートも納得できるものを用意しないといけないだろうと、私はバイトをかけ持ちするブラックな生活に早変わりしていた。

 自発的に頻度を決めやっていたバイトとやらなければいけないバイトでは楽しさは全然違う。日雇いのため終了後払われる銅貨を部屋でこっそり何度も数える。違約金まで程遠い。
 幸い期間が冬が終わるまでと長いけれど、かなり頑張らないといけないだろう。
 週に3回のシフトは今週に7回入ってる。もう、毎日ね……。
 土日なんて、朝から夕方まで……。
 それでも足りなくて、朝6時から別のバイトもかけ持ちしだしたわ。
 メイドには適当な理由いってさ。


 疲れた、笑顔もぎこちなくなる。
 店の人も、さすがに週7勤務をお願いしてからというもの、私達は午前中お休みだけれど学生のエレーナはその間休めないだろう? と心配してくれていた。

 ちょっとした思いつきでこんなことになるだなんて。
 自給を計算するけれど、これだけシフトをいれても追いつかない。
 どうしよう。




「おい」
 お金道端に落ちてないかしら。銀貨の1枚でも落ちていれば助かるのだけれど。
「おい」
 いや、落ちてるお金で穴埋めしたことを責められたらどうしよう。
「おい!」
 肩を掴まれて私はびっくりして振り返った。


 そこに立っていたのはフォルトだった。
「どうしたんだ? さっきからずっと呼んでるのに上の空だぞ」
 ぼーっとお金のこと考えながら校内をお金落ちてないかうろついてたや。なんたる末期だろうか。
「いえ、なんでもありません」
 騙されて多額の違約金を払わないといけなくなったなど言えない。


「なんでもないわけないだろ」
 フォルトの手が私の頬に伸びる。
「頬が少しこけてるし痩せたにしてもこんな痩せ方したらダメだろ。それに肌も化粧でカバーしてるけど荒れてる。ちゃんと食べて寝ているのか?」
 痩せたことは気がついてなかった、でも立ち仕事は忙しくて、今までのレーナよりカロリーはつかってると思う。
 寝ているだろうか? と考えるといつもの時間にはベッドに横になっていたけれど、不安で眠りは浅かったかもしれない。


「どうした。絶対おかしいぞ」
 フォルトはとても心配そうな顔で私を問い詰めた。
「……大丈夫です」
「俺たち友達になったんだろ」
 フォルトの瞳がまっすぐ私を見つめた。


 こんなに心配してくれているけれど、怒られたくないとか馬鹿にされたどうしようってことが話すことを止める。
「友達にも言えないってことか?」
 フォルトの眉が怪訝そうによる。
 私はそれに適当にうなずく。
「わかった。……約束覚えてるか?」
 フォルトとした約束は一つしかない。


 破棄するようなことがあれば前向きに検討する。
 フォルトが以前私にそう言ってくれたことを思い出す。
「レーナ嬢はいいやつだと今は思ってる。今、何をそんなに悩んでるのかわからないが、困っている姿をほっとけないくらいは俺はレーナを気にかけていると思う。レーナ嬢と婚約すれば次期公爵が本決まりになるだろうから俺には十分メリットがある」
 待って。本当に言葉に出してしまうつもりなのか。

「俺と婚約すれば、お前の悩みは無くなるのか?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。