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1. ガチャの神様
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俺は、通勤中に暇つぶしにやっていたアプリゲームにいつの間にか夢中になっていた。
強いキャラが出るガチャに、ちょっとだけ……と課金して、いつの間にか諭吉さんを何人か旅立たせていた。スマホは怖い。実感のないままお金がなくなる。
でも、課金してもいいキャラは手に入らなかった。ネットで検索したら、「そういうものです」という結論しかなかった。
ネットの世界には、その他にも、「物欲センサー」なる単語があり、欲しいと思い過ぎるとガチャで出ないというジンクスがあるらしい。
俺は一計を案じた。
恥も外聞もかき捨て、電車の中で乗り合わせた知らん人にガチャを引いてもらうことにしたのだ。
俺が電車に乗っている時間は40分。さすがにお願いして断られた時に気まずい時間が長いのは嫌なので、30分過ぎた頃から声をかけることにした。しかも、いつもの電車より少し時間をずらし、遅めの電車にした。酔っ払いの多い時間帯なら、俺のお願いも許される気がしたからだ。
電車に乗って、アプリをやりながら、お願いを聞いてくれそうな人をチラチラ探した。出来れば同じゲームをやってなさそうな人……ということで、スマホに手をかけていない人がいいなと思ったのだが、意外とみんなスマホをいじっている。
そんな中で、スマホも見ず、静かに文庫本を読んでいるスーツで眼鏡の何となくお願いを聞いてくれそうな男に、俺はターゲットをしぼった。
後は、もう少し時間が過ぎてから……と立っていた俺は駅の乗降のタイミングでさり気なく男の隣に座った。男は本に集中しているのか、となりに座っても微動だにせず、本のページをめくる手だけが動いていた。
ふと、フッと男が笑った気がした。そんなに本の内容が面白かったのかなと俺はちょっと背伸びをして本の中身を覗こうと男の手元に視線を……バチッと男と目が合ってしまった。
あ。
俺は、誤魔化そうとヘラッと笑って、「あー……」とその男から目を逸らし、スマホの時計を見た。
思ったより気まずい時間が長くなりそうだが、もう不審に思われているなら、今がチャンスなのかもしれない。
「あのっ!」
俺が、男に声をかけると、男は文庫本にスッと栞らしきものを挟んで閉じると、微笑んで俺の顔を見た。
「何か?」
俺は今からおかしなことを言うぜ。よし、言う。
「この、スマホアプリのガチャを俺の代わりに引いてもらえませんか?!」
思ったより大きな声が出て、男が目を丸くした後クスクスと笑う。
「何かと思えば……いいですよ?」
どうすればいいですか、と男がスマホに顔を寄せてくる。ふわっと香る爽やかな匂い。気遣いが出来る人なんだろうな。ああ、俺はそういう人になんてことを頼んでるんだろうか。すごい残念な人間。
「ここをこうしてもらって……」
説明して、早速ガチャを引いてもらう。
ドキドキしながら画面を見ていると、確定演出が来た。
「えっ?!」
俺が何度やっても出なかった欲しかった強いキャラが、嘘だろう、十連ガチャ一度で二体来た。
最強キャラが……
俺が驚いていると、男は、「これはキラキラしてますけど凄いんですか?」とかフワッと笑って言う。
「凄いどころか……!!」
思わずまた声が大きくなって、慌てて口をふさぐと、男はまた眼鏡の奥の目を細めた。
「良かったです」
「ご協力感謝します」
俺はホクホクして、そのキャラクターを眺め、ふと、別のアプリを開いた。
「図々しいお願いですが、もう一つもやってみてくれませんか?」
おずおずとスマホを差し出すと、男は「そんなに期待しないで下さいね」と言いながら、ポンとスマホを押してくれる。
俺は祈った。
またもや確定演出。嘘だろう。これも欲しかった最強キャラが出た。
「もしかして、これもいいやつですか?」
大興奮した俺は、男の手を両手で握りしめた。
「本当にありがとうございます! あなたは俺の神様です! 結婚したいくらい!!」
俺の言葉に、男は目を細めて、笑った。
「いいですよ。結婚しましょうか」
「えっ……?」
結婚したいくらい、とは言ったが、まさかそれに対していいですよと言われるとは思わなかった。
「私も、ちょうど結婚したいなと思ってましたから」
「えっ……?」
男はにっこり笑って、俺が握りしめた手を返して握り直した。
「男同士ですから、結婚と言っても正式な形は取れませんけど、パートナーになって、一緒に暮らしましょうね。善は急げです。今日は私の家に来てくれますよね?」
「えっ……?」
男は、ちょうど着いた駅で俺の手を引いて降りる。
「えっ……?」
さっきから俺は「え」しか言えていない。
ガチャを神引きしてくれた親切な男に、俺はなぜか手を引かれて、男の家に連れて行かれそうになっている。
どういうことだ、と頭の中はパニックになっているものの、この男といつも一緒なら、いつでも神引きしてもらえると思ったら、何も断ることもないんじゃないかなって思えてしまう。
「さ、ここが私の家です」
強いキャラが出るガチャに、ちょっとだけ……と課金して、いつの間にか諭吉さんを何人か旅立たせていた。スマホは怖い。実感のないままお金がなくなる。
でも、課金してもいいキャラは手に入らなかった。ネットで検索したら、「そういうものです」という結論しかなかった。
ネットの世界には、その他にも、「物欲センサー」なる単語があり、欲しいと思い過ぎるとガチャで出ないというジンクスがあるらしい。
俺は一計を案じた。
恥も外聞もかき捨て、電車の中で乗り合わせた知らん人にガチャを引いてもらうことにしたのだ。
俺が電車に乗っている時間は40分。さすがにお願いして断られた時に気まずい時間が長いのは嫌なので、30分過ぎた頃から声をかけることにした。しかも、いつもの電車より少し時間をずらし、遅めの電車にした。酔っ払いの多い時間帯なら、俺のお願いも許される気がしたからだ。
電車に乗って、アプリをやりながら、お願いを聞いてくれそうな人をチラチラ探した。出来れば同じゲームをやってなさそうな人……ということで、スマホに手をかけていない人がいいなと思ったのだが、意外とみんなスマホをいじっている。
そんな中で、スマホも見ず、静かに文庫本を読んでいるスーツで眼鏡の何となくお願いを聞いてくれそうな男に、俺はターゲットをしぼった。
後は、もう少し時間が過ぎてから……と立っていた俺は駅の乗降のタイミングでさり気なく男の隣に座った。男は本に集中しているのか、となりに座っても微動だにせず、本のページをめくる手だけが動いていた。
ふと、フッと男が笑った気がした。そんなに本の内容が面白かったのかなと俺はちょっと背伸びをして本の中身を覗こうと男の手元に視線を……バチッと男と目が合ってしまった。
あ。
俺は、誤魔化そうとヘラッと笑って、「あー……」とその男から目を逸らし、スマホの時計を見た。
思ったより気まずい時間が長くなりそうだが、もう不審に思われているなら、今がチャンスなのかもしれない。
「あのっ!」
俺が、男に声をかけると、男は文庫本にスッと栞らしきものを挟んで閉じると、微笑んで俺の顔を見た。
「何か?」
俺は今からおかしなことを言うぜ。よし、言う。
「この、スマホアプリのガチャを俺の代わりに引いてもらえませんか?!」
思ったより大きな声が出て、男が目を丸くした後クスクスと笑う。
「何かと思えば……いいですよ?」
どうすればいいですか、と男がスマホに顔を寄せてくる。ふわっと香る爽やかな匂い。気遣いが出来る人なんだろうな。ああ、俺はそういう人になんてことを頼んでるんだろうか。すごい残念な人間。
「ここをこうしてもらって……」
説明して、早速ガチャを引いてもらう。
ドキドキしながら画面を見ていると、確定演出が来た。
「えっ?!」
俺が何度やっても出なかった欲しかった強いキャラが、嘘だろう、十連ガチャ一度で二体来た。
最強キャラが……
俺が驚いていると、男は、「これはキラキラしてますけど凄いんですか?」とかフワッと笑って言う。
「凄いどころか……!!」
思わずまた声が大きくなって、慌てて口をふさぐと、男はまた眼鏡の奥の目を細めた。
「良かったです」
「ご協力感謝します」
俺はホクホクして、そのキャラクターを眺め、ふと、別のアプリを開いた。
「図々しいお願いですが、もう一つもやってみてくれませんか?」
おずおずとスマホを差し出すと、男は「そんなに期待しないで下さいね」と言いながら、ポンとスマホを押してくれる。
俺は祈った。
またもや確定演出。嘘だろう。これも欲しかった最強キャラが出た。
「もしかして、これもいいやつですか?」
大興奮した俺は、男の手を両手で握りしめた。
「本当にありがとうございます! あなたは俺の神様です! 結婚したいくらい!!」
俺の言葉に、男は目を細めて、笑った。
「いいですよ。結婚しましょうか」
「えっ……?」
結婚したいくらい、とは言ったが、まさかそれに対していいですよと言われるとは思わなかった。
「私も、ちょうど結婚したいなと思ってましたから」
「えっ……?」
男はにっこり笑って、俺が握りしめた手を返して握り直した。
「男同士ですから、結婚と言っても正式な形は取れませんけど、パートナーになって、一緒に暮らしましょうね。善は急げです。今日は私の家に来てくれますよね?」
「えっ……?」
男は、ちょうど着いた駅で俺の手を引いて降りる。
「えっ……?」
さっきから俺は「え」しか言えていない。
ガチャを神引きしてくれた親切な男に、俺はなぜか手を引かれて、男の家に連れて行かれそうになっている。
どういうことだ、と頭の中はパニックになっているものの、この男といつも一緒なら、いつでも神引きしてもらえると思ったら、何も断ることもないんじゃないかなって思えてしまう。
「さ、ここが私の家です」
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