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#108 鹿の魔物肉を食べよう

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「シュージ、ちょっといいかしら?」

「どうしましたか、シャロさん?」


 ある日の昼下がり、シュージが今度の帝国での食事会に向けての料理をぼんやりと考えていると、シャロが声をかけてきた。


「今日、複数ギルド合同でロックディアの大量討伐依頼があって、私とかガルとかも行って来たんだけど、ディアの肉が凄い安く街の正門前で売られてるから、一応知らせとこうと思って」

「ディアというと、確か鹿の魔物でしたっけ?」

「そうよ。 ロックディアはツノが石で出来た鹿の魔物ね」

「たまに肉屋で売ってるのを見たことありましたけど、買った事はなかったですね。 良い機会ですし買ってみましょうか」


 それからシャロに付いて行って正門の方へ行くと、そこには簡易的なテントが建てられていて、聞いていた通りかなり安くディアの肉が売られていた。

 ただ、その量の割には売れ行きはそこまでのようだった。

 どうやらディアの肉は他の肉よりはあまり人気がないらしい。

 が、味や風味の特徴を聞いた感じ、地球の鹿肉と変わらなそうだったので、とりあえずシュージは大量に購入していった。


「ありがとうございます、シャロさん。 良い買い物ができました」

「良かったわね。 それでどんなもの作るか楽しみにしてるわ」


 案内してくれたシャロはこの後にもう一仕事あるそうなので一旦別れ、シュージはギルドに戻っていった。


「お、シュージさん。 それなんの肉ですか?」

「ディアの肉ですね。 今日大規模な討伐依頼があったそうで、とても安く手に入りました」

「ディアの肉はあんまり食べた事ないですね」

「多分美味しいと思いますよ」


 ディアの肉を買いに行ったりしている間に陽も沈んでいい時間になってきたので、早速晩ご飯としてハンスと共にディアの肉を調理していく。

 今回はブロック状のロース肉を用意し、まずは塩胡椒を振って下味をつけておく。

 それが馴染んだら、強火に熱したフライパンにオリーブオイルを注ぎ、ブロック肉の全ての面に焼き色が付くように転がしながら焼いていく。


「このぐらいで良いですよ」

「まだ火は通って無さそうですけど、良いんですか?」

「ここからはオーブンで焼いていきます」


 焼き色がついたブロック肉を取り出したら、ヒートスライムシートで肉を包み、予熱しておいたオーブンで10分ほど焼いていく。

 その間に、先程ディアの肉を焼いたフライパンにバター、赤ワイン、ジャム、醤油、蜂蜜を入れてソースを作る。


「そういえばハンスさん、先日王都に戻っていたようですが、どうでしたか?」

「家族に色々と報告して、王城の料理人達とも会ってきましたよ。 皆んなにちゃんとやってるって伝えてきました」

「ハンスさんはしっかりやれる事やってますよ」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。 自分的にはまだまだだと思ってますけど」

「向上心があるのも素晴らしいですね」


 肉を焼いている間にそんな会話をしながらサラダなども作り、そうこうしているうちに肉もいい感じに焼き上がった。

 あとはこれを30分ほど休ませて余熱で火を通したら、ディア肉のローストの完成だ。


「これは以前食べたローストビーフに似ていますね?」

「そうですね。 これもこれで美味しいと思いますよ」


 それから夕飯を食べにやって来たメンバーに、切り分けて盛り付けたディア肉のローストを渡していった。

 ギルドでも前にローストビーフを振る舞ったことがあるので、皆んなあれと似たような感じかなという受け入れ方をし、早速口に運んでいった。
 

「んっ! これ、とっても美味しいわ」

「鹿肉は食感も柔らかくて美味しいですねぇ」

「なんか、勝手にクセが強いものかと思ってたけど、そうでもないのね?」

「血抜きとかを丁寧にやらないと確かに臭くなってしまったりしますね。 今回のものは解体した方の腕が良かったのでしょう」


 鹿肉はどうしても獣臭いんじゃないかというイメージがあるが、下処理さえ丁寧にされていれば高級牛肉にも負けない旨味ともちもちとした食感が魅力の美味しい肉なのだ。


「結構お気に入りかも、ディアの肉」

「全員に振る舞っても5食くらいは賄えそうな量変えたので、また色々と作りますね」

「ええ、楽しみにしてるわ」


 また新しい魔物肉の魅力に触れ、新たな料理のレパートリーが増えた1日になるのであった。
 
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