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#107 オリオンとの相談

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「さて、では話をしようか」


 王族達とのお茶会も一段落し、シュージとオリオン、エヴェリーナ、そしてフローリアは城内の応接室に場所を移していた。

 フローリアがこの場にいるのは本人曰くお目付け役との事で、フローリア的にはエヴェリーナが帝国に嫁いだ際に過ごしやすく文化が変わるのは歓迎すべき事なのだが、だからと言ってオリオン達が良くない手段を取ろうとした際にそれを止めれるようここにいるのだ。

 もちろん、オリオンは荒事を起こすつもりはないので、どちらかと言えば一国の王妃としての意見を聞かせてもらう目的が主だ。


「ムッタから話は聞いているとは思うが、その補足も兼ねてまずは私の目的から話そう。 私の目的は帝国に残る人々の生活を妨げるような文化を撤廃したいと思っている。 その中の一つが食文化だ」

「僕は食文化の改革のお手伝いをすれば良いんですよね」

「ああ。 やはり食事というのは生きる上でなくてはならない物だから、そこを改善できれば他の文化改革への足掛かりにもなると思う。 個人的には、今ある悪しき文化の中の一つでも改善できれば、あとはなし崩し的に進めていくことができる気がしているんだ」

「そうなんですか?」

「皆んなどこか自国の文化に疑問を持っているからね。 それが良い方向に向く変化なら、割とすぐに受け入れるだろう。 もちろん、そんな推測でことを進めるわけにはいかないから、しっかりと下地も整えていくよ」

「そこまでしっかり先が見通せているなら、僕としても安心して協力できます」

「例え上手くいかなかったとしても、貴殿に何か責任を負わせたりはしないと誓うよ。 むしろ、貴殿の素晴らしい料理を食べて、納得しない方が問題もある気がするが」

「ご期待に添えるよう、頑張りますね」

「ところで、シュージ殿はもう何を作るとかは決めているのかい?」

「ある程度構想は練っていますよ」

「そうか。 では、参考になるか分からないがこれを」


 オリオンはそう言うと、机に置いてあった収納袋から肉のようなものが乗った皿を取り出した。


「これは我が国で一般的な料理の一つだ」

「ふむ、頂いてもいいですか?」

「ああ。 ……ただ、まずは一つにしてくれ」


 オリオンに言われた通り、シュージはとりあえず肉の一欠片をフォークで刺して口に運んだ。


「おっふ……」


 そしてその肉を一噛みすると、口の中にとてつもない甘味が広がった。

 それは正しく歯が溶けるんじゃないかと言うぐらいの甘さで、シュージが前世で海外に行った際に食べた、外国のお菓子と同等かそれ以上のものだった。


「はは…… 無理せず出しても構わないよ」

「い、いえ、一度口にしたものはちゃんと食べます……」


 とりあえず口に含んだ肉を頑張って飲み込み、置いてあった紅茶で無理やり流し込んだ。

 恐らくこの肉は蜂蜜や砂糖で長時間漬け込まれていたようで、更にその上にも蜂蜜か何かがベースの甘いソースまでもかけられており、もう本当にすごい甘さだった。


「これは我が国では一般的なものなんだよ」

「甘いものが好きな私でも、最初に食べた時はちょっと衝撃でした」

「これは慣れてない身からするとあまり受け付けませんね…… それに、体にもあまり良くなさそうです」

「それはそうかもしれないね」

「こういうのが一般的となると、帝国の方は体型がふくよかな方が多いのでは?」

「そうだね、他国に比べると多いと思う」

「やはり確実に体にも良くないですね…… 糖分の取りすぎは肥満や病気を引き起こしますから」

「ふむ、シュージ殿はそういうことにも詳しいのだな」


 前々から感じていたが、この世界はあまり食事の栄養素とかの知識が浸透していないらしい。

 一応、肉と野菜のバランスが大事くらいの知識はあるが、ビタミンとか鉄分とかそういうちょっと細かな話になってくると全く通じないのだ。


「確かに、我が国の民は他国に比べると早死にする者が多いのだ。 それも食文化が起因していたのか……」

「食文化もそうですが、もし他にも不自由な文化などがあると、人間はストレスという自覚しにくい疲労感のようなものを体に溜め込んでしまって、それが病気につながる事も多いですね」


 現代日本でもストレスが起因の生活習慣病が社会問題になるくらいなので、地球ほどインフラも整っていないこの世界では、ストレスを感じる事はかなり多いだろう。


「貴重な話をありがとう。 その事も父上達に交渉する材料にさせてもらうよ」

「はい、構いませんよ」

「それと、君の料理を振る舞う場をちゃんと設けるつもりだ。 そこには私達皇族と貴族達、あとは街の有力者なども集めようと思っている」

「かなりの人数になりそうですね?」

「なるべく最初に大勢にインパクトを与えたいからね。 貴族達もそうだが、平民達にも知ってもらえるような場にするつもりだ」

「分かりました。 段取りの方を色々と考えておきますね」

「ああ。 恐らく開催は一月程先になると思うから、何か必要なものがあればいつでも言ってくれ。 手紙のやり取りやまたこうして開催前に一度会って相談したりもしよう」

「ふふ、一応同席しましたが、私の出る幕は無さそうですね」

「いえ、この話を聞いてそう言ってもらえただけでも自信に繋がります。 ありがとうございます、フローリア王妃」

「シュージさん、我々王家も今回の事は無関係ではありませんから、何かあれば遠慮なくお申し付けください」

「私も自分にできることを頑張りますわ!」

「はは、ありがとうございます。 一丸となって頑張っていきましょう」


 その後も細かいところの擦り合わせを行い、各自どう動いていくのかも確認しあって、話し合いはひとまず一段落つくのであった。



 ※※※


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