ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

文字の大きさ
72 / 92
兵革の五月[May of Struggle]

Mission34 紅宮篝の過去

しおりを挟む
突如何者かに操られているかの様にベアトリクスへと襲いかかった紅宮篝。
それは全員が考えている通り、彼女の意志ではなかった。
ではなにに操られているのか、その答えは彼女の武器にあった。

──ワタシ、紅宮篝はとある神社の神主の一人娘として生まれた。

「おーい、篝。拝殿の掃除に行くぞ」

箒を手に、ワタシの父はそう言った。
父さん──紅宮いさりはこの紅宮神社の神主だ。

「ああ父さん、今行く!」

ワタシは返事をすると立ち上がり、父さんと共に神社の拝殿へと向かう。
神主である父さんと神主の娘であるワタシの日課は神社の掃除から始まる。

「……それにしてもお前もだいぶ大きくなったな。母さんに似てきた」

拝殿の床を箒で掃きながら唐突にそう言った。

「母さん……どんな人だったんだ?」

そういえば聞いたことがなかった。
幼い頃に病気で死んだとしか聞いていない。
ワタシの問いに父さんは手を止め、懐中からなにかを取り出した。

「楚々とした女性ひとだったよ。それと同時に気丈だった……」

彼が懐から取り出したのは一枚の写真だった。
父さんは掃く手を止めて写真に写る一人の女性を見ていた。

「……しかしまさか風邪をこじらせて病没するなんてな。彼女もお前同様に小さい頃は病気がちだったと聞いていたが……」

瞳を母さんからワタシに移すと彼はワタシの頭を撫でた。

「お前も最近じゃ元気になってきたしな、もし私が倒れても強く生きていけるだろう」
「……父さん、悲しいことは……」

言わないでくれ。言い切ったつもりだったが喉の奥でつっかえた。
けれど父さんはワタシの言いたいことを理解した様に頭に乗せた手を肩に回すとそのまま抱き寄せた。

「ああ、すまない。お前を独りにするにはまだ早いな」
「……そう思うんなら朝夕の食事、塩分を少なめにしてくれ」

抱き寄せられたままワタシは父さんに対してそう言った。
……味覚音痴なのか父さんは塩をこれでもかというくらいに料理に投入する。
この間も大さじ一杯でいい料理を「味が薄い」ということで五倍は入れていた。

「う゛……しかしそれでは味が……」
「味と健康、どっちを取るんだ」

詰問調で言うとしおれた青菜の様に萎縮し、噤んでしまった。
こんな会話だろうと神社での出来事は全て宝物だった。
──しかしある日、神社は爆音と共に一瞬のうちに炎に包まれた。
理由は何者かによる自爆テロだった。

「っ!」

神社の拝殿にいたワタシたちは突然炎包まれ、それと同時に天井が崩れ落ちた。
しかしワタシには怪我がなかった。神社を一瞬で炎に包むほどの爆発があったというのにだ。
その理由は簡単だった。

「ぐふ……ッ、篝……」
「父さんッ!」

──それはワタシを覆う様にして父さんが抱いていたからだ。
そのお陰でワタシは無傷だった。
けれど当然爆発を浴びた父さんは無事ではなかった。

「篝……強く生きろ……」

彼はそう言うと口から血を吐き、そのまま命を手放した。
よく見てみると彼の胸には鋭く尖った木が突き刺さっていて、そこからは血潮が滝の如く流れ出ているのだ。

「父さん……っ」

ワタシは泣きつつ、燃え盛る拝殿から脱出する。
ワタシの膂力では父さんを引きずってもせいぜい数センチ動かせる程度だ。
それにこれだけ出血していては助からない。
ぼうぼうと紅に包まれていく拝殿から運び出したかったものの無理だと判断し、ワタシは外に出て、思い切り酸素を取り込んだ。
その時、外に戦闘服やヘルメットに身を包んだ人物が複数人いるのを見た。

「こちらアルファチーム、これより神社に突入します」
〈了解。生存者は保護しろ〉

彼らはどうやら対テロ党の戦闘員である様だった。
彼らが来たのはテロリストによる自爆テロで、神社が焼けたという通報を受けたかららしい。
彼らの役割はテロの鎮圧やテロリストの逮捕、被害者の保護だ。
神社はすぐに彼らによって規制線が張られ、そこにいたワタシは保護された。

「神社に一名生存者が。服装からして神主の娘の様です」
〈そうか。怪我をしている様ならば治療をして、私の所まで連れてきてくれ〉
「了解です。さぁ、治療しに行こう」

ワタシはそのまま対テロ党の戦闘員によって連れられ、治療を受ける。
その時もワタシは泣いていた。理由は当然ワタシの生まれ育った場所でもあり宝でもある神社が焼失したからだ。

「もうすぐ党首様が来るからね」

強い失意にうちひしがれていたワタシはやがて涙も枯れ、魂の抜けた人形の様に虚空を見つめていた。
そんなワタシの前に彼は現れた。

「待たせたな、私が対テロ党の党首だ」

年老いた彼はそう言うがその時のワタシにとってはどうでもよかった。
ワタシのほとんどである神社があんな風になった今、生きていても無駄な時間を過ごすだけだ。
心が軋り、崩れ去ろうとしている時、彼はワタシに言った。

「……この神社、修復したいか」

突然の問いに一瞬逡巡した。
しかしその問いにワタシは当然頷いた。

「この神社をこの様にした狼藉者共……お前自身の手で裁きを与えたいか」

党首はワタシに再び問うた。
今度は彼がなにを言っているのかが幼いワタシには理解できなかった。
裁きを与える……?

「そうだな……奴らの様な連中をお前自身の手で罰を与えたいか、ということだ」

そんなワタシに彼は判りやすく言い換えてくれた。
そしてワタシは理解をした。
それと同時に心の奥底からとある感情がふつふつと暗く、熱く燃え盛り始めたのを感じた。

「どうだ、奴らに裁きを与えるか。我々はそれを可能にする力を持っている」

彼の言っていることを理解したワタシは頷いた。

──それからワタシは対テロ党によって育てられた。

身体を強化するための訓練はとても過酷だったがワタシはあの時燃え盛った感情を頼りに食らい付いていった。
そして訓練漬けの日々を重ねていき、ワタシが15になる時、対テロ党の一部隊を率いる隊長の座に就くこととなった。

「おめでとう、篝」
「流石だ、篝。その年齢としで隊長になるなんてな」
「紅宮隊長、ついていきますよ」

対テロ党の部隊の隊長を任されるのは二十代後半や三十代前半くらいの人間が普通だった。
十代で隊長の座に就いたワタシは数々の対テロ作戦の指揮を任される立場となった。
隊員たちも自分たちよりも若い隊長にも関わらずついてきてくれた。
ワタシが隊長になって一年経った時だった。
対テロ党の司令官に呼ばれ、ワタシは作戦司令室に来ていた。

「ドイツから日本に密入国者がやってきたらしい。奴は紙越町にあるイージス学園にいる。どうだ、奴を捕らえてくれるか」

ワタシは頷いた。

「それと……今回、お前の武器にはエクセリクシチップを再現した偽物のチップ“レプリカチップ”を搭載した」

それを聞いてワタシは驚きを隠せなかった。
エクセリクシチップはアームズメイカーが作り出した24個のチップで、その全容は判っていないはずだ。
全容が明らかにされていないものを再現できるのか、という驚きもあったがそれ以上にワタシは新たな力を得られるという高揚感が勝っていた。

「レプリカ……というだけあって本物に比べたら粗悪品だ。能力を使っても問題はないが、強い行動原理を感じ取るとチップに精神を乗っ取られたかの様な人間が何名か出ている」

──チップに、精神を?

「お前も気を付けて使ってくれ。テロを憎む気持ちは判るが……お前は家族同然の存在だ。お前の身になにかがあっては皆悲しむ」

──ワタシの身?そんなもの、どうでもいい。

テロさえ滅ぼせればこの身が破滅することになっても構わない。
ワタシの存在とテロの根絶……天秤にかけるだけでもくたびれる。

「はい、司令官。テロの掃滅のため……ワタシは戦います」

ワタシはワタシを拾ってくれた対テロ党のために今日も刀を握る。
そして強い行動原理にその身を滅ぼす道を辿ることになる──……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...