夢の中でも愛してる

狭山ひびき

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知りたくなかった事実

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 信じられないことだが、どうやら夢の中のリリーと入れ替わったらしい。

 遥香がそう気がついたのは、夢の中と思っていた世界でリリーの姿で目覚めた、次の日のことだった。

 昨日は、「リリーは頭を打った衝撃からか、少し意識がぼんやりしている」というクロードの咄嗟の機転で、アリスやリリックを含め、クロード以外の人とはほとんど会話をせずにすんだ。

 遥香はベッドの上で上体を起こすと、こめかみをおさえて、ふう、と息を吐きだす。

 ――夢の中に、遥香の姿をしたリリーがいた。

(もう、わけがわからない……)

 夢の中の弘貴は「リリー」を知っていた。

(クロードもわたしを知ってるし、弘貴さんもリリーを知ってる。リリーも弘貴さんを知ってる風だったし、意味がわからない……)

 はあ、とため息をこぼしていると、コンコンと部屋の扉が叩かれてクロードが部屋に入ってきた。

「気分はどうだ?」

 探るような目で見られて、遥香は苦笑を浮かべる。

 すると、中身が遥香のままだと気がついたクロードが、肩をすくめて見せた。

「遥香のまま、か」

 ゆっくりとベッドまで近づいてきて、クロードはその淵に浅く腰掛ける。

 昨日、クロードは、夢の中で遥香を見ていたと言っていた。

 遥香が夢の中でリリーを通して世界を見ていたように、クロードは弘貴を通して遥香の世界を見ていたらしい。

 逆を言えば、リリーが遥香の目を通して遥香の世界を見て、弘貴がクロードの目を通してこの世界を見ていたと考えれば、四人がそれぞれを知っている理由がつく。だが、あまりに非現実的すぎて、遥香の頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「……現実の、ううん、あっちの世界のわたしの中に、リリーがいたの」

 遥香が言えば、クロードは予測ずみだったのか、「そうか」と頷いた。

「どういう理屈かわからないが、お前とリリーは中身だけ入れ替わったらしいな」

 遥香は怪訝そうに眉を寄せた。

「どうして、そうすんなり納得できるの?」

「実際に目の前で起こっているんだ、納得するしかない」

「でも……」

 遥香は左手の薬指を撫でる。そこには弘貴からプレゼントされた指輪がはまっている。どういうわけか、中身と一緒に指輪も入れ替わったようなのだ。

「入れ替わったのなら、元に戻る方法もあるはずだ。途方に暮れるより、元に戻る方法を考える方が建設的だろう」

 クロードに諭すように言われて、遥香は押し黙る。

 クロードは立ち上がると、部屋のカーテンを開けた。朝の白い光が部屋いっぱいに入り込んで、遥香はまぶしくて目を細める。

 クロードは窓の外に広がる青い空をしばらく黙って見上げていたが、やがて遥香を振り返った。

「遥香、リリーのふりはできるか?」

「え?」

「お前がリリーじゃないと言っても、きっと誰も信じない。変に怪しまれても困るし、できればリリーのふりをしていてほしい。元に戻る方法は俺が探す」

「……できるかどうか、わからないけど」

 この世界の勝手は、毎夜夢を見ていたおかげでなんとなく理解している。だが、「リリー」になりきって生活しろというのはなかなか難しい要求だった。それでもその必要性は遥香も理解できるので、不安に思いながらも遥香は頷く。

 こうして、何がどうなっているのかわからないまま、遥香はリリーとして生活することになったのだった。
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