短編集「異世界恋愛」

狭山ひびき

文字の大きさ
35 / 103
世界最強の魔女は普段はポンコツ

しおりを挟む
「あたし、世界最強の魔女って呼ばれてんの?」

 アメリアは目を丸くした。

「違うのか?」

「え? さあ? だって誰かと比べたことなんてないしぃ」

「だが、ババァはお前に世界を救ってもらえと……、まさかあのババァまた間違ったんじゃねぇだろうな……」

 アメリアは食後にチョコレートを食べながら、

「そのババァがなんなのか知らないけど、災厄は来ると思うわよ」

 と、けろっと答えた。

 フランシスはガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。

「来るのか⁉」

「うん。今年の終わりか来年のはじまりくらいかしらねー?」

「その災厄が何なのかお前は知っているのか?」

「星よ」

 アメリアは天井を指さして答える。

「大きな星が降ってくるの。星のせいで起こる異常気象――、それが災厄ね」

 フランシスは机に手をついたまま茫然とした。星? 空に輝いている星のことか? それが降って来るって――どういうことだ。

 アメリアは口の中でチョコレートを転がしながら少しだけ考えこむ。

「どこに落ちてくるのかはまだわかんないのよねー。早く場所を割り出して避難させないと、国の二、三個は吹っ飛ぶと思うから……」

「国が吹き飛ぶ⁉ 二、三個⁉」

「たぶんねー。六百年前の星より大きそうだし」

 国が二つも三つも吹き飛ぶくらいの威力だと言うのに、どうしてアメリアは涼しい顔をしているのだろうか。

 フランシスは目の前のこの魔女が、何か異様な存在に思えて仕方がない。

 だが、逆に言えば涼しい顔で平然と告げることができるこのアメリアだからこそ頼れるのかもしれない。

「その星が降ってくる前に何とかできないのか?」

「星の軌道を変えろってことー?」

「いや、その辺はよくわからないが……」

「んー、んんんー。どうかしら。やったことがないからわかんないけど、まー、できなくはないのかしら?」

「できるのか⁉」

「たぶんー?」

 どうしてこんなに軽いノリで答えるのだろう。

 フランシスは馬鹿にされているような気になってくるが、ここは我慢だ。こいつだけが頼りなのだから。

「じゃあ今すぐ何とかしてくれ!」

 フランシスは必死になってそう言ったが。

「えー、魔力たりないからむりぃー」

 あははーと笑いながら答えられて、アメリアの首を絞めてやろうかと思った。





「……その魔力が満ちれば何とかなるんだな?」

「うん。たぶん」

 アメリアは、シャリシャリとチョコレートのあとにリンゴを食べはじめた。

 チョコのあとにリンゴ。逆じゃね? 甘いもののあとにリンゴ食べても旨くないだろ。つーかまだ食べるのか。ホント底なしだなこいつの胃袋。フランシスはげっそりしそうになるが、災厄を何とかしないといけないから、気合で顔をあげた。

「その魔力ってどうやったら満ちるんだ?」

「食べたら」

 しゃりしゃりしゃりしゃり。

 リンゴをかじりながらアメリアが答える。

 フランシスはアメリアの手元のリンゴを見て、からっぽになったチョコレートの箱を見て、それから振り向いてからっぽになった大鍋を見た。

「……すっげー食べたよな?」

 思わず独り言をつぶやいてしまう。

 だが負けてはいけない。アメリアの魔力が世界を救う――はず。

「どのくらい食べたら魔力が満ちるんだ?」

「わかんない」

「さっきから聞いてりゃふざけやがっていい加減にしないとマジで首絞めるからな!」

 さすがに腹が立ったフランシスが怒鳴るも、アメリアは涼しい顔でリンゴを食べ続ける。

「だってぇー、魔力一杯にしたのって、五百年くらい前に古代龍ぶっ殺したとき以来だしぃ」

「………」

 フランシスは沈黙した。

(今さらっと、すげーこと言わなかった?)

 もういい、古代龍は聞かなかったことにする。だがもう一つ、どうしても確かめたいことができたフランシスは、恐る恐るアメリアに訊ねた。

「お前何歳?」

「数えるのやめたから知らなーい。たぶん――、八百くらい?」

 魔女様はすっごいババァだった。




しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

旦那様は、転生後は王子様でした

編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。 まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。 時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。 え?! わたくし破滅するの?! しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...