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世界最強の魔女は普段はポンコツ
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「あたし、世界最強の魔女って呼ばれてんの?」
アメリアは目を丸くした。
「違うのか?」
「え? さあ? だって誰かと比べたことなんてないしぃ」
「だが、ババァはお前に世界を救ってもらえと……、まさかあのババァまた間違ったんじゃねぇだろうな……」
アメリアは食後にチョコレートを食べながら、
「そのババァがなんなのか知らないけど、災厄は来ると思うわよ」
と、けろっと答えた。
フランシスはガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
「来るのか⁉」
「うん。今年の終わりか来年のはじまりくらいかしらねー?」
「その災厄が何なのかお前は知っているのか?」
「星よ」
アメリアは天井を指さして答える。
「大きな星が降ってくるの。星のせいで起こる異常気象――、それが災厄ね」
フランシスは机に手をついたまま茫然とした。星? 空に輝いている星のことか? それが降って来るって――どういうことだ。
アメリアは口の中でチョコレートを転がしながら少しだけ考えこむ。
「どこに落ちてくるのかはまだわかんないのよねー。早く場所を割り出して避難させないと、国の二、三個は吹っ飛ぶと思うから……」
「国が吹き飛ぶ⁉ 二、三個⁉」
「たぶんねー。六百年前の星より大きそうだし」
国が二つも三つも吹き飛ぶくらいの威力だと言うのに、どうしてアメリアは涼しい顔をしているのだろうか。
フランシスは目の前のこの魔女が、何か異様な存在に思えて仕方がない。
だが、逆に言えば涼しい顔で平然と告げることができるこのアメリアだからこそ頼れるのかもしれない。
「その星が降ってくる前に何とかできないのか?」
「星の軌道を変えろってことー?」
「いや、その辺はよくわからないが……」
「んー、んんんー。どうかしら。やったことがないからわかんないけど、まー、できなくはないのかしら?」
「できるのか⁉」
「たぶんー?」
どうしてこんなに軽いノリで答えるのだろう。
フランシスは馬鹿にされているような気になってくるが、ここは我慢だ。こいつだけが頼りなのだから。
「じゃあ今すぐ何とかしてくれ!」
フランシスは必死になってそう言ったが。
「えー、魔力たりないからむりぃー」
あははーと笑いながら答えられて、アメリアの首を絞めてやろうかと思った。
「……その魔力が満ちれば何とかなるんだな?」
「うん。たぶん」
アメリアは、シャリシャリとチョコレートのあとにリンゴを食べはじめた。
チョコのあとにリンゴ。逆じゃね? 甘いもののあとにリンゴ食べても旨くないだろ。つーかまだ食べるのか。ホント底なしだなこいつの胃袋。フランシスはげっそりしそうになるが、災厄を何とかしないといけないから、気合で顔をあげた。
「その魔力ってどうやったら満ちるんだ?」
「食べたら」
しゃりしゃりしゃりしゃり。
リンゴをかじりながらアメリアが答える。
フランシスはアメリアの手元のリンゴを見て、からっぽになったチョコレートの箱を見て、それから振り向いてからっぽになった大鍋を見た。
「……すっげー食べたよな?」
思わず独り言をつぶやいてしまう。
だが負けてはいけない。アメリアの魔力が世界を救う――はず。
「どのくらい食べたら魔力が満ちるんだ?」
「わかんない」
「さっきから聞いてりゃふざけやがっていい加減にしないとマジで首絞めるからな!」
さすがに腹が立ったフランシスが怒鳴るも、アメリアは涼しい顔でリンゴを食べ続ける。
「だってぇー、魔力一杯にしたのって、五百年くらい前に古代龍ぶっ殺したとき以来だしぃ」
「………」
フランシスは沈黙した。
(今さらっと、すげーこと言わなかった?)
もういい、古代龍は聞かなかったことにする。だがもう一つ、どうしても確かめたいことができたフランシスは、恐る恐るアメリアに訊ねた。
「お前何歳?」
「数えるのやめたから知らなーい。たぶん――、八百くらい?」
魔女様はすっごいババァだった。
アメリアは目を丸くした。
「違うのか?」
「え? さあ? だって誰かと比べたことなんてないしぃ」
「だが、ババァはお前に世界を救ってもらえと……、まさかあのババァまた間違ったんじゃねぇだろうな……」
アメリアは食後にチョコレートを食べながら、
「そのババァがなんなのか知らないけど、災厄は来ると思うわよ」
と、けろっと答えた。
フランシスはガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。
「来るのか⁉」
「うん。今年の終わりか来年のはじまりくらいかしらねー?」
「その災厄が何なのかお前は知っているのか?」
「星よ」
アメリアは天井を指さして答える。
「大きな星が降ってくるの。星のせいで起こる異常気象――、それが災厄ね」
フランシスは机に手をついたまま茫然とした。星? 空に輝いている星のことか? それが降って来るって――どういうことだ。
アメリアは口の中でチョコレートを転がしながら少しだけ考えこむ。
「どこに落ちてくるのかはまだわかんないのよねー。早く場所を割り出して避難させないと、国の二、三個は吹っ飛ぶと思うから……」
「国が吹き飛ぶ⁉ 二、三個⁉」
「たぶんねー。六百年前の星より大きそうだし」
国が二つも三つも吹き飛ぶくらいの威力だと言うのに、どうしてアメリアは涼しい顔をしているのだろうか。
フランシスは目の前のこの魔女が、何か異様な存在に思えて仕方がない。
だが、逆に言えば涼しい顔で平然と告げることができるこのアメリアだからこそ頼れるのかもしれない。
「その星が降ってくる前に何とかできないのか?」
「星の軌道を変えろってことー?」
「いや、その辺はよくわからないが……」
「んー、んんんー。どうかしら。やったことがないからわかんないけど、まー、できなくはないのかしら?」
「できるのか⁉」
「たぶんー?」
どうしてこんなに軽いノリで答えるのだろう。
フランシスは馬鹿にされているような気になってくるが、ここは我慢だ。こいつだけが頼りなのだから。
「じゃあ今すぐ何とかしてくれ!」
フランシスは必死になってそう言ったが。
「えー、魔力たりないからむりぃー」
あははーと笑いながら答えられて、アメリアの首を絞めてやろうかと思った。
「……その魔力が満ちれば何とかなるんだな?」
「うん。たぶん」
アメリアは、シャリシャリとチョコレートのあとにリンゴを食べはじめた。
チョコのあとにリンゴ。逆じゃね? 甘いもののあとにリンゴ食べても旨くないだろ。つーかまだ食べるのか。ホント底なしだなこいつの胃袋。フランシスはげっそりしそうになるが、災厄を何とかしないといけないから、気合で顔をあげた。
「その魔力ってどうやったら満ちるんだ?」
「食べたら」
しゃりしゃりしゃりしゃり。
リンゴをかじりながらアメリアが答える。
フランシスはアメリアの手元のリンゴを見て、からっぽになったチョコレートの箱を見て、それから振り向いてからっぽになった大鍋を見た。
「……すっげー食べたよな?」
思わず独り言をつぶやいてしまう。
だが負けてはいけない。アメリアの魔力が世界を救う――はず。
「どのくらい食べたら魔力が満ちるんだ?」
「わかんない」
「さっきから聞いてりゃふざけやがっていい加減にしないとマジで首絞めるからな!」
さすがに腹が立ったフランシスが怒鳴るも、アメリアは涼しい顔でリンゴを食べ続ける。
「だってぇー、魔力一杯にしたのって、五百年くらい前に古代龍ぶっ殺したとき以来だしぃ」
「………」
フランシスは沈黙した。
(今さらっと、すげーこと言わなかった?)
もういい、古代龍は聞かなかったことにする。だがもう一つ、どうしても確かめたいことができたフランシスは、恐る恐るアメリアに訊ねた。
「お前何歳?」
「数えるのやめたから知らなーい。たぶん――、八百くらい?」
魔女様はすっごいババァだった。
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