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世界最強の魔女は普段はポンコツ

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 あー、おなかすいたよー。

 ブルテン山に暮らす魔女――、アメリアは廊下を這いながら研究室の扉を開けた。

 お腹がすいて立ち上がる気力もない。

 星が妙な動きをしていたから、数日書庫に籠って調べものをしていて――、うっかり食べることを忘れていた。

 そして、食糧庫の食料が底をついていたことも失念していた。

 最悪すぎて、魂を飛ばしたい。

 アメリアは何とか気力で研究室にたどり着き、部屋の中央にでかでかと描かれている魔方陣まで這って行く。

 なんでもいい。食べるもの。胃に何か入れたい。いっそ生でもいい。

 魔方陣の上に腹ばいになって、ぶつぶつと口の中で呪文を唱える。

 あー、空腹のときの魔法とか、瀕死のときに池に身を投げられるくらい苦しい。死にそう。体力全部持って行かれる。

「食べるもの食べるもの食べるもの―――」

 空腹のときは魔法の精度がものすごく落ちる。高望みはしてはいけない。とにかく食べられれば何でもいい。

「食べ物―――!」

 アメリアが渾身の力をこめて叫んだときだった。

 ぽん!

 ワインのコルクが抜けるようなあっけない音がして。

 釣れた。

 ―――男が。





 さすがに男は食べられない。

 これは死んだな。もう体力ないわー。アメリアは魔方陣の上に頬をつけながら目の前に現れた男に視線を向ける。

 二十歳前後くらいの男だった。金髪に青い目で身なりのいい格好をしている。腰に剣――あれは食べられない。そして無駄にイケメン。どうでもいい。お腹すいたお腹すいたお腹すいた。

 この男がビスケットだったらよかったのに、とアメリアは本気で思う。これだけ大きければお腹いっぱいになる。ビスケット――、なんだか、だんだん目の前の男がビスケットに思えてきた。

 アメリアはごそごそと男の足元まで這って行って。

「おなかすいた」

 いただきます。

 がぶりとその足に噛みついた。





「ぎゃああああ―――!」

 フランシスは絶叫した。

 ふざけた巫女のババァの予言で国王と宰相たちに縋りつくような目で見られて「魔女殿を愛の力で味方につけてこい」とかこれまたふざけた理由で強制的に城からたたき出された。

 ブルテン地方まで馬車で向かえば一か月はかかるため、仕方なく旧友の魔法使いの家を訊ねて、ブルテンまで魔方陣で飛ばしてくれと願ったのだが――、うっかりしていたのは、その魔法使いがなかなかにポンコツだったことだ。

 フランシスはブルテンの地まで飛ばされた。
 それだけ見れば目的を達成したように見える。

 だが――、飛ばされた場所は雪深い山の中。極寒の地。分厚い外套を着こんでいたとはいえ、そんな中に放り出されて無事ですむはずもなく。

(くそったれ覚えていやがれアンドラー! 戻ったら気ぃ失うまでこき使ってやるからなこんちくしょー!)

 あの友人はまったく気が利かない。つーかアホだ。飛ばすんなら魔女の家の近くに飛ばせよ。どこだよここ。寒い。死ぬ。

 これは魔女に会う前に命がヤバいな――、フランシスは雪に埋もれて死を覚悟する。

 そのときだった。突然何かに引っ張られるような感覚がしたかと思った次の瞬間、フランシスは知らない家の中にいて――、そして、足元で這いつくばっている女に、いきなり足にかみつかれたのである。









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