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続・聖女は魔王に嫁ぎます!
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エスリール国――
聖女であった第三王女シェイラ・エスリールを悪魔の生贄に差し出してしまったかの国の上空には、渦を巻いたような雲が立ち込めていた。
聖女の加護を失ったエスリール国は、七人の悪魔の王のうち、六人の王が統べる悪魔の国の悪魔たちに狙われ、混乱のさなかにある。
聖女を悪魔の生贄にしたと言う醜聞は瞬く間に近隣諸国に知れ渡り、第一王子と第二王女の婚約が破談になったばかりか、今まで懇意にしていた同盟国とも疎遠となり、周辺諸国からは完全に孤立しつつあった。
それゆえ、エスリール国との国境には厳しい関門が設けられて、国民は容易に亡命することもできない。
悪魔を恐れる人々は家の中に閉じこもり、耕す人々のいなくなった田畑は荒れた。
数年もてばいい――
近隣諸国の王たちは、悪魔の侵略を許したエスリール国を遠目に見やりながら、そう思っていた。
「なんなのよ! 何でわたしは選ばれないの⁉」
エスリール国第二王女、マディーは癇癪を起して、ケーキの乗った皿を床の上にたたきつけた。
ガシャンと大きな音を立てて割れた皿には見向きもせずにわめきたてるマディーのそばでは、侍女たちが彼女が散らかしたものを一生懸命片付けている。
マディーが羽毛がつめられているクッションを引き裂いたせいで、部屋の中には真っ白い羽毛が舞い、お菓子を壁に投げつけたせいであちこちにジャムやクリームの染みができて、ティーポットを割ったせいで絨毯は紅茶色に染まっている。
彼女が癇癪を起しはじめたのは、妹であるシェイラが魔王と名乗る男に攫われてしばらくしてから――、そう、シェイラが実は生贄ではなく、魔王の花嫁に収まったと聞いてからのことだった。
それでなくとも、隣国の王子との婚約がなかったことにされたマディーは、今まで蔑んでいた異母妹が美しい魔王の妻となったと聞いて、荒れに荒れた。さらに追い打ちをかけるように二か月後、見下していた異母姉のアマリリスまでもが別の魔王に見初められて攫われていくと、マディーの苛立ちは極限に達し、日々こうしてものに当たり散らしているのである。
(悪魔があんなに美しいなんて知らなかったわ! シェイラとアマリリスがあんなきれいな男の妻なんて、許せないわ……!)
シェイラのせいで国は悪魔の侵略を許したのだ。
そのシェイラが幸せになって、自分は婚約破棄をされてみじめな思いをしているなんて、納得できるはずがない。
「そもそも、シェイラが悪魔の花嫁だったなんてありえないのよ! そうよ、『悪魔の生贄』はシェイラではなくてこのわたしだったに違いないわ! そう思うわよね⁉」
マディーの近くにいた侍女は、彼女の剣幕に気おされてコクコクと頷く。
マディーは気をよくして、パンと手を打つと立ち上がった。
「そうよ。本来はわたしがあの魔王の妻になるはずだったのよ。間違いは正さなくてはいけないわ」
マディーはそう言うと、くるりと踵を返して部屋を出て行った。
部屋に残された侍女たちは、誰一人としてそのあとを追おうとしなかった。
聖女であった第三王女シェイラ・エスリールを悪魔の生贄に差し出してしまったかの国の上空には、渦を巻いたような雲が立ち込めていた。
聖女の加護を失ったエスリール国は、七人の悪魔の王のうち、六人の王が統べる悪魔の国の悪魔たちに狙われ、混乱のさなかにある。
聖女を悪魔の生贄にしたと言う醜聞は瞬く間に近隣諸国に知れ渡り、第一王子と第二王女の婚約が破談になったばかりか、今まで懇意にしていた同盟国とも疎遠となり、周辺諸国からは完全に孤立しつつあった。
それゆえ、エスリール国との国境には厳しい関門が設けられて、国民は容易に亡命することもできない。
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「なんなのよ! 何でわたしは選ばれないの⁉」
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彼女が癇癪を起しはじめたのは、妹であるシェイラが魔王と名乗る男に攫われてしばらくしてから――、そう、シェイラが実は生贄ではなく、魔王の花嫁に収まったと聞いてからのことだった。
それでなくとも、隣国の王子との婚約がなかったことにされたマディーは、今まで蔑んでいた異母妹が美しい魔王の妻となったと聞いて、荒れに荒れた。さらに追い打ちをかけるように二か月後、見下していた異母姉のアマリリスまでもが別の魔王に見初められて攫われていくと、マディーの苛立ちは極限に達し、日々こうしてものに当たり散らしているのである。
(悪魔があんなに美しいなんて知らなかったわ! シェイラとアマリリスがあんなきれいな男の妻なんて、許せないわ……!)
シェイラのせいで国は悪魔の侵略を許したのだ。
そのシェイラが幸せになって、自分は婚約破棄をされてみじめな思いをしているなんて、納得できるはずがない。
「そもそも、シェイラが悪魔の花嫁だったなんてありえないのよ! そうよ、『悪魔の生贄』はシェイラではなくてこのわたしだったに違いないわ! そう思うわよね⁉」
マディーの近くにいた侍女は、彼女の剣幕に気おされてコクコクと頷く。
マディーは気をよくして、パンと手を打つと立ち上がった。
「そうよ。本来はわたしがあの魔王の妻になるはずだったのよ。間違いは正さなくてはいけないわ」
マディーはそう言うと、くるりと踵を返して部屋を出て行った。
部屋に残された侍女たちは、誰一人としてそのあとを追おうとしなかった。
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