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第二部 運命共同体の夫が、やたらと甘いです

秘密を知るもの 2

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 国王やクラークのヴィオレーヌに対する態度が多少緩和したところで、王宮内の使用人の態度がすぐに変わるわけではない。
 当面の間、ヴィオレーヌとルーファスは、食事は自室で二人で取ると告げて、メインダイニングに集まるのを避けることにした。
 ルーファスまでヴィオレーヌに付き合う必要はないのだが、一人の食事は味気ないだろうと言って譲らなかったのだ。

 おかげで、アラベラが荒れて大変らしいが、ヴィオレーヌの部屋の前にはジョージーナやアルフレヒト、ルーシャが交代で立ってくれているので、王宮に戻ってから今日まで、アラベラと顔を合わせていないのが救いだった。
 正直、王妃を殺害しようとした嫌疑をかけられている今、アラベラの相手は面倒くさくてしたくない。
 ジークリンデの体調が戻ったため、国王も政務に戻ったそうで、その関係でアラベラが城に滞在することはなくなったので、彼女はずっと王宮にいるのだ。

 本音を言えば、国王が政務に戻っても、アラベラは城にいてくれた方が静かでよかったが、ファーバー公爵が王の代理でなくなった状況で、王太子の側妃が城で大きな顔はできないだろう。

「父上が今日の午後から時間が取れると言っていたが、予定は大丈夫か? 城では何かと視線がうるさいだろうから、王宮の父上の部屋で話をするように調整しているんだが……」
「納品分のポーションの作成も終わったので大丈夫ですよ」

 ダンスタブル辺境伯領に支店を出すこともあり、スチュワートからはミランダを通してポーションの生産数を増やしてほしいと要望を受けている。
 ダンスタブル辺境伯領にだけ支店を出すと他がうるさいので、要望が上がった他の領地にも支店を出す方向で調整しているそうだが、そのためにはポーションの数を確保せねばならないらしい。
 日がな寝て食べてごろごろしているアルベルダにもお願いして、手分けして追加分のポーションをとりあえず五百本ほど作成したので、次の依頼が入るまでは手が空いていた。
 あわせて、ダンスタブル辺境伯領でルーファスが散財した分の補填として収益の一部を渡すと、彼にものすごく感謝された。勝手に国庫の金を使うわけにはいかないので、彼の個人予算から捻出していたらしい。

 それからこっそりと改良版ポーションを十本ほど作って、ジークリンデと国王、クラーク、それからマヌエル大司祭に渡しておいた。
 マヌエル大司祭には少し多めに渡してある。存在を表に出さないという約束で、困ったときは使ってほしいと言うと泣いて喜ばれた。
 マヌエル大司祭がとても友好的なので、教会側とはいらぬ軋轢もなくうまくやっていけそうだ。

(でも、ニコラウス神殿長も教えてくれればよかったのにね)

 もしかしたら、ヴィオレーヌがマグドネル国王の養女として移動してからマヌエルと連絡を取ったのかもしれないが、知っていたらいらぬ心配をせずにすんだかもしれないのに。
 だが、ニコラウスのおかげでマヌエルとも仲良くやっていけそうなので、もちろん感謝している。
 ヴィオレーヌが聖魔術を使えることを公表するか否かについては、もう少し様子を見るという意見で一致した。
 ルウェルハスト国内で問題がなくとも、マグドネル国が知ったらどう反応してくるか読めないためだ。
 ジークリンデは不服そうだったが、マグドネル国王に養女を返せと言われたら大変だろうとルーファスが言うと、それもそうだと引き下がった。

「では、父上に伝えておく。……しかしマヌエル大司祭は、思っていたよりいい人間のようだな。やれ寄付をしろだの、教会の修繕費をよこせだの、何かと教会側は要望がうるさくてあまり好きではなかったのだが……」

 ルーファスによると、教会の人間は聖魔術の使い手であるマヌエル大司祭の存在を前面に出して、いろいろ要望を突きつけてくる面倒な存在だったそうだ。
 戦時中や、戦後で困窮しているときに何を言うんだと突っぱねてきたそうだが、再三要望を上げてくるので辟易していたという。
 ヴィオレーヌは小さく笑った。

「仕方ありません。聖職者は無償奉仕が原則ですから、寄付やお布施がなくなると立ち行かなくなりますし。たぶん、戦争で破壊された教会も多いのでは? 早く立て直したかったんだと思います」
「それはそうだが……」
「あと、個人的な意見ですけど、もしかしたらポーションが不足し高額販売されているせいで、教会に泣きつく人が増えたのではないでしょうか? 教会には国から寄付で届けられているポーションがありますよね? あと、マヌエル様が作れるハイポーションもありますし。文句を言いたくなるほど大変だったのでは?」
「そう言われれば、そんな気がしてきたな」

 販売個数が激減し高額になったポーションを一般市民が仕入れるのは厳しい。
 しかし、病気や怪我は、しないように注意していても完全に防ぐことはできない。
 特に戦後の食糧難では満足に食事もできない人が多いだろう。食べるものが減ると、病気にかかる確率が上がる。
 病気にかかってもポーションが買えないのなら、市民たちは教会に泣きつくしか方法がなくなるのだ。
 王族は王族で国の立て直しに大変だから、この忙しいときに寄付だなんだとうるさいと思うかもしれないが、教会だって、この状況だからこそ寄付を欲していたのだと思われた。

(これは、ローポーションを作成して教会に寄付した方がいいかしら? 教会への寄付なら、ミランダも許可してくれるかしらね?)

 後で聞いてみようと決めて、ヴィオレーヌはカトラリーを置く。
 オレンジジュースを飲んでいると、ミランダがあいた食器を片付けてくれた。

「じゃあ、俺は午前中の仕事を片付けに行く。もし部屋から出るにしても、絶対に一人で行動するなよ」
「わかりました」

 過保護だな、と苦笑しつつヴィオレーヌは頷く。
 最近、この過保護さが心地よく感じられるようになってきたのが、少し不思議だった。



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